217 競技会開催!!
二百十七話 競技会開催!!
3学期が始まってすぐ。
今日は結構早い段階での開催が決定した……隣町の小学校との競技会当日だ。
教師たち引率のもと連れてこられた場所はお互いの学校の間に位置する廃校。 校舎前に到着すると、5年の学年主任がオレたちの前に立ってパンパンと手を鳴らした。
「はーい、ウチの学校の集合場所は体育館だー。 余計な行動はとらずに速やかに移動するようにー!」
「ーー……ん? ウチの学校の集合場所?」
学年主任の声を聞いた三好が眉間にしわを寄せながら首をかしげる。
「ねぇ美波、私らの学校が体育館集合ってことは、あっちの学校とは集合場所が別ってことなのかな」
三好の見解を聞いた小畑が校門から見て左側にある運動場に視線を向ける。
「そうなんじゃない? だってあっちの学校の人らは運動場に集合させられてるっぽいし」
「ん、どれどれー?」
三好が校門からひょこりと顔を覗かせて視線を運動場の方へ。
もちろんオレも気になったので、それとなく覗いてみることにした。
「「ーー……うわ」」
それを見たオレと三好の声が重なり、急いで首を引っ込めたオレたちは静かにお互いを見つめ合う。
「福田……見た?」
「見た見た。 オレらあんな奴らと競技すんの?」
オレたちが見た光景……それはまさに小学生のそれとは思えないほどの衝撃だった。
競技会前だというのに運動場で行われていたのは派手な喧嘩。 周囲の野次に囲まれながら強面の男子2人が殴り合いをしていたのだ。
「え、なんで喧嘩してんの!?」
「いやオレに聞くなよ! てかみんな止めてないってことは、最早あれが日常の出来事ってことなのかな」
「ええええ……あんなヤツらが次の学期から私らの学校に来るようになんの? 激ヤバじゃん」
オレたちがコソコソと相手の学校について話し合っていると、遠くから担任の声が。 「おーい! 福田、三好ー! 早く来いーー!!」とこちらに向かって大声で叫んでいる。
「あ、やっば。 ほら行こ福田、みんなもう体育館入ってるし」
三好が校門右側にある体育館を指差しながらオレの腕を引っ張る。
「あ、あぁ。 とりあえず痛い思いのしない競技に当たることを願うとするか」
「だね」
オレたちが体育館に入ってすぐ。
本日の競技内容が学年主任より発表されたのだった。
◆◇◆◇
「尻尾取りゲーム?」
競技名を聞いたオレたちは皆揃って頭上にはてなマークを浮かび上がらせる。
学年主任の話曰く、これが1番怪我をするリスクが少なく、かつ迅速に決着が着くからといった理由で発案されたものらしい。
そしてこの【尻尾取りゲーム】。 競技内容の説明を聞くと、至ってシンプルなものだったのだ。
それが以下の内容である。
【事前準備】
・まず皆にベルトとハンカチを支給。
・ベルトを腰回りに装着し、そのベルトにハンカチをまるで尻尾のように挟んで垂らせることで準備が完了。
【競技方法】
・バトルフィールドは運動場を含めた学校全体。
・敵のベルトに挟んだハンカチを奪ったら勝ち、盗られたら失格。
・ハンカチを盗られた者は競技資格がなくなるので、速やかに校舎裏のプールサイドへと移動。
・制限時間内で一番失格人数の少ない学校側の勝利。
【違反内容】
・ベルトにハンカチを結びつける等、引っ張っても取れないようにしていた場合。
・ハンカチを奪った・盗られたのにも関わらず、無視して相手に攻撃をする行為。
・ハンカチを盗られた者が大声を出す等で、競技中の仲間に敵の居場所を教える・またはヒントを匂わせる行為。
・上記の違反が見受けられた場合、即座に競技は中止。 違反をした学校側の負けとなる。
「ーー……なるほど。 簡単だな」
説明を受けたオレは小さく呟く。
「え、福田。 結局はどういうこと? 相手が腰に垂らしているハンカチを取ればいいってこと?」
三好が目をグルグルと回転させながらオレに問いかける。
おいおいマジか三好。 流石にわかってくれよ。
「そうそう。 だからあれだろ? 攻めたい奴はガンガン前線に出て、守りに入りたい奴は校舎とか、好きなところに隠れておけばいいってことだ」
「え、でもさ、隠れてたら相手のハンカチ奪えなくない?」
「三好、思い出せ。 この競技の勝利条件は失格者の人数が少ない学校だ。 だから隠れていればそれだけでアドバンテージにはなる。 まぁもちろんそれで皆が隠れてしまってたら攻められ放題でやられちまうけどな」
オレの説明に三好は「な……なるほど」と少しは理解したようで小さく頷いた。
……しかしあれだな。 【尻尾取りゲーム】とはまた面白い内容を考えたものだ。
さっき運動場を覗いた感じ、人数的にはあちらの方が断然有利……しかしながら勝利条件は失格者の少ない学校になっている。
いい感じのゲームバランスじゃないか?
オレが1人で考察している間にベルトとハンカチが支給。
追加説明によれば、ウチの学校が青色のハンカチで、相手方が赤色とのこと。 そこらへんも不正がないようにしてるのか……ちゃんとしてるじゃないか。
「えー、それでは今から5分後の午前10時に競技を開始します! 制限時間はお昼の13時まで!! それでは皆さん、頑張ってください!!!」
その5分後。 校舎内に鳴り響いたベルの音とともに、競技が開始されたのだった。
◆◇◆◇
「おっしゃああああ!!! お前ら、隣町なんかに負けんな行くぞおおおおーーー!!!」
最近までオレをいじめていた杉浦の号令とともに、杉浦と仲のいい奴らが束になって一斉に運動場へと駆け込んでいく。
おーおー、血気盛んだねぇ! あわよくば水島にいいところを見せたい……とかそういう思惑もあるんだろうな。
オレはそんな攻撃組を横目で見ながら迷わず校舎へ。
裏口から中に入るとやはり長年使われていなかったからだろう……少し湿ったような古臭い木の香りがオレの鼻を刺激する。
「美波、どこ向かう!?」
「そだねー、向こうは運動場側の正面玄関から入ってきそうだし、あえてそこ付近で隠れて単独行動の奴を狙おうよ」
小畑がニヤリと笑みを浮かべながら運動場の見える正面玄関を指差す。
「えぇ、まさか敵が多いとこに行くの!?」
「バカだなぁ佳奈は。 だからだよ。 敵もそんな敵勢力の多い場所に潜んでるとは思わないでしょ? そんな油断してるところをつくんだよ」
「あーーー、なるほどねーー」
三好と小畑は正面玄関へ。
他の味方たちも皆いろんな方向へと散っていく。
「さてと……オレは……」
この校舎は木造建築の3階建。
オレはまだ誰も来ていない3階へと向かうと、まっすぐにそこにある女子トイレへ。
「なるほどな。 流石は昔の学校……便器が全て和式なのか。 これは都合がいいぜ」
水が出ることを確認したオレは、各個室の鍵の掛かり具合を簡単に調べていく。
……やはり経年劣化。 結構ボロボロのガタガタだな。 湿気が多いのも相まってか、鍵が付けられているところは結構腐食している。 これなら簡単に外れそうだ。
外からはお互いの生徒同士の叫び声。
オレはそんな声を気にも止めずに鍵という鍵をバキバキと扉から外していく。
思ったよりも木の腐食が進んでいてくれたおかげで、軽く捻って引っ張るだけで簡単に取れる……これは好調な滑り出しだ。
「よしよし、次はあれだな」
次に用意したのは男子トイレから拝借した【使用中止】と書かれているボロボロの紙。
オレは1つの個室の扉を開けっぱなしの状態にして、正面から見える位置にそれを便器に貼り付ける。
「うーし、これで完成か」
あ、そうそう。 オレが今何をしようとしているのか説明してなかったな。
ということで説明しよう! それはまさに……!!!
「あー、やってらんねーべー!!」
「!!」
近くからやたらとガラの悪い女の子たちの声が聞こえてくる。
あんなガラ悪ボイスの女子はうちの学校にはいないはず……おそらくは隣町の生徒だ。
オレは静かに耳を傾ける。
「戦わなくても失格にならなければいいんだからさ、時間までトイレでダベろーよ」
「さんせーー」
「あ、だったらちょっとムカついた話あるんだけど、聞いてくれん?」
「「いよーー!!」」
どうやらオレが今いるこの女子トイレに向かって来ているみたいだな。
しかもまだそのフロアに誰もいないことをいいことに、奴らかなり油断してやがる。
ちょうどいい……今からオレがやろうとしていることを実戦で示してやろうじゃないか!!
オレはニヤリと口角を上げながら開けっ放しにしていた個室の扉の裏へ。
隠れていることがバレないよう、息を殺しながらオレはその時を待つことにした。
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