182 心が痛いよおおおお!!!
百八十二話 心が痛いよおおおお!!!
エマの……今の『その』体に入る前の『小山楓』の姿がこの写真の女の子だと!?
それを本人の口から聞いたオレは写真に写る小山楓とエマを何度も見比べる。
「お前エマ……マジか、マジかああああ!!!」
あまりのオレの食いつきようにエマは「ちょっとなんでエマ以上に動揺してるのよ」と苦笑いをしながらツッコミを入れてくる。
「いやだって……だってさ、すげえな! お前今も美人だけど、前のお前だった時もめちゃめちゃ可愛いじゃねえか!! なんというか今とは違って『和』が全面的に押し出されてる感があるよな!」
「そう?」
「まず日本顔が美しい!」
「日本顔?」
エマの問いかけにオレは「そうそう」と頷きながら続ける。
「あのなエマ、この写真での小山楓……お前はポニーテールをしているだろ?」
「うん」
「ポニーテールって男受けが良いと言われてるが実は、あれ実際は美人とか可愛い……といった、顔の整った人しか似合わないんだ!!」
オレは半ば体を前のめりにさせながらエマに熱弁する。
「ーー……それ、何調べ? エマ、そんなの聞いたことないよ」
「オレ調べに決まってんだろう」
「なにそれ信憑性少なくない?」
エマが『何言ってんのこいつ』的な表情をオレに向けてくる。
ふふふ……甘いなエマ。
「じゃあエマよ、エマは確かサニーズの『ニューシー』ってグループの手毬くんが好きだったよな」
「え、うん」
「オレもあれから画像とか調べたんだけど、確かに手毬くんはカッコいい。 それに髪型もカッコよかった」
「え! そうでしょ!! テマちゃんカッコいいでしょ!? 見る目あるじゃないダイキ!!」
エマが目をキラキラさせながら急に手毬くんの魅力について語り出す。
「っと、まぁエマ、それは置いといて。 ただ手毬くんのあの髪型、そこらへんの男性がしてたらどう思う?」
「え、それは無理だよ。 まぁ中には似合う子もいるだろうけど、ほとんどの人は後ろ姿だけ『カッコいい』ってなって顔見て残念になると思うよ」
「まさしくそれだ」
オレはクールにエマを指差す。
「ーー……それ?」
「あぁ。 ポニーテールも確かに可愛い。 あのうなじが見えるエロさとか、左右にプランプラン揺れる無邪気さとか実に堪らん! しかしだ、それはさっきのエマ理論と同じで『後ろから見たら可愛い』なんだ!!!」
「!!!!」
オレの言葉にエマが「はっ」と気づく。
「それでほら、女の子って顔の形とか大きさとか、特に側面……エラを気にする子が多いだろ?」
「うん」
「ポニーテールだとそんなサイドを隠す面積がグンと減る……コンプレックス要素をさらけ出しても堂々と披露できるのは元々顔が整った顔の子だけなんだ!」
「ーー……なるほど」
オレの『超』が付くくらいの大熱弁にエマは「うんうん」と頷く。
「まぁ似合う子はそれなりにはいると思うけど、こうもビシッと似合ってるエマ……小山楓は実に逸材だとオレは思うぞ」
「そ、そうなんだ。 なんかありがと」
エマが少し照れながらオレに微笑む。
まったく、どんな徳を積んでたらこんな日本美人からフランス美人に転生できるんだよ。
……まぁそう言うオレもこんなに変態脳をフルに活かせる神な待遇のこのダイキに転生してきたわけだが、こればっかりは運命に感謝だな。 それ以前にイチゴパンツまじでありがとう。
「後はあれだ。 ちょっとまだ写真慣れしてないような表情も堪らんな」
「まぁそれは仕方ないよ。 だってこれ……」
エマが当時のエピソードを話そうとしてくれるのかな……と思ったそのタイミングでオレたちが注文していた料理が運ばれてきた。
「はーいお待ちどうさま。 ハンバーグ定食がボクで、季節の山の幸定食がお嬢ちゃんだね」
結構ゴツい顔をした筋肉質で中年くらいの男性がオレたちの机の上に料理を置いていく。
「あ、ありがとうございます」
「お、それ懐かしいな。 そこに写ってる女の子、小山楓ちゃんだろ?」
え?
突然男性が小山楓の写真を指差しながらオレたちに尋ねる。
「し、知ってるんですか?」
オレが聞くよりも先にエマが興味ありげな表情を男性に見せる。
「あぁ。 実はその子いろいろあって今は活動してないんだけど、ウチの息子が大好きだったみたいなんだ」
「えっ」
エマの顔が少しずつ赤みを帯びていく。
「お、おいエマ、ファンいたんじゃねーか!」
オレが小声で話しかけるとエマは嬉しそうに「うん」と頷く。
「それであの、おじさん。 そのエマ……じゃなくて、小山楓さんファンの息子さんってどんな方なんですか?」
「あー、どこにでもいる普通の高校生だよ。 もう受験生だけどな」
なんだ? 一瞬おじさんの顔が曇ったような気がしたが……。
しかしエマはそんなことも気にならないほどに興奮しているのか、おじさんにグイグイ迫っている。
「それでそれで!?」
「君たち、この店から少し行ったところに川があるんだけど、そこは行ったかい?」
オレたちはおじさんの問いかけに揃って首を左右に振る。
「その川がこの写真の撮影地なんだけど、そこに行ってみなよ。 ボーッと川を眺めて立ち尽くしてる男がいたらそいつさ。 おじさんはそれ以上のことはわからないから、直接彼に聞いてきくれ。 大好きな小山楓ちゃんのことを語れるんだ、きっと喜んで教えてくれると思うよ」
そう言うとおじさんは「じゃあごゆっくり」とオレたちに微笑むと厨房へと戻っていく。
「おいエマ、ファンだってさ。 やるなー」
「ま、まぁ当然でしょ可愛いんだから。 それにしても嬉しいわね、今もファンでいてくれてる人がいるなんて」
エマは優しく微笑みながら当時の自分の写真を見つめる。
「あ、そうだダイキ、これ食べ終わったらこの撮影場所寄ってみてもいい?」
エマが写真をさしながらオレに尋ねる。
「そこでダメっていうオレに見えるか?」
「だよね、ありがとうダイキ」
オレもエマの……小山楓のこと色々知りたいしな。
それにここはエマの地元だ。 オレの場合は半月くらい猶予があったが今回は1泊2日といった限られた時間しかない。
エマのやりたいこと、叶えたいことはオレに出来ることならば全力でフォローしてあげないと!!
こうしてオレたちは食事を終えた後、エマと2人で写真の撮影地である川へと向かったのだった。
◆◇◆◇
「そうだダイキ」
向かっている途中、エマが「あっ」と声を出して両手を合わせながら視線をオレに向ける。
「なんだ?」
「ほら、ダイキがさっき言ってた……ポニーテールは顔の整った子しか似合わないってやつあったでしょ?」
「うん。 それがどうした?」
「カナはどうなの?」
「三好?」
エマが「うん、だってカナもポニーテールじゃない」と言いながらオレに尋ねる。
なるほど、三好か。 確かに三好もポニーテールだったよな。
オレは脳内で優香と一緒に料理を作っていた時の三好を思い出す。
「ーー……うん、似合ってんな」
「じゃあカナも可愛いってこと?」
「むむ、悔しいけどそうなるか」
「なんで悔しいのよ」
「だってあいつバカじゃん」
「バカなの?」
「バカなの」
まぁそこがあいつの個性なんだけど、なんか可哀想になってきたぞ。
……うん、お土産でも買って帰ってやるか。
「なぁエマ、お前この辺地元だったんだよな」
「そうだけど、急に何よ」
「なんかご当地のキャラクターとかないの?」
「ご当地キャラクター?」
エマが首をかしげる。
「ほら、いるじゃんリンゴの妖精・アプッシーとか、熊のキャラクター・ベアーモンとか。 そういう系のキーホルダーとかあったらお土産として買って帰ろうかなって」
「あー、そういうやつね。 いるわよ」
そういうとエマはスマートフォンを取り出して何かを検索……その後画面に表示された画像をオレに見せつけてきた。
「ーー……何それ」
「サクランボから生まれた男の子で、サクランボーイのチェリーくん」
「チェ……チェリーくん」
赤肌の丸い顔で髪は緑色。 そこから半袖半ズボンの衣装を着た体が生えていて……
なんか下半身のあたりが強調されてますがこれは?
「まぁダイキの言いたいことも分かるわよ。 だってこれ、地元民からはあんまり好感持たれてないし」
「そ、そうなのか?」
「うん。 だって見た目もそうだけど、この子の設定ってこれよ」
エマが画面をスクロール。
すると簡単なチェリーくんの自己紹介文が掲載されていた。
【チェリーくんは可愛い見た目をしてるけど、誰にも食べられることなく迎えてしまった30才! だから常に自分を食べてくれる人がいないか、興奮しながら目を光らせているよ!】
こ……心が痛いよおおおおおおおおお!!!!!
この『可愛い見た目』以外の文字の全てがオレの心に突き刺さる。
「ーー……どうしたのダイキ、そんな悲しそうな顔して」
「うん、オレ、これ買うよ。 オレ……こいつに幸せになってもらいたい」
「は?」
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近々エマの前の存在……小山楓のイラスト描いて載せる予定です!!
しかしチェリーくん……心が痛いよおおおお!!!!