144 きっかけはエロ漫画!【挿絵有】
百四十四話 きっかけはエロ漫画!
「うん、知ってたよ」
「え」
金曜の夕方。 来週に宿泊学習があることを優香に尋ねたところ、優香は何故かそのことを知っていたようだ。
「えっと……なんで?」
「桜子ちゃんが教えてくれたんだよ」
「結城さんが?」
「うん、先々週だったかな……ほら、私っていつも金曜日になると桜子ちゃんとスーパーで待ち合わせてから帰るでしょ?」
「うん」
「その時に聞いたんだよ」
「ーー……なるほど」
どうやらオレだけが担任の話を聞いていなかっただけのようだ。
「それでさ、桜子ちゃんが宿泊学習に必要な物がリストアップされてるプリントみたいなの持ってきてたからダイキのも一緒に買っといたよ」
「え、そうなの?」
「うん。 ほらそこ」
優香がソファーの後ろに置いてある紙袋を指差す。
そういや最近あれ置いてるからなんだろうなーとか思ってたけど、オレのやつだったのか!!
「えっと……なんかその、ありがとう」
「ううん、お礼なら桜子ちゃんに言ってあげなね。 桜子ちゃんが教えてくれなかったらお姉ちゃんも用意してあげれなかったし」
優香が結城の今いるオレの部屋へと視線を向ける。
「いや、それでも買ってくれててありがとう」
「ダイキはプリント貰わなかったの?」
「んーー、どうだろ。 全然記憶にない」
「まぁでもよかったね桜子ちゃんがいてくれて」
「うん」
「ダイキは桜子ちゃんと結婚したら将来安心かもね」
優香がテーブルを拭きながら冗談ぽくオレに微笑みかける。
「えぇ!?」
「だってそうじゃない? 桜子ちゃんは料理も出来るしよくお手伝いもしてくれるし……後ほら、ダイキってああいった感じの大人しい子が好みなんじゃないのかなーって」
「い……いやいやいやいや!! 何言ってんのお姉ちゃん!!」
そう優香に突っ込みながらもオレは脳内でウェディングドレス姿の結城を想像する。
もちろん背景は花びらの舞う教会だ。
俯き加減の結城が顔を赤く染めながら上目遣いで「福田……くん、私、似合ってる……かな?」とか言うのかな!!
ピャアアアアアアアア!!!!
やばい! バチバチに可愛いぞ!!
オレが脳内妄想でひっそりとニヤついていると優香が「あっ」と声を出しながらオレを見る。
「ん、どうしたの?」
「いやね、桜子ちゃんもいいけど、どうなんだろ……。 私は桜子ちゃんの他にもエマちゃんとか佳奈ちゃんもお似合いだと思うけど」
「ええええ、エマと三好!?」
オレは一旦結城ウェディングドレスVERを脳内の別フォルダへと保存。
新たな白紙を脳内で用意し、2人のウェディングドレスVERを想像する。
エマはあれだな……もともとの肌が白くて金髪だからドレスが最高に似合うな。
ブーケを持ちながらオレを見上げて「これから一生、エマを幸せにしなさいよ」なんて微笑まれた日にゃあもう!!!
三好は……どうだろ。
いつもはちょっと強気な感じだけど、やっぱりドレス着たら恥ずかしくなってモジモジするパターンなのだろうか。
先を進むオレの袖をちょこんと引っ張って、小声で「置いてかないでよもう……私今めっちゃ恥ずかしいんだから側にいて」とか言っちゃったりするのかな!
それは中々に最高なやつじゃないか!?
うへ……うへへへへ。
「ん? ダイキ?」
「ーー……!!」
優香の声でオレは現実に戻ってくる。
「どうしたの? 斜め上を見てボーッとしちゃって」
「あ、いや。 なんでもない」
いかんいかん、こういう妄想は沼だな。 一度考えだすと止まらないぜ。
「それでダイキ、ほら、桜子ちゃんにお礼言ってこないと」
「あ、あぁ! そうだった! お礼言ってくる!!」
オレはリビングを出て少し駆け足気味で自室へと向かった。
◆◇◆◇
「ーー……え」
自室の扉を開けたオレは言葉を失う。
もちろん結城がそこにいない……とかそんなのじゃないのだが……
「ふ……福田……くん!?」
結城が驚いた顔でオレを見る。
「えっと……宿泊学習のことでお礼を言おうと思って来たんだけど……それは?」
オレの視線は結城の顔から少し下へ。
結城の持っている本へと視線を落とす。
「それ? ーー……!!」
結城もオレの視線を追って角度を下に。
すぐに気づいて顔を真っ赤に染め上げる。
結城が持っていた……と言うか読んでいた本、それはオレがベッドの下に隠し持っていたエロ漫画。
「ご、ごめんね……宿題してたら消しゴムが転がっちゃって、その時に見つけちゃったの」
結城は恥ずかしそうな表情を浮かべながら、自分の顔を隠すようにそのエロ漫画を顔の前に持ってくる。
JSとエロ漫画の組み合わせ……これはこれでエロい!!
そういやかなり前に結城もそういったことに興味がある……みたいなことは言ってたが、色々とありすぎてすっかり忘れてたぜ。
「えっと……結城さん、それ全部読んだの?」
オレの問いに結城はコクリと上目遣いで頷く。
マジかあああああああ!!!!
ちなみに結城の読んでいたエロ漫画の内容は、主人公の女の子が幼馴染の男の子と遊んでいたら廃墟を発見。 とある部屋に入ると出られなくなっちゃって男の子の理性が崩壊しちゃう……といった話だ。
この漫画の盛り上がりは何と言っても最初こそ嫌がっている女の子が次第に解放的になっていくところである!
これを……これを読んだというのか、JSの結城が!!
ゴクリ。
オレは生唾を飲み込みながら結城を見つめる。
結城はやはり恥ずかしいのだろう……オレに視線を合わそうとはせず、視線をオレからあえて外しているように見える。
そうだよな、エロ漫画読んでるところを発見されて恥ずかしくない子がいるわけないもんな!
ここは何としてもオレの話術で結城の羞恥心を解いてあげなければ……宿泊学習の準備のお礼はその後だ!!
「ね、ねぇ結城……さん」
オレは心の中で大きく頷いた後、まっすぐ結城を見つめる。
「なに……?」
結城が恐る恐る上目遣い気味でオレに視線を合わす。
うわああああ!!! 恥ずかしがってる顔可愛いよおおおおおお!!!
さっきオレの妄想したウェディングドレスVERの結城がしていた表情と重なってるよおおおお!!!
自分の心拍数が爆上がりしているのがよくわかる。
しかし落ち着け……落ち着くんだオレ……!!
今はオレの妄想通りということへの感動よりも、目の前の結城の羞恥心を解くことに集中するんだ!!!
「あ、ああああ……あのね」
「?」
オレは声を震わせながら結城の持っているエロ漫画を指差す。
言うんだ……「隠しきれてなくてごめん、オレなんて何回もリピートして読んでるし、そんな恥ずかしがらなくても大丈夫だよ」って言うんだ!!
「そ、その漫画さ……」
「う、うん」
結城も何を言われるのかドキドキしているのだろう……エロ漫画をギュッと胸に寄せて抱きしめる。
うわあああ、今度寝るときはあの漫画を枕にして寝よおおお!!!!
ーー……じゃない、言わないと!! 言わないとおおおおおお!!!
オレは空気を一気に肺に送り込み、一気に言葉を放つ。
「感想どうだった!?」
「ーー……え」
結城が目をパチクリさせながらオレを見つめる。
ーー……あれ、オレ今なんて言った?
ちょっと脳内がゴチャゴチャしすぎてて正直何言ったか覚えてないんだが。
結城を見てみると未だ固まったまま。
どうしたものかと立ち尽くしていると、廊下の方から優香の声が聞こえてくる。
「ダイキ、桜子ちゃん、もうすぐご飯できるからねー」
「「ーー……!!!」」
オレは急いで視線を結城にへ向ける。
結城もオレのアイコンタクトの意味を理解したのだろう……素早い動きでエロ漫画をベッドの中に隠す。
「ねぇダイキ、桜子ちゃん、聞こえた?」
ガチャリと扉が開かれ優香が顔を覗かせる。
せ……セーフ。
「あれ、ダイキそこで立ってどうしたの?」
優香が不思議そうにオレに尋ねる。
「いや、宿泊学習のお礼を言ってて……」
「それにしてはさっき、この部屋から「感想どうだった!?」って聞こえたけど……」
「え」
「まぁいいや、もうご飯できるからリビングおいでね」
「は、はい」
そのまま優香は扉を閉めてリビングへ。
ま……ままま、マジかああああ!!!!
完全な心の声が出てしまっていたなんてえええ!!
てかエロ漫画の感想を女子に求めるとかバチバチに変態じゃねえかオレええええ!!!!
「ち、違うんだ結城さん、オレ何を思ったのかな、なんか変なこと言っちゃったみたいでごめん! 本当にごめんね!!」
オレは結城のもとに駆け寄り、しゃがみ込んで両手を擦り合わせながら結城を見上げて謝る。
「ふ……福田くん」
「な、何かな」
やばいぞ、これで嫌われてしまったらオレはこの先どうしていけばいいんだ!
オレはドキドキハラハラしながら結城を見つめる。
「なんかこの状況、この漫画のシーンに似てるね」
「ーー……え?」
そう言うと結城は隠した漫画を取り出して、とあるページを開いてオレに見せる。
そこに描かれていたのは、確かにオレと結城とほぼ同じ状況……オレはベッドに腰掛けている結城の前でしゃがみ込んでいるが、漫画では椅子に座った女の子の前で男の子が座り込み、どことは言わないが、とある1点を凝視している。
しかしこれが似てるからって、どうして結城はわざわざそれをオレに?
オレは半分ドキドキ・半分疑問の表情を結城に向けると、結城は胸元に手を当てながら純粋な疑問をオレにぶつけてきたのだった。
「上は男の子はみんな好きなのは知ってるけど、なんでこの漫画の男の子は下の……ここ見て興奮してるの?」
「え?」
「だって大きさとかないんだよ?」
「う……うん」
「なんで?」
うわあああああああああああ!!!! なんて言ったらいいんだあああああ!!!!
三好やエマ、多田が相手ならガンガンいじれるんだけど、結城には……結城には出来ない!!
オレが頭を抱えながら悶絶していると結城がオレに顔を近づけてくる。
「ーー……なに?」
「福田くんも……ここも好きなの?」
「!!!!!」
結城が指差してるのは太ももカナ?
そんな結城の言葉に衝撃を受けたオレはたまらずバランスを崩して尻餅をつく。
それと同時にリビングの方から優香のオレたちを呼ぶ声が。
「あ、優香さんが呼んでるね。 ほら、行こ、福田くん」
結城が立ち上がりオレに手を差し伸べる。
「あ……ありがとう」
オレは結城に引っ張ってもらいながら立ち上がり、一緒にリビングへと向かっていたのだが……
「ん?」
一瞬結城の視線がオレの下半身へと向く。
一体どうしたのかと思い視線を追っていくと……
「ーー……!!!」
ややややっちまった!! 自分でも気づかなかったどうしよう!!!
なんか凄いことになってるよ!!
うん……そうだな、焦りすぎて足に汗が垂れまくってると思ってくれたらいいかな!
「えっと……結城さん、そのあの……!」
オレは少し前かがみになりながらどう言い訳をしようものかを必死に考えていると、結城が申し訳なさそうに「ごめんね」とオレに告げる。
それがどう言った意味なのか考えていると……
「私はベッドで座りながらだったけど、福田くん……立たせたまま話させちゃってたね」
ーー……え、そっち?
「足、疲れてない?」
「あ、うん。 大丈夫」
「そっか、寒いと立ってるのもしんどいもんね、ごめんね」
気づいてなかったよかったああああああ!!!
ていうかそこを心配してくれていた結城、マジで癒し!!!
その後本来の目的を思い出して宿泊学習のお礼を結城に伝えたのは就寝前、歯磨きをしている時だった。
はぁ……やっぱり結城、最高なんじゃあぁ……。
今回もお読みいただきありがとうございます!
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結城ちゃんやっぱり可愛いんじゃあ……!
ちょっと無知なあたりがたまらんですね!!