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228 三好の成長【挿絵有】


 二百二十八話  三好の成長



「えええ、校長先生がこんなにくれたの!? それもダイキだけに!?」



 校長から受け取った大量の商品券を見た優香が驚きの声を上げる。



「うん。 とりあえず勝てたのはエマのおかげでもあるから少しはあげようかなって思ってるんだけど、とりあえず先にお姉ちゃんに渡そうかなって」


「うんうんありがとうダイキ!! じゃあエマちゃんと半分こにしようかな! じゃあ今日は豪華にお肉にしよっか!!」



 こうして優香はオレの部屋にいた結城を呼んで一緒に買い物へ。

 ちなみにオレも買い物に誘われたんだけど断ったよ。 だってこの後……



 ◆◇◆◇



 

「おじゃましまーす」



 インターホンが鳴り玄関の扉を開けるとそこには三好の姿。

 そう……三好は競技会終了から学校が終わるまでの間、ずっとオレが入院する前の記憶がないことが気になって仕方なかったらしく、『このままでは夜も眠れない』と急遽その日のうちに話すこととなってしまったのだ。



「三好、脚は大丈夫か?」



 オレは武藤に当てられた三好の足に視線を落とす。

 

「まぁ……うん。 学校に戻ってから保健室で湿布貼ってもらったし。 ちょっとは痛いけど別に我慢できるくらいかな、ありがと」


「そうか、じゃあそこにいるのも寒いだろうし……とりあえず中入れよ」



 普通にリビングで話しても良いのだが、優香や結城が帰ってきたときに話を聞かれたらそれはそれでマズいのでオレは三好を連れてオレの部屋に移動。

 ベッドの上に座らせるとオレは椅子を三好の前に持ってきてゆっくりと腰掛けた。



「あ、あのさ……福田」


「あぁ。 あの件だよな、オレの入院までの記憶がないっていう」


「ーー……うん」



 三好がいつになく真剣な表情で頷く。



「あれなんだけどな、あれは冗談だ。 ああ言ったらお前がどんな反応するのか見てみたくてな」


「ーー……嘘はいい」



 三好はオレの言い訳に一切反応せずにずっとこちらを見つめている。


 もしかしたら三好なら騙されてくれるかなって思ってたんだけど……これは正直にいう以外選択肢はなさそうだな。

 オレは「はぁ……」と深い息をついてから再び三好を見上げた。



「三好、お前の推理は正解だ。 オレには入院前までの記憶が一切無い」


「それって全部?」


「うん」


「先生とか……みんなの名前も?」


「うん」


「……杉浦や私や、いろんな人にいじめられてたことも?」


「あぁ、完全に記憶にない」


「そんな……」



 三好は自分が思っていたよりも深刻だということが分かったのだろう。 今までのような大きなリアクションは一切とらず、目をパチクリさせながらオレの顔を凝視している。



「ーー……今まで言ってきたことに嘘はない?」


「あぁ、ない」


「じゃあさ、なんで福田は記憶ないのに自分の行ってる学校とか……クラスとか席とか分かったの?」


「そんなの簡単だろ、学校もクラスもお姉ちゃんから聞いてたし。 それにいじめられてたってこともな。 教室に入ったらそれっぽい席は1つしかなかったし見つけるのには苦労しなかったよ」



 逆にあれですぐに席がわかったから助かったといえば助かったんだがな。




「その……それって誰が知ってるの?」


「お姉ちゃんだけだ。 他は誰も知らないよ」


「親戚の人とかも?」


「うん」


「福田と仲のいいエマや結城さんも?」


「あぁ、もちろん知らないし、今後も言うつもりはない」


「そう……なんだ。 へぇ……」



 おいおいなんだ三好その複雑そうな表情は。

 ーー……あ、もしかして。



「おい三好、ぜっっっったいに、このこと誰にも話すなよ。 別にこれオレの弱みでもなんでもないんだからな」



 オレは人差し指を唇に当てながら三好に顔を近づける。



「えぇ!? い、言わないよ!! なんでそうなんのさ!!」


「だって今お前、なんかちょっと嬉しそうな表情含んでたじゃねぇか!!」


「そ、それはだって……!」


「だって……なんだよ」


「な、なんでもないよバカーー!! とにかく言わないからそこは安心して!!」



 三好は顔を真っ赤にさせながらオレの体を押し込んで椅子に深く座らせるとコホンと咳払い。 

「あと1つ聞きたいことあるんだけど……」と言いながらオレの服の袖をちょこんと掴んだ。



「なんだ?」


「福田はさ……怖くなかったの?」


「……何が?」


「ほら、いじめられてたって聞かされてさ、誰にどんなことされてきたかとか覚えてないわけじゃん? それなのによく学校来れたなぁって思って……」


「あーーーーー」



 三好の質問を聞いたオレはどう返すべきか迷いながら天井を見上げる。

『ちょうどJSにイジめられたかったし、そこまで苦じゃなかった』って答えても信じてくれなさそうだしなぁ。 ここはアレを見せて無理にでも納得してもらうしか方法は……



「なぁ三好、今からお前に見せるものはお姉ちゃんすらも知らない。 絶対に誰にも言わないと約束できるか?」


「ーー……うん。 約束する」


「わかった。 じゃあこれを読んでみろ、ここにその答えが書いてある」



 オレは引き出し最奥に隠していた【いじめノート】を取り出して三好に渡す。



「えっと福田……これは?」


「いいから読め。 それで全部分かるから」


「あ……うん、分かった。 じゃあ……」



 三好は首を傾げながらもオレの渡した【いじめノート】をゆっくりと開き目を通していく。

 


「ーー……え、なにこれ」



 三好の目がみるみる大きく開かれていく。



「杉浦五郎……いつも本気で叩いてきて痛い、水島さんと会話した日は強く当たってくる。 他にも……須藤や柳のことも……福田、これって……」



 三好が恐る恐るオレを見上げる。



「そう、オレはそれを見て誰に何をされてきたかを知ったわけ」


「ちょっと待って、じゃあ私らのことも書いてるはずじゃん!! えっと……」



 三好は自分たちの名前が書かれている箇所を探し、再び声に出して読んでいった。



「美波は……暴力こそないけどすれ違いざまに小さくぶつかってくる程度。 だけどいつ暴力振るわれるか分からないから怖い。 麻由香は……ずっと監視してきてるみたいで落ち着かない」



 あー、そういえばそんなこと書かれてたわ。

 今改めて考えるとあの2人は結構無害な方だったんだな。 どちらかと言うとあいつらは、オレが杉浦を成敗してから頭角を現し出したんだもんな。

 

 オレがそんな前のことを思い出して懐かしんでいると、三好は自分の名前を見つけたらしく読み上げていく。



「三好佳奈……放課後度々呼び出されては暴力を受けるので怖い。 他のクラスの子でもポニーテールを見る度に、三好さんを思い出して……怯えてしまう」



 三好はノートをそっと閉じるとゆっくりとオレを見上げる。



「ーー……福田」


「な、分かりやすいだろ? これのおかげでオレは……、え」



 オレは三好に視線を向けるなり言葉を詰まらせる。

 


「お、おいどうした三好」


「えっと……え、あれ? なんでかな」



 三好の目には今にも溢れんばかりの大量の涙。 それだけでなく、三好の体が細かく震えている。



「大丈夫か? あ、もしかして武藤のやつにぶつけられたとこが痛むのか? ちょっと見せてみろ、今ならお姉ちゃんたち買い物行ってるから一緒に新しい湿布か何かを……」



 オレがしゃがみこんで三好の太ももに貼られていた湿布に手を伸ばすと、三好はそんなオレの手を両手で掴んで力強く握りしめる。



「み、三好?」


「ご、ごめん……なさい」


「ーー……え?」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」



 三好が掴んだオレの手に顔をつけて何度も叫ぶ。



「お、おい三好!?」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」


「ちょっと落ち着け三好!! こっちみろ!!」



 三好の顔を持ち上げて尋ねると、なんと言う顔だ……両目からは滝のような涙が流れ出ていて顔がぐちゃぐちゃじゃないか!!



「一体どうしたいきなり謝ってきて」


「だって……そこまで福田が追い詰められてたなんて……知らなかったから……」


「だから覚えてねーつってんだろ。 謝られても困るっての」


「それでも……私……」



 あーーもう、めんどくせえなぁ!!!

 なんでオレの話聞きにきたやつにオレがフォローしなきゃなんないんだよ!!



「ほら、ここ見てみろって」



 オレは三好からノートを取ると、オレが追加で書き足したページを三好に見せつける。

 それは2学期が始まってすぐくらいにオレが書いた情報。(90話冒頭くらいかな)

 三好はそれを嗚咽まじりに再び声に出して読み上げていく。



「うぐっ……三好と多田は味方で……小畑は泳がせ中……?」


「そうだ。 前のオレがどう思ってたかは知らんが、今のオレは少なくともお前に敵意はない」


「ふ、福田ぁ……」


「だからそれ以上謝んな。 逆に迷惑だ」


「う……うん」



 三好は腕で涙を拭うとゆっくりと立ち上がる。



「福田」


「なに?」


「お願いがあるの」


「なんだ?」


「私を殴って」



 ーー……。



「え?」



 一度三好から視線を外して再び戻すも、三好の顔は至って真剣そのもの。

 また急に何を言い出してんだこいつは。



「なんで?」


「1発でも100発でも1000発でもいい。 福田が満足するまで殴って」


「だからなんでだって聞いてんだよ!」


「だって私の気がすまないもん!! 福田は覚えてないから良いって言ってくれてるけど、そんなの私イヤ!!」


「いや、だからって……」


「じゃないと私の中での罪悪感が一生消えないもん!!」



 三好が鬼気迫る表情でオレに訴えかけてくる。

 うん……まぁ三好も成長したってことなのだろうか。 あそこまで真剣な三好をオレは見たことがない。

 けどオレは……



「無理だな、オレは殴らない」


「なんで!?」


「オレは暴力は好まん。 もし振るう機会があったとしても、女子には手は出さん」


「じゃあどうすれば良いの!? 私、何もされないでこのままのうのうと生きてけって言うの!? そんなの私……」

「よし、じゃあ三好、こうしよう」



 オレは三好の言葉を遮って人差し指を立てる。



「な……なに?」


「仮にだぞ? もし今後オレの身に何かがあって、また今のオレの記憶が無くなったとしよう。 その時はそんな戸惑ってるであろうオレを支えてくれ」


「ーー……え」



 三好が目を大きく開いてオレを見る。



「福田……また飛び降りるの?」


「ちげーよ! 言っただろ、仮にだよ仮に!! オレは今の生活に満足してんだ。 そんな気さらさらねーよ!」


「じゃあなんでそんなこと……」


「ほら良く言うだろ? 『1度あることは2度あって、2度あることは3度ある』って。 だから念のために……」



「そんなのやだ!!」



 三好はそう叫ぶと突然オレの体に手を回して力強く抱きしめる。



「え、三好どうした」


「やだ! そしたらまた福田、誰が誰だか分かんなくなっちゃうじゃん!」


「まぁそうだな。 あくまで仮にそういうことがあったら……の話だけど。 てかなんでそんな……」


「だって私、今の福田が……!!!!!」



「ただいまぁー」



「「!!!!」」



 三好がオレを見上げた瞬間に玄関から優香と結城の声。 どうやら買い物から帰ってきてしまったみたいだ。



「あれ、お姉ちゃん。 靴があるけど誰か来てるの?」


「ほんとだね。 ダイキー、お客さん来てるのー?」



 玄関の方から優香の声が聞こえてくる。



「お姉ちゃん、私見てくるね」


「あ、うん。 ありがと桜子」



 こーれはやばいぞ。

 このままではオレが三好を泣かしたように映ってしまうじゃないか!!



「おい三好、早くその涙拭け!!」


「えぇ!?」


「それでーー……あれだ、目もちょっと赤いからこれ付けて隠してろ!!」



 オレは机の上に置いてあったゲーム【魔獣ハンター】をプレイする際に使用するVRゴーグルを無理やり三好の顔に装着する。



「ちょ、ちょっと福田!?」


「いいから! それでこのコントローラー持ってろ! そして何か聞かれたらオレに話を合わせるんだ……いいな?」


「う、うん」



 オレが三好と打ち合わせをしてしばらく。

 ガチャリと扉が開いて結城が顔を覗かせてくる。



「あ、ここにいたんだね福田……くん」


「あうん、そうそう!」


「そこにいるのは……三好さん?」


「そうだよ! どうしても【魔獣ハンター】やってみたいって言っててさ、ちょっと遊ばせてたんだよ! なぁ!」



「う、うんそうなの! お邪魔してまーーす!!!」



 三好がオレに合わせて頷くと結城の声のした方に小さく手を振る。



「そうなんだ、何か飲み物作ろっか?」


「ううんいいよ! もう私帰ろうとしてたところだからありがとう!」


「そっか。 じゃあ……私お姉ちゃんのところ戻るね、三好さん、また明日」


「うん! また明日ね結城さん!!」



 ◆◇◆◇



 結城がリビングへと戻るとしばらくの沈黙が部屋の中を包み込む。



「あ、それでさ三好」


「なに?」


「お前さっきオレに何か言おうとしてなかったか?」


「え!?」


「確かオレが……いや、今のオレがなんとかって。 ちょっとさっきの騒動で忘れちゃったけど……で、なんだ?」



 オレはVRゴーグルを外した三好に顔を近づけながら尋ねる。



「え? そ、それはなんというか……あの」


「あ、もしかしてあれか!? 今のオレが好きとか言おうとしてたとか!?」


「ひぇ!?」



 三好の顔が一気に紅潮し始める。



「ーー……え、三好まじ?」


「……なわけ」


「ん?」


「なわけないじゃんバカーー!!! アホーー!!!」



 三好はオレを軽く突き飛ばすと軽くムスッとしながら立ち上がる。



「なんだよ違うのかよ! 告白かと思って期待したじゃねえか!!!」


「違うもん!! あれはその……もう帰るっ!!」



 三好は持ってきていたカバンを手の取るとオレを横切り扉に手を掛ける。



「え、ガチで帰んの!? てかさっきとキャラ変わりすぎだろ!!」


「知らないもん!! ベーーだ!!!」



 こうして三好はオレに舌を出し、本当に帰って行ってしまったのだった。



 ーー……何だったんだ一体。

 


 ◆◇◆◇



 翌日。 珍しく雪が降っていたのでオレはいつも以上に凍えながら教室へと向かう。

 


「じゃあ福田……くん。 またね」


「あ、うんまた」



 オレは4組の教室前で結城と別れて自分の教室である5年2組へ。

 


「うう……寒みぃーー!!!」



 ちょっと早く着いたみたいだし、とりあえず席で縮こまって暖をとるか。 そう決めたオレは身震いをしながら扉を開けた。



「おはよ、福田」


「ん?」



 声のした方向はオレの席……窓際あたりからだ。

 オレはそこに視線を向ける。



「ーー……え、三好?」


「うん」



 そこに立っていたのは紛れもない三好佳奈。 しかし雰囲気がいつもと違う。

 三好の髪型がトレードマークでもあるポニーテールではないのだ。



「おい三好……その髪どうした」


「だって福田、あのノートにポニーテールが怖いって書いてたから」


「それでやめたの!?」


「うん」



 三好が少し顔を赤らめながら小さく頷く。

 あれだけ前の記憶ないって言ってんのに何でそんなことするかなぁ。

 まぁこれはこれで……



「ーー……どうしたの福田」


「いや、今のオレは別にお前のポニーテール似合ってると思ってたんだけど……解いてるその髪型も好きだぞ。 なんか大人っぽくて」


「ーー……ばか」



 髪型だけじゃなく、窓の外に雪がチラついてるせいもあったのだろう……オレの瞳にはいつも以上に大人びた三好の姿が映っていたのだった。



挿絵(By みてみん)




お読みいただきましてありがとうございます!!今回大ボリュームでお届けしました間に合った!!笑

下の方に☆マークがありますので評価していってもらえると励みになります嬉しいです!

感想やブクマ等もお待ちしております!!!


髪を下ろした三好ちゃんもいいでしょう?

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― 新着の感想 ―
[一言] 愛しのポニテぇぇぇ
[一言] 本当の本当に、亡くなった本物のダイキくんがかわいそう。ひたすらにかわいそう。そこまでの設定は組まれてないようですね。
[良い点] 三好!! いいやつになりおって……。 ポニーテールじゃなくてもかわいいぞよよよ!!
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