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246 あの時か!!!【挿絵有】


 二百四十六話  あの時か!!!



 放課後。 オレは結城と合流してそのまま職員室へ。

 1年生の担任ということで、先に授業が終わっていてそこにいるであろう高槻さんを直撃した。



「あら、福田くんに結城さん。 どうしました?」



 机の前で宿題かテストの採点をしていた高槻さんがオレたちに気づき視線を向けてくる。

 あー、そうだよな。 担当クラスの授業が終わったとしても色々やることあるんだよな。

 オレが無言のまま考えていると隣から結城が「福田……くん?」と顔を覗き込んできた。



「あのー、高槻先生……今日ってまだ結構やることある感じですか?」


「なんでですか?」


「ちょっと昨日のあの件についてとか、聞かせて貰えたらなって思ったんですけど……」



 オレは視線を高槻さんが絶賛採点中のプリントへと向ける。



「あ、もしかして福田くん、先生のお仕事のこと考えてくれてました?」


「まぁ……はい。 それで帰るの遅くなっちゃったら申し訳ないんで」



 オレの言葉が聞こえていたのであろう高槻さんの席付近の教師たちから「おぉー」と声が上がる。



「高槻先生、この子たちは?」


「5年生の子たちです」


「へぇえ、その年でワタシらの仕事のこと考えてくれてるなんて大したものだねー」


「本当に。 たまに私も驚いちゃいますよ」



 高槻さんは近くの教師と軽く談笑すると「よいしょ」と立ち上がる。



「では……ここではあれですし、先生の受け持つクラスの教室でお話ししましょうか」


「え、でも先生、まだやることが……」


「もう、福田くん、ダメですよー」



 高槻さんがニコニコ微笑みながらオレに顔を近づけてくる。



「えっ!?」


「子供は子供らしく、頼りたいときに頼ればいいんです! それが出来るのは今だけなんですからねー」



 そう言うと高槻さんはオレの頬を数回優しく突き、「では行きましょう」と結城の手をとり出口へと向かった。

 大人の女性にされるほっぺツンツン……これほどまでに胸がときめくものだったとは。



 ◆◇◆◇



 エルシィちゃんのクラス……1年1組の教室につくと、高槻さんは周囲を確認した後に扉を閉めて鍵をかける。

 誰にも聞かれないようにの配慮なのだろう、かなりありがたいぜ。



「それで……先生はなにを話せばいいですか?」


「え、えっと……」



 高槻さんの質問に結城がテンパってしまったのか言葉を詰まらせる。

 よし、結城……ここはオレに任せてくれ。


 

「あの、まず初めになんですけど……」


「はい」


「結城さんが仮に高槻さんと暮らすことになったとしますよね? そうなった場合に校区の都合上で転校になったりとかって……」



 オレは内心ドキドキさせながら高槻さんに尋ねる。



「あ、それはないですよ。 今まで通り、この学校に通えます大丈夫です」



「「!!」」



 高槻さんの言葉を聞いたオレと結城は互いに顔を見合わせる。



「ふ、福田……くんっ」


「うん、よかったね」


「うん!」



 昨日の夜からさっきまでの晴れない表情は何処へやら。

 高槻さんの「大丈夫」を聞いた結城の顔からは安堵の表情がにじみ出ていた。



「でもまずそこを聞いてくるとは先生も考えてはいませんでした。 先にそこだけでも言っておくべきでしたね、すみません」



 高槻さんが結城に小さく頭を下げる。



「う、ううん! 私、それを聞けて嬉しかった……です! それで……えっと、私が先生と一緒に暮らすっていうのは……なんで?」


 

 お、よく聞けたな結城!

 もしかして転校がなくなったことでテンションがハイ状態になってて……今ならなんでも聞けちゃいます的なモードなのだろうか。

 オレも聞きたかった内容だったので高槻さんを見上げる。



「あー、それはですね、昨日言った通り、これは結城さんのお母様と話し合った結果なんですけど……本来ならお母様、結城さんとは距離を置かれる予定だったじゃないですか」



 高槻さんの問いかけに結城が「うん」と頷く。



「まぁそれは金銭的な理由が大きかったわけですけど、それと同じくらいに福田くん宅のことも心配されていたのは話しましたよね」


「あ、はい。 確か世間体やら、このままだと結城さんが親戚とか保護施設に行かされるって話でしたよね」


「そうです。 もし福田くんやお姉さんが『結城さんのお母様から頼まれた』と言っても、所詮は子供の主張……大人全てが信じるわけがありません。 なので先生が、『結城さんさえ良ければ一緒に暮らしましょうか』と提案したんです」



 高槻さんが優しい視線を結城へと向ける。



「ーー……そうだったの?」


「はい。 当初は養子にでも……とか考えてたのですが、幸いなことにお母様も結城さんとの距離を置くという考えは撤回してもらえましたので、そうですね……言うなれば保護者代理ってやつでしょうか」



 その後高槻さんが小声で「まぁ縁を切る……なんて仰ってましたけど、そんなこと簡単には出来ないんですけどね」と呟くも、それ以上に気になった言葉があったのでそっちを優先することにする。



「「保護者代理?」」



 オレと結城が同時に首を傾げる。



「簡単に言えばお母様の代わりですね。 そうすれば先生は大人ですから、『お母様が退院するまでの間、娘を預かってほしいと頼まれた』と言えば、皆先生の言うことを信じるでしょう? これで結城さんは親戚や施設等、どこへも行かされることなく、今まで通りの生活が送れるようになるってわけです」


「ーー……そうなの?」


「はい。 なのでこれからも土日などは福田さん宅にも泊まりに行くことができますし、その際は先生が送り迎えしますので周囲から変な目で見られる心配もありません!」



 高槻さんはビシッと親指を立てながらドヤ顔を決めた。



「え……私、また福田……くんの家、行っていいの?」



 結城は目を大きく見開いて高槻さんに尋ねる。

 


「もちろんですよ。 結城さんと福田くん、お姉さんの距離感を見てると本当の家族のように見えちゃいますもん。 家族から無理に引き離すようなことは私はしませんよ」



 お……おおおおおお!!!! 高槻さん!!!!!

 あなたって人は女神なのか!!!!!



 オレも嬉しいけど一番嬉しいのは結城なんだろうな。

 その瞳からは涙が溢れて頬を伝い落ちている。



「で、でも……先生、なんでそこまで私のために……してくれるの?」



 うんそれはオレも非常に気になるところだ。

 だって結城よりも悲惨な生活を送ってた子供って、今までにもたくさんいたはずだもんな。 なのに何故結城にはこんなにも高待遇を……?

 これはおそらく高槻さんにも深い意味があるに違いない……そんなことを考えながら高槻さんに視線を移すと、結城の言葉を聞いた高槻さんがゆっくりと口を開いた。

 


「また『ママ』って呼ばれたかったからです♪」



 ーー……。



「「え」」



 えーと、あの、何がどうなったんでしょうか。

 オレの聞き間違えかなぁ。



「せ、先生? 今なんて?」


「だから結城さんにまた『ママ』って呼ばれたいなって思いまして♪」



 高槻さんの頬がポッと紅く染まる。



「ーー……ハ?」



「あの東北旅行の帰り……先生、結城さんに『ママ』って呼ばれてから母性に目覚めちゃいましてね。 もちろん最初はどうにかして2人と福田さん宅にとってベストな解決案がないのかと模索していたのですが、あれ……? もしかしてお母様が退院されるまで私が結城さんを預かれば、また『ママ』って言ってくれる日が来るのではないかと思い始めまして……」



 高槻さんの説明を受けて結城は瞬きを高速で繰り返している。



「え? 私が……先生を?」


「はい、前に言ってくれましたよね!」


「ーー……ママ?」


「っはああぁぁぁあん!!!」



 結城の「ママ」を聞いた高槻さんが前回同様身をよじりながらその場で崩れ落ちる。

 こ……これは……変態だああああああああああ!!!!!!!



「そ、そんなに嬉しいの?」


「も……もちろんです! 先生、結城さんが『ママ』と呼んでくれるなら……まぁそう呼んで頂けるよう精進しますけど、『ママ』と呼ばれた日には天にも昇っちゃいそうな勢いです!」



 いやいやもう天に昇ってんじゃねぇかよ先生!!!

 オレが心の中でツッコミを入れていると、高槻さんが「……で、どうですか?」と息を荒げながら結城に尋ねる。



「な、なにが?」


「その……もし結城さんがよろしければ、先生と暮らしませんか? もちろん『ママ』と呼ぶには結城さんにも抵抗があると思うので無理強いはしませんが……」



 高槻さんの問いかけに結城は一瞬黙って考え込む。



「そ、それって……いつから?」


「別にいつからでもいいですよ。 そしてこれは偶然なんですけど、先生……実は最近引っ越しましてね、今は福田さんやエルシィちゃん宅のある同じマンションで、福田さんの1階下なんです」


 

「ーー……え?」



 あまりにも突拍子のない言葉に思わず声が漏れる。



「あの、高槻さ……先生、それマジですか?」


「はいマジです」


「えっと……いつ引っ越してきたんですか?」


「あー、これはあれですね、新学期が始まってすぐくらいですかね」


「新学期が始まって……すぐ……」



 あああああああ!!! あの時かああああああああ!!!!

 エマの家に結城の部屋を作る……みたいな話をして掃除しようってなったとき、そういや引っ越し業者きてたわ!!!

 マジか……あれ、高槻さんだったのかあああああああ!!!!


 理由を聞くと、年末にエマ宅に泊まった時にかなり快適に感じたからとのこと。

 もしあの時エマの家に行ってなかったら、高槻さんの前の家は校区外……転校することになっていたかもしれないということだった。



「で、どうします結城さん。 そういうことなのでぶっちゃけ福田さん宅までは徒歩1分以内なのでいつでも行けますし、困った時は先生も保護者代理……ママ代理として結城さんの力にもなれますけど」



 高槻さんはゆっくりと立ち上がって結城の頭を撫でる。



「ーー……本当にいいの?」


「はい」


「私……色々迷惑かけちゃうかも」


「いいんです。 今まで甘えたくても甘えられなかったぶん、先生に存分に甘えてください」



 高槻さんが優しく結城を抱きしめると、結城の瞳から再び大量の涙が溢れだす。



「辛かったでしょう、よく耐えましたね。 もう大丈夫ですよー」


「う……うわあああああああああん!!!!」



挿絵(By みてみん)



 こうして結城はしばらくの間、大声で泣き叫びながら高槻さんを強く抱きしめ胸に顔を埋めていたのだった。

 これはハッピーエンド……なんだよな?



 そして結城がようやく落ち着き帰る頃。



「先生、お仕事中なのにありがとうございました」



 オレが頭を下げると結城も釣られて頭を下げる。



「いえいえいいんです。 それでは結城さん、答えはいつでもいいので、また聞かせてくださいね」



 高槻さんが小さく手を振りながら職員室へと戻っていく。



「せ……先生!」



 結城が突然走り出し高槻さんのもとへ。

 高槻さんの手を両手でギュッと握りしめる。



「どうしました結城さん」


「住む……私、先生と暮らし……たい」


「え?」


「だから……これからお願いします。 私のもう1人の……ママ」




「っはあああぁぁぁんんん!!!!!」




 おい。




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母性の勝利!!

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[良い点] 天使しか居ない…… .˚‧º·(ฅдฅ。)‧º·˚. いやあ、伏線の回収が怒涛の勢いで、でも全く違和感も無くて、素晴らしいの一言です。 そして身を削って(小指はマジで痛いw)優香と桜子…
[一言] 高槻先生マジ聖人やな 変態聖人やでぇ
[一言] 良かったねぇ...結城ちゃん...( ;∀;) 
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