139 そしてあの夢を見る【挿絵有】
百三十九話 そしてあの夢を見る
「じゃあちょっと私下まで迎えに行ってくるよ」
三好がスマートフォンをポケットの中に入れながら玄関へと向かう。
「待って、オレも行くわ」
「え、なんで?」
三好がポカンとした表情をオレに向ける。
「なんだかんだで夜も遅いだろ。 変な奴がいないとも限らないしな」
「ふーん、心配してくれてんだ」
「ちょっとだけな」
◆◇◆◇
「って、あれ? 福田じゃん」
マンションの手前、街灯に照らされながら立っていた多田がオレを見つける。
「え、なんで福田がいんの?」
「いや、だってここオレん家だし」
「え? 佳奈は?」
「ここだよーん!」
オレの背後に隠れていた三好がひょこっと出てきて多田に手を振る。
「え? え? 佳奈……福田ん家泊まってたの!?」
「そだよー」
「えええ、待って、意味わかんない意味わかんない!! えっと……何がどうなってそうなって……!?」
多田がオレと三好を交互に見ながら頭をわしゃわしゃと掻き乱す。
「とりあえずあれだ、ここにいても寒いから中入れよ」
オレと三好は多田を家に案内。
多田は優香に挨拶をした後、三好作の料理を食べ始めたのだが……
「ん、なんだ?」
多田がご飯を食べながらチラチラとオレと三好を見ている。
「えっと……これは聞いていいものなのかな」
多田は気まずそうにその視線を三好へ。
「なにが?」
三好がアイスを食べたスプーンを咥えながら首を傾げる。
「あのさ、佳奈と福田って……そういう仲だったの?」
「「え?」」
オレと三好の声が重なる。
「だから、2人は付き合ってるのかなぁ……って」
あー、そうか。
何も知らないでこの状況見たらそう思っちゃうよな。
「いやいや!! 違う違う違う!! 私と福田はそんなんじゃないから!!」
オレの隣で三好が全力否定。
テーブルに両手をついて前のめりになりながら激しく首を左右に振る。
「でもさ、お泊まりだよね?」
「これには色々とあんの!!」
「いや……でもこれはどう見ても……」
「だかた違うんだってばああああ!!! ほら、福田も否定してよ! なんでそんな黙ったままなのさ!!」
顔を赤らめた三好が無言だったオレの頬に手を当ててモニュモニュと揉みしだく。
あぁ……さっきまでアイス食べてたからかな、三好の指先ちょっと冷たい。
「うむ……でも三好さ、今日ここに来た理由ってオレのお嫁さ……」
「うわあああああああ!!! 何言ってんの福田!! もしかして寝ぼけてんの!?」
オレの発言に危機感を覚えたのだろう。
焦った三好は力強くオレの口を両手で塞ぎ、下半身に強烈な蹴りを入れる。
「ウッ……ウォオオオオオオ!!」
オレの体内で除夜の鐘が倍の速度で鳴り響き、オレは腹部を抑えながら悶絶。
前のめりになりながら椅子から崩れ落ちる。
痛い……痛いけど久々だぜこの強力で容赦のない蹴りは……!!
上履きではなく生足のため力がダイレクトに伝わってくる……でも足裏の感触を感じれて最高なんじゃあああああ!!!!
「うわぁ……福田、大丈夫?」
多田が顔を引きつりながらテーブルの下を覗き込む。
「ぐぬぬ……ま、まぁな」
「なんかウチはよく分かんないけど、今のはめっちゃ痛そうだったね」
「同情するなら興奮してるこいつをどうにかしてくれ……!」
◆◇◆◇
その後、少し回復したオレがテーブルの下から顔を出すと、すでに2人は別の話題を話している模様。
「えぇ!? このままだと冬休みも全部塾なの!?」
三好が驚きながら多田に尋ねる。
ーー……塾の話か。
多田は三好の問いに「うん」と答え、深く息を吐く。
「もう最近は家にいてもずっと塾とか勉強の話だよ? ウチもう疲れたし」
「そうなんだ。 やっぱ麻由香のママ、どうしても麻由香を私立に行かせたいんだね」
「そうだよ……。 ママ、ウチを有名な大学に行かせるためだって。 どこか忘れたけど、その大学行ったら社会でうまくいくんだからって」
多田は力なくリビングの中心に備え付けられている電球を見上げる。
「あーあ、ウザいなぁー」
そう小さく呟くと多田のまぶたがゆっくりと閉じていき、コクンと上半身のバランスを小さく崩す。
「あっと……やばっ、寝かけた」
「疲れてるんだよ麻由香。 とりあえずお風呂入ったら? 麻由香がここに到着する少し前に福田がお風呂入れ直してくれてたから、もう沸いてるはずだよ?」
「だよね?」と言う意味を含んだ表情で三好がオレを見る。
「あ、あぁ。 オレがこの下で悶絶してる時にそういや浴室の方からメロディ聞こえてきてた気がするし、もう大丈夫なはずだぞ」
オレはお風呂場のある方を指差す。
「あー……でもウチ、着替え持ってきてないわ」
「福田、なんか貸してあげなよ」
多田のつぶやきに三好が反応。
早く用意しろと言わんばかりにオレの肩をたたく。
「え」
オレは視線を三好から多田へ。
「逆に多田、男用でいいの?」
「貸してくれるなら嬉しいかな。 どうせそれ着て外出るわけでもないし」
「なるほど、おけ」
オレはゆっくりと立ち上がり自室に向かう。
「福田、センスあるやつお願いねー」
三好が背後からいじりトーンでオレに声をかける。
「ーー……センスあるやつ?」
「そそ! あまりにもダサかったら麻由香、変な夢見るかもしれないっしょ?」
「いやでもパジャマとか部屋着系にセンスなんて……」
ーー……!!!
三好に言い返そうとしたタイミングでオレの変態脳が素晴らしいことを思いつく。
「ーー……福田?」
途中で声を詰まらせ黙り込むオレに多田が声をかける。
「ん、あぁごめんごめん。 ちょっと考え事してた」
「別にダサくてもウチ気にしないし、ゴメンだけどお願い」
まったく……。仕方ないなぁ。
「安心しろ多田。 素晴らしくセンスのあるやつを用意してやるよ」
こうして多田がお風呂に入っている間にオレは着替えを選定。
シャワーの音が聞こえている中、オレの最高のセンスの塊を脱衣所にそっと用意したのだった。
◆◇◆◇
あれから20分くらい経っただろうか。
お風呂場から「ええええええ!!!」といった叫び声が聞こえてくる。
「え、麻由香どうしたのかな」
三好が少し心配そうに顔をお風呂場の方に向ける。
「いやー、大丈夫だろ」
「本当に? 見に行かなくて大丈夫かな」
「大丈夫だろ」
オレはニヤけそうになるのを我慢しながらその場で待機。
しばらくすると着替え終えたのであろう多田がリビングの扉を開け、上半身だけを出して覗き込む。
「あ、麻由香、さっきの声どうしたのー? 心配したんだけど」
何も知らない三好が多田に声をかける。
「ふ……福田」
多田は三好の声をスルーしてオレを見る、
顔が真っ赤だぞー、大丈夫かー。
「ん? なんだ?」
「こ……これなに!?」
そう言うと意を決したのか多田がオレの前に。
「ちょっ……! 麻由香なにそれ!!」
三好が動揺しながら多田の下半身を指差す。
「ウチだって分かんないよーー!!! これ置いてあったんだもん!!」
三好が指差す多田が履いている物……それは少し懐かしくもたくましいオレの相棒・白鳥パンツ!
ーー……もちろん上は普通のパーカーだぞ?
「どうだ? オレのセンス。 光り輝いているだろう?」
オレが相棒を指差しながら三好に尋ねると、三好は何かを思い出したのか顔を真っ赤にしてオレから視線を逸らす。
「ねぁ福田、普通のないの!?」
多田がモジモジしながらオレの相棒の顔を両手で隠しながら尋ねる。
ーー……なんだ、無性にエロいぞ。
「いや、普通のって言ってもブリーフしかないぞ? 流石に多田も嫌だろそれは」
「あー……まぁそれはそうだけど……」
「じゃあ問題ないだろ」
「いや、これなんか恥ずかしいじゃん」
「じゃあ……これで問題なくね?」
オレはソファーにかけてあったブランケットを相棒の上に被せる。
「これで恥ずかしくないな」
「いや、もっと危ないよ!!!」
横から三好がオレに突っ込みを入れる。
「なんで?」
「え、なんでって言われたら……その……」
多田に続いて三好までもがモジモジモードに。
ナンデカナー。
そんな2人の様子を眺めながら満足していると途中で多田が大きく口をあけて欠伸をする。
時計を見るともう10時過ぎ。 小学生なら寝てて当たり前くらいの時間か。
「あ、麻由香、もう寝よっか」
「んー、ごめんね。 話したいことめっちゃあるんだけど、ウチ学校終わってからずっと塾だったから……」
「仕方ねえな。 普通のパジャマ持ってきてやるからちょっと待ってろ」
「ううん、このままでいいや。 着替えるのも面倒だし眠いし」
「そ……そうか」
それほどまでに疲れていたとは……教育ママを持つ子供は大変なんだな。
「じゃあ……多田、オレと三好、どっちと一緒に寝る?」
「はぁ!?」
三好が信じられないと言った表情でオレを見る。
「決まってんじゃん、佳奈と寝るよ」
多田は迷わず三好を選択。
こうして多田は三好に連れられてオレの部屋へ。
オレはリビングの電気を消してソファーの上で横になる。
ーー……うむ、やはり女子が履く白鳥パンツは最高だったな。
相棒もさぞ喜んでいることだろうよ。
さて、今夜はどんな夢を見るのだろうか。
お風呂場での三好に夢かな、それとも白鳥パンツを履いた多田の夢かな? ニヤニヤ。
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多田ちゃん可愛い!




