214 天使の抱擁
二百十四話 天使の抱擁
「えぇ!? 結城さんのお母様がですか!?」
オレが結城にことを簡単に説明すると、高槻さんが目を大きく開かせて驚きの声を上げる。 「くしゅん」と、くしゃみをしながら。
ーー……実はついさっき酔いを覚ましてもらうため、高槻さんにはお風呂と称した水風呂に入ってもらい意識をはっきりとさせてもらったのだ。
すまない高槻さん。 今度何か美味しそうなおつまみがあったら差し入れするよ。
「それで高槻さ……先生、これからオレたちはどう動いたらいいとか、何かいい案ありませんか?」
「うーーん、結城さんには親戚もあまりいないようですし。 このままですと、児相……児童相談所で保護してもらうことになるかと思いますね」
「児童相談所……ですか」
オレの言葉に高槻さんは「そうですね……」と小さく頷く。
「ですが、私……先生は結城さんのことをあの旅行の2日間しか見てはいないですけど、児相は厳しそうですよね。 ほら、結城さんって結構人見知りさんみたいですし」
「あ、それはオレも思います。 未だにオレたちにも気を使って何も言わないことも多いので」
ていうかすごいな高槻さん。
よくあの数日で、結城のことをあれだけ理解できたものだ。 これも個性的な子が多い小学校低学年の教師だからこそ為せるものなのか?
オレが心の中で高槻さんの教師眼に感心していると、高槻さんが「あの、それで聞きたいことがあるのですが……」と、顔を少し近づけてきた。
「はい。 先生、なんですか?」
「あの、そもそもどうしてそういう状況……結城さんのお母様は結城さんを預かるように言ってきたのでしょうか」
「結城さんの母親の彼氏さんが捕まったんですよ。 それでむしゃくしゃしてるだけだといいんですけど……」
オレがそのことを軽く説明すると、高槻さんが「あー……それは」と大きく頷く。
「それは……結城さんのお母様、かなりメンタルやられてるでしょうね」
「えっと、なんでですか?」
オレがそう尋ねると、高槻さんは目の前で姿勢を正して「こほん」と咳払い。
「あのですね、ある一定の年齢を越してからの失恋って、かなり精神にくるんですよ」
高槻さんが「福田くんも将来、これだけは覚えておいてくださいね」と謎に念を入れてくる。
「えっと、そうなんですか?」
「そりゃあそうです。 それが年月をかけていればその分ショックは大きくなりますよ。 だってもうこの人と将来結婚するんだ……とか感じてるんですから。 それが突然いなくなったらどうします? 心の拠り所がなくなっただけではなく、この先ずっと1人なんじゃないか……とか、そういう不安が一気に押し寄せてくるんですよ?」
おお……なんだこの妙な説得力は。
「高槻先生……そういった経験がお在りで?」
オレの質問に高槻さんは「あ、いえ私はそういったことはないです」と笑いながら首を振る。
「……そうなんですか?」
「はい。 私、実はあまり器用じゃないんです。 これって決めたらそのことにしか目がいかないような単純人間ですので、私がもし恋をするとしたら……そうですね、教師という仕事にやりがいをなくした時でしょうか」
高槻さんは自虐に満ちた笑みをオレに向けた。
「な……なるほど」
ほんと急にこういう尊敬できること言ってくれるぜ高槻さん。
実際言い寄ってくる男は多そうだが……やはり先ほど高槻さんも言ってた通り、そういう好意に気づいていないのだろうか。
それか近づいてきたとしても、高槻さんの酒乱にドン引きして離れていく……とかか?
オレが高槻さんの恋愛事情を分析していると、高槻さんが「まぁ……あれですね」と胸の前で手を合わせながらオレを見る。
「とりあえずはその、結城さんのお母様も『少しの間預かって』と言ってたんですよね? でしたらすぐに児相が云々といった話はないとは思いますが……。 でも問題は福田くんのお家ですよね。 1人増えるだけでお金って結構かかりますし」
さすが社会人。 よくそこにまで考えが回ってくれた。
オレもそこらへん心配してたんだよ!! 食費だけでとっても、1人増えるだけでバカにならないもんな。
それでも優香のことだ……どうしようもなくなった場合は自分に費やすお金をかなり犠牲にしてでも、オレたちに不自由なんてさせないだろう。
オレが「そうなんですよね……」と小さく頷くと、高槻さんは優しくオレの肩に手を添える。
「まぁその……そんな暗くなっても意味はないですよ」
「え?」
「ちなみにその件は私以外に誰が知ってるんですか?」
高槻さんが優しい口調でオレに尋ねてくる。
「福田くんの担任の先生は?」
「あー、まだです。 お正月ですし、この三が日くらいは仕事のことを忘れて過ごしてもらいたいので」
オレがそう答えると、高槻さんは感心したような顔で「えええ、できた子ですね」と呟いたのちにニコリと微笑む。
「分かりました。 この件は私……先生の方で預かっておきますね。 私たちの方が早くお仕事始まるので、その時にでも福田くんの担任にも相談してみますよ」
「あ、ありがとうございます」
オレが小さく頭を下げると、高槻さんが「それじゃあ……」と言いながらゆっくりと立ち上がる。
それをオレはただただ見上げていたのだが……
「それでは、私も結城さんに会いに行くとしましょう! 久しぶりに癒されたくなりました!」
ーー……え?
「エマさんやエルシィちゃんも一緒に行きますか? 新年のご挨拶も兼ねて。 同じマンションなんですよね?」
高槻さんがそう尋ねながらエマたちに視線を向けると、エマたちも「行きます」「エッチーもいくぅー」と乗り気なご様子。
「え? ちょっと待ってください高槻さん。 それは流石に急すぎません?」
「それじゃあ行きましょーーー!!!」
「えええええええええ!?!?!?」
高槻さんはオレの手首を掴むと「お家まで案内してください」と言いながらリビングを出る。
オレは腕を引っ張られながら、目の前にある高槻さんのお尻へと視線を向けていたのだが……
「ちょっと先生!!」
後ろからエマの声がしたので高槻さんが立ち止まり後ろを振り返る。
オレも一体何事かと思いながらエマに視線を向けると、エマが何やら高槻さんを指差している。
「下着着けていったほうがいいですよ! 流石に分かりますから!」
ーー……え。
「あらー、そうでしたぁ。 完全に先生、くつろぎモードのままでしたぁー」
ええええええええええええ!?!?!?
てことは高槻さん、今その服の下……素っ裸ってことなのかああああああ!?!?
てか下着着けてないって……上と下、どっち!?!?
オレは即座に高槻さんへと視線を移動させて、上下をマジマジと観察する。
どっち……どっちだ……どっちなんだああああああああ!!!!!
答えが分からず、ふと高槻さんに視線を上げると高槻さんがオレを見ていたことに気づく。
「あらやだ、福田くんったら」
「ーー……え?」
「先生が下着着けてないって知って、どっちを着けてないか調べてたんですかぁー?」
高槻さんはオレから手を離すと、片腕を胸部へ……もう片腕を股間のあたりへと押し付けながらニヤニヤと笑いだす。
「!!!!!!」
か、完全にバレてしまっていたあああああ!!!!
「やーん、福田くんのエッチー」
「ちょえ!!! ち、違いますって!!!」
オレが必死に誤魔化そうとしていると、誰かがオレの服の袖を引っ張っている。
視線を向けるとそこには純粋な瞳を向けている金髪天使のエルシィちゃん!!
「な……どうしたんだいエルシィちゃん」
「だいき、えっちー?」
「!!!!!」
やめろ……これ以上はやめてくれ……!
エルシィちゃんには見えていないかもしれないが、君の後ろから凄まじく殺意のこもった視線を送ってくるお姉ちゃんがいるんだ!! このままだとオレ……潰されちゃうよおおおおお!!!!
「いやあのね、エルシィちゃん。 オレは別にそんな気持ちで見たのではないからして、だからオレはエッチーなんかじゃ……」
「だいき、えっちー!!」
エルシィちゃんがピョンピョン跳ねながらオレに抱きついてくる。
「えぇ!?」
「だいき、エッチー、エッチーもエッチー!! いっしょだぁねぇーー!!!」
あはーーーーーん!!! かわゆいよおおおおおおおお!!!!!!
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