210 大体察します!
二百十話 大体察します!
「で、どうしますー? すぐにでも見たいならここで捲りますけどー」
「ちょ、ちょっと待ってくださいお姉さん! なんか話がズレてますよ!」
「あー、その言い方は情報何個か持ってるねぇー。 ほら、早く教えてくださいよー」
うわああああ、大変なことになっちまったああああ。
おそらくこの扉の向こう側……今担任の目の前にいる優香は、いつもの清純な優香ではない。 そう……いつぞやのダーク優香。
そういや担任が『前に会った時もそうだった』とかさっき言ってたけど、オレがこの体に入る前……ダイキが入院して気を失っているときにもダークモードを発動させていたのか。
ーー……これは【いじめノート】を優香に見つけられたら終わるな。
特に三好とか。
とりあえずはアレだよな。 助けてあげたいけど……すまん先生!! オレもなんだかんだでちょっと怖いんだ!!
……ということでその後も担任に詰問しているダーク優香の声を聞いていると、突然背後からキィっと扉の開く音が聞こえてきた。
「ちょっと福田ー、食べ物まだー?」
「!!!」
急いで声のした方を振り返ると、三好がオレの部屋からひょこりと顔を出している。
空気読めない上にタイミングも悪い女かよこのやろおおおおお!!!!
「ねぇ先生早く情報を……ん?」
三好の声が聞こえたのか、リビング内で話していた優香と担任の会話がピタリと止まる。 その後ゆっくりと椅子から立ち上がる音が。
「やっべ……!」
オレはその音がすると同時に自室へスライディング。 三好に抱きつきながら部屋の中へと入り、スマートに扉を閉める。
そして三好を壁に押しつけながら、「しーーっ!」と結城と三好の交互に視線を向けて口元に人差し指を当てた。
それからすぐにリビングの扉が開く音。 「……気のせいか」と優香の声が聞こえてくる。
ーー……危なかった。
「ふ、福田……くん、どうしたの? そんな慌てて」
結城が頭上にはてなマークを浮かばせながらオレに尋ねてくる。
「いや、真剣な話をしてたからさ……邪魔しちゃダメかなって思って、中に入るタイミングを計ってたんだ。 結局タイミングなかったけどね」
「そうなんだ……なんの話だったの?」
「えっと……オレの成績があんまり良くないから勉強させた方がいいんじゃないのって。 ね、入りづらいでしょ」
「あ……うん。 ごめんね聞いちゃって」
結城が小さくオレに頭を下げる。
「いや、いいのいいの。 逆にごめんね、大した話じゃなくてさ」
オレは「あははは」と笑いながらなんとか結城を誤魔化すことに成功。 結城が「じゃ、じゃあ私が苦手なところとか……分かる範囲でよかったら教えるね」と言ってくれてなんとか話が収束したのであった。
しかし結城に教えてもらえることになるとはな。 となれば、隣で密着しながら勉強する形になるわけで……
これは偶然を装えば普段触ったらいけないところに触れられる……ということではないかあああああ!?!?
それはめちゃめちゃテンション上がるぜええええええええ!!!!!
まだどこを触れるとか考えてもいないのに、オレの両手の指が勝手にワシワシと何かを求めて動き始める。
おいおい待てよオレの身体よ。 まだその時ではない……そんなことで予行演習を始めてどうするんだ。 触るのに予行演習など必要ない!! その時の感情・シチュエーションで気持ちのままに動かせばいいのダァアアアアアアア!!!!
オレは勝手に動く両手にそう言い聞かせながらも、結城の……どことは決めていないが身体の柔らかさを想像する。
ウヒヒヒ……たまらんぜ!!
「きゃふん!!!」
突然変な声がしたので我に返ると、さっきの声を発した主はオレが壁に押し付けていた三好。
顔を赤くさせながらこちらを見つめている。
「え、三好……どうした」
「ちょっ……福田、最悪」
「え」
ゆっくりと視線を三好の顔から下に向けていくと、なんということでしょう……まさかのオレが脳内で想像していた箇所を触っているではありませんか!!!
「うぉおおおおい!!! お前、もっと早く言えよ!! そしてすまん!!!」
オレは心臓をバクつかせながら後ろへジャンプして三好から距離をとる。
ーー……まぁでも触ってたの横腹なんだけどね。
「だ、だって突然のことで私もその……びっくりしたんだもんっ!!」
「いやいや、それでもすぐに反応出来るはずだろ! なんでそのままじっとしてんだよ!!」
「そ、それは福田が『しーーっ!』って言うから!」
三好は顔を真っ赤にしながらオレを指差しているが……そこまでされてオレの言うことを聞く奴がいるか!?
「あ、もしかして三好……そういうことされるの好きだったりすんの?」
「は……はぁ!?!?」
三好の顔が更に紅潮。 「そんなわけあるわけないでしょ!」と異議を唱えながらオレのもとへと詰め寄ってくる。
いやでもいるよね、くすぐられるの好きな人って。
「ありえないじゃん! 福田だってさ、私が福田のここ触ったらイヤでしょ!?」
「いや、オレはイヤじゃない。 むしろ大歓迎ですが」
「はああああああ!?!?!?」
三好の視線がとある一点に集中される。
ーー……あ、多分横腹ね。
「え、逆に三好お前……触りたいの?」
「んなわけないでしょ!! なんでそうなるのよ!!」
「またまたー。 その話題を出すくらいなんだからさ、自分に嘘をつくなって」
「う、嘘じゃないもん! バーカ!! バーカ!!」
くくくっ……あーーっははははあああああ!!!!
楽しい……楽しすぎるぞおおおおお!!!!!
それからもしばらくオレは三好をイジって空腹を紛らわせていたのだが、全てはこの一言で終わりを迎えることとなった。
「あの、福田……くん」
突然結城がオレの名を呼んだので、オレと三好の視線が結城へと注がれる。
「えっと、何かな。 結城さん」
「ちょっと前から考えてたんだけどさ……」
「うん」
「その、なんで福田くん……触って欲しいの?」
「「え」」
結城の言葉にオレと三好は互いに顔を合わせる。
「それは……あれ? ドウナンダロー。 なぁ、三好」
「ウーン。 私もお兄の隠してた漫画をちょっとだけ最近読んだことがあるだけで、良く分からないナー」
オレたちの返事が答えになっていないことから結城は未だに首を傾げながら頭上にはてなマークを浮かび上がらせている。
「つまり……どういうこと??」
これも純粋が故……か。 結城、君もいつか分かる日が来るのだと思うとオレは悲しいよ。
「はぁ……コンビニに食べ物買いに行くか。 オレ奢るよ」
「だね。 ……うん、ありがと」
「ほら、結城さんも行こ?」
その後オレと三好は半ば強引に結城を連れて玄関へ。
オレは普通を装いながら「ちょっとまたコンビニ行ってくるね」とだけ優香に声をかけ、3人で食料調達へと向かったのだった。
◆◇◆◇
「あ、見てあれ」
お弁当を購入して帰っている途中。 三好の指差した先に視線を向けると、そこには数人の警察官と刑事らしき人物。 そしてその後ろには弁護士バッジを襟に光らせたスーツの男性が「あっちか!」と言いながら鬼の形相で同じ方向に向かって走っている。
何か事件でもあったのだろうか。
そんなことを考えていると次は上空からバババババ!!とけたたましい音が。
「うわぁ……大きいね」
結城が思わず感想を口に出す。
それもそのはず……オレたちの真上をさっきの警察官たちが向かった同じ方向へ、ヘリコプターが通過していったのだ。
「なんかあったのかな。 でもSNSで調べても誰もそれ系の発言してないよ」
三好が首を傾げながらスマートフォンの画面を見つめている。
まさか……いや、そんなはず……な。
「とりあえず早く帰ってお弁当食べよう。 お腹空いた」
「うん、そだねー」
「あ、うん……」
こうしてオレたちは先ほど見た光景の感想を言い合いながら帰宅。
その時にはもう担任は帰ってしまっていて家にはおらず、代わりにニコニコしたいつもの優香の姿がそこにあったのだった。
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ダーク優香様……大体察しました!!笑




