234 突きつけられた真実【挿絵有】
二百三十四話 突きつけられた真実
それは終わりのホームルームが終わり、オレが教室を出たところだった。
「あーー!! いたーーー!!! 西園寺ーーー!!!!」
オレの前をものすごいい勢いで綾小路が駆け抜けていく。
もちろんその先にはそう……綾小路が名前を叫んでいた相手・西園寺の姿。
「なに?」
「西園寺嫌い!!」
「そう」
「えぇ!? それだけ!? もっと他に何かないの!?」
「だって私も嫌いだもん」
「なんでそうなるのーーーー!!!」
あの一件……綾小路が西園寺のことを好きだったことを暴露してからここ数日、毎度のように綾小路は西園寺に先制攻撃を仕掛けにいっているのだ。
西園寺は……ちょっと面倒臭そうだけどな。
「ねぇー! 西園寺!!」
「もう……うるさいな。 なに?」
「アタシちゃんと西園寺のことバカに……!!」
「あ。 それ以上ここでいったら半殺しね」
「うぐぐっ……!」
飽きねぇなぁ綾小路のやつも。
まぁそれだけ構って欲しいということなのだろうけど……。
オレが半ば呆れながらその光景を見ていると、後ろから誰かがオレの背中を叩いてくる。
「ん、あ、エマ。 どうした?」
「本当あの子どうしたのかしらね」
「なにが?」
「ここ最近ずっとノゾミにあぁやって絡みにいってるじゃない」
あー、そうか。 このこと知ってるのってオレと西園寺だけだもんな。
「まぁあれじゃないか? 嫌い嫌いも好きのうちってやつ?」
「そうね、言うには言うけど……でもそっか、そう言われてみればそんな風に見えてきて可愛いわね。 なんか子供の戯れを見てるような感じで」
エマが2人のやり取りを見ながらくすりと微笑む。
「でもさ、エマ」
「なに?」
「嫌い嫌いも好きのうちって……本当にそんなことあんのか?」
オレは首を傾げながらエマに尋ねる。
「どうしたのよ急に。 別にあるんじゃないの? 現にほら、あの子……綾小路さんだってそう見えてるわけだし」
「じゃあさ、エマはオレのこと好き? 嫌い?」
「ーー……は?」
エマが気の抜けた声を漏らしながらオレを見る。
「なんでそうなるのよ」
「だろ? もしエマがオレのこと好きって言ってくれたらその通りの意味ってわけじゃん? でも嫌いって言われたら言われたで、さっきの理論から考えるとオレのこと実は好きってなるだろ? よく分かんねーなって思ってさ」
「なにしょうもないことで悩んでんのよ」
「だって気にならないか? だったら三好とかさ……オレのことバカやらアホやら言ってくるけど、オレのこと好きじゃないんだぞ? もうオレ分からないぞ」
「ーー……ダイキ、アンタ本当にバカなのね」
エマがため息交じりにオレの顔を見る。
「あ、ほら今エマお前オレのことバカって言った! てことはお前はオレのこと好きってことでいいのか!?」
「あのね、そこらへんは場の雰囲気とかで察しなさいよ! エマの言った『バカ』は本当にそう思ったからの『バカ』……カナの言う『バカ』は……あっ」
「ん?」
一体どうしたのだろう。 エマが説明をしている途中で突然口を紡ぎ出す。
「おい、三好の場合はなんだって?」
「んー、これ以上エマが言ったらカナに恨まれるから、やめとくわ」
「はぁ!? 意味わかんねーぞ!?」
「だったらもう一度本人に聞くことね。 それじゃっ」
エマはオレの背中を再びポンと叩くと小さく手を振りながら「お先に」と帰っていく。
「え、今日一緒に帰らないのか?」
「うん、今日はエルシィと買い物してから帰るから。 じゃあね」
だったらオレも荷物持ちでも手伝ってあげようと思ったのだが……まぁあれだな、姉妹水入らずの買い物の方が本人たちも楽しいだろうし、余計なお世話はやめておくことにするか。
ーー……あ、そうそう、そういや言ってなかったんだけど、前にほら……結城をエマの家でも協力する的な話が出てただろ?
あれから色々と話し合った結果、結城はそのままうちにいることになったんだ。
だってそうだろ? いちいち移動させてたらなんか本人にも申し訳ないしさ。
結果オレは未だに自らの部屋を失っているわけなのだが……まぁあれよな。 プライベート空間がないのはちょっとはきついけど、お風呂タイムの時に結城が直前まで着てた服やパンツに触れたり……結城成分が存分に染み込んだ湯船に浸かってると、そんなことどうでもよくなっちゃうくらいに幸せなんだよな。
そして今日もオレは数時間後に迫るお風呂タイムを楽しみにしながら家へと帰るわけだが……
「あ、福田……くん」
「ん?」
靴箱で上履きから靴に履き替えている時、柔らかく心地よい声色がオレの耳に入ってくる。
まぁこんな声、一人しかいないんだけどな。
オレは耳から聞こえるマイナスイオンに癒されながら声にした方を振り返った。
ーー……ほらね。
「あ、結城さん」
オレの想像通り。 そこに立っていたのはオレの癒しの権化でもあり結城桜子。
オレと目が合うなり結城が小走りで近づいてくる。
「どうしたの?」
「福田……くん、今から帰る?」
「うん、そのつもりだけど……なんで?」
「ううん、私も今から帰るから、一緒に帰ろうかなって思って声かけたんだけど……いい?」
ズキュウウウウウン!!!!
みなさん!! 聞きましたか今の言葉ああああああ!!!!
結城が……結城がとうとう自ら進んでお誘いしてくれましたぞおおおおおお!!!! これは進展ではないのでしょうかあああああああああ!!!!
結城のその言葉にオレの体温はヒートアップ!!
顔を真っ赤にさせながら首をなんでも縦に振る。
「うん!! うんうんうんうん!!! 帰ろう……帰ろう結城さんんん!!!!!」
「え、あ……うん。 福田……くん、どうしたの?」
「どうもしないよなんでもないよ!! じゃあ帰ろう早速帰ろうさぁ行こう!!!」
こうしてオレは結城のお誘いで一緒に家まで帰ることに。
オレはもう有頂天な状態で幸せな時間を過ごしていたのだが、その途中のこと……
「あ、そうだ福田……くん」
「なに?」
「私最近びっくりしたんだけど、三好さん……髪型変わってたね」
「あー、そうだね。 突然どうしたの?」
「ううん、髪を下ろした三好さん大人っぽいなーって思って」
「そうなんだ」
「うん。 もし私が髪型変えるとしたら、どんなのがいいかな」
そういうと結城は自身の髪をポンポンと叩きながらオレを見る。
「え、結城さんに似合いそうな髪型?」
「うん」
「そうだなぁー」
オレは結城の髪に視線を移してまじまじと改めて観察を開始する。
今の結城の髪型ってなんていうんだっけな……前、陽奈たちと水族館行った時にギャルJK星が結城に言ってた『クラゲ』が頭から離れていないので『クラゲヘアー』と命名しておこう。
この結城のクラゲヘアー、オレ的には中々に似合ってて変える必要ないって思うんだけどなぁ……。
髪下ろしてもクラゲの頭がなくなるだけだし、ドSの女王・小畑やエマみたいに二つ結びにするのもまぁ可愛いっちゃ可愛いけどそれまでだ。
かといってマドンナ・水島みたいに頭の上部からのツインテールも長さが足りないしなぁ……
「いや、このままでも充分可愛いから変える必要ないと思うんだけど……」
「え?」
結城が少し顔を赤らめた様子でこちらを振り向く。
「ん? どうしたの?」
「だって今福田……くん、可愛いって言った?」
「え? ーー……えええええええええええええええ!?!?!?!?!?」
オレは急いで口に手を当てる。
「え! オレさっき可愛いって言った!?」
「う、うん……」
結城が恥ずかしそうな顔をしながらコクリと頷く。
これは……これはまたしてもやってしまったあああああああ!!!!
三好の前で口を滑らしたこと然り……最近のオレ、この体に転生してきたときに比べてかなり警戒心が緩んできてるような気がするぞ!!!!
これは由々しき事態なのだがそれよりもまずは……
オレはこの状況をどうしたものかと必死に考える。
これはもはや告白したのと同じ意味……この結城の捉え方によってオレの今後の運命が左右されると言っても過言ではない!!
こういうとき……こういうときは何て言えばいいんだああああああああ!!!!!
オレが脳をフル回転させながら心の中で絶叫していると、結城がニコリとオに微笑みかけてくる。
「その……ありがとう」
「え?」
「私もこの髪型が一番気に入ってたから……福田くんもそう思ってくれてたなんて、嬉しいな」
え? オレが可愛いって言ったの髪型のことだと思ってんの?
結城は嬉しそうにクラゲの頭部分を優しく撫でているし……これはこのノリに身を委ねるしかない!!!
「う、うん! その髪型は結城さんしか似合わないと思う」
「ふふ、ありがと。 実はこれ、ママが教えてくれた髪型なんだ」
「そ、そうなんだ」
「うん。 この学校に転校してくる前……ママがまだ新しい彼氏と出会う前かな。 ママが初めて私に教えてくれた髪型だったんだ」
結城の表情……嬉しそうだなぁ。
やはり母親は特別な存在……その彼氏も逮捕されたことだし、早くその日常が元どおりになってくれれば嬉しいんだけど、その肝心の母親がなぁ……。
全てはその彼氏に出会ったせい……恋心があのババァの性格をひん曲げたのか?
だったらその恋心がババァの中から消え去った時にはいずれ……
そんなことを考えつつオレと結城は自宅のあるマンション前へと帰宅。
すると近くにある駐車場の方から優香の声が聞こえてきた。
「あれ、ねぇ結城さん、これってお姉ちゃんの声だよね」
「うん」
オレと結城は互いに顔を見合わせながら優香の声のする方に視線を向ける。
なんか焦ってるような、苛立ちが含まれているような……優香にしては珍しい声色が聞こえている。
「福田……くん、お姉ちゃん大丈夫かな」
結城が心配そうな表情をオレに向ける。
「うんまぁお姉ちゃんも高校生だしね。 友達付き合いとかで何があってもおかしくはないけど……気にはなるよね。 だってあそこまで感情的になってるお姉ちゃんって珍しいし」
「う、うん。 でもそっとしてあげたほうがいいんじゃないかな」
「そう? じゃあ一緒に先に戻ってようか」
「うん」
こうしてオレは結城とともにその場に背中を向けてマンションに向かって歩き出そうとしたのだが、その時に聞こえてしまったのだ。
なぜかその瞬間だけは車が近くを走っておらず、風もピタリと止んでいて無音に。
なので優香の声がはっきりと聞こえてきたわけで……
「なんでそうなるんですか!? だったら桜子はどうなるんですか!! 放棄するって……あなた本当に母親……それ正気で言ってますか!?」
「ーー……え」
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結城ちゃん……どうなっちゃうの!
ただしバッドエンドには確実になりませんので安心してお読みいただければなと思いますっ!
●11話の結城初登場回&42話の西園寺スマホバイブでマーライオン回、挿絵ラフですが描き変えたのでよろしければ覗いてやってください♪




