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237 全ての真相


 二百三十七話  全ての真相



 ピンポーン。



 高槻さんから連絡があってからしばらく。 家の玄関からインターホンの音が鳴る。



「あ、お姉ちゃん」


「うん。 先生と桜子だよね! 行こ、ダイキ!」


「うん!」



 オレと優香はお互いに目を合わせた後に頷き合い、玄関へと駆け足で向かった。




 ◆◇◆◇




「えっと……わざわざ温かい飲み物、ありがとうございます」



 リビングのテーブル。

 優香が入れた紅茶に口をつけた高槻さんがこれまた柔らかい声で優香にお礼を言いながら頭を下げる。



「いえ。 どうぞ楽にしてください」


「はい、ではお言葉に甘えて」


「ほら、桜子も寒かったでしょ? 紅茶温かいから……飲んで体、温めて」



 優香が紅茶を前に無言で俯いている結城に必死に声をかける。

 まぁその結城はというと、ご想像の通り、じっと視線を斜め下に向けて沈黙しているのですが……



「さ、桜子……、あのね、お姉ちゃん……」


「お姉さん」


「え?」



 優香の声を遮るように高槻さんが静かに優香に顔を向けてアイコンタクト。

 小さく首を左右に振ると、唇の前に指先を軽く当てる。


 これはあれだな、今は何も言わない方がいいと言う合図なのだろう。

 優香もそれを察したのか少し悲しげな表情をしながら小さく会釈。 そのままオレの隣の席に着席した。



「それではあの……早速ですがいいですか?」



 手を合わせた高槻さんがぐるりとオレたちを見渡す。



「あの先生、それは……桜子やダイキがいても大丈夫な話なのでしょうか」


「はい。 もともと結城さん込みでのお話をしに来ようと思っておりましたので」


「そう……ですか」


「えぇ。 では本題に入らせていただく前に……」



 高槻さんは「先にこっちを話した方がいいかもしれませんね」と、オレたちが一番気になっているところを話しだしたのだった。



 ◆◇◆◇



 

「ええええ!? 桜子のお母様が入院してる!?」



 優香の声に高槻さんが「はい」と静かに頷く。



「でもなんで……私には電話でそんなことは一言も……!」


「実はこれ、結城さんのお母様からは口止めされてたんですけどね。 こればかりは言っておかないと話がややこしくなると思いましたので先に言わせていただきました」



 これは結城も予想だにしていなかったのだろう。 目を大きく見開いて高槻さんの方をじっと凝視している。



「先生……ママ、病気なの?」


「はい、それはこれから詳しく話しますから、とりあえず先生の話を聞いてくださいね」



「えっと……先生、その……桜子のお母様とお話しする機会があったんですか? 居場所すらも分からなくなっていたのに……」



 優香が無意識になのだろうが、スマートフォンの入っているポケットに手を当てながら高槻さんに尋ねる。

 確かにそうだよな、膨大なる優香ネットワークの力を借りても見つからなかったんだ……どうやって高槻さんはあのババァを見つけたというんだ?



「あ、はい。 これはたまたま偶然なんですけど、数日前に私が立ち寄ったバーでの出来事なんですけど……」



 高槻さんは「あ、どうせならそこから話しちゃいましょうか」と前置きをした上で結城の母親……ババァとの会話の内容を話し出した。



 ことの発端は先ほど高槻さんが言った通りバーで偶然出会ったらしい。

 中に入るとカウンターで酔いつぶれている女性を発見し、たまたまその時間帯ババァの隣しか席が空いておらず、高槻さんはそこに座ってお酒を飲んでいたとのこと。

 すると当然女性と店員さんの声も聞こえてくるわけで……



『私は最低な母親なんです。 自分の子供1人幸せにできないんですから』



 この発言を聞いた高槻さんは大変だなぁと思いつつも、自らの職業病というのもあるのだろうが、じっくりと話を盗み聞きしてしまう。

 それでその会話を聞いているうちに、もしかして……と思い声をかけたのがきっかけだったとのことだ。



「えっと……先生、どんな話をしてたんですか?」



 優香が恐る恐る高槻さんに尋ねる。



「まぁ……色々ですよ。 育児についてだったり、恋バナだったり」


「恋バナ……ですか?」



 優香の表情が一瞬曇る。

 優香よ……流石にキレそうになるには早すぎるぞ。

 


「はい。 あ、でも別にやましい内容とかではありませんよ。 私、結城さんのお母様の話を聞いてちょっと泣きそうになっちゃいましたもん」



「「え」」



 オレと優香の口から同時に声が漏れる。

 あのババァの話に涙? 絶対ありえないんですけど。



「それは……聞かせていただいてもいいんですか?」



 優香の質問に高槻さんは「はい、もちろんです」と首を縦に振る。

「ていうか……そもそもそれも話そうと思ってましたからね」と言いながら隣に座る結城の肩に優しく手を置いた。


 

「まずお母様の元彼さん……先日逮捕された男性とは、お互いに利用しあっているといった関係だったそうです」



 ……お互いに利用しあっている? どういう意味だ?


 オレと結城が揃って目を細めながら首をかしげる。

 


「えっとですね、つまりお互いの利益のために付き合っていたということらしく……とりあえず、そこらへんも遡ってお話ししますね」



 高槻さんの話によればこうだ。

 元々結城の母親……ババァは父親である男性と別れてからというもの、結城と2人で幸せに暮らしていた。

 しかしある日、体に違和感を感じたババァは病院へ。 そこで衝撃の診断を下されてしまったというのだ。

 

 病名こそ高槻さんは教えてはくれなかったのだが、『治ることは滅多にない病気』らしい。

 医師には入院を勧められたババァだったのだが、女手一つで娘を育てている自分には頼る人もいないので入院なんて以ての外だった。



『全ては娘のため』



 しかし通院代も今後払わなければならなくなったババァはパートの回数を極力減らし、一晩で多くの金額を稼げる夜のお店で頻繁に働くように。

 そこで出会ってしまったというのだ……あの男と。


 男は金の羽振りが非常に良く、それでいて頻繁にババァを指名してくれていたこともあってババァもその男には過剰に愛嬌を振りまくように。

 しかしその結果、今後はお店の外で……プライベート会わないかと誘われてしまったのだ。


 それはダメだと思ったババァは娘がいることと、自らが『治ることが難しい病気』にかかっていることを正直に話す。 しかし男はババァにこう言った。



『それでもいい。 俺の女……いや、俺の望む女になってくれれば、俺が通院代も負担するし、もしお前に何かあった場合はその娘に金銭的な援助くらいならしてあげなくもない』

 



 ーー……なるほどな。

 それでババァはその男の財力を手にするために男に惚れている姿を演じ、男はそんなババァの姿に満足していた……と。

 


「じゃあ……じゃあママ、私のこと、嫌いになったわけじゃなかったの?」



 結城が前のめりになりながら高槻さんに尋ねる。



「そうですよ。 だって結城さん思い出してください、お母様が結城さんにきつく当たるようになったのって、ここに引っ越したくらいからじゃなかったですか?」



 高槻さんの質問に結城は「うん……」と悲しげな表情で頷く。



「ママ……ここに引っ越してくるまでは優しかったのに急に怖くなったから……私、それでもママに聞けなくって」



 そういや結城、今日の帰りに言ってたな。

 オレは下校時……結城と髪型の話になってた時の結城の言葉を思い出す。

 確か……



『この学校に転校してくる前……ママがまだ新しい彼氏と出会う前かな。 ママが初めて私に教えてくれた髪型だったんだ』



 うん、そうだ。 これは結城の話していた内容と繋がる。

 そうか……やはりあの男と出会ってからババァの性格が変わっていったのか。

 


「だから結城さんのお母様、結城さんにはお金の為とはいえ酷いことをしてしまったって嘆いてましたよ」


「ーー……そうなの?」


「はい。 結城さんはよく休日とか外に出されてたらしいですが、それもその男性の機嫌を損なわせないようにするには仕方なかったらしいですね。 なんでも機嫌の悪い時はよくお酒に酔いながら物に当たってたらしいので……それでお母様は結城さんに暴力を振るわせないよう、外に逃がしていたらしいですよ」


「そう……だったんだ」


「はい。 まぁでももっといい方法とか絶対あったと思いますけどね」



 高槻さんは結城の頭を撫でながら「あ、そうそう」と視線を優香とオレに向ける。



「ですからお2人にはかなり感謝しておられましたよ。 大切な娘の面倒を見させてしまって頭が上がらないって」


「先生、それ……私とダイキに感謝してるって、ほんとですか?」


「はい。 なので旅行に誘ってくれた時には本当に嬉しかったそうですよ。 なんでも以前からあまり外に連れ出してはやれなかったみたいで」


 

 高槻さんの言葉に救われているのだろう……優香の表情も少しずつ柔らかくなっていっている気がする。

 ていうか……ん? だとするならオレは内面を知らずに結城の母親をババァ呼ばわりしてたってことか?

 まぁやってることはクソだけどちゃんと愛は感じるし……あれ、これババァ呼び相応しくないかもしれないぞ。



「えっと高槻さ……先生、いいですか?」



 この際だ。 オレも疑問だったところを解消させてもらおう。

 オレも手を上げて高槻さんに質問をする。



「はい、福田くん、なんですか?」


「じゃあなんで結城さんのお母さんは、結城さんを叩いたりしたの?」



 これは優香も結城も思っていたことなのだろう。

 オレの質問を聞くなりその視線を高槻さんへと向ける。



「それもほら、さっき言った通りに男性……元彼さんの前ではそういう風に演じてたらしいですよ。 ただ後は……あれらしいです」



 高槻さんが視線をゆっくりと結城へと向ける。



「ーー……?」


「これもお母様が仰っていたのですが、結城さんってほら……人見知りさんじゃないですか。 それが原因で元彼さんの機嫌が悪くなっちゃうのが苦痛になっていって……それが積もりに積もった結果、結城さんに当たるようになってしまったらしいです。 私は全てあなたのために頑張ってるのにどうしてーって」



 あー、なるほどね。

 それで娘に対する愛が、時たま憎悪に変わってしまってたってわけか。

 しかしお金のためとはいえそこまで徹底する覚悟も容易ではなかっただろうけど……お金の力ってすげぇな。



「とりあえずはそれが今までの真相だったってことなんですけど……ここからが一番重要な話でして、それで私とお母様で……」


「あの……すみません」



 高槻さんが何かを話そうとしたところで優香が言葉を遮る。



「えっと……なんですか?」


「それにしても納得いかないんですけど……今までの桜子に対する行動はまぁ……少しは分かりましたよ? でもなんで行方をくらまそうとしたり、その……放棄する……なんて」


「あーー、それはですねぇーー……」



 高槻さんが天井を見上げながらしばらく沈黙する。



「せ、先生?」



「よし、決めました!」



 高槻さんが両手をパンと鳴らしてオレたちを見渡し、全員の視線が高槻さんへと向けられる。



「ほんとは結城さんのお母様、私……先生以外とは面会を希望されていないようなのですが、そうですね……それは本人の口から聞いた方がいいと思いますので、明日一緒に会いに行きましょうか」




「「「ええええええええええええええ!?!?!?!?」」」



お読みいただきましてありがとうございます!

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