151 真実の姿
百五十一話 真の姿
「えっと……なんでオレなのかな」
まさかの水島からの告白?を受けたオレは水島に尋ねる。
すると水島は「ははっ」と乾いた声で笑いながらその場で胡坐をかいて座り込んだ。
「そこは素直に喜んでウンって言っとけよー」
「え」
今オレの瞳に映る水島は普段のキラキラ輝いている『学校のマドンナ』とはかけ離れたまるで真逆の存在。
「み、水島さん?」
「まぁ……福田くんには拒否権なんてないんだけどさ」
そう言うと水島はゆっくりと腕をあげてまっすぐオレを指差す。
「それはえっと……なんで?」
「福田くんってさ、今私の見立てでは一番キテる男子なんだよね」
「え?」
「女子たちの間でもたまに話に上がってるよ?」
「ーー……何が?」
「福田くん、杉浦くんを倒したんでしょ?」
ーー……は?
何を意味のわからないことを言ってるんだと思いながら水島を見ると顔は至って真面目……何がどうなってそうなってるんだ?
「えっと……どうしてオレが杉浦くんを倒したって?」
「だってそうじゃない。 最近まで杉浦くん……事あるごとに福田くんをいじめようとしてたのに、ある日を境にぱったりといじめなくなったでしょ?」
「ーー……うん」
「てことは返り討ちにして逆に黙らせたってことじゃない」
あーー、そうか。 杉浦のやつあのショッピングモールでのこと誰にも言ってないんだな。
まぁそうだよな……イキってる自分の兄のピンチを自分がいじめてたインキャに助けられたなんて、口が裂けても言える訳ないわな。
それでオレに手出ししなくなった杉浦を見て、みんなはオレが杉浦をボコボコにしたって勘違いしてるのか。
「それでさ、私ってほら、学校のマドンナって言われてるじゃない?」
水島は自らの胸に手を置きながらオレに尋ねる。
ーー……自分で言うのかよ。
「少し前までは杉浦くんが一番強そうだったから媚び売って相手してあげてたんだけどさ、まぁ女子人気ってあんまりないわけよ。 暴力的だしね」
「ーー……はぁ」
「多分、杉浦くんのこと好きな女子って斉藤さんと瀬川さんくらいじゃなかったかな」
あー、そういやそんなブスいたな。
確かアレだ……ドSの女王小畑の虚言に騙されて杉浦に告白した挙句、2人とも玉砕したんだよな。
「まぁだから杉浦くんとは付き合うまではしなかったんだけど……もし今私が福田くんと付き合ったらさ、結構な子が嫉妬しそうじゃない?」
「ーー……そうなの?」
「そりゃそうでしょ、佳奈ちゃん美波ちゃんとか。 麻由香ちゃんはどうなのか分からないけど……あと、エマさんも嫉妬に狂うと思うんだよね」
そう言うと水島はその場で四つん這いになりゆっくりとオレの目の前へ近づいてきて指をオレの唇に添える。
「マドンナは人気になりつつある男子と付き合ってるもの……だから黙って私と付き合え?」
水島はオレを見上げながらニヤリと微笑む。
「福田くんも嬉しくない? 学校のマドンナである私と付き合えるんだよ? そうなったら今までのインキャ生活からは一転……マドンナと付き合ってる彼氏として周りからも特別な目で見られる。 どう? 夢のようでしょ」
「いや、でも……」
「拒否したら佳奈ちゃんや麻由香ちゃんとの密会のこと、クラスのみんなにバラすよ?」
「!!!!」
水島が「フフ」と笑いながらゆっくりと立ち上がる。
「まさか……あの時の手紙も全部……」
「そう、私。 どうだった? いつみんなにバラされるかわからなくてヒヤヒヤしたでしょ」
そう言うと水島はニヤニヤと笑いながらオレの目の前でパンツを脱ぎ始め、脱ぎたてほやほやパンツをオレの前に放り投げる。
「もし福田くんが断ったら、佳奈ちゃんたちのことをバラすのはもちろんだけど、こんな人気のない場所で私を襲おうとしたって……先生に言っちゃおうかなー」
「!?」
オレは目の前に落ちた水色レースっぽいパンツから水島へと視線を移す。
「いや、でもそれは水島さんが……!」
「クラスのインキャと学校のマドンナ……、無実を主張する男と下着を剥ぎ取られた女……世間の多くは誰を信用するんだろうね」
「ーー……!!」
「ここには佳奈ちゃんたちもいない……だからこっそりとこの光景を写真撮ってくれる人もいないね。 前に杉浦くんたちに体育倉庫裏に連行させられてた時みたいにさ」
……!!!!
オレは転校してきてすぐのエマが助けに来てくれた日のことを思い出す。
確か夏休み明け……三好と多田に杉浦たちがオレをいじめてるシーンをこっそり撮ってもらおうとしていたのだが、確かその時に水島が三好たちに大きめの声で話しかけて邪魔してきたんだった!!
「まさか……あれも分かってて?」
そう水島に尋ねると水島は「うん」と優越感に浸りながら頷く。
「あの時は退屈だったから、そろそろ福田くんボコボコにされてもいいんじゃないかなって思ってさ。 そうなったら佳奈ちゃんたち伏兵が邪魔でしょ? だから声かけて邪魔したんだ。 まぁあの後にエマさんが助けに入るのは想定外だったけど……」
水島は当時のことを思い出して軽く舌打ちをする。
なるほど、そういった危険性を考慮して学校ではなくこのイベント中にオレに接触を図ったと。
そして三好たちからオレを完全に引き離し、こうして人気のない場所にまで誘導してオレを脅しにかかってきたってわけか。
ーー……なかなかやるな。
「とまぁそんなわけだしさ、とっとと私の告白を受け入れなよ」
そう言うと水島はオレの頭を掴んで地面に顔をなすりつける。
ーー……まぁ下は落ち葉の絨毯になってるから全く痛くもないんだが。
「ーー……いいのか? そんなことしたらオレが水島さんにいじめられたって逆に言うぞ? この顔の汚れを見たら流石にみんな……」
「その時は襲われた時に抵抗したって言えば済む話だよね」
こ……こいつ。 今までの奴みたいに簡単なハッタリが通用しねえ。
そういえば前にエマが手紙の犯人は知能が高校生並みかも……みたいなこと言ってたな。
「それで、ほら……返事は?」
水島が勝ち誇ったような声でオレに尋ねる。
「水島さん……いや、水島」
「なに?」
「残念だったなぁ!!」
オレは無理やり顔を動かして水島を見上げる。
パシャリ
誰もいないこの静かな雑木林の空間でカメラのシャッター音が響き渡る。
「ーー……!! まさか福田……!!」
この音に水島は即座に反応。
オレのポケットの中に手を入れて中を漁り始める。
ーー……しかし
「え……あれ、スマホが……入ってない!?」
「おいおい水島ぁ、ズボンのポケットの中に手を入れるんだったら、もっとその先にあるものも掴んでくれよー!」
そう言うとオレは水島の腕を一本……それもオレのポケットに突っ込んだ状態のまま掴んでロックして、水島のポケットからスマートフォンを抜き取り電源をつける。
ーー……なるほど、完全に勝つと踏んでいたのだろうな。
動画も音声録音も何も起動していないようだ。
「すまないな水島、お前がオレと三好たちのことを言うまではまだ完全には信じていなかったのだが……お前がオレに何かをしようとしていることは事前に分かりきっていた。 だから先手を打たせてもらったよ」
「!?」
水島は完全に動揺しているご様子。
周囲を見渡しながら「誰!?」と叫んでいる。
「とりあえず、お前がオレに告白してきた辺りからの動画も撮らせてもらっていた」
「だから誰に!?」
「お前は完全にオレと距離の近い人間を引き離せていたと思っていたのだろうが……いたんだなぁ、これが」
そう水島に伝えたオレが近くの小さな茂みに視線を向けると、それを合図にそこに隠れていた伏兵がゆっくりと立ち上がりガサッと音を立てながら茂みの中から出てきたのだった。
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綺麗な花には棘がある……気をつけよう。。




