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199 生きててよかった!!


 百九十九話  生きててよかった!!



 水島と解散した後にオレが向かったのは自宅ではなく結城の家。

 外は結構暗くなってきているのに明かりが点いていない……ということは留守……なのだろうか。

 


「んん……どうしたものか」



 このまま帰ってもいいのだが、少し前に水島の口にした『結城がママらしき人に怒られてた』という言葉が脳内で再生される。

 水島は結城の事情を知らない……だからこそオレの嘘の情報を流すといったことは考えられないのだ。



「あら、ボクどうしたの?」


「え」



 後ろから声をかけられたので振り返ると、そこには知らないおばさん。



「結城さん家に用なの?」


「あー、まぁ……そうなんですけど、留守っぽいですね」



 この人、結城の家って知っているということはご近所さんっぽいな。

 何か結城に関して知ってることがあるかもしれない。


 

「あの……」

「ここのお子さんは不憫で仕方ないわ」



 オレが結城情報を訪ねようとしたタイミングでおばさんがポツリと呟く。



「え?」


「ボクは……この家に来るのは初めて?」


「まぁ……そうですかね」



 厳密に言うと2回なのだが、ガチで来たのは今日が初めてなはずだ。 1回目はここから少し離れたポストまで……そしてもう1回が夏休みに帰省する際にタクシーで寄ったくらいだったよな。

 


「じゃあ悪いことは言わないわ。 この夜遅くの時間にこの結城さん宅を訪ねるのは控えた方がいいわよ」



 おばさんがオレの耳元で小さく忠告する。



「え、なんでですか?」


「あ! 話をしてたら帰ってきたっぽいわね。 とりあえずボク、こっちへいらっしゃい」



 そう言うとおばさんはオレの腕を強引に引っ張りながら結城の家前から離れ、このおばさんの家なのであろう門の裏へ。

 そこから少しだけ顔を覗かせて結城の家へと視線を向ける。



「あの車……ですか?」


「そうよ」



 結城の家の前で、種類こそ分からないが全体的にシュッとした赤い車が停車。

 運転席からいつぞや見た金髪のチャラそうなお兄さんが、助手席からは結城の母親が仲睦まじそうに話をしながら出てきて家の中へと入っていく。

 そして結城は……あれ、いないのか? 車の中にも姿が見えないぞ?


 オレが目を凝らせながら車中に集中していると横からおばさんがオレの肩を叩いてくる。



「ボク、結城さんのお子さんと約束してたの?」


「いえ、ちょっと……」


「あの車の中にはいなさそうよね。 お泊まりにでも行ってるのかしら……」


「あ、ちょっと待ってください」



 オレはそんなはずはないと思いながらも西園寺に電話をかける。



『え、福田くん? 突然電話ってどうしたの?』



 スマートフォンのスピーカーから西園寺の声。



「なぁ西園寺、結城さんって今日お前の家に泊まりにきてるか?」


『桜子? ううん、そんな約束もしてないけど……どうして?』


「いや、違うならいいんだ。 ありがとう」



 その後エマに尋ねてみたのだが、結果は西園寺と同じでそんな約束はしていないとのこと。

 

 ーー……まずいな。


 思い返してみれば、今日は平日とはいえ冬休みだ。

 もしかして結城のやつ、オレたちに遠慮して……。


 

「おばちゃんも心配してるのよ」



 おばさんがオレの隣で呟く。



「え」


「夜、たまにあそこのお嬢ちゃんが1人で外に出てるところをよくみてたからね。 前に声をかけてみたのだけれど、すぐに走ってどこかへ行っちゃって。 児童相談所に匿名で相談したこともあったんだけど、その翌日には犯人探しなのか……あの強面の男の人が家の窓から周囲の家をずっと監視してたこともあったのよ」



 おばさんは「まぁこんな難しいことボクに言っても分からないと思うけどね」と言いながら小さくため息をつく。


 ーー……なるほどな。



「わかりました、ありがとうございます」



 オレはおばさんに頭を下げると、門を出て結城の家の前を通り過ぎ……自然を装いながら停車している車の中を覗き込む。


 ーー……うん、やはり中にはいない。

 てことはもうあそこしかない……よな?



 ◆◇◆◇



「はい、結城さん見ーつけた」



 夏のあの日を思い出すぜ。 家に一番近いコンビニの向かいにある塾前の階段。

 オレはそこで小さくなりながら座り込んでいる結城に声をかける。



「ーー……あ、福田……くん」


「どうしてここにいるの?」


「ーー……」



 オレの問いに結城は黙り込み視線を地面へと下ろす。

 まったく……引っ込み思案なのは相変わらずだよな。


 オレは「隣ごめんね」と声をかけながら結城の横に座った。




「ねぇ結城さん、寒くないの?」



 オレが落ち着いた口調で尋ねると、結城がコクリと頷く。



「ちょっとだけ……寒い。 でもまだ大丈夫」



 結城はゆっくりと視線を上げてコンビニに向ける。



「今回はいつまで外にいろって?」


「ーー……大晦日まで」


「大晦日まで!? 長くない!?」


「うん……大晦日にママと彼氏が旅行に行くから、それまでは家に居たらダメだって」



 ーー……あのクソババァ。

 人前ではかなりいい顔してるくせにやはり中身は最低人間だな。 あのチャラ男含め。



「じゃあさ、その間もオレの家来ればいいじゃん。 なんで来ないの?」


「流石に夏休みも良くしてもらってさ、冬休みまでお世話になるの……迷惑かなって思って」



 結城が手を息で温めながら小さく呟く。

 

 もしかして……これもそうなのか?

 オレは宿泊学習の深夜に神様……美香に教えてもらった内容を思い出す。



 確か、結城にはまだいくつかデスゾーンが残されてるって言ってたよな。

 おそらくこれもその1つだろう。 少し面倒ながらも水島の買い物に付き合ってて良かった……じゃなきゃ危うく見逃すところだったぞ。


 オレは安堵のため息を漏らしながら結城の手を握る。

 まだ車から降ろされてあまり時間が経っていなかったようで助かった……結城の手は冷たいながらもまだブルブル震えるにまでは至っていない。



「ふ、福田……くん?」



 突然手を握られたことに驚いたのであろう結城がオレを見上げる。



「結城さん、行こうか」


「ーー……どこへ?」


「結城さんの家」


「え?」



 ◆◇◆◇



「ーー……お待たせ、福田……くん」



 結城の家から少し離れたところで待ってしばらく。

 大きめのリュックを背負った結城が家から出てきてオレのもとへと到着する。



「なんかママ、笑顔でこのリュック持たせてくれたんだけど……なんで?」



 結城が首を傾げ困惑しながらオレに尋ねてくる。



「まぁちょっとね。 結城さんは気にしないでいいよ。 それよりほら、行こうか」


「ど、どこに?」


「オレの家に決まってるじゃん」


「えっ……」



 結城がジッとオレを見つめる。



「もしかして……そういう風に動いてくれたの?」


「まぁ、そうだね」



 実は移動中に優香にメールで頼んでおいたのだ。

 冬休みの間また旅行とか行きたいんだけど同行させていいか……ってな。

 


「その……いいの?」


 

 結城が申し訳なさそうな表情をしながらオレを上目遣いで見てくる。



「もちろん。 ちなみにお姉ちゃんも大歓迎してくれてるよ」


「ーー……ありがとう。 よかった」



 結城の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。



「ゆ、結城さん!?」


「実は私……ちょっとだけ心のどこかで願ってた。 もしかしたら福田……くんが見つけてくれるかもって」



 結城がその小さな両手でオレの手を優しく包み込むように握りしめる。


 

「!!!!!」


「でもね、それ以上に怖かったんだ……外はめちゃくちゃ寒いし、もし見つけてくれなかったらどうしようって。 だから……今、私とっても安心してるの。 ありがとう」



 結城が涙を流したままの状態でオレを見上げ、笑顔を向ける。

 い……愛おしい!!!


 オレがそんな結城の姿に釘付けになっていると、結城が「あ、そうだ……」と小さく呟きながらオレを見つめる。



「ん? どうしたの結城さん」


「その……私、いつまで福田……くんのお家にお邪魔出来るのかなって……」


「え、そりゃあ冬休みずっとだけど……」



 オレが「それがどうかした?」と尋ねると結城は再び安堵した表情で「なんでもない」と言いながら小さく首を振る。



「ただ……あのね、」


「なに?」


「なんかそんなにずっと福田……くんと一緒に過ごしてたら、私、福田……くんと結婚してるみたいだね」



「!!!!!!!!!」



 結城は「なんちゃって……」と言っているが、そんなことはどうでもいい!!!

 まさかの結城からそんな言葉が貰えちゃうなんて……うわあああああああ生きててよかったあああああああああああああ!!!!!



 その後オレはこれから始まる結城との冬休み生活に胸を躍らせながら、結城とともに帰宅したのだった!!!

 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] まだデスフラグ1つ回収しただけなんですよねえ
[良い点] 教会のベルがりんりんなるぜぇ!!!! やった!! [一言] お久しぶりです! また読み始めまする!!
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