141 変態の執着力!
百四十一話 変態の執着力!
「ふむ……またあるか」
謎の手紙が入っていた翌日の朝。
今日も靴箱の中身を覗いてみると、昨日と同じく上履きの間に手紙が挟まっている。
ーー……今度は何を書かれているんだ?
オレは軽くため息混じりにその手紙を手に取る。
「ん、どうしたのダイキ」
「えっ!」
一緒に登校していたエマがオレの面倒オーラを察したのか後ろから背中を叩く。
「いや、なんでもない」
「あれ、ダイキ、その手に持ってるものって……もしかして!!」
エマが目を光らせながら視線をオレの持つ手紙へ。
「ちょっとエマ、静かにしろ」
「ダイキ、それってあれだよね!! ラブレ……」
「エーマー!!」
オレはとっさにエマの口を塞ぐ。
「ンンッーー!!」
はぁ……仕方ねぇなぁ。
エマが何か言いたげな表情をしてオレを見ていたので、オレはエマの耳元で「詳しく話す」と伝え、まだ誰も中にいない保健室の中へと入った。
◆◇◆◇
「もぉーーダイキ、力入れすぎだって!! 唇ちょっと乾いちゃったじゃん!」
どうやらオレがガチでエマの口を押さえていたため、あらかじめ塗っていたリップが剥がれてしまったらしい。
エマはプンスカ頬を膨らませて怒りながらポケットから取り出した保湿用リップを唇に塗り始める。
ーー……てことはオレのこの手のひらにはエマのプルプル唇に塗られていたリップの成分が付いているってことだよな。
オレはエマの口を押さえていた自分の手のひらをじっと見つめる。
軽く指で手のひらを触ってみると確かにエマの口に当たっていたところだけ滑りが悪い……リップの成分らしきものが付着しているのがわかる。
ぺろり
うむ、無味だけどこれはこれで……。
「あーー!!! なにやってんのダイキ!!」
「あ」
そうだった。 エマがいること忘れてた。
オレの手のひらペロリを見ていたエマが顔を真っ赤にしながらオレの手首を掴む。
「そこエマの口触ってた場所じゃん! なんで舐めんの!?」
「いや……なんとなく」
「なんとなくでも、そういうのエマがいないところでやってよ!! ーー……まぁいないところでも嫌だけど!!」
エマはオレの手首を引っ張り保健室に設置されている手洗い場のところへ。
蛇口をひねり水を出し、オレの手をそこへと誘導していく。
「ちょっと待ってくれエマ、オレは手は洗わんぞ!」
「なんでよ! さっさと洗ってよキモいからっ!」
「ダメだ、今この手は幸せ状態にあるんだ!! それをそう簡単に洗い流すわけにはいかないだろ!!」
「は!? なに言ってんのダイキ! いいから早く洗ってよ! じゃないとまた舐めるんでしょ!?」
あぁエマよ、その必死な姿も可愛いぞ。
「なぁエマ、わかってくれ」
オレは逆の手でエマの手を掴む。
「な、なに!?」
「オレはな、もしそこらへんのブスが転んで手のひらに偶然口が当たったものなら急いで石鹸で洗い流してそのあとにアルコールで消毒する。 でもな、エマは違う。 エマは見ての通りこんなに美人さんなんだ」
オレはエマの手首を握る力をほんの少し強めてじっと見つめる。
「えっ……エマ、美人?」
エマのオレの手首を握る力が少し弱まる。
「あぁ。 だからエマがもしそんなにこの手についた成分を洗い流したいと言うのなら……」
「言うのなら?」
「オレはその前に全部摂取する!!!」
そう言うとオレは油断していたエマの手を振りほどき、手のひらを超高速で自分の顔面に擦りつける。
「えええええええ!?!?」
あああああ!!! エマ成分が染み渡っていくんじゃああああ!!!
これはもう間接的にエマがオレの顔面のキスをしまくっているのと同じ状態……まさに至福!!
「ちょ……ちょっとちょっとーー!!」
その光景を見たエマは一瞬体が止まるもすぐにオレの手を掴んで顔から離そうと必死に引っ張り出す。
「やめろエマ! まだ全部摂取しきれてない!」
「だーめっ!! そんなんだったらもうエマのリップ使わせてあげるから、そんなことしないでよもう!!」
「ーー……なん、だと」
◆◇◆◇
「ーー……で、結局あの手紙なんだったの?」
昼休み、エマに呼び出されたオレは校庭のベンチでエマに手紙を読ませる。
ちなみに今回書かれていた内容はこれだ。
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多田さんとも女子トイレで密会してたんだね。
もしかして二股? これ三好さんが知ったらどう思うのかな。
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「え、何これ」
手紙文に目を通したエマが眉間にしわを寄せながらオレに尋ねる。
「昨日から来てるんだよその謎の脅迫文」
「ていうかダイキ、カナちゃんと付き合ってんの?」
「んなわけねーだろ」
オレはエマに突っ込みながら手紙を返してもらう。
「あー、でもだからここなんだね」
エマが納得したように周囲を見渡す。
「その通り。 ここだと周りにたくさん人がいてうるさいからその犯人に話を聞かれることもないしな」
「なるほどねー。 でも結構頭の回る人だよねこの子」
エマが手紙を指差しながらオレをみる。
「あぁ。 特定できる情報がまったくないんだ」
「そうだね、でもそれだけじゃないよ。 普通小学生だったらさ、思い立ったらすぐ行動するって感じじゃない?」
「そうだな」
「でもこの手紙の子はまだ一切アクションを起こさずにダイキを締め付けようとしてる感じなんだよね」
「あーー、確かにな。 言われてみれば」
「なんかJK時代思い出すからなんか複雑だわー」
エマが深くため息をつきながら背もたれにもたれかかる。
「そうなのか?」
「うん、高校のいじめってさ、ドンパチするのは頭の悪い運動部とかヤンキーくらいで、ほとんどのいじめは影で陰湿に行われてるんだよ」
「え、お前もやられてたの?」
「ううん、エマは……小山楓はどっちにも属してなかったんだよね。 でもそう言う話は結構聞いたよ」
「ーー……となれば、この手紙の犯人は高校レベルの脳を持つ計算高いやつってことか」
「そうなるね」
エマはオレの持つ手紙に視線を移してデコピン。
パシンと音を立てて手から手紙がヒラリと落ちる。
「まぁあれだよ、エマもちょっとは靴箱とかダイキの周り気にしててあげるからさ。 そんな気持ち悪いもの細かく破って捨てちゃいなよ」
エマは地面に落ちた手紙を拾い上げると縦にびりっと引き裂いてオレに渡す。
「手伝ってくれんの?」
「そだね。 なんかそういう面倒な人がいるって思うだけでもちょっとしんどいし」
「おぉ、すまない助かるよ」
オレは渡された2つに裂かれた手紙をより細かく破いて近くに設置されているゴミ箱へ。
「そう言うことだから、また何かあったらエマに教えてね」
そう言うとエマは軽くオレに手を振って校舎へ戻っていく。
「あ、おいちょっと待ってくれエマ!」
オレは急いでエマのもとまで駆け寄りその手首を掴む。
「ん? まだなんかあった?」
「あぁ、あるんだ。 重要な話が」
オレは真剣な表情でエマを見つめる。
「重要な話?」
「そう。 別にすぐ終わる話なんだけど……」
「なにかな」
「リップ貸してくれ」
「え?」
オレの言葉を聞いたエマの表情が固まる。
「お前今朝言ったじゃないか、エマのリップ使わせてあげるって」
「えっと……それは言ったけど、なんで今!?」
エマは焦った様子でポケットに手を当てる。
ーー……なるほど、今もその中にあるんだな。
「いいじゃないか、オレは今無性にエマのリップを使いたいんだ。 だから貸してくれ」
オレがエマに手を差し出すとエマは顔を赤く染めながら一歩後ろに後退。 オレから距離をとる。
「な、ななななんでよ! 嫌だよ!!」
「じゃあなんであの時使わせてくれるって言ったんだ……オレはお前の言葉を信じて……まだ摂取できる状態の手を洗ったというのに!!」
「で、でも嫌なものは嫌なの!!」
「いいじゃないか! 1回……1回だけでいいから!」
「いーや!」
「頼む!」
「いやだー!!」
そんな押し問答をしていると校舎の方からオレの名を呼ぶ声が。
視線を向けると三好が手招きをしている。
「ほら、カナちゃん呼んでるじゃん! さっさと行けダイキ!」
「ちっ……どうした三好」
オレはエマとともに校舎へ。
すると三好が少し焦った顔でオレとエマをみる。
「ねぇ2人とも、美波見なかった!?」
「ミナミって……あのニューシー担の子だよね」
「うん、なんか教室で他の子と言い合いになって教室出てっちゃったんだけど見つからないの」
「えええ、小畑が?」
「なんか最近イライラしてるなーとは思ってはいたんだけど、あそこまでキレる美波初めて見たかも。 ねぇ福田、もし美波見つけたら連絡して」
「あ、あぁ。 分かった」
そう言うと三好は駆け足で再び小畑の捜索へと向かう。
「ねぇ、エマたちも手伝ってあげたほうがいいかな」
エマが心配そうな顔で三好の後ろ姿を眺める。
「まぁそうだな。 じゃあとりあえず、人の少なそうなところ探すか」
「うん、そうだね。 イラついてる時にあえて人が多いところとか行かないもんね」
「ついでにそこに誰もいなかったら、そこでリップよろ」
オレは上履きに履き替えながらエマにお願いする。
「はぁ……ほんっと変態が関わるとダイキって執着すごいよね。 仕方ないなぁ……人がいなかったらね」
「っしゃああああ!!!」
こうしてオレは小畑を探すため……それとエマのリップを使わせてもらうために人の少なそうな場所へと向かったのだった。
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さて、三好の挿絵・多田の挿絵と描いてきて、小畑だけ描かないと蹴られそうなので小畑挿絵を近々描きます!笑