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165 お姉ちゃああああん!!


 百六十五話  お姉ちゃああああん!!



「あ……あの人たちは一体?」



 オレは目の前の光景に驚きながらギャルJK星に尋ねる。

 するとギャルJK星はオレの手を握りながらオレに顔を向けた。



「簡単に言うとそうだなぁ……優香国の民たち、かな」


「は!? 民!?」



 何を言ってるんだこいつは的な表情でギャルJK星を見ると、ギャルJK星は「普通そうなるべさ」と微笑。

 その後自身のスマートフォンを取り出してとある画面をオレに見せつける。


 それはSNSサイトの画面。 


 これはオレも知ってるぞ。 今は水島の動画をアップしているので鍵アカウントにしてるけど……てか凄い人気だなこのアカウント。 投稿者のファンの数……もといフォロワーの数が尋常ではない。



「これがどうしたの?」



 オレは画面からギャルJK星に視線をあげて尋ねる。



「ゆーちゃんのアカウントだべ」


「お姉ちゃんの!?」


「だべ。 これ知ってるのはアタシや中学の時に本当に仲の良かった子の数人だけなんだけどさ、いつだったかな……」



 そう言うとギャルJK星は当時にことについて語り出した。


 簡単に説明すると中学1年のある日、知らないアカウントの人が悩んでいたので暇つぶしにアドバイスをしたところ、その人は困難を抜け出した。

 それが徐々に広まっていき優香に相談する人間が続出。 当時の優香はギャルだったのだが、なんだかんだで面倒見はあったため全てに返信をして様々な人の悩みを解決してきたという。

 結果、優香に心酔する者も現れ、中には教師すらも優香と知らずに相談……心の支えにしていた人もいたらしい。


 ーー……にしてもいろんな人がいすぎだろ。

 

 オレは小僧……木下とヒゲ男を囲む人々に視線を向ける。

 サラリーマンにコックさん、弁護士バッジつけてるスーツの人、白衣着てる男性、買い物袋をぶら下げたおばちゃん、黄色いヘルメットをかぶった工事現場のおっちゃん……他にもたくさんだ。



「それでね、ゆーちゃんはギャルをやめたと同時にアカウントを卒業するって宣言したんだけど、あまりにもそれを惜しむ人が多くてさ。 前よりはかなり低浮上にはなったんだけど、たまにまだ送られてくる悩みに答えてあげてるらしんだよね」


「そ……そうなんだ」


「まぁゆーちゃん曰く、あまり深く悩まないで直感のままに返信してるらしいんだけどさ」



 ギャルJK星が「そこらへん、さすがゆーちゃんだよねー」と呟きながら優香を眺める。



「……てことは星さん」


「なに?」


「あの2人どうなるの?」


「まぁ人生オワタじゃない?」



 ギャルJK星は囲まれて驚いている2人に視線を向けながら「相手が悪かったねー」と小さく声をかける。



 まさか……そんなねえ?


 あまり信じきれなかったオレは2人を囲む人々……優香国の民の声に耳を澄ませた。

 すると……



「姫、こいつらかい? 姫を一方的に追い詰めた奴らって!」



 買い物袋を両手に持ったおばちゃんが優香に声をかける。

 ーー……てか姫って。



「そう。 私の大切な宝物……蹴り飛ばした」


「なんだって!? このバカチンが!!」



 おばちゃんがいかにもな重さがありそうな買い物袋で木下の頭をどつく。



「いってーな!! 何すんだババァ!! 警察呼ぶぞ!!」



 木下が声を張り上げつつも頭を押さえながらおばちゃんを睨みつける。


 流石にこれは警察沙汰になったら危ないだろう……。

 オレはそう心配してしまったのだが、それはすぐにかき消されることになる。


 

「「「それには心配は及びません」」」



 おばちゃんの前に数人の男性が一歩前へ。

 一人一人が木下に声をかけていく。



「残念だったな少年。 私は見ての通り警察官だが、今起こったのかは何も見ていないし知らない。 しかし女性にブチギレているところは見てしまった。 これは署に来てもらおうかなー」



 警察の制服に身を包んだ男性が木下にニヤリと微笑みかける。

 他にも……



 弁護士「奥さん、今の言葉で精神傷つきましたよね。 慰謝料を請求しましょう」


 スーツA「木下くん、やってはいけないことしてしまったね。 私は君のお父さんの上司なのだが……うん、降格させよう」


 コック「お前顔覚えたぞ。 この周辺の店で俺掛け持ちしてるんだけど、出禁な」


 黒いノートを持った男性「消すぞ」


 スーツB「おい木下、ワシ校長。 お前退学」



 こ……校長先生ーー!?!?!?



 なんというトドメ……校長と名乗る男性はすぐにポケットからスマートフォンを取り出して何処かへと電話をかけ始める。



「そう、木下。 あいつ退学で」



 うーわ。



「ガ……ガチであいつの人生オワタ」



 オレは小さく呟く。

 

 これはまさに優香がさっき2人に向けた言葉通りの「しょけー」。

 このままでは自分の身元もバレると思ったのだろう……ヒゲ男は木下を置いて一目散に逃げて行ってしまった。


 

 その後木下は校長と弁護士、警察官に連れられながら学校へと連行。

 優香の民たちは辺りが真っ暗になるまでブレスレットの捜索に協力してくれていたのだった。

 ーー……まぁ結局見つからなかったのだがな。



 そして皆が解散していく中、それは起こった。


 気温もかなり冷えてきたのでオレが優香に「もう帰ろう」と声をかけた時のこと。

 捜索中も優香は心ここに在らずな状態だったのだが、オレが腕を引っ張った途端にバランスを崩してその場で倒れこむ。



「えぇ!? お姉ちゃん!?」

「ゆーちゃん!?」



 すかさずオレとギャルJK星が優香に声をかける。



「あー、こりゃ熱あんね」



 優香の額に手を当てたギャルJK星がボソッと呟く。



「えぇ!?」



 まさかずっとフワフワしてたのってこれだったんじゃ。


 

「と、とりあえず早く帰らないと!」



 オレは視線を駅の方へと向ける。



「いやダイキ、それはゆーちゃん的にしんどいべ。 お金かかるけどここはタクシーを呼んだ方がいいよ」



 ギャルJK星がスマートフォンを取り出してタクシー会社を検索し、電話をかけようとそれを耳に当てる。



「それには及びません」



「「え」」



 オレたちの前には複数の人。



「俺はバス運転手だ。 もう車庫へ戻る予定だったから姫を家の近くまで送ろう」


「私は医者だ。 では私はその車内で姫の容体を確認するとしよう。 ちょうどここにナースもいる」

「はい、私ナースです。」



 うわぉ、スペシャルチーム!



 こうしてオレたちはスペシャルチーム同行のもと帰宅。

 医者の男性曰くちょっと悪化した風邪ということで必要な薬や看病方法を教えてもらったのだった。




 ◆◇◆◇




「んじゃ、アタシ帰るわ。 大勢いても迷惑だろうし。 何かあったら電話するんだぞー」


「うん。 ありがとう星さん」



 ギャルJK星は医師の教えてくれた市販の風邪薬や必要なもの諸々を用意してくれた後、オレに笑顔で手を振りながら帰宅。

 オレはリビングで「ふぅ……」と大きく息を吐きながら優香の眠っている部屋へと視線を移す。



「まさか……優香がなぁ」



 あの後ギャルJK星になんで優香が『姫』と呼ばれていたのか聞いたところ、最初は『優香国の女王・卑弥呼』だったらしい。

 しかし優香が「なんか女王様っぽくてやだ」と言ったことで『姫』になったのだとか。


 そしてあの優香の纏っていた雰囲気こそが中学の頃のギャル優香。 そこから負の感情が一定に達すると、今日のように民を使って徹底的に潰すダーク優香になるらしい。 

 

 そういや帰りのバスの中でギャルJK星が言ってたな。



『ゆーちゃんさ、体震えてたっしょ? あれ、ゆーちゃんがキレる寸前の合図な。 大抵のことではゆーちゃん動じないから』



 てことは杉浦の親が初めてウチに突撃しに来ていた時、もしオレが割って入らなければあの時にダーク優香が出ていたってことなのか。

 ーー……もしかしたらそっちの方が杉浦を潰す最短ルートだったのかもな。



 ふと時計を見上げると結構な時間。

 明日も早いのでオレはシャワーを浴びようと脱衣所へと向かい、あまり何も考えずに上着を雑に脱ぎ捨てる。

 すると……



 チャリン



「え」



 音がしたので床を見てみると、そこにはまさかのブレスレット。 持ち上げてみると上着の後ろ襟の少し糸がほつれた僅かな隙間にギリギリの範囲でひっかかっていた。

 


「いや……奇跡かよ」



 これじゃあ一緒に探してくれた優香国の民たちには悪いけど、見つからなかったのも仕方ないわな。

 ていうか見た感じ、傷も全くついていない。


 まさにダブル奇跡!!


 オレは安堵のため息をつくとそれを持って優香の部屋へ。

 寝ている優香の枕元にそっとブレスレットを置き、部屋を後にしたのだった。




 

今回もお読みいただきありがとうございます! 

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感想やブックマークもお待ちしております♪


ギャルJK星回と思わせたまさかの優香回でした!

次回、ダイキは優香とどう接するのでしょうか!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 姫ぇぇ。惚れやしたわ。一生ついていきます。作者さんありがとう
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