232 招かねざる訪問者【挿絵有】
二百三十二話 招かねざる訪問者
「そうそうこれこれ!! 本当にもらって良いの!?」
西園寺から綾小路との確執のきっかけを聞いた翌日の昼休み。 オレは西園寺に東北旅行時に買った少し卑猥なキーホルダー……赤い肌で丸顔・緑髪のチェリーくんを西園寺に渡した。
「あぁ構わない。 だってあげれそうな人がいなかったんだから」
「ありがとう福田くんー!!」
西園寺は満面の笑みでそれを受け取ると、当時のことを思い出したのだろう……その瞳から一筋の涙が溢れる。
「お、おい。 流石に泣かなくても良いんじゃないか?」
「うんっ……でもやっぱり嬉しくて。 3年生の時にぽっかり空いてた穴が埋まっていくよ。 もう綾小路とは別のクラスだからこれ壊される心配もないし……」
「そうだな。 まぁわざわざ喧嘩を売りに来るってこともありそうだけど」
「ううん、その時は壊される前に半殺しにするから大丈夫」
「ーー……物騒だなおい」
オレは西園寺の口から出た恐怖ワードに思わずツッコミを入れる。
「だってもうこのチェリーくんには、私の思い出以外にも詰まってるからね」
「思い出以外? なんだ?」
「福田くんが私にプレゼントしてくれたんだよ? 私、これからはこのチェリーくんをみるたびに、楽しかった家族旅行の思い出と、福田くんにパンツアッパーをしてもらった時のことを思い出すと思う」
西園寺はチェリーくんからオレの顔に視線を移し、「改めてありがとう」と優しく微笑んだ。
ーー……いや、オレの思い出ってパンツアッパーかい!!!
他に何か良い思い出あるだろうと心の中でボヤいては見たものの、何か西園寺との思い出で感動的なことあったかな。
オレは脳内で西園寺との出来事をザッと思い返してみる。
ネットに自撮り写真あげてたのを見つけて脅迫、尿意我慢してる中での振動攻撃、ネットで正体バレそうになった時のフェイク画像撮影、耳元で囁きビクン……
感動的な思い出1つもねぇじゃねえかああああああああああああ!!!!!
西園寺と絡み出してもう半年以上経つというのに、まともな思い出が1つも見当たらなかったオレはがくりと肩を落とす。
「ん? どうしたの福田くん」
そんなオレを見て不思議に思ったのか、西園寺が首を傾げながら尋ねてきた。
「あー、いやなんでもないんだ。 ていうか西園寺、それ……気づいたか?」
「それ?」
「うん、それ」
オレは西園寺の持つキーホルダーのチェリーくん本体を指差す。
「チェリーくんが……どうかした?」
「うん。 その下半身見てみろよ」
「え? うん、膨らんでるね。 いや、これは膨らんでるというよりかは、たっ……」
ゲフンゲフーーン!!!
そうだね仁王立ちして立ってるように見えるヨネ!!
「ーー……そう、元気になってるだろ?」
「う、うん」
「でだ。 それを見ても西園寺、お前は気持ち悪いって思わないのか?」
「ううん別に」
西園寺はオレの問いかけに即否定。 首を左右に振りながら「なんで?」と逆に尋ねてくる。
「いやだってそれ、あれじゃん」
「うん。 あれだね」
「キモくないの?」
「うーーん、可愛いかな」
ーー……は? 可愛い? どこが?
「それは……なんで?」
「だってここ触ってみてよ。 プニプニしてるんだよほら」
「!!!!!」
なんということだ!! いくら相手がキーホルダーとはいえ、そんな……どことは言えないが元気そうな箇所を西園寺が指の腹でクニクニとこねくり始めているではないか!!!
これは……キュンってするぜええええええ!!!!
オレは若干内股気味になりながらもその行為を凝視。 後々の為に必死に目に焼き付ける。
「え、待ってくれ西園寺。 それが理由か?」
「うん。 だって本物じゃないんだし、別に気持ち悪がる必要なんてないでしょ。 だったら牛のキーホルダーだってアウトじゃない? いっぱいお乳ついてるし」
「あーー、それは確かに」
「でしょ?」
「はい」
なんだろう……言い返せる方法がありそうで見つからない。
不覚にも西園寺の理論に『確かに……』と思ってしまった自分がいた。
「福田くんも触ってみなよ」
「いや、オレはその……いいかな」
なにが好き好んでオレがそこを触らねばならんのだ。
オレは西園寺にチェリーくんを渡すという要件が終わったということで、ため息をつきながら「じゃあな」と西園寺に声をかけると女子トイレの出口へと視線を向ける。
「あ、ちょっと待って福田くん!」
「ん?」
オレが帰ろうとしていることに気づいたのだろう。 西園寺はチェリーくんをポケットの中に入れると、軽く両手を広げて出口までの道を塞いできた。
「なんだ?」
「ーー……お願い……て」
西園寺が小さく呟く。
「ん? なんだって?」
「お願い!! 今日も昨日やってくれたパンツアッパーして!!!」
「はああああああああああああ!?!?!?!?」
なんというドM……なんという行動力。
まだ了承してもいないというのに西園寺はスカートの裾をつまみ上げ、顔を赤らめながらオレに1歩……また1歩と近づいてくる。
「お、おい待て西園寺。 オレはまだオーケーとは1度も……!」
「いいじゃない!! 今日はもっと気持ちよくなるために昨日よりも細めのパンツ履いてきたんだよ!?」
「ナン……ダト!!!」
スカートから見え出しているパンツに視線を落とすと確かに……昨日よりも面積が狭そうな黒色だ。
だとしたら、さぞかしアッパーした時の光景も素晴らしいものなんだろうなぁ……
オレは脳内でそのシーンを妄想し口角を上げる。
「あ、今福田くんちょっとエッチなこと考えたでしょ」
「は!? お前よりはマシに決まってんだろ! てかヨダレもう垂れてんだよ! 早く拭け!!」
「いいじゃないどうせまた垂れるんだから。 てことは福田くん、やってくれるってことでいいんだよね」
「あーー、まぁ今回だけな!!」
「やった!!! じゃあ早速……!!!」
西園寺が期待に満ちた表情をオレに向ける。
そしてオレも期待に満ちた視線を西園寺のパンツに向けた……のだが。
「ーー……え、何やってんの? ここ女子トイレだよね」
突然女子トイレ入り口から声がしたので視線を向ける。
「あ」
「え、アンタって……一昨日アタシのパンツをズリあげた変態? それとそこでスカート捲ってるのってもしかして……」
なんという展開だろう。
西園寺の後ろには彼女の宿敵・綾小路恵子の姿。 真っ赤な顔で驚いた表情をこちらに向けているではないか。
ーー……ていうか西園寺、流石に後ろ確認しろよ。
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明日…大容量の予感!!




