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192 特別編・エマ⑤ 誤算


 百九十二話  特別編・エマ⑤ 誤算



 マネージャーから採用の知らせを受けたその日の夜。 楓はユリに電話をかけていた。



『え! 楓、部活辞めるの!?』


「うん、実はとある冊子のモデルに選ばれたんだよね」


『えええ、おめでとーー!!!』



 スピーカー越しにユリの拍手しているのであろう音がパチパチと聞こえてくる。



「ありがと。 でね、それを機に1個上のステージに進もうと思って、放課後や休日は事務所が用意してくれたモデル用のスクールに通わせてくれることになったんだ。 だからもう部活してる時間がなくなっちゃって」


『ーー……そっか、なら仕方ないね。 でも、ちょっと残念だな』



 そう、楓はマネージャーから採用の知らせを受けたそのすぐ後に学校へ電話。

 顧問に部活を辞める旨を説明し、スクールへ通うことをマネージャーにお願いしたのだ。



『あ、そういえばさ、楓って最近ほら……北山くんと一緒に帰ってたでしょ?』


「え、うん。 突然どうしたの?」



 何の脈絡もない中での北山の話題に驚いた楓は少し動揺を隠しきれないままユリに尋ねる。



『先週……ていうか一昨日の土曜かな、野球部の地区大会予選があったみたいなんだけどさ、楓行った?』


「ううん、『試合は週末にある』としか聞いてなかったし、それに私もその日はオーディションで現地撮影してたから」


『そうなんだ……。 それでさ、今日学校で北山くん何か言ってた?』


「ううん、学校では話してないかな。 授業終わったらすぐに事務所に来てってマネージャーに言われてたし」


『あ、そうなんだ……』



 楓はユリのこの話す雰囲気に違和感を感じる。



「え、ユリ? どうしたの?」


『楓は北山くんと付き合ってるんだよね?』


「!!!」



 ユリの言葉が楓の心に重く突き刺さる。

 それはそう周囲から思われてたことに対する恥ずかしくも嬉しい感覚と、モデルを続けることにより発生する【恋人禁止】という規約。

 もちろん内緒で付き合うことも出来るかもしれないが、事務所が全力でサポートしてくれているのだ。

 ここで事務所を裏切るような行動は取りたくない。



『えっと……楓? どうしたの?』



 スピーカー越しに聞こえてきたユリの声で楓はハッと我に帰る。



「ううん、何でもないよ。 それと、別に私……北山くん付き合ってないよ? 逆にどうして?」


『えっと……これ、今日ユリのクラスの野球部の子が言ってたんだけどさ、試合負けちゃったんだって。 だから落ち込んでなかったのかなーって』


「ーー……そうなんだ」



 うちの野球部が試合で負けた。

 それはとても可哀想な出来事なのに、楓は心のどこかでホッとしている自分に気づく。


 ーー……北山くんは試合に勝ったら答えを聞かせてほしいと言っていた。 ということは答えは言わないまま……今まで通りの楽しい関係のまま過ごすことができるということではないだろうか。

 だって付き合ってないってことは恋愛関係にないって意味だし。



 ◆◇◆◇



 採用を受けた翌日から楓は学校が終わるとすぐに下校。 そのままスクールへと通う日々が続き、楓もそこで行われているモデルの講習に専念していった。

 それは楓にとって、とても充実した日々だったのだが、楓には1つだけどうしても気になっていることがあった。


 そう……北山のこと。


 あれから1度も北山とは話しておらず、北山なしの生活が続いていたのだ。



「これって私から試合どうだった? って聞いた方がいいのかな……」



 スクール帰り、1人で帰宅していた楓はポツリと呟く。

 

 時期的にももうすぐ夏休み……夏休みに入れば楓は部活もないので学校に行く機会はない。

 ということはつまり、北山とはその期間全く会えなくなってしまうのだ。


 楓はどうしたものかと考えながらスケジュール帳を開く。

 すると、なんという偶然なのだろう……ちょうど明日はスクールが休講日となっていることに気づく。


 

「え、これ北山くんが部活終わるのを待ったら話せるじゃん」



 こうして楓は翌日北山を待って話すことを決意。

 楓は久しぶりに北山と実際に会い、話すことができるということで胸の高鳴りが治らないまま当日を迎えることとなった。



 そして当日の放課後。

 教室の窓から野球部が練習を終えたことを確認した楓は、少し前まで北山と待ち合わせていた校門付近に移動。

 少しびっくりさせてやろうと考え、近くの茂みに身を隠しながら北山の登場を待っていた。



「あー、練習疲れたぁーー!!」



 ……北山くんの声だ。

 声を聞いた途端自身の胸がバクバクと激しく脈打っていくのがわかる。


 早く……早く彼と話したい。


 そんな欲望が抑えられなくなった楓は少しタイミングが早いとはわかっていながらも、茂みから顔をひょこりと覗かせた。



「北山く……」

「いやー、でもそっちもあれだよね、バスケ大変そうじゃん」


「ううん、そんなことないよー。 ゴウの方が大変だと思うよー」

 


 ーー……え?



 楓は目の前の光景が一瞬理解できずにその場で固まる。

 そこには北山と楽しそうに談笑しながら……手を繋ぎながら帰っている松井ユリの姿。



「そうだユリ、来週映画でも行かない?」


「えー! ユリちょうど見たいのあったんだ!」


「そっか。 じゃあ行こう」


「うん!!」



 ーー……一体どういうこと? 『ユリ』・『ゴウ』……え、名前呼び? 

 まったく予想だにしていなかった展開に脳がついていけず、気づけば両手が細かく震えている。



「いやでもまだ……そうだって決まったわけじゃないじゃない」



 楓はそう何度も小さく呟きながら自分の脳にそう言い聞かせる。



「そうだよ、ユリだって……ユリだって聞いてきてたじゃん。 『楓は北山くんと付き合ってるんだよね?』って」



 このままじっとしていてもモヤモヤするだけだと感じた楓はかなりの距離を開けながら2人の後を尾行することに。

 しかしその行動を楓は後悔してしまうこととなる。



 そう、見てしまったのだ。

 北山とユリが人通りの少ない小道に入ったところでキスをしているところを。


 

 ◆◇◆◇



 その日の夜、楓はユリに電話をかける。



『もしもーし、楓? どうしたの?』


「あの……さ、ユリって北山くんとその……」


『うん、付き合ったんだ。 最近』


「!!」



 自分の心の世界が崩れ去っていくのがわかる。



「えっと……どうして北山くんと?」


『うん。 ユリ、最初はゴウ……北山くんに楓と何で話さないのか……とか聞いてたんだよね。 でも理由は北山くん教えてくれなくて。 それでどうしたものかと話しかけてる間に好きになっちゃったって言うのかな……。 楓も北山くんもお互いに付き合ってないって言ってたし、それならユリが手を上げてもいいのかなって……』


「そう……だったんだ」


『うん。 え、もしかして楓……北山くんのこと……』



 いやいや一緒に帰ってたんだから好感を持ってることくらい察しろよと思いながらも、楓はその言葉が口から出そうになるのをグッと押し留める。

 ユリは何も悪くない。 自分の心配をして北山くんに話しかけた結果、好きになってしまったのだ。

 それに私もユリには『付き合ってない』と言っていたし、好きとも伝えていない。

 だからこれは、仕方のないこ……と……



「え、……あれ?」



 自分の目から大量の涙が溢れ出てくる。



『ん? 楓? どうしたの?』


「あ、ううん! ごめん何でもない! それじゃあね!!」



 無理やり通話を終了させると楓は涙が枯れるまで布団に包まりながら大号泣。

 そしてそれと同時にこう決心したのだった。



 この道を選んだのは私だ。 絶対にモデルとして成功してやる。



 決意を固めた楓はあることを思いつき、実行に移す。

 それは夏休みまでの短い期間、学校に行くにしても体育の授業がない日にはノーパンで過ごすこと。

 楓の考えでは、最初はパンツを履いていてもあの感覚をいつでも思い出せるように……というものだったのだが、その効果は別のことで発揮する。


 『誰かにスカートの中を見られたらどうしよう』ということに意識が集中した結果、ユリと北山のことを少しでも忘れることができたのだ。


 これに味をしめた楓はわざとスカートの丈を短くしたりして日々を過ごすようになり、結果、ノーパンでいることに快感を覚えてしまう体になってしまったのであった。



 そして夏休みが始まってすぐ。

 とうとう運命の刻が訪れることとなる。



お読みいただきありがとうございます!

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今夜……ラストのエマ編⑥更新します!!

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