184 まさに青春の味!!
百八十四話 まさに青春の味!!
旅館へと戻り用意された部屋の前に到着したオレたちだったのだが、その扉の前……なんだか中から奇声が聞こえてくるんだが。
「ーー……ねぇダイキ、なにこの声」
エマが目を細めながらオレに尋ねる。
「いや、オレにもわからん」
オレとエマの視線が扉の向こう側へと向けられる。
なんか「うーうー」と聞こえるんですがこれは……?
オレたちはお互いに頭上にはてなマークを浮かばせながら扉を開けて中へと入った。
◆◇◆◇
ーー……は?
中に入ってその光景を目にしたオレたちは互いに声を詰まらせる。
「あ、エマおねーたん、だいき、おかりーー!!」
口の周りに赤い何かを付けたエルシィちゃんがラブリーエンジェリースマイルをオレたちに向ける。
「えっとエルシィ、何やってんの?」
エルシィちゃんだけではない、他の2人……結城と高槻さんもエルシィちゃんほどではないが口の周りが少し赤くなっている。
ていうか何かを指で摘んでるようだけどなんだろう……。
「これ!!」
オレが考えているとエルシィちゃんが片手に持った何かをエマに差し出す。
当然オレとエマの視線はそこへ。
「ーー……え、梅干し?」
「あ、ほんとだ」
エルシィちゃんが持っていたのは梅干し……高槻さんがアルコールの分解を促進させるために大量購入していたやつだ。
「えっとエルシィ、なんで梅干し食べてんの?」
エマが目をパチクリさせながらエルシィちゃんに尋ねる。
それの質問に対してのエルシィちゃんが答えが、それがまた可愛いんだぁ。
「これたべうとねー『うみゅううううう!!』ってなうの! エッチー、この『うみゅううううう』しゅきー!!」
エルシィちゃんが目をつぶり口をバッテンにさせながら嬉しそうに答える。
うはあああああああ可愛ええええ!!!!
さすがは癒しの天使!! エルシィちゃんがやると破壊力抜群だな!! 梅干し会社はすぐにエルシィちゃんにCM出てもらうことを推奨するぜ!!
「実は先生の体調が復活したんで間食代わりに食べてたんですよ」
奥の畳の上で座っていた高槻さんが「福田くんたちもどうですか?」と梅干しの入った瓶を見せてくる。
「あー、どうしようかなぁ」
晩御飯の豪華料理の時間までは大体あと5〜6時間。
それまでに胃の中を空っぽにして万全の状態で挑みたいところなのだが……。
そう思ったオレはエマに視線を向ける。
「なにダイキ」
「エマは食べるのか? 梅干し」
「いや、エマはいいわ」
エマが首を左右に振る。
「なんで?」
「だってせっかく夜に豪華な料理が待ってるのよ? できれば限界までお腹を空かせておきたいわ」
「お、奇遇だな。 オレもそう思ってたんだ」
「でしょ? だからエマはいいわ」
「んじゃ、オレもやめとくか」
オレたちはお互いに頷いて高槻さんの誘いを断る。
しかし……オレたちも人間。 その決意はすぐに揺らぐこととなる。
◆◇◆◇
エマの答えを聞いたエルシィちゃんが驚いた目をしてエマを見上げる。
「えー、エマおねーたん、これ、うまーよー?」
エルシィちゃんがエマに梅干しを見せつける。
「うん、知ってるけどエマは……」
「エッチーの1こあげゆから、たべてみてー。 はい、あーーん」
エマがすべての言葉を言い切る前にエルシィちゃんがその可愛い指でつまんだ梅干しをエマの口元へと近づける。
「ーー……!!!」
流石のエマもこれには心を動かされたのかペロリと下唇を舌で舐める。
ちくしょう……羨ましすぎるぞエマあああああああ!!!!!
「エルシィちゃん! エマおねーたんはいらないっぽいからオレにそれちょうだい!!」
エマの前に割って入ったオレは大きく口を開ける。
「だいき、『うみゅううう』しゅゆー?」
「しゅゆしゅゆーーーー!!!!」
「じゃあだいき、あーーん」
「あーー……」
「どきなさいよ!!!」
「うわっ!!!」
エルシィちゃんの成分のついた梅干しがオレの口に入りそうなところでエマがオレを横に突き飛ばす。
「ちょ、なにすんだエマ」
「エルシィはエマに持ってきてくれたの! だからこれはエマが食べるんだから!」
「でもお前、さっき梅干しはいらないって……」
「それはアンタもでしょ」
「ーー……ぐぬぬ何も言えねぇ」
こうしてエルシィちゃん成分のついた激レア梅干しはエマの口の中へ。
エマは「うみゅうううう!!!」と口をバッテンにさせながら梅のしょっぱさとエルシィちゃんの癒しの成分のダブルパンチで悶絶していたのだった。
うぅ……羨ましい。
オレがそれを羨望の眼差しで見つめていると隣から「福田……くん」と結城の声。
「結城さん……どうしたの?」
「福田くんもはい、これ。 美味しい……よ?」
そう言うと結城は指で摘んだ梅干しをオレに差し出す。
「えっ!!」
想定外の展開……オレは思わず声を漏らす。
「えっと福田……くん、いらない……かな」
結城がオレに差し出した梅をわずかに引っ込める。
うわああああああ可愛いよおおおおおお!!!!!
もちろんオレはこう答えるよね!!!
「食べる食べる!!」
「じゃ、じゃあ……はい」
再び結城の持つ梅干しがオレの口元へ。
「アーン」
「え、私が……食べさせるの?」
「え……、、あ」
し……しまったああああああああ!!!
エルシィちゃんとエマのやりとりを見た後のこの展開……勝手に食べさせてくれるものだと勘違いしてしまっていたああああああああ!!!! なんという不覚……なんという謎のオレの甘えアピール!!!
オレはあたふたしながら結城への言い訳を実行する。
「ち、ちちち違うんだよ結城さん! これはなんというか……ボーッとしてただけであって、決して結城さんに食べさせてもらえるヤッターーーー!!とかそんなこと思ってたわけではなくて……!!!」
誰かフォローでも入れろよと周囲を見渡すも、エルシィちゃんは理解していないのかニコニコ、高槻さんとエマは揃ってニヤニヤしながらこちらを眺めている。
ちくしょう世の中不条理だ!!!!
周囲のサポートを得られないことを悟ったオレは再び視線を結城へと向ける。
「だ、だから結城さん、その……変なこと言ってごめん、自分で食べ……」
「ううん、いいよビックリしちゃっただけ。 はい、福田……くん、お口開けて。 あーーん」
!?!?!?!?
いいの!?!? いいのいいのいいの!?!? 開けちゃうぞ!?!?!?
オレは少し戸惑いながらも結城に向けて口を開ける。
「あーーん」
オレの口内に結城成分の付着した梅干しがそっと入ってくる。
ーー……まてよ、これ唇で挟むように受け取ったら結城の指も合法的に咥えられて……かつ舐められるのでは?
そう直感で思いついたオレは即その作戦を実行。
結城の指の第一関節が入ってきたあたりで唇をパクッと閉じる。
「ひゃうっ」
驚いた結城が口内で指を離してサッとオレの口から指を引く。
あ……当たったああああああ!!!
上唇と下唇で結城の指……挟めたあああああ柔らかかったああああああ!!!
そして舌で指の先端ちょこっと舐めれた美味しいいいいいいい!!!!!!
口の中に梅干しの酸っぱさと結城の甘酸っぱい恋の成分が充満していく。
まさに青春の味!!!!
これから梅干しを食べるたびにオレはこのことを思い出すだろう。
今後辛いことがあった時はこのことを思い出すために家に梅干しを置いておこう……そう考えた東北の昼下がりであった。
そして待ちに待った夜!!
この旅行の醍醐味の1つ……超がつくほどの豪華料理が続々と運ばれてきたのだった。
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梅干し……作者も買おう。




