220 誤算!!
二百二十話 誤算!!
オレがトイレの外から小畑のドS行為の餌食となった敵女子に軽く同情していると、三好と小畑がそんなオレの存在に気づく。
「あ、福田ー。 どうしてここいんのー?」
三好が小走りでこちらに向かってくる。
「え、あぁ……なんというかその」
「いや佳奈なに言ってんの。 さっき私らがこのトイレ女たちを捕まえてた時に、福田の声してたじゃん」
小畑がオレの言葉を遮りながら「え、気づかなかったの?」と三好に尋ねる。
「えーー知らない! 私もうこの子のハンカチ取った後、扉を必死に押さえてるので必死だったもん」
「そりゃあハンカチ奪ったらすぐに仲間が入ってこないよう、扉を押さえてとはメールしたけどさぁ……流石に気づくっしょ」
あー、なるほどな。 あの後静かになってから三好と小畑、メールでこっそりとやりとりしてたのか。
それでトイレに入った敵女子たちからハンカチを取ってからも、すぐには出てこなかった……と。 中々やるな。
オレが1人で納得していると小畑がニヤニヤしながらオレに視線を向けていることに気づく。
「えっと……なにかな小畑さん」
「でさぁ、福田はなんでここに隠れてたの?」
ギクゥ!!!
小畑の問いかけにオレの体がビクンと反応する。
流石は小畑……そこらへんは見逃してくれないよなぁ。
オレはパンツちゃんを含めた敵女子たちが悔しそうな表情をしながらプールサイドへと向かっていくのを確認した後、どうしてここにいたのかを正直に白状することにした。
◆◇◆◇
「ええええ、トイレ中に後ろからハンカチを取ってたぁーー!?!?」
静かな女子トイレ内で三好の声が響き渡る。
「しっ! 敵いたら見つかるだろ」
「しーっ! 佳奈、お口チャックできるよね」
オレと小畑が三好に割とガチな注意をしながらトイレの周辺を確認する。
幸いにも誰もいないようだな……よかった。
「あぁ、ごめん。 ついビックリしちゃってさ。 てか福田、結構最悪なこと考えるんだね」
三好が軽く引いた視線をオレに向けてくる。
「いやいや、これが一番楽なんだって」
「でもさー、流石にトイレ中は卑怯じゃない?」
「全然。 だってトイレ中に取ったらダメとか言ってなかったでしょ」
「それはそうだけどー……」
三好が「でも女子のトイレ中はねぇ……」と少し顔を赤らめながら小畑に視線を向けて同意を求める。
「え、なに佳奈。 ごめんちょっと考え事してた」
「だから、トイレ中に攻めるのは卑怯なんじゃないかって話!」
「いや……別に良くない?」
「え?」
「私その福田の話聞いて、それ面白そうって思ってたんだけど」
「ーー……面白そう?」
「うん」
小畑は口角をニヤリと上げながら頷くと、「ねぇ福田」とオレに視線を向ける。
「なに?」
「福田の話聞いてさ、いいこと思いついたんだけど」
「ーー……いいこと?」
「とりあえずさ、それをするのは2階が都合いいからそっち行こうよ」
そう言うと小畑はオレの手首を掴んで階段の踊り場方面へと歩き出す。
「え、ええええええ?」
小畑のやつ……一体なにするつもりなんだ?
オレの作戦を聞いて思いついたことだから、トイレに関するものだとは思うんだけど……ダメだ、ドSの格が違いすぎてまったく予測できねぇ。
「あの、小畑さん? オレは小畑さんが今から何するかは分からないんだけど……それって安全なわけ?」
オレは一抹の不安を感じながらも小畑に尋ねてみることにする。
だってそれでオレが捕まったら元も子もないからな。 だったらさっきの場所で合法セクハラしてた方が何千倍もマシだぜ。
オレの質問に小畑が一瞬オレの方を振り返る。
「え、うん」
「ほ……ほんと?」
「もちろん安全だよ。 ……私と佳奈はね」
「ーー……え?」
◆◇◆◇
「なんで……なんでこうなっちまったんだああああああああ!!!!!」
えー、私ダイキ。 ただいま相手校の男子2人から本気で追われている最中でございます!!
「待ておらあああああ!!!!!」
「痛い思いしたくなかったらハンカチよこせええええええ!!!!」
「ひぃいいいいいいい!!!!」
2階の階段付近。
オレは敵男2人に追いかけられながらトイレのある方向へと全力で駆け抜ける。
くそ!! まさかこんな……こんなクソな作戦だったなんてえええええええ!!!!
ーー……それは数分前のこと。
『え、囮になるの? オレが?』
2階男子トイレに連れ込まれ、小畑から作戦を聞いたオレは頭上にはてなマークを浮かび上がらせながら小畑に尋ねる。
『そう。 今から福田は1人……もしくは2人組までの敵にわざと見つかったフリをして、この男子トイレに駆け込んでくればいいの』
小畑が満足そうに頷きながら答える。
『えっと……なんで?』
『あ、そしたら福田は奥の壁に背中をつけて怯える演技ね。 そしたら敵は勝ったと思って少しずつ福田のところに近づいてくるはずだから……そこでタイミングを見計らった私と佳奈が個室から飛び出して、後ろからハンカチを取るの!』
小畑が『どう? めっちゃこれよくない?』とオレにドSスマイルを向けてくる。
うん、まぁ確かに効率が良いといえば良いかもしれないけど……
てか小畑の作戦にケチなんかつけるわけ出来ねえだろおおおおおお!!!!
『あ、はい。 良いと思います』
『でしょー!』
小畑は満足そうにピースサイン。 『私の合図で一緒に出るんだよ!』と三好にウインクを飛ばす。
『ほえぇ……美波、頭良いわ。 よくそんな方法思いつくよね』
三好が関心した表情で小さく手を叩く。
『いや、思いついたというよりは、丸パクリなんだけどね。 ほら、佳奈覚えてる? 社会の歴史の授業でやってた……武田軍と上杉軍の戦いのやつ』
『ーー……?』
流石は三好。 小畑の言ってることがまったく理解できていないようで目が点になっているぞ!!
それを悟ったのか小畑は三好の回答を待たずに答えを口にする。
『あれじゃん、【きつつき戦法】って先生教えてくれてたじゃん』
『きつつき、せんぽー?』
『私あれ聞いた時からさ、いつか似たようなことしたいなって思ってたんだよねー』
小畑は三好が理解していないのを無視して1人で盛り上がり始める。
きつつき戦法……あれだろ、オレも詳しくは分からないけど相手を釣って逆に返り討ちにする……みたいなやつだろ? オレが相手をツンツンして相手を誘導して三好と小畑が挟み撃ちにする……なんとなくだが、やりたいことは理解したぜ。
そうか……オレ、きつつき役なんだ。 しんどいなぁ。
『でもさぁ美波、もしその男子が私らに体を向けて逆にハンカチ狙ってきたらどうすんの?』
三好が指先を加えながら小畑に尋ねる。
『そん時は福田の方にハンカチ向いてんだから、福田が取れば良いじゃん』
『あー、なるほど!!』
『てなことで、福田よろーー!!』
……ということがあったのだ。
くっそおおおおおお!!! こうなってしまった以上やけだ!! 意地でも成功してもらうぞ三好に小畑あああああ!!!!!
オレは息を切らしながらも男子トイレへ。
小畑の指示通りトイレの奥へとたどり着くと、壁に背を向けて敵男2人がオレに詰め寄ってくるのを待った。
「ぎゃはははは!! こいつトイレに逃げ込んでやんの!! しかも個室に閉じこもることもおもいつかないとか、どんだけバカなんだよ!!!」
「ははーーー!!! 確かになああああああ!!!」
敵男2人がトイレの奥にいたオレの姿を見つけると、勝利を確信したのか大爆笑しながら少しずつオレの方に近づいてくる。
ーー……よし、ここで怯える演技だ。
「ま、待って……ごめんなさい」
オレは声を震わせながら敵男2人に訴える。
「ぎゃはははは!!! これは戦いなんだよ!! そんなこと聞いてあげるわけねえだろ!!」
「だな!! せっかくだし、ハンカチとる前に一発殴っとくか?」
「おーー!! それいいねぇ!!!」
ーー……え。
敵男2人が指をポキポキと鳴らしながらオレの目の前へ。
「じゃあ1発いきまぁす!!」と大きく腕を振りかぶった。
おいおい早く来いよ小畑に三好ーーー!!!
「はい、今だよ佳奈ーー!!」
「おっけーーー!!!!」
敵男が振りかぶるのとほぼ同時。 個室の扉が勢いよく開き三好と小畑が敵男のハンカチめがけて飛びかかる。
「な!!!」
「やべぇハンカチが!!!」
おぉ案外上手くいくものなのかもしれないぞこの作戦!!!
小畑たちの手は敵のハンカチまであと少し。
オレが『この勝負はもらった』と心から確信した……その時だった。
「空手やってるオレに不意打ちは通用しないぜええええ!!!」
「「!?!?」」
なんということだろう……オレを殴ろうとしていた敵男の1人が途中で体をくるりと回転。 その拳の標的を三好へと瞬時に切り替える。
「え」
まさかの想定外の出来事に三好の口から小さく声が漏れた。
「女だろうと手加減しねえぞコラアアアアアア!!!」
「!!!!」
小畑がすぐにその動きに反応して三好を庇いに入ろうとするも、もう遅い。
敵男の勢いをつけた拳は、三好の顔のすぐ目の前にまで迫ってきていたのであった。
「佳奈あああああああああ!!!!!」
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三好の運命やいかに!!!




