164 お姉ちゃん!?【挿絵有】
百六十四話 お姉ちゃん!?
「……ねぇお姉ちゃん、大丈夫?」
家に帰るために駅へと向かっている途中、オレは隣を歩く優香を見上げる。
「ーー……」
返答なし。
意識はあるのだが、さっきから心ここに在らずと言った様子でどこか遠くの方をぽやーっと眺めている。
なんだろう……買い物に行くときよりも酷くなってないか?
ギャルJK星はオレが今朝「可愛い」って言ったことに対して浮かれてる……とか言ってたけど。
「お、お姉ちゃん?」
大きめの声で呼びながら優香の腕を引っ張ってみると、ようやく気づいたのか少し慌てた様子でオレに視線を向けた。
「え、あ、ごめんダイキ。 お姉ちゃんちょっとボーッとしてたみたい」
「大丈夫?」
「う、うん。 あれかな、美咲が言ってた通りお姉ちゃん浮ついちゃってるのかな」
優香は微笑みながら腕にはめたブレスレットを見つめる。
もしかして疲れてるんじゃないのか?
たまにめちゃめちゃ疲れた時とかそうなるよな。
前の人生でサラリーマンをしてた時は電車通勤だったのだが、そこでも帰りの時間とかたまにどこか遠い目をしながら乗ってくる人生の先輩たちがいたもんだ。
ここは少しでも優香に楽をさせてあげないとな。
「お姉ちゃん、それ貸して」
オレはそう言いながら半分ずつで持っていた買い物袋を優香から力づくで奪い取る。
「え、ダイキ?」
「オレが全部持つよ」
「いやでも……」
「大丈夫だって。 お姉ちゃんきっと疲れてるんだよ。 だからここはオレに任せて」
たまにはこうハッキリと伝えるのもいいものだな。
優香もそれ以上オレに構おうとせず、「じゃあお願いしていいかな」と素直に頼んできた。
よし、駅まではあと少し。
ちょっと重いけどここがオレの踏ん張りどころだぜえええ!!!
オレは1人心の中で気合いを入れ、結構な重さの買い物袋を両手で持ちながら駅へと向かったのだった。
◆◇◆◇
それは駅まであと一歩と言うところ。
オレがヒィヒィ言いながら優香の隣で歩いていると、後ろから「福田さん」と声をかけられる。
「ん?」
振り返るとそこには高校生だろうか……制服を着た男が1人と大学生っぽいチャラけてヒゲを生やした男が1人。
視線はオレではなく優香へと向けられている。
なんだこいつら……。
高校生っぽいやつは大きめのリュックを別に背負っていることから恐らくは運動部……そしてチャラけたヒゲ男はその先輩といったところか?
優香に視線を移してみると彼らの声が聞こえていないのかトボトボと駅の方へ。
あいつら苗字で呼んでたし人違いではないと思うけど、別にオレが優香に気づかせる義理はないしな。
オレはすぐに体を駅の方へと向けて優香のもとへと駆け寄った……その時だった。
「福田さんってば!!」
突然高校生が後ろから優香の肩を掴み体を無理やりあいつらの方へと向けさせ、それに驚いた優香「きゃっ」と小さく声を漏らす。
なんだあの小僧おおおおお!!!! 優香に気安く触りやがってえええええええ!!!!
オレはすぐさま体の向きを反転。
優香を渡すもんかとオレも優香の腕に手を伸ばす。
「ーー……あ、木下くん?」
優香が目をパチクリさせながら視線を小僧に向ける。
え、知り合い?
オレは腕を掴む寸前で動きを止めて優香を見上げる。
同じ学校なのかな。
木下と呼ばれるその小僧は優香の体を自身の方へと向けさせるとその汚い手を離してコホンと咳払い。 その後優香を見つめる。
「えっと……木下くん? 何かな」
「福田さん、俺と付き合ってくださいお願いします!!!!」
ーー……!?
木下が優香に深く頭を下げて手を差し出す。
こ……これはどういった状況なんだーー!?!?
オレは脳を混乱させながらもとりあえず視線を優香に向ける。
すると……
「ごめんなさい!!」
即答だあああああああ!!!!!
優香は木下の交際の申し込みを間髪容れずに拒絶。
木下と同様頭を深く下げるとすぐにオレの手首を掴んでと体の向きを反転。 早足でその場から離れようとする。
「お、お姉ちゃん!?」
「ごめんねダイキ。 早く帰ろうね」
「わかったけどちょっと落ち着いてよ。 荷物が落ちちゃう」
「うん、じゃあそれ半分持つから早く」
「えぇ!?」
いつもの優香っぽくないぞ?
なんというか……内心焦ってるように見えるというか。
木下という小僧のことも少しは気にはなるが、所詮は優香を気安く触った愚か者。 その場でフラれたショックを味わっていればいいさ!
オレはすぐに木下のことを頭から消去して必死に優香の後ろをついて行ったのだが……。
「ちょっと待てって!!」
「うぉあっ!!」
なぜか後ろから追いかけてきた木下がオレのランドセルを引っ張りオレはその場で尻餅をつく。
なんだこいつと思いながら木下を見上げるもオレには眼中になし。 そのまま優香に詰め寄っていく。
「おいちびっ子ー、大丈夫か?」
ヒゲ男がため息をつきながらオレに手を差し伸べる。
「え?」
「あいつさ、たまに周囲が見えなくなるから困るんだよな」
「ダイキ!」
優香が木下に掴まれていた腕を無理やり払いのけてオレのもとへ。
オレに覆いかぶさるように抱きしめながらヒゲ男をキッと睨みつける。
「え、あーー、すまん。 弟くんだよな」
ヒゲ男は両手を小さくあげて数歩後退。
その後面倒臭そうに首を左右に振る。
「ダイキ、大丈夫!?」
「うん、大丈夫だよ。 あとあの人、オレを助けようとしてくれたんだ。 だからそんな目向けないであげて」
「ほんと?」
「うん。 だってほら見てよ。 今だってあの人、こっちに向かってこようとしてるあの高校生を止めようとしてるじゃん」
ヒゲ男に視線を向けると木下の腕を引っ張りながら「ほら、もういいだろ。行くぞ」と気だるそうに声をかけている。
「ーー……とりあえずダイキ、今のうちに帰ろっか」
「う、うん」
こうしてヒゲ男が木下を引き止めてくれている間にオレたちは彼らの隣を通り過ぎて駅に向かおうとしたのだが……
「ーー……あれ」
突然優香が動きを止める。
「お、お姉ちゃん?」
「ない」
「え?」
「ダイキからもらったブレスレットがない!」
優香が声を震わせながら周囲を激しく見渡す。
オレも優香とともに注意深く地面を見渡していると……
「あ、お姉ちゃん! あそこ!!」
なんという神の悪戯だろうか。
優香にプレゼントしたブレスレットは不運にも木下の足下に。
おそらくあの時……優香が無理やり木下に掴まれていた腕を振り払った時に外れてしまったのだろう。
「!!」
優香は迷わず全速力で木下のもとへ。
制止させているヒゲ男の背後……足の間から腕を突っ込んみブレスレットへと手を伸ばす。
優香の指がブレスレットまであと少し……しかしそう簡単にことを進ませてはくれなかった。
ブレスレットに気づいた木下が「ちっ」と舌打ちをしながら思い切りブレスレットを蹴り上げる。
「あぁっ!!」
高く宙を舞ったブレスレットは夕陽の光に照らされながらキラリと光る。
その反射があまりにも眩しかったためオレも優香も一瞬視線を下へ。 それによりどこに落ちたのか所在不明になってしまう。
再び地面に視線を集中させて隈なく探すも今度はどこにも見当たらない。
ーー……マジか。
無くなったのは残念だけど、こればかりはもうどうしようもないぞ。
このまま探そうとしても今はもう秋も暮れ。 すぐに周囲が暗くなって見つけることはできないだろう。
オレは優香を連れて帰ろうと優香のもとへ足を踏み出した……その時だった。
「あれ、ダイキじゃん。 まだいたの?」
「え?」
声のした方に顔を向けるとそこにはギャルJK星の姿。
「ほ、星さん? バイトは?」
「んー。 なんか今日は暇で帰っていいってなったからお言葉に甘えて帰ることにしたんだけど……、あれ、ゆーちゃんと……あそこにいるのって木下?」
ギャルJK星が目を細めながら2人を眺める。
「なんかゆーちゃん様子変だね。 どうしたの?」
「あぁ……実は……」
オレは何があったのか簡単にギャルJK星に説明をする。
するとギャルJK星は「マジで!?」と大きな声を上げるとオレの隣でしゃがみこむ。
「ダイキ、あいつだよ」
「え?」
「ほら、ゆーちゃんといい感じだったって男の子」
「ええええええ!?」
オレは目を大きく見開きながら木下をガン見する。
「アタシもちょっとだけ心配してたんだよねー」
ギャルJK星が小さく呟く。
「なんで?」
「いやさ、木下ってまぁ普通にしてたらサッカー部でイケメンで好青年なんだけど、試合に負けた時とか豹変するって聞いてたからね」
「ーー……そうなの?」
「うん。 詳しくは知らんけどミスったチームメイトに陰でボロカス言うらしいべ。 それも噂で信じてる人はごく一部だったんだけど」
あ、あぁ……そういうタイプね。
「だからゆーちゃんが告白を断ったって聞いた時は結構心配したもんさ。 まぁでもその後何もなかったから大丈夫だったんだって思ってたんだけど……」
「な、なるほど」
オレがギャルJK星の話を聞いていると木下が優香に汚い笑いを飛ばし始める。
「ハハハハハ!! 福田、お前が俺の告白を受けてればこんなことにはならなかったんだよボケが! 今からでも遅くない、俺と付き合え! そしたらさっきみたいなあんな安っぽいゴミよりももっと高価なヤツを俺がプレゼントしてやるからさぁ!!」
ーー……なんだと小僧。
木下の言葉がオレのブチギレゾーンに触れる。
さて、これはどう始末してやろうか。
この場面を動画にして流す……いや、そしたら優香も写ってしまうな。
あえてオレが突撃して殴られて警察沙汰にするか?
……いや、高校生の力は結構危険だ。 オレが病院送りになってみろ、優香が壊れてしまうかもしれない。
考えろ……奴を消す方法を。
いろんな方法を脳内で巡らせているとギャルJK星が「ゆーちゃん?」と声をかける。
ん?
オレも視線を優香へ。
すると……
「ーー……!!」
優香の身体が細かく震えている。
あんな姿を見るのは前に杉浦の親が初めてウチに突撃してきていた時以来だ。
「お姉ちゃんっ!」
オレは買い物袋をその場に置いて優香のもとへ走り出す。
「ちょい待ちダイキ!」
「え!?」
そんなオレの腕をギャルJK星がガシッと掴んでそれを阻止。
ゴクリと喉を鳴らしながら優香をジッと見つめている。
「ちょっと……星さん!?」
「ダイキ……これちょっと危ないかもしれないね。 ちょっとこっち下がってるべ」
「え!?」
ギャルJK星がオレの腕を引っ張りながら数歩下がる。
「いやでも星さん、お姉ちゃん泣いて……!」
「いや、あれは泣いてないよ。 てかダイキ、目、瞑っとくか?」
「な、なんで?」
「まぁいいや。 一応アタシからのお願いな。 今から何見ても、ゆーちゃんのこと幻滅すんなよ」
「?」
ギャルJK星が真剣な眼差しをオレに向ける。
一体何を言って……。
そう考え出したとほぼ同時。 優香がストンと肩を落として冷たい視線を木下へと向ける。
「あーあ、もうめんどい。 めんどいめんどい……」
ーー……!?
優香はそうボソボソと呟きながら一歩、また一歩と木下のもとへ。
「もう怒らないって決めてたのになぁ……。 不安な思いさせたくないからしっかりしたお姉ちゃんでいようって決めてたのに。 ぜーんぶ君のせい。 君のせい、君のせい……」
優香は自身のブレザーのボタンを外して髪をワシャワシャと掻き乱し、「はぁーっ」と大きな息を吐きながらヒゲ男に制止されたままの木下に顔を近づける。
「ちょ……え、星さん、あれって……?」
「ほら、前にゆーちゃんがギャルだったって話したでしょ?」
「うん」
「あの時のゆーちゃんが出ちゃったんだなー。 あーなるとアタシでも止めらんないわ」
「ーー……え?」
「ねぇそこのヒゲ」
優香がヒゲ男を冷たく睨む。
「は、はい」
「もういいよ、巻き込まれたくなかったら早くここから逃げることをお勧めするかな」
「え、何言って……」
「忠告したからねぇー」
そう言うと優香はスマートフォンを取り出して何かを打ち込むとすぐにそれをポケットの中へ。 その後ニヤリと笑みを浮かべながら親指を立てるとそれを横に倒し、首元から外側へと平行移動させて2人に向けてこう言い放った。
「はい、しょけー」
するとどうだろう……ものの数分で木下たちの周囲には老若男女問わず多くの人だかりが発生。
その全員が木下たちへ敵意を剥き出した視線を送っていた。
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