227 競技会終了!!【挿絵有】
二百二十七話 競技会終了!!
ドスン……
あ、この音……刺されたやつかも。
そう思ったオレだったのだが痛みをまったく感じない。 もしかしてあれか? 人の脳って我慢できない程の負傷をした時に、脳内麻薬を分泌させて痛みを感じなくさせるってテレビかネットで見たことがある。
てことはもしかしてオレ……重症なやつ?
目を開けるのが怖かったオレはとりあえず目を閉じたまま両手で顔を触ることに。
ーー……うん、目・鼻・口・頬・耳、どこにも切り口なんてないし、血が流れている感覚もない。
これはどういうことだ?
1人不安になりながら考えていると、目の前から綾小路の苦しそうな声が聞こえてきた。
「ーー……うぅ」
「?」
気になったオレは勇気を振り絞って目を開けて確認してみる。
するとどうだろう……オレの目の前にはパンツ……綾小路がオレにお尻を向けて四つん這いになって倒れていたのだ。
ーー……え、ええええええ!?!?
意味がまったくわからないオレは一旦心を落ち着けるために目の前の灰色パンツに集中。 その後ゆっくりと状況を確認するために周囲に視線を向けてみた。
「一体何がどうなって……ってうおおおおおお!!!!」
何気なく視線を上にあげたオレは思わず驚きの声を上げる。
だってオレの視界に入っていたのはーー……
「まだやる? だったらこっちも黙ってないけど」
そこには以前の凶暴化オーラ……まるで黒い炎を纏ったドン・西園寺。
腕を組んで目をギロリと光らせながら、目の前で倒れている綾小路を見下ろしていた。
「えっと……これは……」
オレがこの状況を掴めずに戸惑っていると、軽く足を引きずった三好がオレの背後へ。
何があったのかを簡単に説明を始める。
「あのね、福田、身をすくめたでしょ?」
「うん」
「あの時に、後ろから西園寺さんが綾小路さんの頭に回し蹴りしたんだよ」
「なるほど西園寺が回し蹴り……って、ええええマジイイイイ!?!?!?」
オレは後ろにいる三好に振りかえりながら突っ込みを入れる。
「マジマジ! それで綾小路さん、ああやってバランス崩して倒れたってわけ!」
あのドスンとした音は西園寺の回し蹴りがヒットした時の音だったってことか。
てか西園寺が仲間を使わずに自分から動くなんて……。
オレがそんな意外な西園寺の行動に驚いていると、綾小路が蹴られたのであろう顔左側面を抑えながらゆっくりと立ち上がる。
「西園寺希……なかなかやるじゃない」
「これ以上私の大切なものを奪うのは許さない」
西園寺が背筋も凍りそうなほどの冷たい言葉を綾小路に放つ。
「た……大切なもの!? こいつが!?」
「それ以上したら次は顔面行くから」
この西園寺の言葉……おそらく本気だ。
それを綾小路も本能でそう捉えたのだろう。 まだ次の行動をとっていないにも関わらず守りの構えを小さくとった。
「ふふふ……あんたがこんな蹴り持ってたなんて知らなかったよ」
「ちょっと少し前に色々目覚めてね。 今は柔道習ってるから」
「柔道……? へぇ、何も出来なかったアンタがね」
「だから色々目覚めたって言ったでしょ? 頭蹴られてもっとおバカさんになった?」
西園寺が自らの頭を指先で突きながら綾小路に尋ねる。
ーー……ん? 色々目覚めて?
もしかして西園寺が柔道を始めた理由って……
おい西園寺、ちゃっかりドM性癖ぶちまけてんじゃねぇか!!
オレが突っ込みたい気持ちを必死に抑えながら西園寺を見上げると、西園寺と偶然目が合う。
「ーー……ひゅふ」
ひゅふ!?
それはほんの一瞬。 ほんの一瞬だったのだがオレは見逃さなかったぞ。
西園寺のあの『色々目覚めた』発言はワザとだ。 オレと目が合うなり西園寺の口元が緩んだんだ……あいつ、この状況でバレるかバレないかのギリギリの会話を楽しみだしやがった!!!
「ね、ねぇ福田……今西園寺さん笑った?」
三好が小声でオレに尋ねてくる。
「あーいや、気のせいじゃないか?」
おい止めてくれ三好ぃ!!
どうやら今の三好の声が西園寺にも聞こえたらしく、西園寺の脚がもぞもぞと動き出している。 それに見て分かるほどに先ほどよりも息が荒い。
「ーー……どうしたの西園寺。 自分で蹴っておいて痛かったの? 脚震えてるよ」
綾小路が西園寺の足を指差す。
どうやらあの蹴りの反動でカッターはどこかに飛ばしてしまったらしいな。 綾小路の腕には何も握られていない。
「震えてる? そう……あなたがそう見えるなら震えてるんじゃない? でも震えって怖い時だけに起きるものじゃないのよ?」
「ふんっ!! 知らないよそんなもの! アタシだって家にこもりながらも体は鍛えてた……武器なんか使わなくたって、その顔パンパンに腫れるまで殴ってやるんだから!!!」
もう終了まで時間がないと悟ったのだろう。 綾小路が勢いよく西園寺めがけて殴りかかる。
「綾小路恵、殴りたいのは私のほう。 あなたのしたことが原因でこんな関係になってしまったというのに」
西園寺は静かに綾小路を見据えながら、体を少し斜めに傾けて回し蹴りの体勢に入った。
なんだろう……西園寺も綾小路に多少なりとも恨みがあるようだ。 そういや三好が少し前に言ってたな……大事なものを壊された、とかだったか?
これは……このまま進んだら大事になるよなぁ。
「はぁ……仕方ねぇ!」
オレは小さくため息をつくと前に手を伸ばして綾小路のスカートを捲り、ちゃんとパンツに手をかけて後ろに強く引っ張る。
「「!!」」
オレが引っ張ったことにより綾小路の拳が空を切る。
「ちょっと何すんのお前!!」
綾小路がブチギレ状態でオレの方を振り返る。
「あのな、これ以上はよせ。 お前こそさほど可愛くもないけど、これ以上蹴られたらもっとブスになるぞ?」
「!!!」
オレの言葉にショックを受けたのだろう……綾小路の額・こめかみに血管が一斉に浮かびあがる。
いや、お前だってオレのことイケメンじゃないって言ったじゃんか。
「うるさい……うるさいいいいいい!!!!」
綾小路が拳を強く握り締めながらオレを睨みつける。
しかしなぁ綾小路。 今のオレはお前がオレを殴るよりも早く、奥義を発動出来ちゃうんだよなぁ。
では相手は女子だけど体験していただきましょう!!
ドSの女王・小畑考案、対男子特化型殺戮奥義……
パンツアッパー!!!
オレが奥義を発動して少し遅れたくらいだろうか。
綾小路の悲鳴という歌声に合わさるように試合終了のチャイムが鳴り響いたのだった。
◆◇◆◇
競技会終了後、学校へと戻るとオレは校長から応接間に呼び出しを受けた。
「君が……福田ダイキくんだね」
「あ、はい。 そうです」
「君のおかげで勝つ事が出来た! 改めて礼を言う。 ありがとう!!!!」
校長が深々とオレに頭を下げる。
そう、競技会は見事オレたちの学校の勝利で幕を閉じたのだ。 そしてなぜオレがこんなに褒められてるかと言うとだな……
「いやぁ、ワシ……プールサイドの人数をずっと数えていたんだが人数的にはウチの生徒の方が2人多くてな。 これはもうダメだろうかと思ってたんだが……まさかな!」
「えぇ。 だってそれ反則なんて言われてないですもん」
「いやぁ恐れ入った!!!」
ふふふ、これこそオレが序盤……競技開始5分前に仕込んだ必殺技。
バトルフィールドは学校全体って言ってたからな。 失格者が集まるプールサイドにハンカチを持った人がいてもいいわけだ。
だからオレは極秘で結城に『開始してすぐにプールサイドへ向かって、背中は壁にもたれてハンカチバレないようにしといて』と助言。 それで結城は同じおとなし目の子たちを誘ってプールサイドで安全な時間を過ごさせてたってわけだ。
ーー……あ、ちなみに同じ作戦を相手校も考えてる可能性があったから、そこは美香に確認するよう頼んどいたから抜け目ねぇぞ?
「それでだね福田くん、ワシは君だけに特別賞をプレゼントしたくてここに呼んだのだ」
「特別賞……ですか」
「あぁ。 担任たちから聞いてるんだが、今君の家では結城さんも一緒に暮らしてるそうじゃないか」
「あ、まぁはい」
「では色々と大変だろう。 それで、これをプレゼントしようと思ってな。 お姉さんに渡すといいよ」
校長が少し厚めの封筒をオレに渡す。
「ーー……え、これなんですか」
「開けてみなさい」
封筒を開けたオレは中を覗き込む。
「ーー……校長先生、マジですか」
「あぁ、これがワシからの感謝の印だ!!!」
「あ、ありがとうございます!!!」
中身はなんと大量のお買い物商品券。
一体いくらあるのだろうか……1枚500円の商品券がかなりの枚数入れられていた。
少しはエマにも分けるとしても、これは優香喜ぶぞおおおおおお!!!!
オレは優香の喜ぶ顔が早く見たいという一心で全速力で家へと帰宅したのだった。
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ちなみに今回西園寺さん黒い炎バチバチに燃やしてますが、225話『ドリームメンバー!』の挿絵でも西園寺さんの周囲に黒い炎が僅かに発生しているのです!
西園寺さんにとってもダイキは大切な存在になった……素敵ですねぇ!!




