230 西園寺と綾小路② 対立
二百三十話 西園寺と綾小路② 対立
『問題を起こしたらパパに迷惑が行くことになるからね。 どんなことがあってもやり返さないこと、分かった?』
この言葉を母親が西園寺にことある度に言う理由……それは西園寺が幼稚園の時にまで遡る。
西園寺が幼稚園の年長だった頃、とある事件が起こった。
それは西園寺にとって最初で最後のガチ喧嘩。 夏休み明け、西園寺がどこにも遊びに行けていなかったことを話していると、同じ組の子から貧乏呼ばわりされたのがきっかけだったのだ。
大好きな親をバカにされた西園寺は激しく激昂。 バカにしてきた子を勢いよく突き飛ばした後に腹部を何度も踏みつけ、先生が止めに来て引き離されるまで、相手がどんなに泣き喚こうが踏み続けてたらしい。
そしてこれが問題となり、西園寺の両親が相手の家に謝罪をしに行くことになったのだが……
『なんであっちから言ってきたのに、あの子は謝って来ないの!?』
謝罪から帰宅後、納得のいかない西園寺が母親に尋ねると、母親は西園寺を怒る事なく、ゆっくりとしゃがみ込んで目線を西園寺の目に合わす。
『希ちゃん』
『な……なにお母さん』
『嫌なことがあったらお母さんが聞いてあげるから、もう人様に手を出したらダメよ』
『なんで?』
『問題を起こしたらパパに迷惑が行くことになるから』
母親が西園寺の頭を優しく撫でる。
『なんでパパに迷惑行くの? あっちが悪いんだよ?』
『うん、そうだね。 でも向こうは怪我しちゃってるよね』
『私だって……ここ、痛かった』
西園寺は胸部に手を当てながら母親を見上げる。
すると母親はその手の上に優しく手を重ねた。
『そうだね、でもね希ちゃん。 この世の中ね、手を出した方が悪いってことになってるんだよ』
『ーー……そうなの?』
『うん。 それで、希ちゃんが相手を怪我させちゃったりしたら、お父さんやお母さんが謝りに行かなくちゃいけないの。 でもね、お母さんは良いけど……お父さんはお仕事で忙しいでしょ?』
『うん』
『謝りに行ったりしてたら、お父さん……お仕事終わらなくて帰ってくるの遅くなっちゃうよ? それでもいい?』
『ーー……それはやだ』
今思えば結構理不尽な話だったのだが、当時の幼い西園寺は母親のその言葉に納得。
それからの西園寺は嫌なことがあってもその場は我慢して、その愚痴を母親に言うことでこの数年間やり過ごしてきたのだ。
そして愚痴を言い終わる度に、母親は西園寺にこう言って話を締めていた。
『我慢出来て偉いね。 問題を起こしたらパパに迷惑が行くことになるからね。 どんなことがあってもやり返さないこと、分かった?』
◆◇◆◇
綾小路に大好きなキーホルダーをバカにされてからも、度々綾小路からの嫌がらせは続いた。
母親から買ってもらった新しいハンカチを持って学校へ行くと、『その柄気持ち悪い』と罵倒され……朝登校してきて教室に入ってくるなり『そのキーホルダーほんとウザいんだけど』と毎回バカにされた。
西園寺はその都度怒りを抑えてなんとかやり過ごしてきたのだが、それはある日の朝のこと。
いつものように西園寺が教室に入ると、もはやお決まりともなっていた綾小路の罵倒が飛んでくる。 いつものように無視に徹しようと心に決めていた西園寺だったのだが……
『ちょっと綾小路さん!! 良い加減、希ちゃんに嫉妬するのやめたら!?』
そう声を荒げたのは当時クラス内で仲の良かった女友達。
授業中に忘れ物をしたらしく、貸してあげたことをきっかけに仲良くなっていった子だ。
『は? あんたには言ってないんだけど』
綾小路は不機嫌になりながらその女子を睨みつけるも、その女子はそれを無視。
『あんなの放っておいたらいいよ、私は希ちゃんの味方だから』と綾小路から守ってくれたのだ。
『え……うん、ありがとう』
『ううんいいよ、だって私は希ちゃんのことが大好き……憧れだもん』
西園寺はその友達の行動・言葉だけでも涙が出るほどに嬉しかったのだが、それだけではなかった。
その友達の行動をきっかけに、他の仲の良くなっていた子たちまでもが西園寺側に着き……綾小路から守ってくれるようになったのだ。
そして少しずつ綾小路はクラスから孤立していくようになり、最終的には自分の席で小声で悪態をついてるだけの存在に。
『西園寺さん』
『希ちゃん』
『西園寺さん』
『西園寺さん』
この結果に西園寺は非常に満足。
西園寺は自分を慕ってくれている友達を事あるごとに家に招待し、豊富あるお菓子を振舞っていった。
結果、いつのまのか西園寺はお金持ちだと言うことが完全にクラス内に認知されて羨ましがられるように……クラスの中心的な存在へと成り上がっていったのだ。
もう綾小路からの嫌がらせも自分には届かない……そう安心していた西園寺だったのだが、それは突然起こった。
朝、教室に入るや否や目の前に綾小路が詰め寄ってきたのだ。
『な、なに』
『あんたばっかり……あんたばっかりいいいい!!!』
『!?』
綾小路は西園寺の肩を押し込みバランスを崩させると、そのままランドセルにつけていたキーホルダーに手を伸ばして力強く引きちぎる。
『!!!』
西園寺の目の前には、してやったりな表情で笑みを浮かべている綾小路の姿。
「ふふふ」と気持ち悪い笑い声を出しながら西園寺から奪ったキーホルダーを西園寺に見せつけている。
『か、返して!!』
『あはは、無理でーす』
綾小路は西園寺の目の前でキーホルダーを床に落とすと、それを勢いよく上から踏みつけたのだ。
『あっはははは!!!! あーースッキリしたーー!!!』
綾小路は西園寺がショックを受けている姿を見て満足したのだろう……爽快な笑みを浮かべながら自分の席へと戻っていく。
しかしそんな綾小路のことなど今の西園寺にはどうだっていい。
初めて家族で旅行に行った時に買った思い出のキーホルダー……それが今、粉々になった姿で西園寺の目の前に散らばっているのだ。
『あぁ……ああああああああああ!!!!!』
楽しかった思い出が綾小路によって潰された。
西園寺は心に怒りの黒い炎が燃え上がったのを感じながらゆっくりと立ち上がる。
ここで自分が幼稚園の頃のままだったら綾小路をボコボコにしていたんだろうな……そんなことを思いながら西園寺はゆっくりと綾小路の席へ。
『なに?』とこちらを睨みつけてくる綾小路を無視して西園寺はドンと綾小路を突き飛ばし、椅子から落下させた。
『いった……ちょっと何して……!』
『許さない』
西園寺はそう一言だけ呟くと綾小路の制服の中に手を入れてパンツに手をかける。
『ーー……!? あんた何して!!!』
綾小路が睨みつけながら叫んでくるも西園寺は手を止めず。
勢いよくパンツを剥ぎ取ると、それを片手に天高く掲げた。
『あれー、綾小路さん、私に偉そうにしてた割にこんな可愛いパンツ履いてるんだー』
『や……やめて……』
『それにあれれ、おかしいよね。 綾小路さんもお金持ちなんだよね? なのにこのパンツちょっと汚れてない? ーー……あ、漏らしちゃってたの隠してたのかなぁ』
教室内では女子たちのクスクスとした笑い声と、男子たちの生パンツを見れたという歓喜の声が響き渡る。
皆西園寺が綾小路から酷い扱いを受けてたことを知っている上でのこの逆転劇……クラス内はこれ以上ないと言わんばかりの大盛り上がりをみせていた。
その後綾小路のパンツは男子たちの手に一通り回ってから持ち主のもとへ。 恥ずかしさと屈辱に耐えきれなくなり教室を飛び出した綾小路が担任に告げ口したものの、クラス内は西園寺の味方。
皆口を割らずに『見てない・そんなのやってない』の大合唱でことなきを得たのだった。
まさかの結果に絶望している綾小路を横目で見ながら西園寺は小さく呟く。
『そっか……次からは我慢しないで、今日みたいにすればいいんだ』
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さぁ、いよいよドン・西園寺が出来上がりますよ!!!




