176 結果!?
百七十六話 結果!?
「なぁ、水島。 お前杉浦と仲が良かったんだろ、介抱してやれよ」
オレは鼻血を垂らしたまま廊下で倒れている杉浦を指差す。
「えぇー無理だよー。 花ちゃん、杉浦くんのこと別になんとも思ってないもん。 それにめんどくさーい」
水島がクネクネと体をくねらせながら否定をしてくる。
どんまいだな杉浦。
……ていうか。
「ーー……花ちゃん?」
オレは目を細めながら水島に尋ねる。
「うん、花ちゃん。 家では自分のことそう呼んでるもん。 え、これは『私』のほうがいいかなー」
「いや、花ちゃんでいいんじゃね?」
「りょりょー」
「それより早くそこを降りろ」
オレはズカズカと水島の座っているオレの席へと近寄ると背中をポンと押して水島を机の上から払いのける。
「いったーい。 ご主人様、花ちゃんが怪我したらどうすんのよー」
水島が頬をぷくーっと膨らませながらオレを見上げる。
「うるせえ、それより早く杉浦の介抱してやれ」
「ご主人様がすればいいじゃんー」
「やだよ、オレあいつに感謝すること1つもねーもん」
こうしてオレたちは杉浦の放置を決定。
水島は今のキャラの感じで自分の席に座り、オレは机の上で突っ伏して寝たフリをしながら次に教室に入ってくる人が来るのを待った。
ーー……机の上、ここにさっきまで水島が座ってたからなのか微妙に生暖かい。
今のうちにちょっと舐めとくかペロリ。
◆◇◆◇
「おはよー」
モブ男2名が仲良く教室に入ってくる。
「あ、水島さん、おは……え?」
モブ男Aの動きが止まり、続けてAの視線を追ったBの動きも止まる。
「み、水島さん……だよね?」
モブの声に水島が反応。
ゆっくりとモブたちに視線を向けるとゆるく微笑んで「おはよー」と軽く手を振る。
「「ーー……!!」」
ブシュウウウウウウウ!!!!
教室内に再び鮮やかな血が舞う。
「ええええええええ!?!?!?」
オレは思わず席から立ち上がりモブたちのもとへと駆け寄る。
「ま……マジか、こいつらもかよ」
杉浦同様、幸せそうな顔をして気を失ってやがる。
「おい水島、流石にこいつらは介抱を……」
「するわけないじゃんー」
「ですよねぇー」
ちなみに次も。
モブ男「おはよー」
水島「んあー」
ブシュウウウウウウウ!!!
その次も。
モブ男3人組「「「おはよーー」」」
水島「ほよー」
ブシュウウウウウウ!!!
その次も。
モブ男「おはよー」
水島「ちゃすー」
ブシュウウウウウウウ!!!
ハーーックション!!!!!
「こ……これは一体どういう状況なんだ」
まさに殺戮現場。
教室の扉付近にはまるで赤い雨でも降った後のような真っ赤なアート。
そしてとうとう待ちに待った女子が!!
「おはよー」
モブ女がモブ男たちを華麗に避けながら教室へと入ってくる。
「はよんー」
水島がモブ女に挨拶。 モブ男たちの時と同様に手をヒラヒラとふる。
「え……ええええ!? 花江ちゃん!?!?!?」
モブ女が水島のもとへ駆け寄る。
「ど、どうしたの花江ちゃんその格好!!!」
「んとねー、なんかシャキッとすんの疲れちゃってー。 もうこれでいいかなーって。 へへへー」
「ーー……」
モブ女はそんな変わり果てた水島の姿を見て絶句。 その場でジッと立ち尽くす。
「んー? どしたの?」
「か……可愛い」
ーー……は!?
モブ女に視線を向けると、モブ女は顔を赤らめながらうっとりとした表情で水島を眺めている。
「えー、花ちゃん可愛い? やったぁー」
ズッキューーン!!!
水島の背後に潜んでいた天使がモブ女のハートに矢を射抜く。
「ーー……!!!」
これによりモブ女は「尊い……」と呟きながらその場で膝から崩れ落ちる。
その後も続々と生徒が登校。
男子のうち大半は杉浦たち同様鼻血を大量噴射してその場で気絶。
1人がハックション。 残り数名の男子だけが一瞬戸惑うもなんとか理性を保って席へとついていたのだった。
女子は驚くことに半分が夢中、数名が困惑、数名が興味なしって感じだったかな。
小畑なんかは「いやいや、私のツインテパクんな」って小さく呟きながらイライラしてたような。
◆◇◆◇
昼休み。
オレは三好と多田を呼び出して周囲の本音を探る。
「いや、やっぱり福田の発案だったんだ」
三好が「やっぱりなー」と呟きながらオレをみる。
「なんだ、よく分かったな」
「分かるよ。 だってなんか福田の好みっぽいもん」
三好のその発言に多田も「あ、それわかるー」と笑っている。
「は、なんでだよ」
「いやだって福田さ、ああいう妹系の子がタイプなんじゃないの?」
三好がオレの肩をポンポンと叩きながら問いかける。
「なんでそうなる」
「だってほら、前に私に『にぃたまって呼べ』って言ったことなかった?」
「ーー……え?」
「ほら、あのラブカツオーディションで落ちて私が福田の家に行った時だよ」
「ーー……そんなことあったっけな」
「ひっどー。 私は覚えてるけどね」
あーなんか思い出したような思い出せないような。
ラブカツオーディションは夏休み序盤にあったことは覚えているが、まだそこから半年も経っていないというのにいろんなことがありすぎて小ちゃな事はあまり思い出せない。
「まぁいいや、それで水島の評判はどうなんだ?」
オレは話を切り替えて三好と多田に尋ねる。
「あー。 まぁ美波はキレてるとして、ぶっちゃけると女子的にはなんだかんだでマイナスなんじゃないの?」
多田が口元に指を当てながら感想を述べる。
「お! そうなのか!?」
「うん。 やっぱ前とのギャップが激しいのもあるけどさ、女子はああいうの基本苦手だしね。 ほら、たまに見せるぶりっ子タイプっていうのか……1人じゃ何にも出来ない系っていうのか」
「やはりか」
「うん。 でも男子はほとんど恋に落ちてるね。 ウチの席の近くの男子たちは授業中とかもずっと水島さんのこと見てたし、休み時間もその話で持ちきりだったよ」
「なるほど」
「てかあれよね、ほんっと男子ってちょろいよねー」
三好が呆れたように笑いながらため息をつく。
「あーそれウチも思った。 フワフワに惑わされすぎだっての」
「だよねー!!」
オレの目の前で三好と多田が盛り上がり出す。
「いや待ってくれ、今はそんな話じゃなくてだな」
オレが話を止めようとしても三好と多田の愚痴は止まらない。
「ふん、どうせ福田だって花江のこと好きかもーとかなってんしょ?」
三好が唇を尖らせながらオレをみる。
「いや、それはないぞ」
「ホントかなー。 だって今の花江って福田プロデュースだし。 福田の好み全部入れなんじゃないのー?」
三好の言葉に多田がウンウンと頷く。
「だから違うっつの。 オレからしたらあんなクズよりも三好や多田の方が圧倒的に好きだぞ」
「「ーー……!?」」
突然三好と多田の動きが止まる。
「ふ、福田。 それホント?」
三好が少し顔を赤面させながらオレに尋ねる。
「本当だって。 例えば三好!」
オレはビシッと三好を指差す。
「は、はい!」
「お前はバカだが包容力がある。 将来の夢がお嫁さんとか可愛いし、お姉ちゃんと一緒に料理をしてる姿とか微笑ましかったぞ」
「!!!」
三好の顔がさらに赤面。
「ば……バカじゃん!」とか言いながらオレから目を逸らす。
ていうかバカにバカって言われたくないぞバカ。
「次に多田」
「はい!」
「お前は実に真面目なくせして子供心を忘れていない。 オレはそういう純粋で真っ直ぐなところが好きだぞ!」
「ウチ……真面目かな」
多田が少し嬉しそうにオレに尋ねる。
「あぁそれはもちろん。 だからこそほら、ちゃんと塾に行ってるわけだし。 オレのお願いしたスパイ活動もちゃんと器用にこなしてくれてるだろ?」
オレの言葉に多田が小さく頷く。
「オレはそういうところちゃんと評価しているぞ」
「あ……ありがとう」
多田が恥ずかしそうに視線を逸らしながらもオレに微笑む。
「なんかウチ……福田のこと好きかも」
「「!?!?!?!?」」
多田の突然の言葉にオレと三好が同時に驚く。
「お、おい多田、何を言ってるんだ! しししかも三好のいる前で!」
「そそそそうだよ麻由香!! 福田……福田だよ!? 変態なんだよ!? こんなの彼氏にしたら麻由香絶対大変だって!! お風呂の時とか!!」
「ーー……? なんでお風呂が大変なの?」
多田が不思議そうに首をかしげる。
あーあ、三好、自爆したな。
「ーー……!!! あ、ちがっ……!! そうじゃなくて……た、例えだって例え!!」
三好は顔を真っ赤にさせながら必死に誤魔化す。
「あ、ていうかあれだよ? 一応言っとくけどウチが福田好きって言うのは別に恋愛感情の方じゃないからね。 友達として好きって意味だから」
「「ーー……へ?」」
再びオレと三好から気の抜けた声が同時に出る。
「え、なに? 2人ともウチが福田のこと愛してるって思ったの? やめてよー」
多田が笑いながらオレたちに視線を向ける。
「だ……だよなぁ! 多田がそんな目でオレを見てたことなんてなかったもんな!」
「そうだよー。 あーよかった、ウチ、佳奈がなんか焦ってたからそう聞こえてたのかなってちょっと不安になっちゃったじゃん」
多田が三好の背中をポンポンと叩く。
「は……ハァ!?!? わ、私だって麻由香が福田のこと好きっていうのは友達としてって意味だって知ってたし!」
三好は恥ずかしいのかに斜め上に視線を向けながら腕を組んで威勢をはる。
「まぁでも三好はオレのこと好きだもんな」
「え、そうなの佳奈!」
オレの言葉に多田が驚いた表情で三好に尋ねる。
「は……はあああああ!? なんで!? なんでそうなんのよ!」
「いやだってほら、前にエマの家で話してた時にさ、オレのこと鈍感だって」
「だからそんなことあるわけないってちゃんと否定したじゃん!! バカ! アホ!! 変態!!!」
三好がオレの足をガシガシと蹴り始める。
「あ、でも福田。 佳奈の将来の夢がお嫁さんってなんで知ってるの? ウチそれ知らなかったんだけど」
多田がオレと三好交互に尋ねる。
「ーー……!!!」
三好がオレを睨みつける。
あーー、そういやあの夢、内緒だったわぁ……。
てか三好も普通に多田の前でそこ褒められて嬉しそうにしてたのも悪いぞ! そこで否定しておけよこのやろう、やっぱりバカだなぁ!!
「……ねぇ福田、そういや最近ちゃんと蹴ってなかったよねぇ」
三好が静かに微笑みながらオレを見上げ尋ねる。
「いや三好、今はそんな話どうでもよくてだな、水島の……」
「蹴ってなかったよね!?」
「は、はい。 蹴られてませんね」
なにをこいつはこんなにカッカしてやがるんだ面倒くさいな。
もしオレが「三好はオレのこと好き」って言葉にキレたんだったら、お前だって「オレが水島のこと好きなんじゃないか」ってからかってきたんだからどう考えてもおあいこだろうよ。
結局オレの下半身には三好の超本気の一撃が久しぶりにクリーンヒット。
オレはその後しばらく動けなくなり、多田に介抱されながら痛みが引くのを待っていたのだった。
「ねぇ福田、そんなに痛いの?」
「あぁ、痛いぞ」
「どこが痛いの?」
「え……言わせる気か?」
「あ、いやそうじゃなくてさ、ウチ、最近寝る前にそれに関してネットで調べてたの。 それでさ、蹴られた時ってどこが痛いのかなって。 やっぱ全体? どう痛いの?」
多田……やっぱりお前は純粋で真面目だな。
しかしどう説明するのが正しいものか。
オレは判断に迷った結果、こう答えたのだった。
「よし、今度塾が休みの時にでもうちに遊びにこい」
今回もお読みいただきありがとうございます!
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