181 エマの探し物!【挿絵有】
2020/12/19 挿絵追加しました!
十一話 エマの探し物!
新幹線を降りてそこからバスに揺られ、今回の目的地である旅館へと到着したオレたち一行は思わず「おぉ……」と声を漏らす。
それは木造建築のいかにもな外観をした建物で目の前には川、後ろには壮大な山々が連なっており温泉が湧いているのか程よく硫黄の香りが辺りに広がっていた。
一体なぜオレたちが途中寄り道もせずにまっすぐここへ向かってきたのか……その理由はこの人にある。
「あいたたたた……」
そう。 1年1組・エルシィちゃんの担任でもあり今回オレたちの保護者係でもある高槻舞だ。
高槻さんは行きの新幹線車内で日本酒を飛ばして飲んでいたため、半分目を閉じて頭を押さえながらエマや結城によって誘導されていた。
「まいてんてー、だいじょぶーー?」
エルシィちゃんが心配そうに高槻さんの手を繋ぎながら見上げる。
「あ、はい。 大丈夫ですよー。 先生みたいにならないように、みんなはハメを外しすぎないようにしてくださいねぇー」
ーー……いやお前が言うなよ!!
◆◇◆◇
用意された部屋……広めの和室に案内されるとオレはスマートフォンを取り出して時間を確認する。
時刻は大体お昼前といったところ……晩御飯はここで用意されたものを食べるのだが、お昼は各自でとなっている。
てことでオレはどこかへ食べに行きたいのだが……。
オレは軽く空腹状態のお腹をさすりながら誰か一緒に来てくれる人がいないか周囲を見渡す。
まず高槻さんは論外だ。 高槻さんは今、旅館の売店で買ったグレープフルーツジュースを片手にダウン中。
ちなみに高槻さん曰く、グレープフルーツジュースはアルコールの分解を助けるのだそうで……他にも分解してくれると言われている梅干しを大量に用意。
なんとしてでも夜の豪華料理や地酒飲み放題の時間までには回復させるらしい。
それでは結城はどうだろう……と思ったオレは視線を結城へと向ける。
「どうしたの? 福田、くん」
オレの視線に気づいた結城がこちらを見る。
「あ、いや。 結城さんはこれからの予定決めてるのかなーって」
「うん……。 さっきここに案内してもらってる時に旅館の人が教えてくれたんだけどね、この時間、温泉にあんまり人がいないらしいんだ。 だから私、温泉って入ったことないから行ってみようかなって」
「なるほど」
はい、結城との2人きりご飯の願い消えたーー!!
オレは「そっか。 それは楽しみだね」と結城に伝えながら見えない涙を流す。
しかしまだだ……まだオレにはもう1人、金髪の天使が!!!
「ねぇエルシィちゃん、一緒に……」
「ユッキちゃーん!! エッチーもいっしょいくぅーー!!」
オレが誘おうとしたタイミングでエルシィちゃんがピョンピョン跳ねながら結城の方へ。
「エッチーも、おんせん、はじゅめてー!!」と可愛い声で結城の手を引っ張りながら結城を見上げる。
くっそおおおおおおおおおお!!!!!
エルシィちゃんもダメなのかよーーーー!!!
てかエルシィちゃん……結城のことを『ユッキちゃん』って!! 可愛すぎるぜこのやろおおおおおお!!!!
てことはあれだな。
この流れだとどうせエマも……。
オレはあまり期待しないようにしながらエマへと視線を移す。
「ん? どうしたのダイキ」
「あー、あのさエマ、エマはこれから何するか決めてんのか?」
「まぁそうね。 ちょっと周辺を回ろうかと思ってるんだけど」
「はぁ……そっか。 そうだよな」
オレはガクリと肩を落とす。
「ーー……どうしたのよ」
「いや、エマさえ良ければ一緒にご飯でもって思ってたんだけどさ。 まぁいいよ、オレ1人で行くよ」
オレはエマに「それじゃあな」と言うと、財布を片手に部屋を出ようとエマに背中を向けた。
「あ、でもダイキ、エマのやりたいことそこまで時間かからないとと思うから、その後でよかったら別にいいわよ」
「マジ!?」
こうして今この時より各自別行動へと移行する。
高槻さんは夜に備えた肝臓の回復。 結城とエルシィちゃんのダブル天使は温泉。 そしてオレとエマは外を軽く散策した後にご飯!!
よっしゃワクワクしてきたぜええええええ!!!!
◆◇◆◇
ーー……で、エマは何をやっているんだろう。
オレはエマの行動を不思議に思いながら後ろから見つめる。
さっきからエマは各旅館の前に置いてある無料周辺案内冊子的なものをパラパラとめくっては次、めくっては次……とかれこれ4・5件くらいをハシゴしているのだ。
その度にエマが残念そうに小さくため息をしていることから納得のいった冊子?が見つかっていないのだろう。
しかしあれだな、そう言う冊子もいろんな種類があるんだな。
グルメ巡りやら写真スポット……いろんなジャンルの冊子が各旅館ごとに豊富に置かれている。
グーーーー
空腹を訴えるかのようにオレのお腹が悲鳴をあげる。
うん、もうちょっと待ってくれオレの胃袋。 とりあえずエマが納得したらすぐに栄養を入れてやるからな!!
そうして迎えた6件目。
今までと同様にパラパラと捲っていたエマの動きがふと止まり、小さく「あっ」と声を漏らす。
「ん、どうした? 目的の何かが見つかったのか?」
オレが尋ねるとエマは「うん」と小さく頷いてその冊子を大事そうに抱きかかえた。
「ーー……ん? エマ?」
「これ、無料よね」
「まぁそうだな。 でもそれがどうしたんだ? 見た感じお前が持ってるそれ、他のと比べて少し古いように感じるけど」
そう、今までエマが見ていた冊子とは違い、エマの持っている冊子は表紙は少し日で焼けたのか色が若干薄れていて、角が少し丸みを帯びていたのだ。
「まぁ……うん。 とりあえずエマの話は後。 ダイキお腹空いたんでしょう? ご飯行く?」
「お、おう!」
こうしてオレたちはオレの悲願だった昼食を食べに近くの定食屋さんへ。
お互いに食べたいものを注文し、あとはそれが運ばれてくるのを待つのみ……となった。
やっと……やっとだ。 待たせたなオレの胃袋さん!!!
ようやくこの空腹感から満たされるのかと感動していたオレがと向かいの席で座っているエマに視線を向けると……なんて言えばいいのだろうな。
エマは少し儚げな表情を浮かべながら先ほどの冊子の表紙をボーッと眺めている。
「ん、エマ? 大丈夫か?」
「あ、ごめんダイキ。 ちょっとボーッとしてた」
声をかけるとエマは「あはは」と笑いながら冊子を自身の隣……座席に下ろすと何事もなかったかのように「それにしてもお腹空いたわね」といつものエマに戻る。
「いや、お前なんか変だぞ」
「そ、そうかな。 エマ、いつも通りだと思うんだけど」
「どう見ても違うだろ。 その冊子を見てからだ……そこに何かあるのか?」
オレがその冊子を指差しながら尋ねるとエマは少し戸惑った表情をした後に「……うん、まぁね」と小さく頷く。
「一体何が書いてたんだよ」
そう尋ねるとエマがその冊子を再びテーブルの上へ。 パラパラと捲っていき、とあるページを開いてそれをオレの方へと向けてくる。
そこはこの周辺のおすすめスポットが掲載されているページ。
モデルたちだろうか……いろんな女の子たちがこちらに笑顔を向けながらそのスポットを楽しんでいる様子が映し出されていた。
「ーー……で、これがどうした?」
オレがそう尋ねながらエマに視線を向けると、エマはその中の1人を指差す。
「この子」
「ん? あぁ可愛いな」
エマが指差した女の子は清純派な見た目をした黒髪ポニーテールの学生服を着た女の子。
これを撮影したのは夏頃なのだろうか……夏服を着ていて、膝くらいまである深さの川に入ってこちらに視線を向けている。
ーー……うん、なかなかに美人だ。
「で、その子がどうした?」
「ここ、見てみて」
そう言うとエマはその指を少し右下にずらす。
するとそこにはそのモデルさんの名前が小さく記されていた。
「えーと、なになに、高校2年生・小山楓。 ……え?」
小山楓ってあれだよな、確かエマの魂に入る前の……。
少し動揺しながらエマに視線を向けるとエマがコクリと頷く。
「ーー……え、マジ?」
「うん。 エマ、地元でモデルしてたんだ」
「えええええええええええええ!?!?!?!?」
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