177 唸れオレの右腕ぇ!!!
百七十七話 唸れオレの右腕ぇ!!!
「ーー……え、エマがマドンナ候補?」
放課後、エマとともに下校していたオレはエマが学年のマドンナ候補になっていることを話す。
「らしいぞ。 なんでもクールな中に時折見せる姉御肌ってのが評価されてるんだとよ」
多田が集めてくれた情報をオレはエマに端的に教える。
「へぇー。 エマ、そんな話があったなんて全く知らなかったよ」
「オレもだよ。 てかお前、最初は結構『アハハ、日本語ムズカシーデス』的なキャラだったのにどうして知らないうちに素で馴染んでんだよ」
「真逆のキャラ作るのが面倒になっただけよ。 でも案外みんな受け入れてくれてたわよ」
オレの問いかけにエマは「そこんところ小学生って柔軟に受け入れてくれるから助かったわ」と当時を思い出すように笑う。
真逆のキャラを作るのが面倒……か。 なら水島はよく清楚を貫いていたもんだな。
「それでダイキ、話戻すんだけどさ、そのマドンナ候補ってのは他に誰がいるの?」
「え、あぁ。 後は西園寺だな」
「希?」
「そそ。 西園寺も姉御肌的なのが評価されてたな……実はドMなのに」
「他は?」
「いや、そんだけだ。 後は現マドンナの水島花江くらいじゃないかな」
「へぇー、案外少ないのね」
なんだ? エマのやつ、嬉しくないのか?
エマはまったく喜んでいる様子はなく「それにしてもあれね、今日はお鍋でも食べたい気分ねー」などと、マドンナの話題とは関係のない話をしている。
やっぱり人によって目立ちたい人とそうでもない人に分かれるんだなぁ。
そんなことを考えているとエマがオレの方に視線を向けて目の前で「おーい」と声をかける。
「ん、なんだ?」
「あー、ほらやっぱり聞いてなかったじゃない。 またエッチなことでも考えてたの?」
エマが呆れた表情でため息をつきながらオレから視線を外す。
「なんでそうなんだよ」
「だってそうじゃない、さっきからジーっとエマのこと見てて。 あ、もしかしてエマのエッチな姿とか想像してたんじゃないんでしょうねー」
エマが両手で胸部を覆い隠しながらオレに冷たい視線を向ける。
「ちげーよ! エマは目立つことにあんまり関心がないんだなーって思ってただけだ」
オレの反論を聞いたエマは「あ、そっちね」と納得。 小さく頷いた後にニコリとオレに微笑む。
ちくしょう……美人だなぁ!!
「ねぇダイキ」
「なに?」
「どうしてエマが目立つことにあんまり興味がないか教えたげよっか」
「え」
なんだ? 理由でもあるってのか?
オレが黙り込んでエマを見つめていると、エマはニコニコと微笑みながらオレの耳に顔を近づけてくる。
「お、おいエマ?」
「あのね、エマ、実はね……」
ーー……ゴクリ。
無駄に緊張しながらエマの声に耳を傾けていると、後ろの方から声が聞こえてきた。
「ダイキー!」
この声は……
「お姉ちゃん!?」
後ろを振り返ると優香が手を振りながらこちらに駆け寄ってきていた。
◆◇◆◇
「お姉ちゃんどうしたの? 帰ってくるの今日早いね」
「うん、明日から期末テスト期間なんだ。 だから授業がいつもより少し早く終わって、美咲とファミレスで一緒に勉強してたの」
「へぇー」
オレが納得しているとエマが隣で小さく「期末かー、懐かしいな……」と呟く。
あぁそうか、こいつ今のエマの前……小山楓だったっけ? その時は確かJKだったんだよな。
そりゃあ懐かしくも感じるか。
「え、でも優香さん。 だったらもうちょっと勉強してても良かったんじゃないの? 時間的にもまだ余裕あると思うけど」
エマがスマートフォンで時間を確認しながら優香に尋ねる。
「うん、それなんだけどさ。 私今日どうしたのかお財布忘れちゃってね。 このままだと晩御飯の買い物できなくなっちゃうから家に取りに戻ってる途中だったんだ」
優香が「やっちゃったよー」と可愛く舌を出す。
か……可愛い。
「あ、そうだ、だから早く家に帰らないと!」
そう言うと優香はオレたちに「先に行くね」と言い残すと駆け足で家の方面へ。
オレはそれを「大変だなぁ……」と思いながら眺めていたのだが……。
「ほら、ダイキ!」
「!?」
突然エマがオレの背中を叩く。
「な、なんだよいきなり」
「優香さんテスト期間なんだよ!? 夜も勉強しないといけないんだから、体力残しといてあげないとダメでしょ!!」
「え、あ、そうか」
「そうよ! エマは高校のテストの大変さを知ってるんだから。 だからほら、買い物なら荷物持ちでもなんでも手伝ってあげないと!」
「わ、わかりました」
「エマも一緒に行ってあげるから」
「ーー……え?」
こうしてオレとエマは優香の後を追い、一緒に荷物だけを置いて家を出る。
その時にどうしてエマも一緒に来るのか尋ねたのだが、「もし買い物の量が多くなった場合、エマがいた方が何かと便利でしょ?」ということだった。
エマのやつ、優香が絡むと優しくなるよな。
前にエマが言ってたのは『エマが倒れた時によくしてもらったから』だったが、本当にそれだけなのだろうか。
実は密かに恋い焦がれてる、とか……あるわけないか。
◆◇◆◇
「ほんとに助かったよエマちゃん。 ありがとう」
スーパーの出口付近。 優香が隣で荷物を持つエマの頭を優しく撫でる。
ーー……オレも持ってますけど。
「気にしないで優香さん。 エマ、ちょっとでも優香さんの負担を減らしてあげたいんだ」
エマが小五らしい笑みを優香に向ける。
「エマちゃんってほんとにいいこだよね。 今日はエマちゃんのおかげで私、テスト勉強に集中できるよ」
「えへへへー」
ーー……オレも持ってますけどね。
くそ、エマのやつ優香を独占しやがって。
オレはそんな平和な雰囲気を漂わせている2人の背中を眺めがら後を追う。
「あ、優香さん、なんかやってるよ」
スーパーを出たところでエマが何かを発見したのか近くを指を差す。
オレと優香もエマの差した先に視線を向けた。
「ーー……福引?」
優香が小さく声に出す。
そう……それはスーパーを出てすぐのところに小さな簡易テント。
そのテントの横には【福引イベント開催中】と書かれた旗が掲げられていた。
「レシート1000円以上で1回、2000円以上で2回チャレンジできまーーす!!!」
簡易テントの中にいたスタッフが大声で告知している。
「優香さん、あれやろ!?」
エマが目をキラキラさせながら優香を見上げる。
「そうだね、じゃあやろっか。 レシート金額的に2回引けるから、ダイキとエマちゃん引いておいで」
優香が財布から取り出したレシートをエマに渡す。
「わかった! ほら、行こ! ダイキ!」
エマがオレの腕を引っ張り福引会場へ。
しかしこれはいいチャンスが巡ってきたぜ! ここでオレが最高の当たりを引けば優香の視線はエマだけではなくオレにも向くはず……!
オレの勝負魂よ!! 今こそこの右腕に宿るがいい!!!!
オレとエマは二台並んだ六角形のガラガラの前に立ち同時にハンドルを回す。
特別超当たりの場合は中から金の玉。 大当たりが赤玉、当たりが青玉、そしてハズレが白玉となっているようだ。
オレは全欲望を右腕に込めて勢いよくガラガラを回転させる。
カラン
先に玉が出てきたのはエマのガラガラからだ。
さてさて色は……
「青色!! 当たりーー!! おめでとーー!!」
スタッフの掛け声とともに金の鈴がカランカランと鳴らされる。
「やったーー! エマ当たりとったぁー!!」
エマがぴょんぴょん跳ねながら優香の手を握る。
「おめでとうエマちゃん」
「ありがとう優香さん!!」
く……くそう!! エマのやつ羨ましいぞ!!
オレだって……オレだってえええええええ!!!!
カラン
「!!!」
続けてオレの回すガラガラから玉が放出。
オレとスタッフの視線がその玉へと向けられる。
さぁ……色は!?!?!?
「と……特別超当たりーーー!!!」
なんと出てきたのはまさかの金色の玉。
スタッフがエマの時以上の大声で叫びながら金の鈴を力の限り振るう。
よ……よよよよっしゃああああい!!!!
オレはすかさず優香たちを見る。
「え、凄いよ! 凄いよダイキ!!!」
「これはエマの負けね。 やるじゃないダイキ」
優香とエマからの賞賛の声がオレへと浴びせられる。
ククク……あーっはははは!!! どうだ見たかエマ!!! 結局は愛の力!!! オレの優香を想う気持ちの方が強かったってことなんだよ!! あーっはははは!!!!
「はい、じゃあこれ、ボク君の当てた特別超当たりの景品とお嬢ちゃんの当たりの景品ね」
オレとエマはスタッフからそれぞれ引き当てたくじの景品を受け取る。
「エマのは……ホットアイマスク1週間ぶんだって。 ダイキのは?」
「ーー……」
オレは受け取った景品を見て言葉を失う。
「ダイキ?」
優香がオレの顔を覗き込む。
エマも「どうしたのよ、早く何当てたのか教えなさいよ」とオレの肩をトントンと叩いた。
「えっと……【東北旅行1泊2日・高級旅館・豪華食事付き】」
「「ええええええええ!?!?!?」」
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