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241 なにを見てた


 二百四十一話  なにを見てた



 優香が誰かに通話をしてしばらく。

 病室の中の雰囲気はというと……



 まず皆さんも気になっているであろう優香……もといダーク優香を見てみよう。

 あれからダーク優香様は通話を終えるなり、ずっと窓の外の景色を眺めている。

 一体なにをしたのだろう……期待と恐怖でいっぱいだ。



 そして結城は再び結城母に抱きついて離れない状態に。

 結城母はそんな結城の頭を撫でながらも、やはりダーク優香が気になって仕方ないんだろうな……度々外を眺めているダーク優香に視線を向けながら小さく首を傾げていた。



 ……で、最後にオレと高槻さんだ。

 オレは未だに高槻さんの手を握りしめながら部屋の端で起立状態。

 なんでかって? その理由はこれさ。



「あの、福田くん、お姉さんどうしちゃったんですか? 悩んでるのなら先生がお姉さんとお話を……」


「いえ、先生大丈夫です。 このままの方が安全です。 皆の為にも、先生の為にも」


「?」


 

 意味が分からないと言った表情を浮かべているが、分かってくれ。

 もしかしたら高槻さん、あなたにまで火の粉がかかる……いや、黒炎の渦に巻き込まれてしまうかもしれないんだ。 それだけはなんとしてでも阻止しなければ!!!


 願わくばこの今の静かな空気のままで、何も起こらず平和に事が進んで欲しかったオレだったのだが、まぁもちろんそんなわけもなく……



「あ、あの……話が済んだのなら皆さん、出て行ってもらってもいいでしょうか」



 おそらくこの中で一番精神が疲弊している結城母の声が部屋の中に響き渡る。

 うん、しっかりと視線は優香へと向けられているな。



「ーー……へぇ、そんなこと言うんだ」



 優香がゆらりと身体を揺らしながら顔を結城母へと向ける。



「はい。 もう話は終わりました。 これ以上ここに居られても迷惑なだけです」


「ーー……だって、桜子。 どうする?」



「え」



 優香は結城母の言葉を完全にスルー。 そのまま視線を結城に移して大きく首を傾げた。

 そんな優香の言葉を受けた結城は結城母と優香の顔を交互に見る。



「わ、私は……ママと一緒に……」


「でもそのママが桜子と縁切るって言ってるけど?」


「えっと、その……」


「桜子」


「ひゃ、ひゃい!!」



 結城が今までに出したことのないような裏声を出しながら背筋を伸ばす。

 もしかしてあれか? ダーク化してる状態では相手は見境なしなのか?

 だからオレが優香のダーク化を初めて見て近づこうとしたとき、ギャルJK星はオレを止めてくれてたのだろうか。

 オレは心の中でギャルJK星に深く頭を下げた。



「あのね桜子、桜子のママ……借金を桜子に背負わせたくないから縁を切りたいんだって。 どうしよっか」



 優香は結城の手前まで近づくと、顔を覗き込みながら無表情で尋ねる。



「そ、それは私が……私がおっきくなったら頑張って働いてママの借金返す……とか」


「だってさ。 ほら、アンタの娘こう言ってるけど」



「だめ。 桜子はまだお金の恐ろしさを分かってないからそう言えるの。 私は……ママは、桜子にママと同じような気持ちにはなってほしくないの」


「だけどママ……!!」



「はぁ……まーた始まったよ」



 優香が首をがくんと下げながら深いため息をつく。



「お、お姉ちゃん、わた、私……」


「あのさー、桜子。 桜子は今まで何見てきた?」


「え」


「例えるならね……今の桜子のママは、桜子そのものなの。 分かる?」

 

「……私そのもの?」



 結城がゆっくりと視線を結城母へと向ける。



「そう。 何が起こっても自分が悪い、自分が犠牲になれば全部解決する、自分から動こうとしない……全部受け身な、そんな性格」


「ーー……」



 うわああダーク優香様ぁ、それくらいにしてやっては貰えませんかね!

 結城の表情が徐々に暗く……角度も俯いていっている。

 これ以上はオレの結城愛が『それ以上は許さない』と、優香に手を伸ばそうとした……その時だった。



「桜子、そんな桜子に、ダイキやエマちゃん……私を含めたみんなはどうしてた? 見てるだけだった? ん?」



 優香の問いに結城はふるふると首を左右に振る。



「ううん、助けて……手を差し伸べてくれた。 福田……くんは特に、私がいじめられてる時に身代わりになってくれたり……とか」


「その時桜子はどう思った?」


「嬉し……かった」


「じゃあ今は、桜子の目の前に、大きな桜子がいます。 どうする?」


「ーー……私が、助ける」



 結城は大きく頷くと、結城母の手を固く握り締める。



「さ、桜子!?」


「ママ。 ママがなんて言っても私、ママと一緒にいたい……ママが私と縁を切るって言っても、私は……ママから離れない!!! お金は本当に私が大きくなって返していくから……も、もう決めたからっ!!」


「でも桜子……それだと桜子が……」



「いいの! もう決めたの!! 私は何があってもママと一緒なんだから!!! 私が助けるから!!!」



 結城が涙を滝のように流しながら結城母の胸に顔を埋める。


 あれ、なんだろう……さっきまでは結城に同情していたのに、今は頑張れって応援してるぞ?

 ていうかダーク優香が……ダーク化した状態で人の心に光を灯しただと!?

 オレは意味がわからず優香へと視線を向けた。



「はぁ……まぁそこは勝手にしてくれていいけどさ、もっと早く自分で気づけよもう。 めんどくさ……」



 いやめっちゃダルそうじゃないですか!!! 光灯したのは偶然かい!!!



 心の中でダーク優香にツッコミを入れていると扉が数回ノックされ、検診に来たのであろう白衣を着たお医者さんがカルテを持ちながら結城母のもとへと歩み寄る。



「結城さん、お変わりないですか?」


「あ、はい」


「そちらの子は……娘さんですか?」


「そうです。 私がこの病気を治そうと思えた希望です」



「!!!」



 結城母の言葉に結城の表情が一気に明るくなる。

 そうか、てことは結城母、結城と縁を切ることはやめたってことでいいんだよな!?!?

 

 結城母の検査ということで結城は一旦母親から離れて優香のもとへ。



「あ、あの……お姉ちゃん、ありが……とう」


「別に私なにもしてないしー」



 てか結城よ、よくそのダークモードの優香に近づけて話しかけられるな。

 オレはそんな結城の度胸に感心しつつ、ひとまずの難題を乗り越えたことから深いため息をついた……のだが。

 


「あいつの女はここかぁーー!!!」



「「「!!!!」」」



 勢いよく扉が開かれたと思うと、そこから数人の柄の悪いオッサンたちがギャーギャー喚きながら中へと入ってくる。

「なんですか貴方がたは」と尋ねる高槻さんをキッと睨みつけて黙らせると、検査中の結城母のもとへドカドカと歩み寄っていった。



「だ、誰ですか」



 結城母が困惑した様子で尋ねる。



「儂らか? 儂らはあいつ……お前さんの彼氏に金貸しとった親友や!! 電話繋がらなくなって焦ったけど、やっと見つけたがな。 金、返してもらおうか」



 うわあああああ、なんて展開になってしまったんだぁあああ!!!

 さっきまでの暖かくなった空気は何処へやら。 こいつらのせいで一気に空気は冷たく……タバコをさっきまで吸ってたのか、タバコ臭くなってしまったじゃねーか!!!

 

 どうしたものかと考えていると、繋いでいる高槻さんの手がわずかに震えていることに気づく。

 こんな強面で臭くてうるさいオッサンに睨まれたらそうなるよな。

 オレはとりあえず高槻さんを安心させようと繋いでいる手に力を込める。


 そして次は結城だ、結城は大丈夫か?

 

 オレは視線を結城の方へ。 もし怖がってようものならオレが速攻駆けつけてなんとかしてあげようと思ったのだが……。

 

 

「お姉ちゃん?」



 結城が目を大きく見開いて優香を見上げている。

 優香がどうした……って、えええええええええええええ!?!?!?



 なんということだろう。

 優香……もといダーク優香様がニヤリと微笑みながらオッサンたちに見下すような視線を送っているではありませんか!!

 これは……これは何か不吉な予感がぁああああああ!!!!



「あの、福田くん」



 オレがそんなダーク優香の微笑みに心を震わせていると、高槻さんが隣からオレに小さく囁く。



「先生? どうしました?」


「あの、実はここ病室に入ってからいつ言おうかと思ってて、今ふと思い出したんですけど……」


「ん? なんでしょう」


「その……社会の窓、全開ですよ」



「!!!!!」



 急いで視線を下ろすと確かにチャックが清々しいくらいに下へと降ろされている。

 喫茶店のトイレだ! 足の小指の苦痛に耐えながらだったからチャックをあげるの忘れていたぜ。



 ていうか高槻さん、なに見てたんだよ。 もっと早く教えてくれよ恥ずかしい。



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[良い点] 「その……社会の窓、全開ですよ」 ↑ この展開で……相変わらず酷いオチだな!(誉め言葉) [一言] オッサンたちのDeathカウントが始まったw
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