187 君こそがラブリー
百八十七話 君こそがラブリー
「いててててて。 エマ、ちょっと肩貸してくれ」
オレは腰に手を当てながらゆっくりと立ち上がる。
「なんでエマなのよ」
「お前が後ろから飛び蹴りかますからだろ!」
「そんなの当たり前じゃない! だってあんた、あんな汚いものをエルシィに……エルシィにいいい!!!」
エマが拳を握りしめながらわなわなと震えだす。
まったく、太ももをペチペチされただけなのに何を怒っているんだろうなぁー、エマのやつは。
「ーー……どうせ2つあるんだし1つくらい潰しちゃおうかしら」
「!!! おいエマ、よせ!! 何をとは聞かないが想像するだけで涙が出そうだ!!」
「……冗談に決まってるじゃない。 そうなったらエマまで触らないといけなくなるんだから」
エマが深くため息をついて「で、どこ行くの?」とオレに肩を貸す。
「ちょっとジュースを買いにロビーの自販機まで」
「ったく、仕方ないわねー」
こうしてオレはエマを部屋の外へと連れ出すことに成功。
オレは自販機で温かい飲み物を2本買うと1本をエマに渡し、近くに設置してあった休憩用の椅子に座るようエマを促した。
◆◇◆◇
「ーー……で、なんでここで飲むのよ。 部屋戻ってからでもよくないかしら」
エマがコーンポタージュの入った缶を開けて口を付けながらオレに尋ねる。
「いや、ちょっとエマに話したしことがあって」
「なに? 告白とかやめてよね。 らしくもない」
「じゃねーよ! ほら、川で見たあの男のことで話があるんだよ」
「……え、そうだったの?」
目をパチクリさせながらオレを見ているエマに対してオレはコクリと頷く。
「で、何?」
「なぁ、エマ。 これはオレが言えることでもないんだけどさ、せっかくここに来れたんだ。 1回くらいあいつと話したくないか?」
オレの質問にエマは一瞬視線を逸らす。
「な、なんでアンタにそんなこと言われないといけないのよ」
「どうなんだ?」
「もちろん話したいわよ。 まぁ、話したいというよりは……色々と聞きたいことがあるって言った方がいいかしら」
「聞きたいこと?」
「ーー……言えと?」
エマが目を細めながらオレに顔を近づける。
「な、なんだよ急に。 言いたくないなら別にいいけどよ」
「ううん、そういうわけでもないんだけど……ほら、アンタってお子ちゃまじゃない? 果たしてそんなお子ちゃまのアンタに理解できるのかなって思っただけよ」
エマがニヤリと笑いながらオレの頬をツンツン突く。
「そ、そんなの聞いてみないとわかんねーだろ」
「まぁ……確かにね」
そう言うとエマは「よっこいせ」と膝に手を当ててゆっくりと立ち上がる。
「ん、エマ?」
「いいわ、話してあげる。 でもそれは明日の早朝でもいいかしら」
「なんだ? 今じゃダメなのか?」
「うーん、エマ、この話するんだったらこういった室内じゃなくて、風に当たりながら話したいのよね」
エマが「ふぅ……」と飲み物を一口飲みながら外の景色に視線を向ける。
「じゃあ今から外出ればいいじゃん」
「あのねダイキ、東北の冬の夜をなめたらいけないわよ。 めっちゃ寒いんだから!」
エマに「試しにスマホで外の気温調べてみなさいよ」と言われたオレはエマに言われた通りにネットで検索。
すると確かに外に出るには厳しい気温情報が表示されていた。
「た、確かに。 これは流石に寒い」
「でしょ? 風も結構出てるし、流石に今から外で話したら確実に風邪コースよ?」
「だな。 すまん」
「わかればいいのよ」
エマが飲みかけの缶をオレに押し付ける。
「ん、なんだ? もういらないのか?」
「うん、ありがと。 おかげでちょっと温まったし、これ以上飲んだら夜におトイレ行きたくなって起きちゃうかもしれないしね」
「なるほど」
ということは残りはオレが美味しくペロペロさせて頂くとしましょう。
「ということだから……そうね、明日の6時。 早朝6時に他の皆にバレずにここに来れたら教えてあげる」
「わかった」
オレがそう答えるとエマは「じゃあ明日早起き頑張りなさいよ」とオレに声をかけ、くるりと体の向きを変えて部屋へと戻っていく。
うむむ、せっかくエマの飛び蹴りで負傷したことを口実にエマを連れ出して話を聞けると思ったんだけどな。
まぁいいか、一旦寝てリフレッシュ出来ているであろう明日のオレの脳に期待しよう。
オレは自分の飲み物を一気に飲み干した後、エマの飲みかけの缶に口をつけ、エマ成分をペロペロと摂取する。
あぁ……エマのおかげで今までに飲んだコーンポタージュの中で1番美味しいんじゃあ。
こうしてオレは満足感に満ち溢れながらエマの後を追うように部屋へと戻ったのだった。
◆◇◆◇
時間的にはもう夜の11時に差し迫るのではないかといったくらい。
エマとエルシィちゃんはすでに就寝中だというのに高槻さんは「あはははー楽しいわー」と頭上にお花畑を展開させながらその中心で楽しそうに走り回っている。
「……いつまで飲んでるんだあのノンベエは」
オレは布団に入った状態で高槻さんに冷たい視線を向ける。
ちなみに布団は大きい布団が2枚横に並んででいて、本来ならば1枚に結城・エマ・エルシィちゃん。 もう1枚がオレと高槻さん……の予定だったのだが、なんと今、オレの隣では結城が眠っているのだ!!
エマの寝相が激しいから!!!
「その……多分だけど、先生も大変なんだよ」
結城が高槻さんに視線を向けながらオレに独り言に答える。
「あ、結城さん起きてたんだ」
「ーー……うん、ちょっと眠れなくて」
「眠れない?」
「うん」
オレの隣で横になっている結城がコクリと頷く。
「まだ興奮してるのかな。 私ね、こういうお出かけってあんまりしたことないから……楽しいんだ」
結城が恥ずかしそうに布団に顔を半分隠しながら上目遣いでオレを見る。
か……可愛い。
オレはしばらくそんな結城に見惚れていると、結城が「福田くん? ずっと私を見て……何かついてる?」とこれまた可愛く尋ねてくる。
「あああ、ごめんごめん!! なんか結城さんと一緒の布団でちょっと恥ずかしくてさ!」
流石に「可愛かったから」とは言えないオレは、焦った結果ほとんど本音の気持ちを結城に伝えてしまう。
「恥ずかしい……の?」
結城が小さく首をかしげる。
うわあああああ!!! ミスったああああああ!!!!
何が「恥ずかしいから」だよ!!! 言っちゃった今の方が恥ずかしいわあああああ!!!!
しかしもう後戻りのできないオレはこのまま押し通すことを決める。
「う、うん。 だってほら、言ってもオレたちって男女なわけだし……ほら、ちょっとは意識したりするでしょ?」
これで結城が「うん……」と言えばこの話題は終了だ!!
その後はお互い少し恥ずかしがりながら目を閉じてドキドキしておけばいい!!!
そう考えたオレだったのだが、次に結城から返ってくる言葉にオレは今世紀最大に動揺することとなる。
「えっと……私は、恥ずかしくはない……かな」
「え」
予想外の返答にオレは口をポカンと開けながら結城を見る。
「えっと……マジで?」
「うん」
ちょっと待ってくれよ、それって結城がオレのこと全然異性として意識してくれてないってことじゃないか!
ええええ、その事実をこんな楽しい旅行先で突きつけられちゃうの!?
そんなのってないよおおおおおおおお!!!!!
オレは弱々しい息を吐きながら布団の中に顔を埋めていく。
「ふ、福田……くん? どうしたの?」
「結城さん。 恥ずかしくないって……まったく?」
これで結城が「うん」と答えた日にはオレは結城を諦めて陰ながらに支えるくらいにしておこう……。
そう心に決めたオレは結城に答えに耳を傾ける。
「う、うん……」
ああああああああああ!!!! 終わりましたあああああああ!!! ありがとうございましたああああああああ!!!!!!
オレの結城への恋心がまるで砂のように儚く崩れていく。
「恥ずかしいっていうよりかは安心してる……て言ったらいいのかな?」
ーー……ん?
結城が口元に指を当てながらオレを見つめている。
「安心?」
「うん。 福田……くんと一緒に寝れて私、どこか安心してる」
「えっと……それはどういう?」
脳内処理が追いつかず混乱してしまっているオレに、結城は少し顔を赤らめながらニコリと微笑むとゆっくりと口を開く。
「だって私、週末いつも福田……くんのベッドで寝させてもらってるんだよ? だから福田……くんの臭い嗅いでると、あぁ……私って幸せなんだなって心から感じるの」
「!!!!!!!」
オレは結城のその言葉に絶句。 顔が一気に熱くなり、心臓がこれまで以上にバクバクとビートを刻み始める。
これはやばい……これはヤバイぞおおおおおおおお!!!!!
んぎゃあああああ!!!! 結城いいいいい!!! かわいすぎるよおおおおおおお!!!!!
嬉しさの絶頂に達したオレはそのまま気を失い就寝。
結城……やっぱりオレにとって君こそがラブリーだああああああ!!!!
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結城ちゃんの言葉は1言で破壊力があります……。