194 エマとして
百九十四話 エマとして
話を終えたエマとともに部屋へと戻ると、そこは壮絶?なエマの過去話とは打って変わってなんともほんわかした空間に満ち溢れていた。
「あ……エマ、福田……くん」
扉を開けてすぐ目に入ってきたのは未だ爆睡中の高槻さんに、まるで抱き枕のようにギュッと抱かれている結城の姿。
「なにやってんのよ桜子」
「わかんない……、先生が突然こっちに向かって寝転がってきたと思ったらギューってされて」
結城が高槻さんの腕の中で必死にもがきながらオレたちに向かって手を伸ばす。
ーー……どっちの役でもいいから出来れば変わってほしいものだ。
「エマおねーたん、おかれりー! どこいってたぁー?」
エルシィちゃんが左右に可愛く揺れながらエマに尋ねる。
「ちょっとダイキと一緒に朝のお散歩にね」
エマが「そうよね」とアイコンタクトをしてきたのでオレもエマの話に「うん」と答える。
「そかぁー。 エッチーも、いきたかたなぁー」
「うーん、エルシィにはまだ寒すぎると思うわよ。 もうちょっと大きくなったらエマと散歩しようね」
「うんーー! しゅすーー!!」
エルシィちゃんが嬉しそうにピョンピョン跳ねる。
ーー……か、可愛い。
「あ、そうそう。 とりあえず聞いておきたいんだけど、みんなはこれからどうするの?」
エマがオレと結城に尋ねる。
「わ、私は昨日先生とお土産を買いに行く約束したよ」
結城が高槻さんの熱い抱擁を受けながら小さく手を上げる。
「えー! ユッキーちゃんいいなぁー! エッチーもーー!!」
エルシィちゃんがパタパタと結城のもとへと駆け寄り、「エッチーもいっしょにいっていいー?」と可愛く尋ねる。
「うん……いいけど、とりあえず先生が起きないとどうしようもないよ」
「そかぁー! じゃあエッチー、まいてんてー、おっきさせうー!」
そう言うとエルシィちゃんは高槻さんの下半身の辺りに跨ると、「まいてんてー、おっきーしゅゆー」と前後に腰を揺らし始める。
じ、実にうらやまけしからん!!
オレが羨ましそうな視線を高槻さんに向けているとエマが「ねぇ、なんか息が荒いわよ」と小声で突っ込みを入れてくる。
「いや、あんなことされたらオレなら確実におっきするなって思ってさ」
「やったらガチで潰すわよ」
「なんでだよ。 オレは普通に目が覚めちゃうって言ってるだけなのにどうしてそんなにイラついてんだエマ」
「……まぁいいわ。 昔話してたからなのかな、アンタみたいなド変態なほうがあんなクズよりもだいぶマシに見えちゃうから不思議よね」
エマは小さくため息をつきながら首を左右に振る。
「んじゃあオレとエマも行くか」
「え、どこに?」
エマが目をパチクリさせながらオレをみる。
「決まってんだろ、昨日お昼食べた定食屋だよ」
「え」
「とりあえずエマ、お前のスマホを結城さんに渡しておいてくれ」
オレはエマのポケットに入っているスマートフォンを指差す。
「なんでよ」
「ほら、なんかあったときのために連絡手段はあったほうがいいだろ?」
「いや、なんでエマのなのよ」
「察してくれ。 オレのスマホには見せられない画像がたくさんあるんだ」
もし仮にオレが結城に自分のスマートフォンを渡したとしよう。
画像フォルダを開かれたら結城画像がたくさんあるのでアウト。
SNSアプリを開かれてもそこには水島を脅しに使っているあのいじめ動画があるのでアウト。
そう……オレが渡すとリスクしかないのだ。
それをエマはなんとなく察したのか「わかったわよ」と言いながらスマートフォンを結城に渡す。
「じゃあ結城さん、何かあったらそのエマのスマホからオレに電話してくれたらいいから」
「あ……うん」
「よし、エマ行くぞ」
「なんか分からないけど……分かったわ」
こうしてオレはエマとともに荷物を持って旅館を出ると、真っ先にあの小山楓の写真が写っていた川へと向かう。
「ねぇダイキ、定食屋に行くんじゃなかったの?」
「……ちくしょう、まだいないか」
「え?」
「ほら、あの北山ってやつだよ。 流石にこんな朝早くには来てないようだな」
オレが軽く舌打ちすると、エマの表情がみるみる赤く染まっていく。
「え!? エマは話さないわよ!?」
「なんで」
「だってあんなクズ……! エマ、勝手にダイキが聞いてくれるもんだとばかり思ってたわ。 あの顔を見ただけでもイライラが爆発しそうになるんだから!」
「お前……だから昨日はあの人の姿見るなりそそくさと離れたのか?」
オレの問いにエマは「そうよ、悪い?」と少しムスッとしながら頷く。
「でもエマ、その後にさ、ちょっと照れながら『小山楓が勝手に好意を抱いてた』とか言ってなかったか?」
「それはクズだと分かる前までの話のことを言っただけよ。 もともとはアンタにもエマの過去の話するつもりなんてなかったんだし」
「じゃあなんで照れてたんだ?」
「そりゃああれよ、やっぱり前の自分の色恋のことをちょっとでも話すんだもん。 恥ずかしいでしょ」
あーなるほどな。
確かに自分の過去の色恋を話すのは恥ずかしいかもしれない。
ーー……ん、でも待てよ?
「なぁエマ」
「何よ」
「でも北山はお前のことまだ好きなんだよな?」
「は?」
オレの質問にエマが冷たい視線をオレに向ける。
「なんでよ」
「だってほら、あの北山のおじさん言ってただろ。 息子がお前のファンだったって。 だからお前の写真が映ったこの川に毎回来るんだろ?」
「ーー……あ、確かに」
エマは静かに視線を川へと向ける。
「まぁでもエマはあいつのこと好きじゃないけどね」
エマが鼻をフンと鳴らす。
「そう言うなよ。 とりあえず序盤の掴みはオレに任せてくれたらいいからさ。 それにこう言ったらなんだけど、エマはもう小山楓じゃないんだ……エマ・ベルナールとしてその北山に接すればいい」
オレのこの言葉にエマは「確かにそうね……」と小さく呟く。
「ーー……そこまで言うならまぁ、分かったわ」
「んじゃ定食屋行くか。 どうせあのおっちゃんには顔を覚えられてるはずだ、 頼んだら息子さん連れてきてくれるさ」
オレはエマの腕を引っ張りながら、昨日行った定食屋……北山へと会いに行ったのだった。
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