148 オカルト少女の正体!
百四十八話 オカルト少女の正体!
流石にこんな深夜まで起きている生徒はいないと思ったのだろう……見張りの教師たちもおらず、ホテル内の廊下は静寂に包まれていて誰1人すれ違うことなくオレは謎のオカルト少女・与田美香のすぐ後ろをついていく。
ていうかここ……女子たちが泊まってるエリアじゃねえのか!?
すると美香がとある部屋の前に立ち扉に手をかける。
「お、おい大丈夫なのかオレ入って」
「問題ない」
そういうと美香は扉を開けて中へ。
一瞬身構えるも、いつ誰かがトイレなどで部屋から出てくるかわからない。 オレは考える暇も与えられずにその部屋の中へと入った。
◆◇◆◇
中に入ったオレは周囲を見渡す。
「ーー……おい、他のルームメイトはどうした?」
中には二段ベッドが両サイドに2つ並べられているのだが、いるのはオレの目の前で立っている美香のみ。
美香はゆっくりとオレの方を振り返る。
「いない。 もともと美香だけ」
「え?」
「ーー……ていうか、そろそろ気づかない?」
こいつは一体何を言って……。
美香はゆっくりと窓際へ。
カーテンを勢いよく開けると月の光が中へと入り美香を照らす。
「ワシじゃよワシ」
「ーー……!!!!」
突然あの無表情だった美香がニヤリと笑い、窓にもたれかけながら親指を立てて美香自身を指す。
「わ……ワシ!?」
な、なんだオレをからかっているのか!?
もしかして中に誰もいないのはベッドの下とかに隠れたりしていて、驚くオレの反応を見て楽しむため!?
そう思ったオレはすぐにベッドの下を確認するも誰もいない。
「じゃからワシじゃって」
「ワシってなんだよ……お前さっきまで自分のこと美香だって……」
「転生してからの生活は快適かの、福田ダイキ……いや、森本伸也と言った方が分かるかの?」
「ーー……!!!」
オレの脳内であの出来事が一気に蘇る。
「ま、まさかお前……天界でお世話になった……あの神様なのか!?」
オレは腕をガタガタと震わせながら美香を指差す。
「そうじゃ」
「ええええ、な、なんで神様が! ーー……はっ! まさか今履いてるイチゴのパンツって!!」
オレが視線を美香の下半身へと落とすと、美香はニヤリと笑みを浮かべる。
「お、気づいたかのダイキ。 そうじゃ、これはお主が転生と条件にワシにくれたイチゴパンツなのじゃ!!」
神様……美香はドヤ顔でスカートをたくし上げ、タイツ越しに見えるイチゴパンツをオレに見せつける。
ーー……!!!
だから……だからか!!
あのとき渡したパンツは所詮は付録……本物にあるはずの、生地のリアルさがなかったから変に感じたんだ!!
オレは最初に美香のパンツを見た時の違和感に納得する。
「それで……なぜワシが天界からこの地に降りてきたのか。 理由は分かるか? 福田ダイキ……いや、ダイキ」
「ーー……え?」
神様が天界から降りてきた理由?
「ーー……も、もしかしてオレの魂を引き剥がしにきたとか?」
わざわざオレの目の前に現れたのだ。 理由はそれしか考えられないのだが……。
「違うわ」
「ああああ良かったあああ……!!」
安心からか腰が抜けたオレはその場でぺたりとしゃがみこむ。
「じゃあなんで?」
「それはのう」
「それは……?」
ゴクリ。
オレは生唾を飲み込みながら美香を見上げる。
「天界からお主を見ておると羨ましくて仕方なくなったからなのじゃあああああ!!!!」
「えええええええええええ!?!?!?」
◆◇◆◇
「ーー……で、どうじゃこの女子は。 可愛いじゃろ」
少女の姿をした神様(もう美香と呼ぶぞ)……美香はうっとりした表情で自身の体をまじまじと眺める。
「そ、その子も魂がどこか行った……とかそんな感じなの?」
「いや、ワシが創造したのじゃ」
「そ……創造!?」
「そりゃあそうじゃ。 まぁこれはもちろん天界でも禁忌なのじゃが、まぁこの程度バレはせんよ」
オレの前で神様の魂の入った美香が腰に手を当てて「あっはっは」と笑う。
ーー……見た目に似合わねぇ笑い方だな。
「それにしても、ワシの魂の入ったこの子の名前……与田美香を名乗ったときにお主なら気づくと思っていたのじゃが……」
美香が大きくため息をつきながらオレをみる。
「いや、どこで気付けってんだよ」
「反対から読んでみぃ」
「ーー……反対から?」
えっと、こいつの名前が与田美香。よだみか。
反対から読むとーー……
「かみ……だよ……。 神だよ?」
「その通り正解じゃ!! ほら、分かりやすかろう!!」
「わっかんねえよ!!!!!」
オレは思わず神である美香にツッコミを入れる。
「おかしいのう……少し前までは右から文字を読んでおったからしてすぐ分かるはずだったのじゃが……」
「ーー……それでオレが羨ましいって何が?」
オレは神様の小言を無視して問いかける。
「そんなの決まっておろう!! お主、女子小学生の下着を見たり蹴られたり……女子高生の着替えを見たり一緒にお風呂に入ったり……どんだけラッキースケベ……いや、ラッキー変態なんじゃ!!」
美香が悔しそうにバシバシとベッドを叩く。
「ワシはもう天界でムラムラが限界での……! 仕方なく禁忌使ってこっそりと女子小学生として生活することにしたのじゃ!」
「な……なるほど。 てことはもしかして、同じクラスの子達が与田美香のことをあまり知らないのも……」
「その通り!! ちょちょいとお主の学校の人間の記憶をいじらせてもらったんじゃ!!! ちなみにワシがこの地に降り立ったのはつい先ほど……お主と会話した時じゃよ。 いやー神の世界と近い場所にあるこの山を選んでくれたお主の教師たちには感謝じゃわい!」
ま……まさしく神の所業じゃないかああああああ!!!
「ーー……それをわざわざ伝えるためにオレを?」
だとしたらとんだ暇を持て余してる神様ってことになるぞ?
他に何か理由があるはずだと感じたオレは一旦テンションをリセットして美香に尋ねる。
するとーー……
「まぁそうじゃな。 実はお主にはお礼も言いたかったのじゃ」
「ーー……お礼?」
「そうじゃ」
美香はさっきとは一転、慈愛に満ちた笑みをオレに向ける。
「それは……なんの?」
「お主、先ほどの夢は覚えておるか?」
「夢……。 ーー……!」
いい感じに記憶から消えてたのに思い出しちまったじゃねぇか。
オレの脳内で多田がホームから足を踏み外す映像が流れ出す。
「あれはお主があの多田麻由香という人間と深く関わっていなかった場合での結末じゃ」
「ーー……!」
突然の真面目トーンの言葉にオレは姿勢を伸ばし、真剣に美香の話に耳を傾ける。
「オレが関わっていなかった場合の結末……」
美香は再び「そうじゃ」と頷くと、その言葉を続ける。
「本来あの少女・多田麻由香の命は残り僅かの運命じゃった。 ダイキ、お主は最近、彼女を家に泊めてあげたことがあるじゃろう」
「ーー……うん」
あのときだよな。
三好が1日お嫁さんをしにきた日の夜だ。
確か家に帰りたくないから……という理由でうちに来たんだ。
「それでその夜お主、何やら面妖な履物を彼女に履かせなかったか?」
「ーー……あ、はい」
オレの相棒・白鳥パンツだろ?
「その行為が彼女の消えかけていた命の灯火に再び勢い……『力』を与えたのじゃ」
美香がビシッとオレを指差す。
「ーー……は?」
口をポカンと開けているオレを無視して美香は話を続ける。
「その時じゃ、その時にその……ワシの口から言うのも恥ずかしいのじゃが……彼女はそこで俗にいう【快楽】を覚えたじゃろう?」
「あー……はいはい。 わかりますよ、あれですね」
オレの言葉に「うむ」と美香が少し顔を赤らめながら頷く。
「あの日以降彼女はあの【快楽】を毎晩していたことでかなり弱ってきていた精神疲労を回復し、その結果自我を強く保つことが出来るようになったことで、あの悪夢の結末を迎えずに済んだのじゃ」
「ーー……ま、マジですか」
「うむ! 大マジじゃ」
な……なんだってえええええええ!?!?
嘘じゃないもんな、だって神様だから多田が泊まりにきたことも、めちゃめちゃ汗かく【マッサージ】を覚えたことも知ってるんだもんな。
まさか……まさかあの何気ないエロいいたずらが多田の運命を救っていたなんて……。
「おかげでワシも他の神に鼻が高いわい!! なんせ命の灯火を復活させることは並大抵のことではないからの!」
そうか……良かったな多田。
オレはあの悪夢を見なくて済むと知ってホッとため息をつく。
「あ、ちなみにお主が先の運命を変えたのは、それだけではないぞ?」
「え」
美香を見上げると美香の顔はやはり満面の笑み。
しかしどこか神々しい……やはり神様の魂が入っているからだというのだろうか。
ーー……ていうかオレ今、神様に褒められてんだよな。
そう考えると無性に嬉しくなってくる。
「それで神様……いや、美香、それだけではないって?」
美香は「うむ」と答えると軽く咳払い。
その後指折り数えながらオレの成した偉業を口にしていく。
「例えばお主の姉・優香ちゃん」
「ーー……優香?」
「優香ちゃんは本当にお主を心の支えとして生きておる。 お主が優香ちゃんの行為に色々と遠慮して全てのことを1人でやっていた場合……ストレスの限界を超えた優香ちゃんは非行に走り、今頃それはそれは悲惨な結末を迎えていたじゃろう」
ーー……。
確かに優香の弟であるオレへと向けられる愛がたまに大きすぎるんじゃないか……と思ったこともあるが、マジか甘えちゃっててよかったんだ。 ……非行……走らなくてよかったぁ。
その後に美香が教えてくれたIFの話は他にはこんな感じだ。
三好佳奈はオレに弱みを握られて大人しくしていなければ、その行為は徐々にエスカレート。
小学生の頃は大丈夫らしいのだが、中学でいきすぎたイジメをしてしまい、被害者が自殺。
遺書に三好の名前が書かれていたことから三好の加担が発覚し、一家揃って田舎へとこっそり移住……そこでも噂は消えず、それに耐えきれなくなった両親が自殺。
兄にそのことを酷く責められ、精神崩壊を起こした三好はある日崖の上に立つらしい。
小畑美波のターニングポイントはかなり新しい……あの女の子の日とのこと。
オレが見つけず保健室に運ばなかった場合、無理をしてでも小畑は授業へ。
そしてその授業中、女の子としてとても耐えきれない屈辱を味わうこととなり、耐えきれなくなった小畑はそこから不登校。
そのまま中学に上がっても引きこもり生活は続き、理想としていた自分とかけ離れている今の自分に絶望した小畑はある日突然家を出てそのままどこかの森の奥深くへと消えてしまう……とのことだ。
他にも西園寺はきわどい写真をSNSに送り続けた結果、小六に上がってすぐに身バレして一家崩壊。 責任を感じてロープを手に。
エマはオレが小山楓の魂が入ってることを信じなかった場合、オレがエルシィちゃんともあまり仲良くなることなく事が進み、すべてのストレスが溜まった同じ日にエマが倒れる。
しかしエルシィちゃんもオレとの関わりがないため助けを呼べず……結果全てが手遅れになっていたという話だ。
「ーー……ま、マジかよ」
もしこれが神様の作り話なら、縁起でもねえよとブチギレることも出来るのだが、全て実際に起こったことが元になっていることから何も言い返せない。
そして何より驚いたのは結城だ。
なんというかデスゾーンが何度もあったというか……。
1つ目はオレが自ら西園寺たちにいじめてもらいたくて結城の身代わりになったこと。
もし変わっていなかったらもう苦しむのは嫌だと車にダイブ。
2つ目はあの夏の夜、オレと優香がコンビニ帰りに発見していなかったらその日に熱中症を起こして手遅れに。
そして3つめは夏休み。
美香は詳しく教えてはくれなかったが、オレや優香がダイキの実家へ結城を連れて行かなかった場合、家の中で亡くなって発見されていたらしい。
ちなみに結城にはまだいくつかデスゾーンが残されているとのこと。
「ワシも結城ちゃんを見ている間に情が湧いてしまってな。 こう言ってはなんだが、結城ちゃん……かわいいのう」
美香が静かに笑いながら窓の外の景色へと視線を移す。
「え、なに、恋した……とか言わないよな?」
「ふふ……だとしたらどうするダイキ」
美香は挑戦的な笑みをオレに向ける。
ーー……は?
「はああああああああ!?!? 流石に結城は譲らんぞ!! 結城はオレのドラフト1位なんだよ!!」
「あーーどうしようかなーー!! ワシ神だから、結城ちゃんとラブラブになるイベント強制的に作っちゃおうかなーー!!」
こ……この中身ジジィ風情がぁ!!!!
「よ、よし分かった! なら……これで手を引いてくれないか!?」
神様相手に正攻法では通用しないと感じたオレはポケットの中からとあるものを取り出す。
「それは……何じゃ?」
「天から見てたなら分かるだろう。 エマの……リップだ。 もちろん使ってたやつな」
「ーー……!!!!」
美香の表情に衝撃が走る。
やはりこの神様はオレの大学時代からの親友・工藤と同じでロリコンだ。
狙い通りエマのリップに食いついてきたな。
「エ……エエエエエマちゃんのか!?」
「あぁ。 あのプルプルの唇に触れていた世界的にも価値のあるリップだ」
オレはいつぞやの挑戦的なエマを真似してリップを左右に振りながら美香に見せつける。
「ちょ……ちょっとだけ! 見るだけ……いや、嗅ぐだけでいいのじゃ!! そのフタを開けて見せてくれ!!」
「はーいダメでーす!! これは取引成立しないと拝めませーーん!!!」
美香は顔を真っ赤に染めながら「ぐぬぬ」と唸る。
そして……
「背に腹は代えられぬか……分かった。 ワシは結城ちゃんを諦めよう。 故に取引を受け入れる」
「っしゃああああああああ!!!」
オレは美香と固い握手を交わした後、約束通りエマのリップを美香に渡す。
「これが……これがエマちゃんの唇に触れていたリップか!」
「あぁそうだ。 どうだ神々しいだろう」
「よしダイキ、今後もワシはこの体で周囲に溶け込んで生活する故、何かあったらワシを頼るが良い!! ではな!!」
美香が急いで話を終わらせて部屋を出る。
早くそのリップ使いたいのがバレバレだぜ……てかここお前の部屋じゃなかったのかよ!!
「あー待って美香!」
「なんじゃダイキ!!」
美香が息を荒げながらオレを振り返る。
「何で美香、最初あんな無感情で端的な話し方だったんだ?」
すると美香は立ち止まってコホンと咳払い。
その後ゆっくりとオレを見つめる。
「決まってる。 それが美香の、理想の姿」
ーー……あ、なるほどね。
中々いい趣味してんじゃねえか。
◆◇◆◇
その後足音に気をつけながら自室へ帰還したオレはスマートフォンを確認する。
午前3時……起床時間が7時半だからまだ十分に寝られるな。
オレは背伸びをして横になり、目を瞑っては見たのだが……
「グギガガアガガガ!!!」
「ゴガアアアア!! ゴガアアアアア!!!」
クッソ!!!
こいつらのいびきがうるさいの忘れてたぜええええええ!!!!
結局オレはこいつら……モブA・Bのせいでグッスリとは寝られず。
なのでオレはエマにひっそりとメールを送っていたのだった。
【送信・エマ】またリップくださいお願いします。
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