233 やっぱり女心は謎だらけ【イラスト有】
二百三十三話 やっぱり女心は謎だらけ
ーー……これはマズイことになった。
西園寺と綾小路の仲の悪さは一昨日の競技会で見ちゃってるし、なんなら昨日その理由まで聞いてしまってるんだ。
もしかしてだけど、これがきっかけとなってまた2人の戦争が始まるなんてことはーー……
オレが今後の展開を心配していると、綾小路がオレに体を向けながらスカートを捲りあげている西園寺に声をかける。
「アンタもしかして……西園寺?」
「ん?」
名前を聞いた西園寺がゆっくりと後ろを振り返る。
「あ、綾小路」
「あ、綾小路……じゃなくない!? アンタこんなところで何やって……って、なんでパンツ見せてるの!?」
綾小路が混乱した表情で西園寺のパンツを指差す。
あわわわわ……どうなっちゃうんだコレェ!!! 綾小路にとって西園寺は宿敵……そんな宿敵の弱みを見てしまったんだ、これはオレもとばっちりを受けちゃうやつなんじゃないのか!?
オレはどうすればこの状況をうまく切り抜けれるのかを考えだす。
どうする? ここからオレが演技でイジメられている役に徹するか? ーー……いやでも西園寺がスカートを捲ってる時点でそんな誤魔化し通用しない。
それか西園寺が前に使っていた大人数作戦を使うか? もし綾小路が誰かにオレと西園寺がトイレで何かしてたと告げ口をした場合、『そんなことしてない』と2人で白を切るか!? ーー……いやでもこの現場を写真に収められたら1発でアウトだ。
どうすれば……
オレは藁にもすがる思いで西園寺に視線を向ける。
ーー……ん?
西園寺が自身の口角を上げながら綾小路に視線を向けている。 もしかしたら何かいい案が浮かび上がっているのかもしれない。
流石は3年生から約2年間、女子のドンを勤めてただけの知恵はあるってことか……よし西園寺、この状況はお前に任せたぞ!!!
しかしその後、西園寺の口がゆっくりと開いたのだが、オレは次に出てきた言葉に驚愕することとなる。
「綾小路……」
西園寺が静かに綾小路に呟く。
「な、なに?」
「綾小路も福田くんのパンツアッパーが忘れられなかった部類? まぁ気持ちは分かるから混ぜてあげないこともないけど……でも私が先に頼んだんだから、綾小路はその後ね」
「「は?」」
オレと綾小路の声が同時に漏れる。
な、なんてことを言ってやがるんだ西園寺のやつはああああああ!!!!
それに見てみろよ……綾小路のやつ、意味が分からなすぎてちょっと引いてるぞ!!
「さ、西園寺……アンタ一体どうして……」
「順番抜かしたら分かってるよね」
「え?」
西園寺の背後に再び黒い炎が出現。
欲望に塗れた桃色の風と黒い炎が入り乱れた……なんとも言えないオーラが西園寺の周囲を渦巻き出し、それが綾小路の体を包み込んでいく。
……今言えることはたった1つだけ。
順番を抜かそうものなら綾小路……あいつは一瞬で消されるな。
「え……さ、西園寺? アタシは別に並ぶとかそういうのは……」
「ごちゃごちゃうるさい。 用がないなら出てって」
「いやあるにはあるけど普通にトイレ入りたいだけ……」
「はい嘘。 分かってるからここに並びなさい」
「ーー……え、あ……うん」
西園寺の気迫に圧倒されたのだろう。 綾小路は諦めた様子で西園寺の後ろに並んだ。
◆◇◆◇
昼休みも残り時間半分を切った頃。
オレは西園寺の要望通り、パンツアッパーをして西園寺の歓喜に満ち溢れた声を聞いていたのだが……
「ーー……ねぇ西園寺」
西園寺の後ろに並んでいる綾小路が顔を真っ赤にしながら西園寺に声をかける。
「な、なに? まだ私の番……だから! あんたはまだ後……」
「違うのそうじゃない。 西園寺アンタ……なんで?」
「なにが?」
「なんでさっきアタシを見るなり追い返そうとしなかったの? ほんとなら顔も見たくないはずなのに」
綾小路が視線を逸らしながら西園寺に尋ねる。
「だからパンツアッパーが忘れられなかったんでしょ」
「冗談はいい!! ーー……なんで?」
綾小路が真剣な眼差しを西園寺に向ける。
すると西園寺は綾小路の方を振り返りながら静かに囁いた。
「ここしか居場所なかったんでしょ」
「「え」」
オレと綾小路の声が再び重なる。
「おい西園寺、それはどういう意味だ?」
オレが尋ねると、西園寺はパンツの食い込みを調整しながら冷静に答えだした。
「だって、ただでさえ不登校だった綾小路だよ? まずクラスに馴染めてないってのもあると思うけど、一昨日の競技会で相手校に加担してたことは皆にバレてる訳だし……そりゃあ教室にも居ずらいんじゃない」
「ーー……あ、そうか」
綾小路に視線を移してみると、図星だったのだろう……驚いた様子で目を大きく開かせながら西園寺を見つめていた。
「でもそれでアタシを追い出さないアンタじゃないはず……一体どうして」
「ついさっき綾小路……アンタの罪が1つ軽くなったから」
「え?」
「ーー……これ」
そういうと西園寺はポケットからチェリーくんキーホルダーを取り出して綾小路に見せつける。
「え!? それって前にアタシが壊したキーホルダー!? なんで!?」
「ここにいる福田くんがくれたの」
「福田……この変態の名前?」
変態言うな。
「そう。 アンタのせいで無くなってしまってた思い出を福田くんが埋めてくれた。 だから私のアンタへの対する怒りがそれだけ和らいだってこと。 綾小路……福田くんに感謝することね」
「そんな……!!」
綾小路はチェリーくんキーホルダーを凝視。 その後視線を移してオレを見てくる。
「福田……だっけ?」
「あ、うん」
「なんであれ持ってたの?」
「ん? それはあれだ。 前に旅行行った時につい……」
「もしかして……そっち?」
綾小路が口に手を当てながらオレに尋ねる。
「ーー……は?」
オレは『何言ってんだこいつは』的な表情をしながら綾小路を見る。
「いや、そういう人がいるのは知ってるし別にバカにするつもりなんてないんだけど、流石にキーホルダーに釣られるって言うのはちょっと……」
「ちーーーがうわあああああああああ!!!!!!」
オレは掴んでいた西園寺のパンツを思い切り捻りあげると、悲鳴をあげてしゃがみ込む西園寺を無視して綾小路の前に詰め寄る。
「な、なに!?」
「おい綾小路、勝手に決めつけんなオレは女の子大好きだ!」
「!?!?!?」
綾小路はいきなりのことで困惑しているがオレはそんなこと構わずに話し続ける。
「きめ細やかな肌やプニっとした二の腕・太もも、そしてそんな尊い身体に身に付けてる可愛いパンツやセクシーパンツ……もちろんブラも! ゼーーんぶ大好だ! だからお前には……今の所あまり興味はないが、ここだけは少なからず興味ありありだ!!」
オレは勢いよく綾小路のスカートをめくり上げ、綾小路の履いているパンツがどんなものかと視線を下ろす。
しかしそれが原因で、オレは言葉を失うこととなるんだけどな。
「ーー……!?!?」
パンツの柄を見たオレは動きを止めて綾小路を見上げる。
「あ、綾小路……お前」
だって仕方ないじゃないか。 オレは見てしまったんだ。
綾小路の履いているパンツ……それがまさかの!!!!
「お前、なんで柄がチェリーくん……なんだよ」
「ーー……!!!」
綾小路が真っ赤な顔をしながら視線を逸らす。
そう、綾小路が履いていたパンツの柄……それこそまさしくチェリーくんそのものだったのだ。
ちゃんと強調されるべき箇所もきっちりと描かれている。
「お前……これが気持ち悪いから西園寺をからかってたんじゃ……」
「ーー……もん」
「え?」
「だって好きだったんだもん!!!!」
綾小路がこれでもかと言うくらいに声を大にして叫ぶ。
「え……えええええええええ!?!?!?」
なんということだ……まさか綾小路もチェリーくんのことが好きだったなんて……!
西園寺も目を大きく見開いたまま綾小路を見つめている。
「いやでも綾小路……じゃあなんで好きなのに私のキーホルダーを……」
「そうだぞ! 普通好きだったら壊せないだろ! なんでそんな嘘つくんだよ!!」
「違うの!! アタシが好きだったのはチェリーくんじゃなくて西園寺!!!!」
「ーー……え」
一瞬なにを言っているのか分からなかったオレは視線を綾小路から西園寺にゆっくりと移動させる。
西園寺も言葉を失っている模様……うん、そうだよな、いきなりそんなこと言われたって……
「おい綾小路、いまお前が西園寺に言ったその言葉は本当なのか?」
「ーー……うん」
綾小路は相変わらず顔を真っ赤にさせたまま恥ずかしそうに頷く。
「え、それでなんで西園寺のこと好きなのにチェリーくんキーホルダー壊したの?」
「だって……こっそりお揃いを買おうと思っても、スーパーや雑貨屋……どこ行っても売ってなかったんだもん」
「じゃあなんで事あるごとに西園寺に突っかかってたんだ?」
「それは……そうしたら西園寺の注意を引けるって思って……」
「ーー……マジか」
オレは息を大きく吸いながら一旦天井を見上げる。
なるほどな、綾小路のしたことは酷かったけど、それは全部西園寺の気を引くためにやってたってことなのか。
てことは綾小路のやつ、2年の頃から西園寺のこと悪く言ってたんだろ? その時から西園寺のことが好きだったってことか。
こーれはすごい展開だぞ?
「なぁ、じゃあオレ聞いちゃったんだけどさ、競技会の時、西園寺に『復讐してやる』って言ってたのは?」
「西園寺のこと、それまでは好きだったんだけど、アタシがいじめられるようになってからは本当に嫌いになったし。 だから復讐してスッキリしようって思ってたの」
「じゃあ西園寺にカッター向けてたのも……あれガチだったの?」
「うん。 本当はそれから時間をかけて仲直りする予定だったんだけどね」
「はぁ!?」
オレは意味がわからず頭を抱える。
「え……ええええと、結局どう言うことなんだ!? 西園寺のこと好きなのか!? 嫌いなのか!?」
「本当のところは、嫌いだけど……好きな気持ちもちょっとはまだある。 だから2人きりになる状況を作りたかったの」
「ーー……へ?」
「だってもし顔に傷がついたとしたら……それで人前に出れなくなった西園寺はひとりぼっちでしょ? そしたらもう友達もいなくなる……そこでアタシが近づいて2人で静かに過ごすようになって自然に仲直りをする手筈だったの」
綾小路が自身の頬に手を当てながらニヤリと微笑む。
ゾゾ……ゾゾゾゾゾゾゾゾオオオオオオ!!!!!
とてつもない悪寒がオレを襲い、全身の鳥肌が一斉にスタンダップしていくのがわかる。
「お、お前……それもう変態っていうか……変人だぞ!!!」
女の子が好きだったというところまでは普通に聞けていたのだが、そこから先がオレからしたら未知の領域すぎる!!
あえて怪我をさせて2人きりの状況を作って親密になっていく? これってあれだよな……よくは分からんがヤンデレってやつなのか!?!?
身震いの止まらなくなったオレは急いで西園寺の手首を掴む。
「福田くん?」
「お、おい西園寺、こいつは危険だ早くここから逃げるぞ」
「なんで?」
「なんでって……! こいつお前を傷つけてでも一緒にいたいって思うヤベェやつなんだぞ!? そんなのと一緒にいたら、いつ怪我させられるか!!!」
オレは力一杯西園寺を引っ張るも、西園寺はそこから動かない。
「おい西園寺!」
オレが半ばキレながら振り返ると、西園寺は静かに視線を綾小路へと向けて話し出した。
「そっか……綾小路も人に言えない秘密あったんだね。 私と一緒だ」
「ーー……え? 私と一緒ってことは……西園寺も?」
綾小路の問いかけに西園寺は小さく頷く。
「綾小路のこと聞いちゃったから私も言うと、私はほら……今の見たでしょ?」
「い、今の?」
「うん。 私、実はドMってやつなんだよね」
「ド……ドM!? 西園寺が!?」
ああ西園寺のやつカミングアウトしちゃうんだ。
しかしあれだな、綾小路もそんな西園寺の性癖に驚いているのだろう……目を大きく開かせて、体を前のめりにしながら西園寺の話に耳を傾けている。
「西園寺、それっていつから……?」
「これは最近かな。 色々あってわかったんだよね」
「そう……なんだ」
綾小路のやつ、なんか嬉しそうだな。 そりゃそうか……好きな子の情報ってどんな内容でも嬉しいもんだもんな。
ていうか……あれ? これいい感じの平和的な空気流れてない?
西園寺と綾小路……どちらからも闘争心ってやつがまったく出てきてない。 それよりも寧ろ、お互いの性癖について盛り上がっているようなーー……
「えっ! そうなの!? 軽く叩かれるのって気持ちいの!?」
「うん! 気持ちいいよ! 罵ってくれても気持ちいいし!」
「そ、そうなんだ……! じゃあアタシ、これから西園寺のこと罵っていい!?」
「ううん、それは半殺しにする!」
え!?
「なんで!?」
「やっぱりそう言うのって、お互いの関係性を深めてからじゃないと気持ちよくないんだよね」
「そ、そうなんだ……」
てことはオレは西園寺の中では結構良い位置にいるってことだよな。
それはそれでめちゃくちゃ嬉しいぞ。
オレが心の中で喜んでいると、綾小路が体をくねらせながら「ねぇ西園寺」と上目遣いで尋ねる。
なんなのもうお前の中での『西園寺嫌い』はどこ行ったの!?
「なに?」
「じゃあ……アタシ、西園寺の……そんな存在になれるかな」
「それは綾小路次第じゃない? まぁすぐには無理だよね、私まだ綾小路のこと好きじゃないし。 先ずは知り合いから……にはなるけど」
「良いの!?」
「まぁ……うん。 キーホルダー壊されたのはイヤだったけど、福田くんに貰えたし、綾小路の私への想いとか聞かされたらもう怒れないかな」
西園寺が小さく肩を上げながらクスリと微笑む。
「西園寺!!!!」
よほど今の言葉が嬉しかったのか綾小路は目に涙を溜めながら西園寺に抱きつく。
「アンタ私のこと今は嫌いって言ってなかった?」
「言った!! 嫌いだけどやっぱり好きなの!! 西園寺ーー!!!」
これはハッピーエンド……なのだろうか。
オレにはこの状況が……女の子の気持ちがまったく理解できないんだが、オレが今言えることはただ1つ……
オレ、ここにいるの気まず過ぎるんですが!!!!
もうオレここにいる必要ないよね?
オレは2人に気づかれないよう、静かに女子トイレの出口へと向かう。
とりあえず昼休みもあと僅か。 早く教室に戻ってゆっくりしよう……そう心に決めた時だった。
「じゃあさ、友達クリアしたら……その先って付き合えるかな」
綾小路が甘えた声で西園寺に尋ねる。
「いや、それはないよ。 私そんな気ないし」
「え」
バッサリだああああああああああ!!!!!
清々しいまでの即答。 綾小路も西園寺の返答に言葉を失っている。
これはこの場から離れる判断をしたオレ、正解だったぜ!!!!
なんてったってオレはあと数歩でここから出られるんだからな!
「ーー……もしかして、福田?」
「ハ?」
条件反射で足を止めてしまったオレは恐る恐る後ろを振り返る。
すると怨念のこもったような視線を向けている綾小路と目が合った。
「は? ちょっと待て、なんでそうなんだよ」
「だって西園寺、あの競技会の時にアタシがお前にカッターを向けた時……『私の大切なものを奪うのは許さない』って言ってたし」
「え!? あぁ……」
そうだな! 確かに西園寺はあの時綾小路に向かってそう言ってた……言ってたけれども!!!
「てことは福田……お前をどうにかすれば西園寺はアタシの方を向いてくれるってことなんだよね」
「なんでそうなる!!!」
「でも大丈夫、お前に怪我させたら西園寺怒るのはわかってるから……だから別の手を使ってお前を……!!!」
綾小路がゆっくりとオレの方へと歩み寄ってくる。
ゾゾ……ゾゾゾゾゾゾゾ!!!!!!
「お、おい西園寺! こいつを止めろ!!」
オレは必死に綾小路を指差しながら西園寺に訴える。
しかし何故だ? 西園寺のやつ、今しゃがみこんでるところから一向に立ち上がろうとしていない。
「おい西園寺!! こいつ止めろって!!!」
「ごめんね福田くん」
「!?」
西園寺が恥ずかしそうに微笑みながらオレに小さく頭を下げる。
「な、なんだ!?」
「最後のパンツアッパーが凄すぎてちゃんと歩けないの……ごめんだけどまた昨日みたいに私をおんぶして……」
「アァン!?!?!? 西園寺をオンブゥ!?!?!?」
綾小路の目がギロリと光る。
「おい待て綾小路……」
「福田お前……西園寺の体を背中全体で感じたってことだよなぁ!?」
「いいじゃんか!! 別にお前には関係ない……」
「今は関係あるもん!!! 許さない!!!!!」
おいおいこんな終わり方ってあるかよ……。
「勘弁してくれええええええええええ!!!!!」
オレはフラフラの西園寺を放置。
身の安全を重要視してその場から全速力で立ち去ったのだった。
嫌い嫌いも好きのうち……か。
でもそれだったら三好はオレのことよくバカとかアホとか言うけど……なんで好きじゃないんだろう。
やっぱり女心って謎だらけだぜ。
お読みいただきましてありがとうございます!
下の方に星マークがありますので、評価していってもらえると嬉しいです励みになります!
感想やブクマ等もお待ちしております!!!
女子ってありますよね、嫌いなのに好き、好きなのに嫌い……んーーー難しい!!!
●たまにはこういった、話とは関係ないイラスト風も良くないですか?笑




