209 再降臨
二百九話 再降臨
「ーー……あの、お仕事はいいんですか?」
自宅マンション前。 オレはなぜか一緒についてきた担任に尋ねる。
「いや、やはり受け持つクラスさえ違えど、やはりここはお姉さんにどうしてもお礼を言いたくてな」
担任が結城に聞こえないようにオレの耳元で小さく囁く。
「でも高槻先生の方は他の先生方に『仕事終わってないだろ』って言われて学校に連行されてましたけど」
「まぁ……高槻先生はな。 冬休みに入ってから毎日二日酔いだったから……まだやることが鬼のように残ってるんだ」
「ーー……え」
「ほら、冬休みだか生徒の前に立つこともないだろ? だから堂々と深酒をしてくるんだよ」
担任は半ば呆れたため息をつきながら「お前らはそうなるなよ」とオレと結城に視線を送った。
◆◇◆◇
「ええええええ!?!?!? なんで先生来てんのおおおおお!?!?!?」
担任をリビングにまで案内すると、優香と話をしていた三好が担任を指差しながら大きく叫ぶ。
「お、なんだ三好もいたのか。 なんだ、お前もしかして福田のことが好きなのか?」
「ちょっ!! 違うし!! てかなんでみんなそうなるのさ!!!」
三好がギャーギャー騒いでいる中で担任と優香の目が合う。
「えっと……お久しぶりです。 ダイキの担任の先生ですよね」
優香が椅子からゆっくりと立ち上がり、担任に小さく頭を下げる。
「あー、これはこれはお姉さん。 お久しぶりです」
ーー……え、なに? 優香と担任って顔見知りなの?
オレがそんな表情で2人を眺めていると、優香が「あ、そうか」と気づいた様子でオレに視線を向けた。
「あのね、ダイキが入院してた時にお見舞いに来てくださったんだよ。 だからお姉ちゃん、ダイキの先生のこと知ってるの」
優香がオレに教えた後、「そうですよね」と話を担任に振る。
「はい。 あの時はちゃんと話せる空気じゃなかったですもんね。 その、色々と……」
ん、なんだ? 担任の表情が一瞬強張ったように見えたのだが……まぁ気のせいか。
「それで……先生がどうしてウチに?」
「あぁ、そうでした。 少しお姉さんとお話しさせていただきたいと前々から思っておりましてね。 先ほど偶然福田くんにお会いしたので無理を言って同行させてもらったんですよ」
「そ、そうなんですか」
こうして優香と担任の話し合いが急遽決定。
あまり他に聞かれたくないとのことで、オレと結城、そして三好は声の届かないオレの部屋で時間を潰すことになったのだが……
「ねぇ福田、なんで先生来てんの?」
三好が緊張した視線をリビングへと向ける。
「なんだ? お前なんか悪いことでもしたのか?」
「してないよ! でもやっぱさ、先生いると無条件で緊張しない?」
「いや、オレはしないけど……」
オレがそう答えると、三好は「福田は違うもんなー」と首を振りながら結城へと視線を移す。
「ねね、結城さんはどう? 先生いると緊張しない?」
「え、わ……私?」
突然話を振られた結城がピクリと体を震わせる。
「そう! やっぱ先生いると緊張するよね!?」
おいおいあまりグイグイ行くなよ三好。
結城は人見知りなんだ……これで結城が泣いちゃったらお前今後この家を出禁にするからな。
オレが心配していると、結城が三好の質問に小さく頷く。
「う……うん。 でも人によるかな」
「人による?」
「うん、私……声が大きかったり、怒ったように早口で喋る先生は苦手」
結城がチラチラと三好を見ながら答える。
「あー、いるね。 体育の先生とか?」
「そ、そう。 あと、学年主任の先生も怖い」
「あー、あの先生ね。 確かに、たまに緊急学年集会とか開かれた時とかに説教してんの見てるとムカつくよねー。 私ら関係ないのに」
お、何やら結城と三好がいい具合に話が盛り上がってきてるぞ?
そうか、やはり結城は威圧系のある怖い人が苦手……うん、予想通りだな。
オレが結城の性格について再確認していると、先ほどの担任の言葉が頭をよぎる。
そういや近々うちの学校とお隣の学校の5年生同士で何か競うって言ってたけど、そのお隣が色々と荒れてるって言ってたよな?
勉強で競うことはないみたいだし……結城、大丈夫なのか?
心配になったオレはスマートフォンで隣町の小学校を検索。
その小学校名を大手動画配信サイトで入力し、何かしらの情報が載っていないかを調べてみることにした。
「ーー……お、あった」
さすが数多ある動画配信サイトの中でもトップなだけはある。
検索してみると、1本の動画がヒット。
どうやら昨年の運動会の様子らしいが……とりあえず見てみるか。
オレはその動画をタップ。 軽い気持ちで一体どんなものなのかを視聴してみることにした……のだが。
『うるあああああああああ!!!!』
『どけえええええええええ!!!!』
「!!!!!」
突然スマートフォンからギャーギャーと、汚くもでかい叫び声が流れ出す。
その音には結城と三好も流石に反応。 興味を示したようでオレのスマートフォンの画面を覗き込んできた。
「あ、その体操服って隣町の小学校じゃん。 なんで調べてんの?」
三好が画面に映る……砂にまみれた体操服姿の男子を指差す。
「え、三好知ってんのか?」
「うん。 てかこの辺じゃ、やばい小学校って有名じゃん」
「え、マジ?」
「うん」
先ほど担任の話を聞いていたはずの結城も驚いた顔で三好に視線を向けている。
どうやら三好の話を聞いて確信に変わったようだ。 「よ、よかった……転校先がその学校じゃなくて」と小さく呟いている。
「あ、そっか。 福田が知らないのは意外だったけど、結城さんって確か5年生になってすぐくらいにこっちに越してきたんだもんね」
三好が両手をパンと鳴らしながら結城に尋ねる。
「う、うん。 その……そんなにやばいんだね」
「そうだねー。 中学になったらその小学校の子たちとも同じ学校になるじゃん? だから静かだったり暗い子って、イジメにあいやすくなるんだって」
「え」
三好の言葉を聞いた結城が固まる。
「そ、それ……ほんと?」
「うん。 だからそれを心配して私立に行かせる親も結構いるしね。 私のお兄も絶対行きたくないって言いながら中学受験の勉強してたなー」
なるほど。
それで必死に勉強した結果、かなり賢くなってしまった……ということだろうか。
「え、じゃあ多田もそうなの?」
「ううん、麻由香の場合はただ単にママが厳しいだけ」
「へぇー。 三好は? 嫌じゃないの? そいつらと同じ中学行くの」
オレの問いかけに三好は「うーん、どうなんだろ」と少し考える。
「まぁ……私は別になんとも思ってないけどねー。 やられた時はとりあえず、どうやり返すかを考えるかなー。 ほら、美波もいるし」
「あぁ、小畑さん」
「うん」
なるほど、確かに小畑が味方にいてくれればいじめられ続けられるってこともなさそうだよな。
あいつのドSはそこらへんのガキとはレベルが違うから……。
「あ、でもたまに……だけど、今でもその隣の小学校の人に狙われるってことあるじゃん?」
三好が思い出したように話を振る。
「え、マジ!?」
「うん。 まぁ福田とか結城さんや私は家の方向的に大丈夫だけど、向こうの校区に近い家の子たちはたまに絡まれたり……とかはあるらしいよ」
おいおいマジかよ、かなり荒れてんなぁ。
「そういや杉浦も5年になってすぐだったかな……隣町のどこかに遊びに行った時、絡まれて喧嘩になったらしいよ。 なんだかんだで返り討ちにしたって言ってたけど」
「え、あいつ結構強いんだな」
「だねー。 でもその時一緒に遊びに行ってた男子曰く、ほとんど互角だったらしいよ」
「え、待って。 てことはお隣さんにも杉浦クラスがいるってことなのかよ……まぁ、この動画の最初だけ見ただけでも大体の予想はついてたけどさ」
結城に視線を向けてみると、結城のやつ……超ビビってんな。 別に目の前にそいつらがいるわけでもないのに、もう既に手が震えているぞ。
「ど……どうしよう。 私……せっかく楽しくなってきてたのに」
結城が半分泣きそうな表情で小さく呟く。
「うーーん、多分だけど私、結城さんは大丈夫だと思うよ?」
「え?」
結城が大きく目を開いて三好を見る。
「な、なん……で?」
「だって私や美波もいるし、なんてったって西園寺さんと仲がいいのは大きいよ」
「そ、そうなの?」
「だってほら、今でこそ西園寺さんあんな感じだけどさ、少し前までは首領……ボスだったんだよ?」
そうだよな、あの時の西園寺は強烈だったぜ。 性格も結構キツかったしな。
思い出していると、結城も「うん……確かに」と頷いている。
「それにほら、結城さんってエマとも仲良さそうじゃん? エマだって頼りになるしさ、まぁ……それでも辛かったら福田に言えばなんとかしてくれると思うよ?」
三好がオレの背中をバシンとしばく。
ーー……え、なんでオレ?
結城も「福田……くん?」と首を傾げながらオレに視線を向ける。
すると三好は「あー、なるほどね」と呟きながらその理由を結城に説明しだした。
「結城さんは知らないか。 福田ってさ、かなり影でコソコソと動いてて……気づいたら罠に嵌められてるんだよね」
「ーー……罠?」
「うん、罠」
結城の聞き返しに三好は「うん」と頷く。
「なんて言うんだろうな……普通ってイジめられたりしたらさ、そのイジめてくる人からは距離を置こうとするじゃん?」
「う、うん」
「でも福田って自ら敵に近づいていって、敵の警戒心が少し弱まった隙をついて一気に囲い込んでくるの」
なんだろう……自分がその経験者だからなのかな、言葉の重みが全然違うぜ。 まぁ相手が美人だったり魅力的な場合は下心から行ってる場合が主なんだけどな。
結城も「そ、そうなんだ……」と期待に満ちた視線をオレに向けている。
「そう!! 福田はウツボカズラ系男子なんだよ!!」
三好がビシッとオレを指差す。
「ウ……ウツボカズラ系男子ぃ!?」
はい、これまた新しい単語が出てきましたねぇ!
「おい三好、そんな言葉あんのか!」
「ううん、思いついたから言ってみただけ。 でもそうでしょ? 敵を引きつけて自分のテリトリーにまで侵入させてきたところで気づけば脱出不可能……ぴったりじゃん」
「えええええ!?!?」
◆◇◆◇
「てかお腹空かない?」
オレの部屋で話し始めて少し。 そういやお昼前に起きてから何も食べていなかったオレは空腹からお腹をさすりながら結城と三好に尋ねる。
「あ……実は、ちょっと」
「私もお腹空いたかなー」
どうやら2人もオレと同じで空腹なご様子。
オレは「ちょっと食べ物とか持ってくるよ」と伝えて部屋を出て、優香と担任が話しているリビングへと向かった。
「えぇ!? さ、桜子がそんな酷い仕打ちを!?」
リビングの扉に手をかけようとしたところで中から優香の声が聞こえてくる。
「しっ! お姉さん、あちらに聞こえちゃいますよ」
ちょうど結城のあの話をしているところか……これは中に入れる空気じゃないな。
ともあれ話が気になるオレはその話を盗み聞きすることに。 静かに息を殺しながら扉の向こう側に耳を傾けた。
「あ、ごめんなさい……。 その、なんとか出来ないんですか?」
「……はい。 施設や委員会が訪問を何度かしてるんですが、やってないの一点張りで。 そう言われる以上は家庭のことに踏み込めないのが現状ですからね。 近所の方に証拠を頼んだりしたのですが、自分に被害が出るから絶対に嫌だと」
「で、でもこのままだと桜子が……」
「私どもも定期的に会議をしてどうするかを考えてるんですけどね。 今は打つ手がないのが現状なんですよ」
その後しばらくの沈黙。
中に入るなら今しかないと思ったオレは再び扉の取っ手に手をかけた。
「あの、先生……」
「はい?」
「その桜子の母親の職業……勤め先や、その彼氏さんのことで分かってることを全て教えてもらってもいいですか?」
ーー……え?
一体何を言っているんだ優香は。
担任もオレと同じことを思ったようで、「それは……どうしてでしょう」と困惑しながら尋ねている。
「変にはしませんので」
「あ……あの、お姉さん? お体が震えてらっしゃるようですが……大丈夫ですか?」
ーー……!?!?!? か、体が震えてる……だと!?
ギャルJK星とあの日見た光景がオレの脳裏に浮かび上がる。
「……ったく、今は私の心配しなくていいんです。 するのは桜子の心配でしょ? ……何? 渋ってるんですか? はぁ……どうすれば教えてくれるんですか? パンツでも見せます?」
「お、お姉さん……前に会った時もそうでしたが……雰囲気、変わってません?」
「そーですかねー」
ぞわわわわわわわーーーーー!!!!!
お読みいただきましてありがとうございます!!
『……おや? 優香の様子が……!』
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