212 ファーストコンタクト
二百十二話 ファーストコンタクト
それはもうすぐ年越すのかーと思いながら、ソファーで寝転んでいたある日の夜。
突然スマートフォンが振動したので確認すると、それは知らない電話番号から。
「んん? 誰だ?」
もう小畑の電話番号も登録してあるし、他に知らない相手なんかいないぞ?
オレは首を傾げながら画面とにらめっこしていたのだが、一向に着信が止まる気配がない。 ……ということは間違い電話ではなさそうだよな。
誰かが機種変更をしたのかなと思ったオレは、とりあえずその電話に出ることにした。
「もしもーし」
『あ、福田か?』
「ーー……え?」
聞こえてきたのは大人の男性の声。
誰だ? 声色的に工藤ではない……でもそれ以外にオレに男の知り合いなんて……
『あーすまん。 俺だ、先生だ』
「ええええ!?!? せ、先生!?!?」
まさかの電話の相手に驚いたオレはソファーからゴロンと転げ落ちる。
『おーい、大丈夫か福田』
「え、あぁ……はい、てかなんで先生、オレの電話番号知ってたんですか?」
『高槻先生が教えてくれたんだよ』
「た、高槻さ……先生が!?」
オレの聞き返しに担任が『あぁ』と答える。
どうやら飲みの席でオレの話題が出たらしく、「あ、私知ってますよぉー」と言いながら教えてくれたらしい。
ーー……くそあの酒乱教師め。 本人の許可なく教えるなんてそれでも大人かよ!
オレはその酒の席での自分の話題が気になりながらも、「それで、どうしたんですか?」と担任に用件を訪ねた。
『あ、そうだそうだ。 なぁ福田、お姉さん……今近くにいるか?』
「いえ、ここにはいないですけど……代わりましょうか?」
『いや!! いい!!』
ーー……おいおい即答かよ。 てかちょっと焦ってないか担任。
まぁあのダーク優香に半ば脅されてたんだ。 怖がるのも無理はない……か。
オレが担任に同情していると、担任が『コホン』と咳払い。 その後『ちょっと福田に聞きたいことがあってな……』と真剣な声色で話し出した。
『なぁ福田、お姉さん……あれから変わりないか?』
「え? あ、はい。 いつものお姉ちゃんですけど……どうしました?」
『実はな、俺、お姉さんの圧に負けて結城の家の情報を教えちゃったんだけどさ……福田も結城の母親の彼氏が捕まったことは知ってるよな?』
「はい」
あれだろ、隣町の小学校との競技会の話をしに来た帰りに優香に言ってたよな。
『あれ……どうやったんだと思う?』
「え」
オレは担任の問いかけに声を詰まらせる。
『お姉さんは知らないって言ってたけどさ……流石に出来過ぎていないか? 俺が口を割ってしまったとはいえ、その日に普通物事が急に動いたりするか?』
「そ、それは……」
『男が捕まったところを見た知り合いが居たんだが、それはもう一般人を捕まえるには大げさなくらいの……豪華すぎる面々だったらしいぞ』
「そうなん……ですか?」
『あぁ! 相手は1人の男だぞ!? そんな奴を捕まえるために警察官が2名・刑事2名・弁護士1名・特殊部隊らしき人たちが乗ったヘリコプター1台だぞ!? どう考えてもおかしくないか!?』
こ……これはどう言い訳をするべきなんだろうか。
『なぁ福田……お前のお姉さんは何者なんだ?』
「さ……さぁ、普通の女子高生だと思いますけど。 それにお姉ちゃん、そのことに関して知らないって言ってなかったですか?」
『そう……なのか? でもこんな急な展開……これが初めてじゃないんだ』
担任が小さく呟く。
「え」
『これは……お前がまだ入院していて意識が戻らなかった時の話なんだけどな……』
担任は『思い出させたらすまない』と前置きをした上で、当時……担任が初めてダーク優香と遭遇した時の話を語り出した。
◆◇◆◇
それは担任が飛び降りて意識不明のまま入院中のダイキのお見舞いに行ったある日のこと。
病室の扉を開けると優香の姿。
『えっと……ダイキの先生ですか?』
この言葉で担任は優香をダイキの姉と認識。
ダイキの今の状況を優香から聞いていたらしいのだが、その最中、優香が担任にこう尋ねてきたらしいのだ。
『ダイキ……イジメられてたんですよね?』
担任はその言葉に困惑。
気づかずに申し訳なかったと謝ったところ、優香は『やっぱり……』と呟き、その後あのダークモードに変貌したらしい。
そして優香が何かをカバンから取り出して担任に差し出す。
受け取って確認すると、それは『しね』と書かれたプリント。
担任がプリントから優香に視線を移すと、優香はそのプリントに冷たい視線を向けながら小さく口を開いた。
『これ誰の字? ねぇ……誰の字? 分かるよね先生なら。 分からないならクラス全員分の筆跡がわかる何かを頂戴。 私が犯人探すから……』
その声に担任は戦慄。
今まで味わった事のない恐怖が体全体を包み込み、優香を直視する事が出来なかったとのこと。
それでもなお優香は『犯人は誰?』としつこく尋ねてきたので、耐えきれなくなった担任は当時把握していたダイキをいじめていた生徒の名前を口に出してしまう。
『現段階で判明しているのは隣のクラス……3組の武藤と三枝です』
そう答えると優香は『武藤と三枝……武藤と三枝……3組』とブツブツと呟きながら部屋の外へ。
それから時間が経っても帰って来なかったので置き手紙を書いて帰ったらしいのだが、その数日後、とんでもないことが起きてしまった。
ダイキをいじめていた犯人……武藤と三枝の両親が同時期に離婚したというのだ。
それだけではなく同時に2人の親は当時勤めていた会社をクビに。
結果、世間体を気にした両者の親は転校を決意。 しかしながら遠くまで引っ越すお金もあまりなかった事から隣町の小学校の校区に移動した……とのことだった。
◆◇◆◇
話終えた担任が『あぁ……今思い出すだけでも背筋が凍るわ』とスピーカー越しにアハハと笑う。
ていうか、おいおい初耳だぜ? オレを……ダイキをイジめてた奴って、2組の杉浦や三好たちだけではなかったということなのか?
「あの……どうしてその2人がオレをイジめてたって分かってたんですか?」
『え、福田お前覚えてないのか!?』
スマートフォンから担任の驚いた声が聞こえてくる。
「えっと……なんでしたっけ」
『ほら、これはあまり言いたくなかったんだが……お前が歩道橋から飛び降りた日、球技大会があってそいつらに挟まれてボールを当て続けられてたじゃないか!』
「あーー、そうでしたっけ」
『あぁ! 俺が気づいて止めに入った時には既にボロボロで……あの時西園寺が教えてくれなかったらどうなってたことか』
なるほど……もしかしたらダイキはそれが決め手となって飛び降りたかもしれない……ということか。
ていうか待ってくれ、なんで西園寺?
その時ってあれだよな、まだ凶暴化の首領・西園寺の頃だよな……一体どうして。
ーー……っていやいや、それも気にはなるけど、今は目先のあの問題だ!!
「え、先生待ってください。 さっきの先生の話を聞くに、その2人って隣町の小学校に行ったんですよね?」
『あぁ。 噂では生活環境がガラリと変わった影響もあるとは思うが……かなり荒れてるらしいぞ。 俺はそいつらの担任になったことないから詳しくはわからないが』
おいおい勘弁してくれよぉ……競技会、下手したらそいつらとやることになるってことか?
いやああああああ!! それじゃあ確実にオレ標的にされるやつじゃないかあああああ!!!
ある程度可愛い女子からの暴力なら大歓迎だけど、男の暴力はできるだけ避けたい。
どうにかその2人……武藤と三枝を不参加にさせられないものか。
「あの先生。 オレはお姉ちゃんは何者でもない……ただのお姉ちゃんだとは思いますけど、そのこと……隣町の小学校にその武藤くんと三枝くんがいるってこと……教えていいですか?」
『ヒィ!!!』
突然担任が大人らしからぬ悲鳴をあげる。
「ひ……ヒィ? あ、あの……先生?」
『頼む!! それだけが勘弁してくれ!!! お前のテスト、今後無条件で10点分プラスしてやるから!!!』
「ええええええ!!!」
まさかのそこまでなのかよ担任! 確かにテストの点数を今後10点上昇は非常にありがたい。
できれば普通にお願いしたいレベルなのだが……
いや。 しかし考えてみれば、それほどダーク優香で怖い思いをしたんだろう。
何もやましいことをしていない大人が女子高生にビビり散らかすなんて、普通はないもんな。 もしかしたらまだオレに語っていない……いや、語れない内容の話もあるのかもしれない。
じゃあオレが今担任に言える言葉はこれしかないな。
「あの、もしその競技会で複数の種目があった場合なんですけど……できればオレとその2人を鉢合わせないようにだけ調整お願いできますか? お姉ちゃんには言いませんので」
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優香。 166話で語っていた時のプリントをちゃんと持っていたなんて……!!