242 ダーク無双!!
二百四十二話 ダーク無双!!
オレが周囲に気づかれないよう慎重にズボンのチャック……社会の窓を閉めている間にも、オッサンたちは結城母に詰め寄っていっている。
結構な威圧感を出しているため見てるだけでもまぁまぁ怖いのだが……
オレはそんな大ピンチ状態の結城母を診察している医師へと視線を向けた。
「ほらほら、診察中なので少し離れて。 あと迷惑なので静かにしてくださいねー」
こ、このお医者さんすげぇな。
相手は見た目からしてゴリゴリのヤベェ奴らなのにも関わらず、冷めた声で注意しながらカルテでオッサンたちを散らしている。
「なんだお前!! 儂らは金取られて金欠中なんじゃ!!!」
「そうですか、こっちは診察中ですー」
「はぁ!? こっちは金返してもらわないと生活がかかってんだよ!!」
「はい、こっちは命かけてますので邪魔しないでー」
お……おおおおおお。
なんという言い回し。 医師はオッサンたちが投げかけてくる言葉を全て似たようなワードでブーメランしている。
流石は高学歴……頭の回転が他とは違うということなのだろうか。
結城母もこの医師には驚いているようで、華麗にオッサンたちを散らしていく医師の姿に見惚れているようだった。
オッサンたちもこの医師には口では叶わないと悟ったのだろう。 悔しそうな顔をしながら医師をギロリと睨みつけている。
これならこの人たちも諦めて帰るのではないか……そんなことをオレが考えた時だった。
「んー、お兄さん方の話を聞く限り、あなた方は結城さんにお金を取り立てにわざわざ病院まで来た……ということですか?」
一体なぜ……まさかの医師の方からオッサンたちに話しかけ始めたのだ。
器用にもカルテに何かを書き込みながらな。
これにはオッサンたちも顔を互いに見渡し、今が攻め時だと言わんばかりに医師に向かって早口で話し出した。
「そうだ!! こいつの元彼……俺らの知り合いが俺らから金借りてんだよ!!!」
「でも借りたのは元彼さんでしょう。 この結城さんとは関係ないのではないですか?」
「仮にも恋人だったんだ!! だったら返す義務があるだろう!!」
「結城さんは……その元彼さんの連帯保証人の契約等されてました?」
「そんなのしてないわい!! でも返すのが道理じゃないんかい!!」
オッサンの1人が汚い唾を撒き散らしながら医師に詰め寄っていく。
「あーあー汚い。 やめてもらえますか?」
「なんでじゃ!!」
「もう勝ちはもらいましたので」
「「!?!?!?」」
医師の言葉にオッサンたちがどよめきだす。
ーー……え、どういうこと?
オレも高槻さんと顔を見合わせながら首を傾げた。
「お、お前医師だろうが!! 何をそんな探偵や弁護士みたいなことを……!!!」
オッサンが医師を睨みつけながら指差すと、医師はニヤリと口角を上げてオッサンを見下す。
「はい正解、実は私、ただの白衣を着ただけの弁護士でした」
ーー……え。
オレたちの視線が集中している中、医師だと思っていた男性がスマートに白衣を脱ぎ捨てると、白衣の下に来ていたのはピシッとした黒スーツ。 襟元には綺麗に弁護士バッジが輝いている。
「「「えええええええええええええ!?!?!?」」」
オレたちを含め、オッサンたちの驚きの声が病室内に響き渡る。
しかし弁護士さんはそんなことは気にしないような面持ちで、達成感に満ち溢れた笑みを浮かべながら優香に視線を向けた。
「これが先ほど電話で話した私の作戦です。 どうでしたか姫」
え、姫? ってことはもしかしてこれって……
オレがゆっくりと優香へと視線を向けると、ダーク優香がニタリと笑いながら大きく頷く。
「ありがとう。 あなたを頼って正解だったわぁー」
「ありがたきお言葉にございます!」
「それで……桜子のママは、お金を返さなくてよくなりそう?」
「はい! 連中から連帯保証人の契約自体していないとの証言も録音出来ましたし。 もっと言えば、それを自白する前にやっていた直接の脅迫や、携帯会社に連絡して着信記録のデータ等も取り寄せれば、結構な額の慰謝料も請求できるはずです」
「そう。 じゃあごめんだけど……頼めるかなー」
「それはもちろん!! これくらい、姫に頂いた恩に比べればおやすいご用です!!!」
弁護士さんは優香に「それでは」と声をかけると、颯爽と病室から立ち去っていく。
なんというか……優香とあの弁護士さん以外、みんな置いてかれてる気がするんですが……。
「な、なんだあの男……」
オッサンの1人が弁護士さんが出て行った扉をじっと見つめている。
「いや、あの弁護士もそうだけど、そこの高校生……よくも儂らの邪魔をしてくれたなぁ!!!」
別のオッサンがズカズカと優香のもとへと詰め寄っていく。
「お、お姉ちゃんっ……」
結城が怯えながら優香の後ろに隠れる。
しかし優香は恐れている様子など微塵もなく、ジッとオッサンに冷たい視線を送っていた。
「アンタさっきの弁護士のなんね!? 儂らの邪魔をしよって……ただで済むと思っとんね!!!」
オッサンが優香の顔面スレスレでメンチを切る。
するとどうだろう、優香はしばらくオッサンとにらみ合いを続けた後、「ふふ」と鼻で笑い出した。
「な、なんね!」
「くーっさ。 ねぇオッサン、女の子と話すんならその口臭と体臭どうにかしたら?」
「なんやと!?」
「はぁ……いちいち反応うるさい。 あ、それとさっきオッサンが言ってた台詞そのまま返すけど……私にたてついて、ただで済むと思っとんね?」
優香はそう静かに問いかけると、親指を立てた手を自身の首元までゆっくりと上げていく。
これは……あれだ、見たことあるぞ!!
前に優香が初めてダーク化した際にも同じ光景を見た!!
確かあれをされた相手は……
オッサンもダーク優香の放つ異様な雰囲気を感じ取ったのだろう。
「な、なんね!?」と少し困惑した表情で1歩後ろへと下り、ダーク優香から距離をとった。
しかしこの展開はいいぞ!!
オレはこういった強面で相手を威圧するような奴らが大嫌いなんだ!!
ダーク優香様……やっちまええええ!!!!
オレが無言のエールを送っていると優香は首元で立てた親指を横に倒す。 そしてそれを外側へスライドさせながらあの言葉を言い放った。
「はい、しょけー」
キターーーーーーーー!!!!!
しかし前回は駅近くの場所だったが今回は病院という建物の中の小さな1室。
一体何が起こるのだろうと少し身構えていると、外から何やらけたたましい音が鳴り響く。
なんだ? バババババ……みたいな音が少しずつこちらに向かってきているのか徐々に大きく聞こえてきているような……
そしてそれは一瞬だった。
優香の後ろのカーテン越しに巨大な黒い影。 それと同時に猛烈な風が中へと吹き荒れてカーテンがこれでもかというほどにバサバサと乱舞する。
ていうかマジっすか……まさかこれって……!!!
オレたちがその光景に目を奪われていると、全身を黒の防具で身を固めた特殊部隊っぽい3人が窓の外から華麗に侵入。
素早い動きでオッサンたちの身柄を拘束していったのであった。
◆◇◆◇
「姫、こいつらは脅迫罪として連行して行きます!」
「よろしくー」
「それでは私どもは任務訓練中のため、これにて失礼致します!!」
「はーい、ありがとねー」
黒の部隊はオッサンたちを縛り付けるとそのまま窓からヘリに帰還。
さっきまでのうるささは何処へやら。 ヘリの音が消えていくと、本来の病室の静けさがこの室内に戻ってきたのであった。
これに満足したのか、いつのまにか優香はダークモードが解除されていていつものエンジェル優香の姿に。
優香は「ふぅ」と爽やかな息を吐くと、制服を着なおし……手櫛で乱れた髪を綺麗にまとめると、にこやかな笑顔でこう言った。
「はい、一件落着。 お母様、お金の心配もなくなったことですし、これで安心して病気と戦えますね」
「「「ええええええええええええええええ!?!?!?」」」
ダーク優香……改めて優香を追い詰めないようにしようって決めたし、降臨なされた時は近づかないようにしようって思ったよ。
ただこれだけは言える。 さっすがオレのお姉ちゃんだぜ!!!!
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久々のあの台詞……清々しい!!!




