235 すべてお見通し!
二百三十五話 すべてお見通し!
「そん……な……」
優香の通話の声を聞いてしまった結城の肩からスルリとランドセルが滑り落ちる。
こればかりはオレも何もフォローしようがないというか……だってオレの耳にもはっきりと聞こえてたんだしな。 聞き間違いじゃないか……とかそんな冗談は通用しそうにない。
でもどうにかしないと……
「あ、あのー……結城さん?」
オレは恐る恐る結城に声をかける。
「福田……くん」
「ん?」
「今の……聞こえた?」
「え」
「その……今のってお姉……優香さん、ママと話してたんだよね」
結城の視線がゆっくりと優香の方へと向けられる。
優香は相変わらずこちらには気づいていない様子で未だに声を荒げながら通話しているが……
「えっと……結城さん? とりあえず一旦家に帰って心を落ち着かせた方が……」
「私……見放されたの?」
「いや、そんなことは……」
「福田……くんたちは……知ってたの?」
「それは……あの……」
「知ってたんだ……福田くんも優香さんも……信じてたのに……。 なんで教えてくれなかったの?」
「ゆ、結城さん?」
「信じてたのに!! 福田くん……キライ!!!!!」
ガーーーーーーーーーン!!!!!
今……福田クン……キライ……ッテ言ッタ?
オレがショックで固まっている間に結城がどこかへと走り去っていく。
なんで……どうしてこうなってしまったんだ……自分で言うのもなんだけど、オレは結城の中での好感度は決して低くはなかったということだけは自負している。
なのにこの一瞬でこの展開……あの言葉。
原因はわかってるんだ……そう、それはもちろん……
あのババァ!!!! 許さん!!!!!
完全に凍りついていた心が怒りの炎によって一気に溶かされていく。
全てはあのババァが原因……しかしまずは先ほど飛び出してしまった結城の保護が先だ。
オレは両頬をパシンと強く叩くと結城の走っていった方向へと駆け出した。
◆◇◆◇
「うわぁっ! あら、福田くん!?」
曲がり角を曲がったところでエルシィちゃんの担任・高槻さんと鉢会う。
「あ、高槻さん!」
「どうしたんですか福田くん、何やら焦ってるように見えますけど」
「結城さんが……その、あの件のこと知ってしまって……! それで……!」
「あ、それはちょうどよかったです。 先生、それに関しての話があったので福田くんのお家を訪ねようとしていたところだったんですよ」
結城の件に関して?
それはかなり聞きたいところだけどまずは……
「でも先生、結城さんそれ知っちゃってどこか走って行っちゃったんですって!」
「えぇ!? そうなんですか!? どうしましょう……。 と、とりあえず空いてる先生方にも連絡して探すの手伝ってもらいますので……どこか心当たりとかありますか? 結城さんが行きそうなところ」
高槻さんがスマートフォンを耳に当てながらオレに尋ねてくる。
「結城さんが行きそうなところ……ちょっと待ってくださいね」
高槻さんに出会って事情を話せたおかげなのか、少し冷静さを取り戻してきたみたいだ。
ここで出会ってなかったらオレは闇雲に結城を探し回っていたんだろうなぁ。
「ちょっと待っててください、すぐ戻りますんで!」
オレは高槻さんにそう一言添えると近くの電柱裏に隠れてとある人物の名前をスマートフォンの電話帳から探して電話をかける。
それは決まってるだろ、もちろん……
『もしもし』
「美香か!?」
『うん。 それ以外の声がしたらそれは幽霊』
そう、中身が神様のミステリアスJS・与田美香だ。
神様なら結城の居場所とかもしかしたら……!!!
「なぁ美香、頼む! 今結城がどこにいるか……とか教えてくれないか!?」
『結城桜子の居場所?』
「そうだ! ちょっと色々あってどこかに行っちゃったんだよ!!」
オレが簡潔に事情を説明すると、一瞬の沈黙の後、美香の笑い声が聞こえてきた。
「ーー……ん? 美香?」
『ククク……ダイキ、お主は正解じゃ』
「な、なんだよいきなり」
『今までお主がワシに尋ねてきたことは全て、【未来】に直結する出来事じゃった。 この先どうなるか……やら、禁則事項なことばかり。 しかし今回お主は結城ちゃんの【今】を聞いてきた。 それなら禁則事項にはひかっからんし、ワシも本領を発揮できるといったもんじゃ!!』
「おぉ……ということは……!!!」
オレの言葉に美香が神様口調で『うむ』とかなり自信たっぷりの声を出す。
『そういうことじゃ! 場所はどこか……とか説明するのは難しいのじゃが、今、結城ちゃんはお主と優香ちゃんが出会った場所……これなんというんじゃったかのう……人通りの多い学び舎らしき建物の近くにおる』
「人通りの多くて学び舎……塾の建物の近くか……、あ、あそこか! 分かったありがとう!」
『あ、それでじゃのダイキ、一つ忠告……』
プツン!!!
オレは美香との通話を終了させると急いで高槻さんのもとへ。
「高槻さ……先生! 結城さん、今ここから近いコンビニ付近の塾……あ、オレたちが冬休み中に話し合いしていた先生方と鉢会った……あの場所の付近にいるっぽいです!!」
「先生たちと福田くんが鉢会った場所……あー、はいはい、あそこですね! 分かりました今から向かいます!」
高槻さんが念のためにと他の先生にも連絡を取りながら体を結城のいる方向へと向ける。
「先生、オレも行きます」
「いえ、福田くんはここで残ってお姉さんに話して家で待っていてください。 結城さんは先生が連れてきますので」
「いやでも……!!」
「福田くん」
高槻さんがオレの口元に指先を当てる。
「!!」
見上げると高槻さんはオレの目線にあわすようにその場でしゃがみ込み、落ち着いた声でオレに話しかけた。
「ここは、先生に任せてください」
「で、でもオレも行った方が……」
「この年頃の女の子の心ってかなり繊細なんです。 一つ言葉を間違えただけで取り返しのつかない状況になったりする……だからここは経験豊かな先生に任せてください」
高槻さんはオレに柔らかく微笑むと、「分かりましたか?」と優しくオレの頭を撫でる。
なんだろう……緊迫していた心が一気に柔らかくなっていく。
「わ、分かりました」
「はい、いい子ですね。 では福田くんはお姉ちゃんに話してお留守番お願いします。 結城さんを保護したらメール入れますので、安心して待っていてくださいね」
こうして高槻さんはスーツ姿でヒールといういかにも走りにくそうな姿にも関わらず、駆け足で結城のいるであろう場所へ。
オレは電話中なんか知ったことかという精神で優香に事情を説明しに向かったのだった。
その途中、オレは優香に事情を話すことに必死でポケットの中で振動するスマートフォンに気づいていなかったのだが、優香とともに階段を登っている時に確認してみると、それは美香からのメール受信通知。
なんだろう思ったオレは内容を確認すると、そこには冗談?の入り混じった内容でこう書かれていた。
【受信・美香】むぅ……ダイキ、途中で電話切ったからメールで送る。 今回のお礼、美香は期待してる。 靴下とかが望み。 そしてこれは独り言だから禁則事項にはならないけど、さっきのダイキの行動……教師に任せたのは正解。
さすがは神様……全てお見通しってわけか。
神様は靴下をご所望……あぁ、この件が片付いたら最高の靴下を献上させてもらうぜ!!!
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高槻さん&美香(神様)のこの安心感!!笑




