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183 オレ、考える!!


 百八十三話  オレ、考える!!



「あ、ダイキ。 あそこだよ、エマが撮影した川」



 お昼を食べた定食屋から少し行ったところ。

 エマ曰く、そこの川は水の流れが比較的緩やかだということもあり、夏場になると地元の子供達の絶好の水遊びスポットなんだとか。

 しかし今は冬。 山間部だからなのか結構冷たい風が時折強く吹いていて、川に近づくにつれて人の数も少なくなっていっていた。

 

 ーー……まぁ実際に寒いしな。



 目的の場所へとたどり着いたオレたち。

 目の前にはエマのいっていた通り、流れの緩やかな比較的大きな川が流れており、その奥には背の高い木々……そのさらに奥が山となっていた。

 そして川の前で1人ポツンと立ち尽くしている男性が1人。



「なぁエマ、あの人かな」


「そうね、後ろから見た感じだけど高校生っぽいしあの子でしょ」



 エマが男性の背後の全身像をマジマジと眺めながら小さく頷く。



「ーー……で、何話すんだ?」


「それは決まってるじゃない。 エマ、ファンと触れ合ったことなく死んじゃったからどんな感情で見てくれてたのか……とか色々気になるのよ」



 いや、決まってると言われても触れ合ったことなく死んじゃったってところ初耳だけどな。


 オレが何気ないエマの一言からエマの前の人生……小山楓だった頃の話を聞いて『それは不憫だな』と感じていると男性に動きが。

 男性がくるりと川に背を向けてオレたちの方へ体を向ける。

 その時顔を確認してみたのだか……見るからにやつれた印象で到底受験生には見えないぞ。

 もしかして人違いではないかと思ったオレはエマに視線を向ける。



「え」



 オレがエマに人違いかもしれないことを伝えようとした同じタイミングでエマの口から微かに声が漏れる。



「ん、どうしたエマ」


「ーー……」



 エマに尋ねるもエマにはオレの声が届いていないようで視線がまっすぐその男性へと向けられている。


 なんだ? やっぱりこいつもオレと一緒であの男性が受験生に見えない……みたいな感じなのかな。

 そんなことを考えていると突然エマがオレの手を掴む。



「お、なんだエマ」


「ダイキ……帰ろ」


「え」



 そう言うとエマはオレの手を引っ張りながら結構な早足で川とは逆……旅館への方向へと歩き出す。

 


「ちょ、ちょっとエマ、いいのか話を聞かなくて!」


「いい」


「えぇ!?」



 エマは後ろを一切振り返らずにひたすら歩く。

 なんか小声で「まさかここの辺りだったなんて……」とかブツブツ呟いてるけど、知り合いなのか? それにしてもこのエマの張り詰めた雰囲気……めちゃめちゃ話しかけるなオーラがビンビンだ!!

 いつものオレなら『面倒臭いことになりそうだし触れないでおこう……』とか思うんだろうな。 

 

 ーー……はぁ。 面倒くせえ。



「おいエマ、待てって」



 オレはあえて立ち止まりエマを引っ張る。



「なによ」


「いやそれはオレのセリフだ。 どうした急にそんななっちまって」


「べ、別にいいじゃない気分が変わっただけなんだから! それにアンタには関係ないでしょ!」



 あーほら、面倒なのきたよ。

 何かあるときに女子がよく使う言葉『アンタには関係ない』が。


 そりゃあオレだってこうなることもなんとなく分かってたよ?

 でもなぁエマ、ここに滞在できるのは今日と明日しかない……少しでも後悔の種を残して帰って欲しくないんだ。



「ほら、戻るぞ」


「いや、行かない!」



 エマが必死に力を入れて旅館の方へと体を向ける。



「戻るぞー」


「いやだって言ってるじゃない! じゃあアンタ1人で行きなさいよ!」


「なんでそうなるんだよ……あの人、知り合いなのか?」



 オレの言葉にエマの眉がピクリと動く。


 ーー……なるほどな。


 今年の夏にオレはエマから『このエマの体に入って大体1年くらい経ってる』みたいなことを聞いている。

 それで当時のエマ……小山楓は高校2年生。 だとすれば今年は高校3年生……あの男性と一緒で受験生だ。


 

 「!!!」



 オレの脳内で勝手に小山楓の物語が構成されていく。


 てことはだ、もしかしてあの男は小山楓時代の彼氏……とかなのか!?

 だからあの男、今は亡き愛しの彼女が撮影していた場所をずっと眺めて……それで当時のことを思い出していたのではないだろうか!

 それならばあの男がやつれている理由も納得できるし、エマがあまり顔を合わせたくないといった態度をとることも納得できる!!!



 マジか……マジなのかぁああああ。


 オレはエマの手を離し、1人でヘナヘナとその場で崩れ落ちながら深いため息をつく。



「ちょ、ちょっといきなりどうしたのよダイキ!」



 エマが困惑した表情でオレを見る。



「いや……お前、彼氏いたのかよ……。 さすがJK……青春してたんだな羨ましい」


「は? 何言ってるの?」


「だってあれ彼氏だったんだろ? そりゃあお前もこうして見た目変わってるわけだし、顔を合わしづらいわなぁ」


「え、ダイキ? ちょっと勘違いしてないかな。 別にエマ、あいつとそういう関係じゃ……」

「はぁーーー。 エマには彼氏がいたのかーーー。 ああああああ、なんか一気にテンション下がっちまったわあああああ……」


「だから聞きなさいよ!!」



 エマがオレの頭にキレのいいツッコミを入れ、バシンと気持ちのいい音が鳴り響く。



「な、なんだよ」


「別にエマ、そういう付き合ってたとか……そういうのじゃないから!!」


「ーー……え、そうなのか?」


「そうよ、勝手に物語作って勝手に決めつけないでよ、この変態脳!!」



 バシン!!


 2発目のツッコミも綺麗にオレの頭に入る。



「じゃあ……なんだ? なんでエマはあの男から避けようとしたんだ?」


「それはその……あれよ、ちょっとだけアンタの言ってることが正解だからよ」


「ーー……え?」


「だからその、エマが……小山楓だった時に……」



 エマが両手を前で組んでモジモジし始める。



「なんだよやっぱり付き合ってたんじゃないかよーーー!! ホッとさせておいて落とすんじゃねーよおおお!!!」


「だから違うって!!」


 

 エマが顔を赤らめながらオレに顔を近づける。



「その……あれなの! エマが……小山楓が勝手に好意を抱いてただけなの!!」


「ーー……」



 エマの言葉を聞いたオレはまっすぐエマを見つめる。



「エマ」


「な、何よ」


「あいつもお前のファンだって言ってたじゃんかーー!! 何が勝手に好意を抱いてるだよ、めちゃめちゃ両想いじゃねえかあああああ」


「ちょっと何拗ねてんよ!! ほら、そう言うことだから早く旅館戻るわよ!」


「ーー……やだ、行かねー」


「なんでよ!」



 エマはそうツッコミを入れると無理やりオレの腕を引っ張って立ち上がらせ、オレをもたれさせながら半ば強引に旅館へと引っ張っていく。



「ああああ……どうしたものかーー」


「それはこっちのセリフ……早くちゃんとまっすぐ歩きなさいよ!! ていうかこのこと、誰にも言わないでよね!」


「言うわけないじゃん、お前が小山楓だってことはオレしか知らないわけだしさ」


「そ、そうね。 じゃあ早くそのテンションをどうにかしなさい! じゃないと何があったのか聞かれた時対処が難しいじゃない!」


「あー、はい。 頑張ります」



 こうしてオレたちは時間をかけて旅館へと到着。

 オレはその間ずっとあることについて考えていたのだ。



 そう、どうすればエマとあの男に接点を持たせてあげられるのかを。




今回もお読みいただきありがとうございます! 

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感想やブックマーク・レビューもお待ちしております♪


●181話『エマの探し物!』にて、小山楓の挿絵を描いて入れたのでよろしければ覗いてやってください!!

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[一言] 涙の両片想い
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