229 西園寺と綾小路① 出会い
二百二十九話 西園寺と綾小路① 出会い
髪型を変えた三好……覚醒三好を目の当たりにした日の昼休み。
本来なら自分の席でのんびりしたかったところなのだが、オレは西園寺からメールで呼び出されて図工室前の女子トイレ前に来ていた。
「あ、お待たせ福田くん!!」
声のした方に視線を向けると、手前の階段から西園寺が小さく手を振りながら駆け下りてくる。
なんだ? 妙にテンションが高いような……
「どうした、直接話さないとダメな内容なのか?」
「うん! こればっかりはメールでは無理かな」
「そうか。 それでその要件って?」
「うん……あのね」
顔を赤らめた西園寺が胸の前あたりで手をモジモジさせ、少しうつむき加減でオレに上目遣いをしながら甘えた声を出す。
これがあのドン・西園寺と同じ人間なんだから驚きだよな。
オレはそんな西園寺に視線を向けながら「どうした?」と尋ねた。
「あの……私にもあれ、やって欲しいの!!!」
全身を細かく震わせながら西園寺がオレに1歩詰め寄る。
「あ、あれ!? ってなんだ!?」
「ほら、あいつ……綾小路にやってたやつ!!」
「え、あぁ……パンツアッパー?」
「それそれそれ!!!」
オレの口にした技名と西園寺の望む行為が合致したのだろう。
西園寺は目をキラキラと輝かせながらオレを女子トイレの中へと押し込んでいく。
「ちょ、ちょちょちょ西園寺! 待てって!!!」
「早く……、私あれ見てからもう……ここの疼きが止まらないのーー!!!」
どこですかあああああああああ!!!!!
詳しい場所こそ分からないが、西園寺は下半身のあたりを手で押さえながらぴょんぴょんと小さく飛び跳ねている。
うん、分からない……分からないけどその辺が疼いて仕方ないんだな西園寺!! さすがお前は生粋のドMだ!!!
あの競技会の時はオレ、綾小路のパンツを結構ギリギリまで上に引き上げてたからな。 男なら痛いのは分かるけど、綾小路のやつ……実際どうだったんだろう。
そんなことを脳内で考えていると、ふと三好の言葉を思い出す。
『聞いた話では、西園寺さんが大事にしてたものを傷つけた……』
綾小路……あいつ、西園寺の何を傷つけたんだろう。
「なぁ西園寺」
「なに!? 今日はちゃんとパンツ履いてきてるよ!! だってあれやって欲しいから……!!」
「じゃなくて! なぁ、お前と綾小路の間に何があったんだ?」
「え?」
西園寺が大きく瞬きをしながらオレを見つめる。
「昨日の競技会でもほら、2人ともめちゃくちゃお互いを敵視してたみたいだしさ」
「えっと……気のせいじゃないかな」
「とぼけんなって。 どこからとは言えないけど、綾小路……あいつがお前の大事なものを傷つけたのが始まりってことだけは聞いてんだよ」
「あーー」
西園寺がゆっくりとオレから目を反らす。
「ん? なんだ?」
「ほ、ほら! そんなことどうでもいいからさ、早くパンツアッパーやってよ!!」
強引にでも話題を変えたいのだろう、西園寺が制服の裾を掴みながらオレに迫ってくる。
「ダメだ今のままではオレはやらん」
「なんで!?」
「気になるからだろ! 今日も1組には綾小路来てるみたいだし……今後もあんなバトルが繰り広げられては迷惑だからな!」
「んん……じゃあ今日は諦める。 ばいばい福田くん」
「え」
なんということだ。 ドMの権化・西園寺が快楽を目の前にしてそれを諦めるだと!?
そこまでして言いたくないこと……
ますます聴きたくなっちまったじゃねえか。
オレは背中を向けて教室に戻ろうとしている西園寺の後ろからわざとらしく呟く。
「あーあ、パンツ食い込んだらさぞかしキュッてするんだろうなー」
「ーー……!」
西園寺の足がピタッと止まる。
「ーー……キュッて……する?」
「それになー、昨日はアッパーしただけだったけど、今回は特別オプションも付け加えてやろうかなって思ってたのに残念だぁー」
「と、特別オプ……ション?」
西園寺がゆっくりとオレの方を振り返る。
「あーでもいいぞ西園寺、言いたくないんだろ? それでいいと思うぞ」
「な、なんでかな」
「だって西園寺、お前がオレのその究極奥義を受けたら……」
「う、受けたら……?」
西園寺が期待に満ちた視線を向けながらゴクリと生唾を飲み込む。
「ねぇ、受けたらどうなるの福田くん」
「おそらく立ってられないんじゃないか?」
「立ってられない!?!?!?」
西園寺の体がオレの言葉を聞くなりビクンと反応。 その場でヘタリと座り込んでしまう。
「おい、どうした西園寺」
「い、いや……想像したら脚の力抜けちゃって、あはははは」
「そうか。 じゃあもうオレがわざわざ技を使う必要もないな。 じゃあオレはこれで……」
「ま、待って!!!」
オレが西園寺の目の前を通り過ぎようとしたところで西園寺がオレの足を掴む。
ニヤァ
「なんだ?」
「は……す、から……」
「ん? もう1回」
「話す! 話すからその特別オプション付きを私にやって!! お願い!!!!」
西園寺がオレの足にしがみつきながらオレを見上げる。
こいつ……どんだけ必死なんだよ、まぁこっちとしては予測以上の展開だけどよ。
「よし、じゃあまずは聞かせてもらうか。 お前と綾小路になにがあって、あんな仲違いをするようになったのか」
「いいけど……つまらないよ?」
「構わん。 オレが知りたいだけだ」
「うん、じゃあ……」
こうしてオレは話を聞くため、西園寺とともに再奥の個室へと入ったのだった。
「あ、それと西園寺」
「なに?」
「話す前にそのヨダレ拭けな?」
◆◇◆◇
「あの子、私が当時大切にしてたキーホルダーを壊したんだ」
「キーホルダー?」
「うん。 まぁそれ以前にも色々私に突っかかってきてたんだけど……」
====
西園寺の父親は有名なアパレル会社の社長をしていて毎日忙しいらしく、お金持ちとはいってもあまり家族で旅行に出かけたことはなかったらしい。
そんな多忙な中、西園寺が2年生の頃に休みを見つけて連れて行ってくれた家族旅行。 それが西園寺にとって、かなり楽しかった出来事で、西園寺はそこで買ったお土産のキーホルダーを宝物のようにランドセルにつけて登校していた。
しかし3年になり事件が起きた。
クラス替えをしたその日、西園寺が知らない生徒が多い中緊張していると、西園寺の席の隣に1人の女子が近づいてきた。
『あなたが西園寺さん?』
『え、うん。 あなたは……綾小路さんっていうんだ、よろしくね』
名札に書いてあった名前を確認しながら西園寺は小さく頭を下げる。
もしかして自分と友達になってくれるのだろうか……そんな期待を込めながら綾小路の顔に視線を戻したのだが、次に綾小路の発した言葉に西園寺は固まってしまう。
『ねぇ、それ……キモいから外してくれない?』
『ーー……え?』
綾小路が指している先に視線を移すと、それは自分が大切にしていた思い出いっぱいのキーホルダー。
『えっと……なんでかな』
『だからキモいからだって。 それ見える度に不快なんだけど』
西園寺は一瞬拳を強く握り締めるもそれを我慢。
後に2年の時に同じクラスだった子に話を聞くと、あの綾小路という女……あの子もまぁまぁなお金持ちの家のお嬢様らしく、密かに西園寺を敵視していたらしいのだ。
『それ……ほんとなの?』
『うん。 綾小路さん、2年の頃からクラス違うのに西園寺さんのこと目の敵にしてたみたいだよ』
『そうなんだ……』
『そうそう。 だから気をつけてね』
『えっと……うん』
気をつけてと言われてもどう気をつければいいのだろうか。
このとき西園寺の頭の中では、母親がいつも耳が痛くなるほどに口にしている……とある言葉が流れ出した。
『問題を起こしたらパパに迷惑が行くことになるからね。 どんなことがあってもやり返さないこと、分かった?』
お読みいただきましてありがとうございます!
下の方に☆マークがありますので、評価して行ってくださると励みになります嬉しいです!
感想やブックマーク等もお待ちしております!!




