215 究極の選択!!
二百十五話 究極の選択!!
下着をつけた高槻さんとエマ・エルシィちゃんを連れてオレは帰宅。
3人をリビングに案内すると、すでに優香国の民たちとの話し合いが終わったのだろう……優香は結城とともにキッチンで晩御飯の準備に取り掛かっていた。
「ただいまー」
「あ、おかえりダイキ。 ーー……と、あれ? 後ろの方は?」
優香がオレに背後に視線を向けると、高槻さんがオレの前に出る。
「初めまして。 私、エルシィちゃんの担任で1年生の担任をしております高槻舞と申します」
「あー、ダイキたちの東北旅行に同行してくださった!!」
「あ、そうです。 ご存知だったんですね」
高槻さんが頷くと、優香はエプロンを取りながら高槻さんの前へ。 「その節はお世話になりました」と深々と頭を下げる。
「あーいえいえ!! お世話になったのは寧ろ私の方ですので!!」
ーー……確かにそうだよな。
オレの東北旅行時の高槻さんのイメージってほとんどが酔いつぶれていたか、二日酔いだったかのような……。
あとはスーツのスカートから出ていた黒タイツくらいか。 あれは実にエロかった。
オレがあの魅惑の黒タイツを脳内で思い出していると、エルシィちゃんががオレの前へピョンと飛び出す。
「ゆかー! ユッキーちゃん! あかめーー♪」
エルシィちゃんが眩しい笑顔で優香たちを見上げる。
「あ、うん。 あけましておめでとう。 今年もよろしくね」
「お、おめで……とう」
あー、なるほど!! さっきからエルシィちゃんが言ってた「あかめ」って「あけましておめでとう……あけおめ」のことだったのか!!
エルシィちゃんのワードセンスには恐れ入るぜ可愛い!! てか優香、よくその一瞬でエルシィちゃんが何言ってるか分かったよな。
「えっと……わざわざご挨拶に来ていただいたんですか?」
優香がエルシィちゃんから高槻さんへと視線を戻す。
「あ、はい。 まぁそれもあるのですが……えっと、優香さん……でしたよね」
「え? はい」
「ちょっとダイキくんからあの件に関してのお話を聞きましたので、軽くお姉さんともお話をさせて頂こうかなと」
高槻さんの言葉を受けた優香の目が一瞬大きく開き、後ろにいた結城をチラ見する。
「ですので……少しお時間よろしいですか?」
「はい、それはもちろん。 でしたらここでは都合が悪いですし……少し散らかってはいますが、私の部屋でいいですか?」
「お心遣い感謝します」
その後優香は結城に「ちょっと任せていいかな」と伝えて優香の部屋へ。
優香たちが話をしている間、エマは結城のお手伝い。 料理のできないオレとエルシィちゃんは、ソファーに座りながらテレビを見ることにした。
「ねーね、だいき?」
突然エルシィちゃんが小さな声でオレの袖を引っ張ってくる。
「ん? どうしたのエルシィちゃん」
「エッチーね、りょこーのときに、だいきに、あーと、いえなかたー」
あーと?
それって確かエルシィちゃん後で『ありがとう』だったよな。
思い出していると、エルシィちゃんがオレに「あーと」と言いながらニコリと微笑む。
「えっと……なんで?」
「エマおねーたんね、あれから、ふにゃってなたー」
「ふにゃ……?」
あー、そういえば旅行最終日のバス停前でそんなこと言ってたような気がするな。
結局何かは分からずじまいだったが……。
「エルシィちゃん、その『ふにゃ』って、エマのどこが?」
「んとねー、おかおとかぁ、ぜんぶー」
エルシィちゃんが両手を広げながら体全体で表現する。
「ぜ、全部?」
「んー。 エマおねーたん、前まで、なんかピシーしてたところ、あた。 でも、あれから、それ、なくなたのー。 エッチー、それがだいきのおかげって、わかうのよー?」
「あ、『ふにゃ』って雰囲気ってこと?」
「しょれー!」
エルシィちゃんがウンウンと大きく頷く。
はいはいなるほど、雰囲気ね。
まぁ確かにずっと気になっていた友達が生きていて、自分がただ死んだだけじゃなかったと分かったのがホッとしたんだろうな。 結局はその友達の女の子とは会えないままに終わってしまったが。
しかしそうか……一番近くでエマを見てるエルシィちゃんが言ってるんだ。 おそらくエルシィちゃんが言っていることは本当なのだろう。
エマも心の大きな重荷が1つ減ったんだろうな。
キッチンに立っているエマに視線を向けると、楽しそうに結城と話しながら作業をしている。
これはこれで……エマも今のエマの人生を謳歌しているんだろうな。
「じゃあエルシィちゃん、オレの方からもありがと」
オレはこちらを見上げながらニコニコ笑っているエルシィちゃんの頭を優しく撫でる。
「なんでー? エッチー、なんかしたぁー?」
「うん。 ほら、エルシィちゃん……エマが本当のエマじゃないって知っててもまだこうやって接してくれてるでしょ? 前にも言ったかもしれないけど……エマ、絶対エルシィちゃんに助けられてるはずなんだよね。 だからありがと」
「えへへー! エッチー、エマおねーたんだいしゅきー」
エルシィちゃんが無邪気に笑い、自ら頭をオレの手に擦りつけてくる。
くおおおおお!! 可愛いぜ尊いぜえええええ!!!
オレはこれでもかというくらいにエルシィちゃんの頭をわしゃわしゃと撫でる。
時折エルシィちゃんの髪から香る、シャンプーなのかリンスなのか……はたまたエルシィちゃん自身の物なのか、とにかく全身の力が抜けていくほどの安らぎの香りがオレの心を癒していく。
「エッチーはエマおねーたんしゅきー! だいきも、エマおねーたんしゅきー?」
「うんしゅきー」
「じゃあだいき、エマおねーたんと、けっこんだぁー♪」
「ーー……え」
そう言うとエルシィちゃんはソファーからピョンと飛び降り、エマたちのいるキッチンへとテチテチと走り出す。
「あ……あの、エルシィちゃん?」
「エマおねーたーーん!!」
エルシィちゃんがエマの背後からギュッと抱きつく。
「どうしたのエルシィ」
「エマおねーたんね、いつ、だいきと、けっこんしゅゆー?」
「「えええええええええええええ!?!?!?」」
オレとエマの声が同時にこのリビング内に鳴り響く。
「ちょっ……なんでエマがダイキと結婚しないといけないのよ!」
「だてー、エマおねーたん、だいきのこときらいー?」
「き、嫌いではないけど……」
「じゃあしゅきー! だいきも、エマおねーたんしゅきー♪ けっこん、やたぁーー!!」
「だからなんでそうなるのよおおおお!!!!」
エマがワタワタと焦りながらエルシィちゃんの肩をブンブン揺らす。
これはどうしたものかと考えながらエマとエルシィちゃんの様子を見ていると、結城がこちらに視線を向けていることに気づく。
「えっと……結城さん、どうしたの?」
「福田……くん、エマのこと好きなの?」
「えぇ!?」
結城が首を傾げながら純粋な視線でオレに尋ねる。
おいおい何で真に受けてんだよ結城ぃ!!!!
「え、いや……あのね、結城さん、だからこれはエルシィちゃんが勝手に……!」
「でもエルシィちゃんがさっき、福田……くんがエマのこと好きって」
「えーとだからそれはあの……ほら、なんて言えばいいのかなぁ!!」
オレは頭をクシャクシャと掻き乱しながら、どう説明すべきかを必死に考える。
こういう場合、どう言えばわかってくれるんだ!?
一番手っ取り早いのは『オレが好きなのは結城、お前だ!!』と伝えることなのだが、そんな勇気はオレにはない!!!
「あ、福田……くん?」
しかしこの状況……ここでオレがそれを言わなければ、結城の中で『オレが好きなのはエマ』という固定観念が生まれてしまう。
そうなった場合、もし奇跡的に結城がオレにキュンとする出来事があったとしよう!! でも結城は控えめな女の子……絶対に『エマに申し訳ないから』とか思って、オレにアピールなんてしてこないだろう!!
イヤだ……そんなことはイヤだあああああ!!!!
ここはオレが一世一代の勇気を振り絞るしか方法はない!!!
オレはゴクリと生唾を飲むと結城を見上げ、口から空気を大きく吸い込んだ。
「あの、結城さんオレは……!!!」
「あれれーー? でも、エッチーこまたなぁーー」
「!?!?!?」
オレが人生で初めての経験をしようとしたところでエルシィちゃんが唇に指先を当てながら「ウーン」と体を左右に揺らす。
「ねぇユッキーちゃん、そしたらエッチー、だいきと、けっこんできなくなうー?」
エルシィちゃんが頭上にはてなマークを浮かべながら結城に尋ねる。
「え、うん。 そうだね。 福田……くんが結婚しちゃったら、もうエルシィちゃんとは結婚できなくなっちゃうね」
「んーー。 ユッキーちゃんは?」
「え?」
エルシィちゃんが結城の手を握って軽く引っ張る。
「えっと……なにが?」
「ユッキーちゃん、だいきのこと、きらいー?」
「ううん、そんなわけないよ。 ちゃんと好きだよ?」
ズッキューーーーン!!!!
す……すすすす好きいいいいいいいい!?!?!?!?
結城の『好き』という桃色の言葉の矢がオレのハートを綺麗に直撃。 その後そこから恋の花を実らせていく。
ええええええ!?!? ゆ、結城さん!! その好きはどっちの好きなのでしょうか!?!?
ライク? ラブ!? いや、どっちにしても幸せじゃああああああい!!!!!
「んーー、だいき、こまたねぇ」
エルシィちゃんは結城の手を離すと今度はオレの前にくるりと体を回転させてこちらを見上げ、「ねぇ、だいき?」と言いながらオレの腕にしがみつく。
「こ、今度はどうしたのエルシィちゃん」
「だいきは、エッチーと、エマおねーたんと、ユッキーちゃん、だれが、1ばんしゅきー?」
「なっ!?!?!?!?」
なんだその究極の質問はあああああああ!!!!
エルシィちゃんとエマと結城……誰が1番好きかだって!?!?
そんな贅沢すぎる選択、オレに出来るわけねえだろおおおおおおおお!!!!
もちろん恋愛面では結城が1番好きだが、心の底からハッピーにさせてくれるエルシィちゃんも、頼り甲斐があって話の波長の合うエマだって、ぶっちゃけ結城に負けず劣らずだ。 いくら結城が1つ飛び抜けて1位だとしても、2人を落とすことなんてオレには出来ない!!
そして何故だ……何故こんな小さな子がした質問に結城もエマもオレに視線を向けているんだあああああ!!!
これ答えづれえよ勘弁してくれええええええ!!!!
オレはスーパー動揺タイムに突入しながらも、安全な未来を手に入れるために誰の名前を言ったらどうなるかを簡単にシミュレートしていく。
まずは「エルシィちゃん!」と答えた場合だ。
エルシィちゃんは喜んでくれるのだろうが、それと同時にエマの飛び蹴りか鉄拳が飛んでくることは想像に容易い。
なのでこれは一旦保留としよう。
次に「エマ!」と答えた場合。
それこそ結城に変な勘違いをされてしまい今後絶対に結城がオレのことを好きになる可能性が0になる。 エマも可愛いし魅力的だけどリスクがデカいよな。 そもそもエマ、オレのことそういう目で見てるかっていうとそうでもなさそうだし。
そして最後に「結城さん!」と答えた場合だ。
これが1番話の流れに乗りながらの告白にはなると思うのだが、流石にノリとは言え、断られた時のショックを考えたら名前を出しづらい。 今後結城に告白するシーンがあったとしても、「それってあの時の遊びの続きかな?」と勘違いされかねないからな!!
ーー……え、どっちに転んでも詰んでね?
ただここで総合的にダメージが少ないのはエルシィちゃんの名前を出すこと。
もしオレがエルシィちゃんを選んだとしたら、なんだかんだで結城もエマも『エルシィちゃんのために選んであげたんだろうな』と思ってくれるかもしれないしな!
鉄拳や飛び蹴りが来るかもしれない? そんなもの他の2択を選んだ際のリスクを考えたら軽いもの!! さぁ、かかって来なさい!!
オレはこの究極の3択で【エルシィちゃん】を選択。 早速声に出して回答しようと口を開いた。
「エル……」
「ごめんね桜子、料理任せちゃってー」
話し合いを済ませた優香がガチャリと扉を開けて高槻さんとともに入ってくる。
「え、あ……お姉ちゃん。 うん、大丈夫。 エマも手伝ってくれてるし」
「そう。 ありがとねエマちゃん。 それでさっき高槻先生と話してて、もう今夜はうちでみんなで食べようってなったんだけどどうかな」
「あ、はい。 ありがとうございます」
「ーー……? ていうかどうしたのみんな。 そんなキョトンとした顔をして」
優香が首を傾げながら皆を見渡す。
「ゆかー! エッチーたち、だいきに、だれが1ばんしゅきか、きいてたぁー!」
エルシィちゃんがパタパタと走りながら優香のもとへ。 オレを指差しながら「ゆかーは、だいき、だれ、えらぶと、おもうー?」と楽しそうに優香を尋ねた。
「え? ダイキが誰を好きか?」
エルシィちゃんの発言後に優香とオレの目が合い、その後ろでは高槻さんが「あらあら」と楽しそうなものを見る目でオレを見てきている。
あ、危ねぇ……!! このまま「エルシィちゃん」と叫んでいたら、危うく優香にオレがロリコンだと勘違いをされるところだったゼェ……!!!
オレがホッと胸をなで下ろしていると、優香が「それでダイキは誰を選んだの?」と聞いてくる。
「えええお姉ちゃんまで!?」
「だって気になるじゃない。 みんながどう思ってるかはさておいて、もしかしたらダイキのお嫁さんになる子がいるかもしれないんでしょ?」
優香が半ば楽しそうな表情でエマ・結城・エルシィちゃんの顔を順に見ていく。
「これは余計に逃げられなくなったわねダイキ」
この展開が面白くなってきたのかエマがニヤリと笑いながらオレに小声で伝える。
こいつ……許さんっ!!
「おいエマ、ここでお前の名前を出して2人とも自滅っていう未来もあるんだぞ」
「は?」
「もしオレがここでエマの名前を出してみろ。 おそらくお姉ちゃんはエマにオレのことをよろしくねとか言ってくるはず……そうなったらお前、そこではっきりと自分は好きじゃないって宣言できるか?」
「!!!」
エマの体がびくりと反応。 優香の顔をちらりと確認した後、静かにオレを睨みつける。
「ひ、卑怯よ」
「地獄で会おうぜエマ」
オレはそれだけ伝えるとゆっくりと立ち上がり、周囲をぐるりと見渡して口から大量の空気を吸い込む。
「では発表致します。 オレの1番結婚したい相手は……」
近くでエマが「お願いだからやめてやめて」と小さく呟きながら手を擦り合わせている。
安心しろエマ。 さっきはそう言ったがオレはお前を指名する気なんかさらさらない!! もっと安全圏を見つけたんだよ!!!!
オレは人差し指を出した手をゆっくりと天へ掲げ、その後に指名する相手へと指先を向けた。
「お姉ちゃん!!!!」
「「「えええええええええ!?!?!?」」」
ふふふ……これぞ最高の選択!!
これでオレは痛い思いもせず、勘違いもされず、そして誰も傷つかない!!!
怖い……自分の機転の利かせ方が怖いぜえええええ!!!!
もちろんこの結果に優香は大歓喜。
その後の夕食でも、まるで新婚ホヤホヤのお嫁さんのようにお箸で挟んだ料理を「はい、あーーん」と甘えた声でオレの口まで運んでくれていたのであった。
……あ、ちなみにオレが優香を指名した理由にはもう1つ意味があってだな。
最近ダーク優香が発動してただろ? だからこれで少しでも優香の中で幸せの感情が増えて、ダーク優香が発動しませんようにって。
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さぁ、そろそろ競技会が近づいて参りました!!!




