244 一片の悔いなし!
二百四十四話 一片の悔いなし!
「あー、あのさ、さっきの高槻先生の言葉にはびっくりしたね」
結城母が入院している病院を出て家へと向かっているタクシーの中、静かな空気に耐えきれなくなったオレは隣に座っている結城と助手席に座っている優香に話しかける。
『お母様の了承は頂いておりますので、先生と一緒に暮らしましょう』
この高槻さんの言葉。 実際には今日すぐ……というわけではなく、ゆっくりと準備をしていくらしいのだがいきなりの発言すぎるだろ!!!
しかもあれだ! ちゃんとした理由を聞こうとしたタイミングで今度は正規の医師が登場。 『検査をするため今日の面会はここまで』だからな!!
高槻さん本人もまだ仕事が残っていたらしく急いで学校に戻っていってしまったし……もうモヤモヤが溜まりすぎてオレ、発狂しちまいそうだぜ!!!
そしてそれ以上に……
あ、あのー。 誰かこの空気をどうにかしてはもらえませんかねぇ。
オレの話題振りに対して2人とも応答なし。
結城は高槻さんの発言と、それを一緒に聞いていた母親の顔を見て冗談ではないと悟ったのだろう……肩をこれでもかというくらいに高く上げて真顔で固まっている。
そして優香は優香で……
「あーー……またやっちゃった。 あれから普通に振舞ってはみたけど桜子怖がっちゃってるよね……ダイキに続いて桜子にまであんな姿見せちゃうなんて……。 それも桜子にも酷いこと言っちゃったよぉ……あぁああ……もう生きるのが辛い」
こう言った感じでさっきからブツブツと独り言をつぶやいているのだ。
もうオレどうしたらいいか分かんない☆
こうしてオレは空気の悪い車内を必死に耐え抜き家へと帰宅。
家に帰っても1人は緊張、もう1人はブツブツと病んでいたのでオレは仕方なく強行策の実行を心に決める。
そう、それはあのダーク優香の降臨すらも阻止出来た荒技……やってやるさ。
いざ再び!!!
オレは昨日とは逆の足で机の足を思い切り蹴り飛ばした。
バキィ!!!
「あぎゃあああああああああああああ!!!!!」
ーー……オレが左足小指を犠牲にしてまであの空気を変えようとした結果。
それがこれだ!!!
時はちょうどお風呂タイム。
オレは左右の足を負傷してまともには歩けなくなっているということで……
「ほらダイキ、隠そうとしなくていいからお姉ちゃんに体重かけて」
「わ、私も手伝う」
オレのサポートをきっかけに優香と結城はほらこの通り、さっきまでの空気は吹っ飛んでいきました!!
フフ……フフフフ。
相変わらず負傷した両足の小指は半端なく痛いが、我……一片の悔い無し!!!
◆◇◆◇
「ダイキ大丈夫? 湯船の中熱くない?」
オレの右側で優香が心配そうに尋ねてくる。
……下半身に視線を向けながら。
「福田……くんの身体洗う時は私も手伝う」
オレの左側で結城が小さく呟く。
……下半身に視線を向けながら。
あ、ちなみに言っとくと下半身ってのはオレの負傷している足の指のことなので……まぁ勘違いしてる人はいないとは思うけど一応しておいておくゼ!!
てなわけでオレは早速第二の行動に出る。
「じゃあ身体……洗ってもらおうかなぁ」
オレの言葉を聞いた2人が反応。
「じゃあ手伝ってもらっていいかな桜子」
「う、うん」
優香がオレの正面から背中に腕を回して抱きつくように立ち上がると、結城も立ち上がってオレが足を滑らせないように腰回りに手を添える。
ピャアアアアアアアアアア!!!!
身体前面は優香の優しさやらなんやらでふわふわパラダイスだし、後ろは後ろで結城の手がちょこんと腰に触れてる手がもう心底堪らんのじゃあああああああ!!!
おいおい結城ぃ、そんなに腰を押し込むなよー。
体重をかけられちゃって重く感じているのかな? 優香の顔がちょっとだけ動揺してるように見えるぞ?
ーー……まぁそんなオレが一番動揺しちゃってるんですケドネ!!!
「ダ……ダイキ、あの……だ、大丈夫?」
「大丈夫じゃないですもうジンジンしちゃってやばいです」
「ジ……ジンジンしちゃってるの!?」
「特に左の足の指が」
「え、あ……うん、そうだよね! さっきぶつけたばかりだもんね!」
優香は何か邪念を振り払うように激しく顔を左右に振ると、「じゃあ湯船から出るよ、せーのっ」とオレの身体をグイッと持ち上げる。
それにより制御の効かないジンジン状態の【足の小指】が優香の身体に触れる。
ウォオオオオオオオ!!!! なんだこの感覚は……!!!
堪らん……こんな気持ち……初めてだああああああああああああ!!!!!
まさに癒しの波動。
優香に触れた途端に痛みが快楽へと変わり、オレの心を桃色に満たしていく。
「ダ、ダダダダイキーー!?!?」
「ごめんなさいお姉ちゃん、こればかりはオレにはどうしようもないかな」
だって足に力が入らないんだからね。
【足の小指】くらい当たっちゃうよねもちろん。
「そ、それは知ってるけど……!!」
そう言いながらも優香はなんとかオレを湯船の外へ。
ゆっくりとオレを座らせると、ボディタオルに石鹸をつけてゴシゴシと泡だて始めた。
「だ、ダイキ? そこはその……お姉ちゃん痛くしちゃうかもしれないから、自分でやってね?」
「あ、うん。 それはもちろん」
ーー……小指ね。 怪我してるからね。
それにしてもいい眺めだなぁとオレが優香を見つめていると、後ろから結城の声が耳に入る。
「じゃあお姉ちゃん、私、福田……くんの頭洗うね」
え。
なんというバッドタイミング。
オレの体を真正面から洗おうとする優香を目に焼き付けようとしていた時に、結城がシャワーの蛇口を捻りオレの頭にお湯をザーッと降らせ始める。
ぐあああああああああああああ!!!!!
頭から流れ落ちる水の壁により一気にオレは視界不良に。 それでもオレは優香の最高の姿を見ようと必死に耐えながら目をこじ開けていたのだが……
ここで事件が勃発。
シャワー後、普通に後ろで髪を洗ってくれていた結城だったのだが、オレは聞き捨てならない言葉を耳にしてしまう。
「うーん、前の方、手が届かない……。 お姉ちゃん、ちょっと私、福田……くんの前に回ってもいい?」
「!!!!!!!」
なん……だと……!!!
これによりオレの目の前には結城のカラーシルエット。
くそ……水と泡のせいでちゃんと確認できねぇ!! しかし目を細めてみれば……うむ!! 何がとは言わないが見える……可愛い結城の姿が見えるぞおおおおおお!!!!!
オレはこの時間がもっと続けばいいのにと思っていたのだが……
「ありがと桜子。 じゃあ後はお姉ちゃんがやっとくから……風邪引いちゃうし先に湯船に入ってて」
湯船の外はなんだかんだで冷え切っていたからだろう……結城の風邪を心配した優香が優しく声をかける。
「うん、福田……くんの髪、後はリンスするだけだよ」
「わかった。 じゃあリンスはお姉ちゃんに任せて」
「うん」
その場で立ち上がった結城がオレの足の上を跨いで湯船に戻ろうとした……その時だった。
ペシン
おぉう……!
結城の足先が軽くオレの負傷中の【足の小指】の先端に触れる。
「ん、あれ? なんか足に当たっちゃったような……ごめんね福田くん、大丈夫だった?」
その言葉と同時……石鹸の残り香が鼻の奥深くを刺激したんだろうな。
あーー、なんか、ムズムズしてきたんじゃあああああああああ!!!!!
ハーーーーックション!!!! ックション!! クション……!!!
オレは超大型のくしゃみを連発。
それに驚いた優香はいつもより多めにプッシュしてしまったのだろうな……その手に視線を向けると、それはそれは大量のリンスが手の上に盛られていたのだった。
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いやー花粉の激しい季節になりましたねぇ。
ハーーックション!!!!




