249 ただの美少女
二百四十九話 ただの美少女
さて、どうしたものか。
当初の目的は西園寺がノーパンで冷たい空気を直に感じつつ……かつ水分を大量に摂取してトイレを我慢するといったものだったのだが、パンツを履いてきてしまった今、その予定が崩れつつあった。
「えーと……オレ、それするだけかと思って普通にノープランなんだけど……西園寺的にはプランあるの?」
オレは西園寺の履いている茶色っぽいスカートに注目。
この下……履いてるんだなぁ、と思いながら西園寺に尋ねる。
「えっと……ごめんね。 私実はさ、今日が楽しみで夜もあまり眠れなくて」
「そうなのか?」
「うん、実はさ……昨日の夜ずっと綾小路に聞かれたことが頭の中でぐるぐるーってなってて」
「聞かれたこと?」
「うん……」
おいおい何聞かれたんだ?
ていうか西園寺、お前がそんな綾小路ごときの言葉で悩むようなガラスのハートの持ち主かよ!
そんなことを思いながらも気になったオレは直接西園寺に尋ねてみることにした。
「一体何聞かれたんだ?」
「あのね、私が福田く……、はっ!」
突然西園寺が大きく目を開きながらオレの顔を見つめて口を押さえる。
「ん? オレがどうした」
「ううん、なんでもない……なんでもないよ!」
「いやいや、んなわけねーだろ! 確実にオレに関係したことだったよなぁ今の!」
オレはジッと西園寺の目を見ながら顔を少しずつ近づけていく。
「な……何かな福田くんっ! 顔近いよ!?」
「何言ってんだ西園寺。 お前今まで普通にこれ以上の距離近づいたこととかあっただろ」
「で、でもさ……!」
ーー……あれ? おかしいな。
今までの感じなら追い詰められることにも快感を覚えて息を荒げているところなのだが……今の西園寺は顔こそ赤らめてはいるものの、視線はオレから逸らしている。
「えっと……西園寺、大丈夫か?」
「え?」
「いや、なんかお前らしくないというか、なんというか……。 そういや寝不足っぽいこと言ってたし、体調不良なんじゃないか? あれだったら帰る? オレのせいで体調悪いの悪化しても申し訳ないし」
「そ、それはいやっ!!」
西園寺が突然オレに目を合わせながら声を荒げる。
「お、おう。 じゃあその……無理はしないでくれよ?」
「うん、ありがとう」
西園寺はホッとした様子で胸に手を当てている。
何がどうなってるんだ本当に。
「あー、まぁじゃあこうしよう、西園寺、お前は体調不良だからな。 今日は普通に遊ぶことにする……だからトイレ我慢も禁止だ。 いいな?」
「う、うん」
「それで今回の目的地だが、外は寒いから屋内系の施設……かついつでも休憩を取れるような場所に限定する」
オレはそう告げながらポケットの中に入れていたあるものを取り出す。
「とりあえずこれ……あげるから持っとけ」
「え……カイロ? いいの?」
「構わん。 オレはお前と違って元気だからな。 あと……ちょっと待ってろ」
オレは近くのベンチに西園寺を座らせるとすぐ側にあった自販機へ。
温かい飲み物を購入して西園寺に渡す。
「ーー……いいの?」
「もちろん構わん。 今日も相変わらず寒いし……お前オレより先に着いて待ってたんだろ? じゃあこれ飲んで体温上げてから向かうとしよう」
「う、うん……ありがとう」
うーむ、やはりいつもの西園寺のテンションと違うなぁ。
顔もさっきから赤いままだし……とりあえず寝たら少しは楽になるのか?
だとしたら行き先はあそこで決まりだな。
オレはスマートフォンを取り出して検索を開始する。
「福田くん? なに調べてるの?」
「ん? とりあえず先に映画でもどうかなって思ってな。 人がごちゃごちゃしてないし、もし西園寺が途中で眠くなったらそこで寝てもいいんだしな。 それで西園寺、今やってる映画の中で観たいのあるか?」
オレは画面を西園寺にも見えるように傾ける。
「えっと……どれがいいかな」
西園寺がオレにもたれかかるように画面を覗き込んでくる。
くそ……なんだかんだで西園寺もザ・女子! シャンプーの香りやら女子特有の甘い香りだけでも悩殺されそうなのに、寝不足の影響なのか……このおっとりした雰囲気がさらにオレを殺しにかかってくるぜ。
あとなんだろう……今日の西園寺、いつも以上に可愛げがあるぞ?
オレはスマートフォンの画面に集中しているそんな西園寺の姿に見惚れていると、その視線に気づいたのだろうか……西園寺が「どうしたの?」とオレを見上げ尋ねてくる。
「え、あ、いや。 なんでもない。 まさかお前のドM行為を見守るだけだったはずが、こんなにも平和な予定に変わるなんてなーって」
「そうだね、これじゃあただのデートだね」
「だな」
「「ーー……」」
「「ーー……え?」」
「ちょ、ちょっとお前西園寺! なに急に変なこと言ってんだよ! 確かにそう見えるかもしれないけど……ってお前、デートしたことあんのかよ!!!」
「ご、ごめんなさい、私変なこと言っちゃった! そんな……私、男の子と2人きりで出かけるなんてパパ以外には福田くんが初めてだし……」
西園寺が照れた表情でチラッとオレの様子を伺う。
おいおいなんだー!? 凶暴でもなくドMでもない……これじゃあただの大人しい美少女なだけじゃねえかあああああああああああ!!!!
ぐああああああああ!!! 調子が狂うううううう!!!!!
「と、ととととりあえず西園寺! 観たい映画は決まったのか!?」
「う、うんっ! これ……」
西園寺が見たい映画のタイトルをちょこんと指差す。
「えっとなになに……【じゃんじゃかハムロック】?」
「うん。 ハムスター達がハムスター界のロックンローラーになるって話なんだ。 アニメはちょっとしか見てなかったんだけど、実は気になってたんだよね」
「お、おう……確かにそれは気になるところだな。 じゃあそれ飲んで落ち着いたらゆっくり向かうか」
「うん」
こうしてオレは西園寺とともに電車に乗り、映画館や雑貨屋などが多く立ち並ぶ大型のショッピングモールへと向かったのだった。
「なぁ西園寺」
「なに?」
「電車の中、結構暖房効いてると思うんだけど……寒いのか?」
「え、どうして?」
「だってその……さっきからお前ずっとカイロ握りしめてるじゃねーか。 もしかして熱とか……」
「あ、ううん! そんなんじゃないから大丈夫だよ。 ありがとう……福田くん」
うわあああ、先行き不安だぜぇ……。
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