179 まるでミニ修学旅行!
百七十九話 まるでミニ修学旅行!
ここに来て突然エマの前世……小山楓だった時の出身地を教えられたオレは一瞬目の前にいた結城とエルシィちゃんに視線を向ける。
「ん? 福田……くん、どうしたの? おっきな声出して」
「だいき、どったー?」
結城とエルシィちゃんが不思議そうに首を傾げながらオレを見る。
くそ……!! 2人とも天使だから可愛さも増し増しだぜこのやろう!!!
「あーいや、ごめん! なんでもない、なんでもないんだ!」
オレはその場はなんとかやり過ごし、隣にいるエマへとメールを送ったのだった。
【送信・エマ】今度詳しく聞かせてもらうぞ。
◆◇◆◇
必要そうな買い物をある程度終えたオレたちがスーパーのベンチで休んでいると、突然エルシィちゃんが目の前を通り過ぎていく人の中から1人を指差して「あーーっ!!」と声をあげる。
一体何事かと思ったオレたちは視線をエルシィちゃんの指差す方へ。
するとそこには白いジャージ姿の女性の姿があった。
オレは見たことのない女性。
20代半ばくらい……なのかな。 黒髪ロングで髪は少しウェーブがかかっているもののボサボサ気味。 化粧は薄く、両手にはお菓子屋ジュースがパンパンに入ったスーパー袋をぶら下げている。
そしてジャージを着ていても分かるぞ……あちらの発育が非常に良い!!
「おいエマ……あれ誰だ? オレ見たことないぞ」
エルシィちゃんが知ってるってことはエマも知っていると予想したオレは隣にいるエマに小声で話しかける。
「え、エマも知らないわよ。 誰よあの女」
「エマも知らないのかよ! じゃあなんでエルシィちゃんが知ってんだ?」
「そんなのエマが知りたいわよ」
オレたちがコソコソ話し合っていると、エルシィちゃんの声に気づいた女性が立ち止まってこちらを見る。
その後「あっ」と声を漏らしながら体をこちらに向け、ゆっくりと近づいてきた。
「えっと……結城さんはあの人知ってる?」
オレの問いかけに結城もエマ同様知らないのだろう……首を左右に振る。
それじゃああの女性、一体誰なんだ!?
女性がこちらに近づいてくるたびにオレとエマの警戒心が上がる。
しかしそれは次のエルシィちゃんの一言で全てが吹き飛ぶこととなった。
「まいてんてー」
ーー……『てんてー?』
オレは頭上にはてなマークを浮かべながらエマに視線を向ける。
するとエマは「あ、そうなの!?」とエルシィちゃんに尋ねていた。
「ねぇエルシィ、あの人エルシィの担任の先生なの?」
「んー!!!」
エルシィは満面の笑みで首を縦に振ると、ベンチからピョンっと可愛く飛び降りてその女性……『まい先生』に抱きついた。
あーね、てんてー……先生ね。
可愛いなぁエルシィちゃん。
◆◇◆◇
「こんにちは。 エルシィちゃんの……1年1組の担任の高槻舞です」
女性……高槻舞が柔らかい笑みを浮かべながらオレたちに挨拶する。
「え、あ……どうも」
「あああああ、エルシィの担任の先生だったんですね!! エマ……じゃなくて、私、エルシィの姉のエマって言いますエルシィがいつもお世話になってます!!」
オレの隣でエマが舞先生……高槻さんに深く頭を下げる。
結城も人見知りモードを発動させながら小声で「結城……桜子、です」と自己紹介をしていた。
「それにしてもみんな、たくさん買ってるのね……」
エルシィちゃんに抱きつかれた状態でベンチに座った高槻さんがオレたちの買い物袋の量を見て驚きの表情を浮かべる。
「あ、はい。 エマたちちょっと週末の土日に旅行へ行くこととなりまして」
「そうなんだ、いいなぁー」
高槻さんが羨ましそうに声を出しながら買い物袋の中を覗き込む。
「カイロに手袋……防寒系が多いけど、山にでも行くの?」
「あ、いえ。 ちょっと東北に」
「東北?」
高槻さんが首を傾げる。
「そうなんです。 昨日福引でこれを当てまして」
そういうとエマがランドセルから昨日オレが当てた景品のチケットを取り出して高槻さんに見せる。
ーー……てか持ち歩いてたのかよ。
まぁランドセルの中だと安全そうだけれども。
エマからそれを受け取った高槻さんは「へぇーいいなぁ。 どれどれ……」と言いながらチケットの内容に目を通していく。
そしてその後、衝撃の言葉が放たれた。
「それで……誰の保護者さんがついていくの?」
「「「ーー……え?」」」
オレ・結城・エマの声が同時に出る。
「いや、ここなんだけど……」
ーー……ん?
見てみると、またまた長ったらしい文章の隣に米印が書いてあるな。
なになに……『こちら、未成年がいる場合は保護者同伴のもとーー……』、だとおおおおおおお!?!?!?!?
「「ええええええええ!?!?!?」」
オレとエマはその文章を見て絶叫。
お互いに顔を合わす。
「えっと……エマ、お前誰かいないのか!?」
「いるわけないでしょ! 両親はフランス……エマに大人の知り合いなんていないわよ! ていうか桜子はどうなのよ」
エマが結城に視線を向ける。
「わ……私?」
「そう! 誰かいないの!? あれだったらダイキを除名してその人に行ってもらうわ!」
「そんな薄情なエマああああああ!!!!」
オレはエマにしがみつく。
「だって仕方ないじゃない、そんな細かいところまで普通読まないわよ」
「ぐぬぬ……確かに」
オレたちが話していると結城が小さく手を上げる。
「あ、あのさ……別に福田くん、じゃなくても……私が抜けるから、誰か大人の人を探したら……」
「いや、結城さんはいないとダメ!」
「いや、桜子は一緒に行くの!」
オレとエマの声が重なりながら結城へと向けられた。
「ーー……よし、ならばこうするか?」
オレはコホンと咳払い。
その後結城とエマを交互に見る。
「福田……くん?」
「なによ」
「2人は見たことあると思うけど、オレの友達に工藤っていう20代後半の男がいてだな。 その人に自腹でついてきてもらうってのはどうだ?」
オレは2人の反応を見る。
「えっと……工藤ってあの人よね。 エルシィにメロメロになってた小太りの……」
「そうだ。 結城さんは……1回だけ買い物途中にあってたかな」
「ーー……ごめんなさい、覚えてない」
結城が申し訳なさそうに首を左右に振る。
「そ、そっか」
もし工藤で大丈夫なのなら、オレは今すぐにでも連絡をして秒でオーケーをもらえる自信がある。
なんたってJSとの旅行なんだ……足が折れていたとしても気合いでついてくるに違いない!!
それにほら、前に美香の写真の加護で宝くじ当たっててお金には余裕あるっぽいからな。
そんなことを踏まえながらオレは今一度2人に「どうかな」と尋ねる。
「うーん。 あの人ねぇ……」
エマが口に手を当てながら眉間にしわを寄せる。
「わ、私も知らない男の人と行くのはちょっと……」
人見知りの結城もあまり乗り気ではないご様子。
「な、なるほど……」
これは再び1から考えなければいけない……そうオレが思った時だった。
「え……ええええええ!?!? 高級料理に地酒飲み放題が付いてるのーー!?!?!?!?」
突然チケットを読んでいた高槻さんが大きく目を開かせる。
「ど、どうしたんですかいきなり!!」
「ーー……えっと、君は名前なんだったかしら」
高槻さんがチケットからオレに視線を移しながら尋ねてくる。
「あ、オレはあの……福田ダイキです」
「福田くん」
「は、はい」
「この保護者枠、私が……先生が行っても?」
「え」
高槻さんの顔……マジだ。
高槻さんがオレの目をまっすぐ見据えて訴えてきている。
「えっと……それはなぜ」
「先生実はね……お酒が日々の癒しなんです」
「え」
そういうと高槻さんは「ほらっ」と、自分で買っていた買い物袋の中身をオレに見せつける。
なんということだろう!!
遠目で見てジュースだと思っていたものは全て缶ビールやハイボール!
お菓子だと思っていたものはそのお供……おつまみじゃないか!!!
まさかの……酒乱!?
オレとエマが若干引きながら返事に困っていると高槻さんは目を輝かせながらオレとエマの肩を片方ずつ掴んで顔を近づけてくる。
「大丈夫です!! 先生は自腹で払うので問題ありません!!」
「「ーー……え」」
オレたちが不思議そうな表情を浮かべていると、高槻さんは早口でその理由を説明しだした。
「とりあえずあれです! このチケット4名はエマさん、福田くん、結城さん、そして私……先生にして、エルシィちゃんの費用を全て先生が出します!! ぶっちゃけ君達4人はみんな12歳以下……新幹線は子供料金が適用されて半額になるのですが、ここを見てください!!」
そういうと高槻さんはチケットの【高級旅館・豪華食事付き】を指差す。
「こんなに幼いエルシィちゃんです! 食べれる量なんてこの見た目同様に可愛いものでしょう! なので先生がそこは払えば万事解決です!! 旅館のお部屋もみんな子供……小さいんです! 私1人が加わったところでなんの問題もありません!!! 最悪先生は床で寝ても差し支えありません!!」
言いたいことを言い切ったのか高槻さんは満足げに鼻をふんと鳴らしながらチケットをエマに返す。
「んー? まいてんてー、エッチーたちと、りょこー、いくうー?」
高槻さんに抱きついていたエルシィちゃんが高槻さんを見上げながら尋ねる。
「うーん、それはどうでしょうね。 エルシィちゃんのお姉ちゃんたちの返答次第かな?」
高槻さんがチラッとオレたちを見る。
こ……この担任!! エルシィちゃんを使うとは……卑怯だぞ!!!!
「おー! エッチー、まいてんてーと、りょこー、いきたー!!」
案の定エルシィちゃんは目をキラキラと光らせながらその視線をエマへ。
その結果はもうわかるよな。
「エルシィ……。 分かったわ! では高槻先生、保護者係、よろしくお願いします!!!」
ほらね。
こうして高槻さんの同伴が決定。
しかしオレは少し気になることがあったのでそれとなく聞いてみることにする。
「あの、高槻さん」
「はい?」
「高槻さんはその……大丈夫なんですか?」
「ーー……? 何がです?」
「ほらその……旅行ともなると心配しませんか? 旦那さんとか」
「ーー……!!!!!」
オレの言葉を受けた高槻さんの背中に巨大な雷が落ちる。
一体どうしたんだ?
オレ、何も変なこと言ってないよな。
こんな美人な女性なんだ……急に『旅行行ってくる』とか言って出て行ったら旦那さんも心配するに決まってる。
「え、えっと……先生?」
オレは目の前でプルプルと震えながら俯いている高槻さんの顔を覗き込む。
「ーー……だ……じょ……ぶ……です」
高槻さんが何かをブツブツと小さく呟いている。
「ーー……え?」
「大丈夫です!! 先生……33歳ですが旦那さんどころか彼氏もいないので大丈夫なんですぅーーーー!!!!」
うぎゃああああああ地雷だったああああああ!!!!
助けを求めてエマに視線を向けるも「あーあ、エマしーらない」な顔。
ーー……これは援護は期待できないっぽいな。
オレの目の前では真っ赤になった顔を必死に両手で隠している高槻さんの姿。
こ……これはどうしたら……!!
そう思ってる時、現れたのだ。 天使が。
「でも高槻……先生、優しそうだから、きっといいお嫁さんになりそう。 私、高槻……先生なら一緒に行くの、大丈夫」
結城が優しく微笑みながら高槻さんの手の上に可愛らしい手を被せる。
「ゆ……結城さん!!!」
「まいてんてー、ないてうー? エッチー、よちよちしたえうー」
「エルシィちゃん!!」
2人の天使の慈愛により高槻さんの機嫌はみるみる回復。
その後高槻さんは「それでは明日金曜日、待ち合わせ場所とか決めましょうね」と言ってルンルンで帰っていったのだった。
それにしても高槻さんか。 あの見た目あのスタイルで30代……大人の魅力えげつねえな。
てかこれじゃあミニ修学旅行じゃねえか!!!!
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