221 ドS出陣!!
二百二十一話 ドS出陣!!
小畑が三好の名前を叫んだその数秒後、床のタイルにポタポタと血が滴る。
「佳……奈……」
オレの目の前には、腰が抜けたのかその場でペタリと座り込んでしまっている小畑の姿。
小畑は軽く息を乱しながら視線の先にいる三好を眺めていた。
「か……佳奈」
「あぁーー!! 危なかったあぁーー!!!」
小畑の目の前で三好が胸に両手を当てながら大きく息を吐く。
「佳奈!! びっくりしたじゃんもう!!」
「それは私の台詞だって!!」
2人が半泣きになりながら力強く抱きしめあい、小畑は三好の……そして三好は自分自身の無事を喜び合う。
いやぁ……流石にオレもびっくりしたけどさぁ!!!
「とりあえず2人ともさ、先にハンカチ取ろうよ」
「「あ」」
オレたちが視線を下へと向けると、意識を失ってしまっている敵男が2人。
そう、あの時オレも三好も小畑も、あの敵男の放った拳は三好の顔面に当たるものだと思っていたのだが……オレは思い出したのだ!! あの技を!!
ーー……奥義・【パンツ・ロック】
流石に今回の相手は男……つまりズボンだったのでパンツまでとはいかなかったのだが、オレはパンチ男のズボンを膝下までずり下げることに成功。 それによりバランスを崩したパンチ男の体がグルンと回転……拳は三好の顔面ギリギリのところで空を切り、隣にいた味方の顔にクリーンヒットしてしまったのであった。
ーー……まさに運が良かったというかなんというか。
結果、その拳をくらった敵男はそれが原因で気絶してしまい体ごとパンチ男の方へと転倒……そのままパンチ男の頭と頭がコッツンコ。 2人揃って気絶してしまったのだった。
「そ、それじゃあこいつらがまた目を覚ます前に……ほい、ハンカチゲットーー!!!」
小畑が高らかに奪ったハンカチを高く掲げると、三好が「おめでとー!」と拍手を送った。
◆◇◆◇
同じ2階にある、とある教室。
トイレから移動したオレたちは内側から鍵をかけ、更に窓はカーテンをかけた後にしばらくその空間内で休憩を取ることにした。
「「「はぁ……」」」
3人が同時に体から力が抜けたようにその場で座り込む。
一応廊下側の扉の中心に正方形の窓が付いていたので、外から見えないように教室内に残っていた年代物の茶色がかったプリントを窓に貼りまくっておいたからこれで見つかる可能性はグッと減るだろ。
オレたちがこの教室へと移動した理由はただ1つ……それは小畑考案の【きつつき戦法】が終了したからである。
次また同じ展開になった場合、お互いの身の安全を保証できないからと言う理由で小畑自身が中止を申し出たのだ。
「てかあれなんだね、相手が女子でも構わず殴りかかってくるんだね。 私ちょっとだけ舐めてたよ」
三好が先ほどのことを思い出しながらブルルと身体を震わせる。
その言葉に小畑も同調。 「あの攻撃当たってたら佳奈、鼻折れてたんじゃないの?」と言いながら、三好の鼻をツンツン突いた。
ーー……うん、その仕草可愛いよもっとやってくれ。
オレがそんなちょっとしたじゃれ合いを見ながら癒されていると、小畑が「そういや福田さぁ」とオレに顔を向ける。
「え、なに?」
「さっきの男子のズボン下げてたじゃん? ありがとね」
「え」
オレは目の前の光景に自分の目を疑う。
なんと小畑がオレに小さく頭を下げるではないか!!!
「!?!?!?」
あんな小畑を見るのは、あの【女の子の日事件】以来ではないだろうか。
「あれしてくれてなかったら、きっと佳奈、あのまま殴られてた。 本当にありがとね」
「あー、まぁ。 あははは」
あまりにも突然のことでオレが思わず立ち上がると、小畑もつられて「よいしょ」と膝に手をつきながらゆっくりと立ち上がる。
ーー……!?!?
これはまさか……あれなのか!?!?
こういう展開は過去に何度かあったぞ!!!
オレの脳内でこういう空気になった後の出来事が再生されていく。
例えば褐色娘・陽奈が水族館の終わりに……。 他にはギャルJK星の場合だと、オレが中学生に絡まれていた小学生を助けた時に!!
そう、この展開はまさしくあれだ……
キス!!
オレはゴクリと唾を飲み込みながら小畑が次にとるのであろう行動に期待する。
「その……福田、私さぁ」
小畑が少し上目遣いでオレを見つめてくる。
く……くるぞくるぞ!!
「は、はひぃ!!」
ドキドキドキ!!!
オレは心臓を激しく脈打ちながら『キス来いキス来いキス来い!!!!』と心の中で早口で祈る。
もしここで小畑がオレにキスしてみろ!? 上手くいけば三好も「ありがと」とか言いながら、小畑に続いてキスをしてくれるかもしれない!!
それってもうあれじゃないか……
そう、恋い焦がれたハーレム!!!
恋愛ゲームでしか存在しないと思われていた光景がすぐ目の前に!?!?
オレは1人で勝手に盛り上がりながら小畑のキスを今か今かと心待ちにしていたのだが、小畑の口から発せられた言葉はオレの予想していたそれとは全く違うものだった。
「私思ったんだけどさ、下げるのもありだとは思うんだけど……上げた方がダメージ大きくない?」
ーー……。
「へ?」
思わず口から声が漏れる。
「下げるより……上げる? なにを?」
「いや、だからズボンだって」
「ーー……ズボン?」
「うん」
そう頷いた小畑はおもむろにオレのズボンへと手を伸ばす。
「え、え!? 小畑さん!?」
「例えばだよ、こう下げるとするじゃん? そしたらほら、こうなるわけじゃん」
小畑が勢いよくオレのズボンを下へとずり下げる。
それによりオレの純白のブリーフが小畑と三好の目の前に。 「こんにちは」と明るい挨拶をする。
「ぎゃあああああ!! ちょっと美波、何やってんのさ!!!」
三好が顔を真っ赤にさせながら小畑にツッコミを入れるも、小畑はそんな三好のツッコミを無視。 多少は顔を赤らめているようだが、己の見解の説明を続けた。
「でもこれだとさ、パンツ別に恥ずかしくない男子だったら無意味じゃん? そりゃあパンツまで脱げた場合は効果あるかもしれないけどさ」
「ま、まぁそうだね。 オレは恥ずかしいけど」
「うん、福田の感想はさておき……これならどう?」
小畑はオレの言葉を軽く受け流すと、今度は下げていたズボンを一気に上へと引き上げる。
ギュギュッ!!
「ちょ!!!!」
もう完全に股関節まで布が達しているのだが、小畑はさらにズボンをぐいぐいと上へ。
『これ以上は無理です』と、オレのズボンがミチミチと悲鳴をあげる。
「いてっ……いてててててててて!!!!!」
「ほら! どう!? こっちの方がダメージまで与えられてさ、さらに弱点の場所もすぐに分かるから反撃しやすくない!? こういう感じでさ!!!」
そう言うと小畑はどことは教えないが浮かび上がったオレの弱点めがけて軽く指を弾いた。
「ーー……!?!?!?!?」
されどデコピン!! ほんの少しの力のはずなのに世紀末級の激痛がオレの下半身を襲い、オレはいてもたってもいられずにその場で倒れこみゴロゴロと転げ回る。
もうあれだ、叫べないほどの激痛といったら分かるだろうか!! いや、分かって欲しい!!!
オレが苦痛に悶えながら小畑を見上げると、あぁ小畑……なんて幸せそうな顔をしてるんだ。
「ほら佳奈! 見た今の!?」
小畑は軽く息を乱し、興奮しながらオレを指差している。
「やっぱりこっちの方がいいんだ!! サンキュ福田!! これで男子を瞬殺できる必殺技を発見できたよ!!!」
小畑はオレにお礼を言うと、早速本番で試したくなったんだろうな……「じゃあ私もう行きたいんだけど、佳奈はどう?」と三好に尋ねる。
「えっと……私はもうちょっと休みたいかなぁ」
「おっけ! じゃあこの周辺に男子がいたら片っ端から潰してきてあげる!」
「「え」」
こうして小畑は三好に親指を立て、最高のドSスマイルを浮かべると教室を後に。
オレと三好はしばらくの間扉に耳を当てて外の様子を伺っていたのだが、おそらく小畑の餌食になったんだろうな……男子の苦痛にも満ちた叫び声がところどころから聞こえ出したのだった。
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次回、急展開予定!!




