135 お嫁さん!?
百三十五話 お嫁さん!?
それは週明けの月曜日・休み時間。 特に何もやることのないオレがボーッとその場で窓の外の景色を眺めていると先週あたりから出席停止を終えて静かだった杉浦がオレの目の前に。
お、またやんのかこいつ。 飽きねえなぁ……。
そう思いながらも視線を杉浦へ。
「なぁ、福田」
「な……何かな」
ちゃんと少し怯えた演技を忘れないようにしないとな。
「ちょっと話があるんだ。 こっち来てくれ」
「え」
「あ、別にもうお前をどうこうしよう、とかじゃないから」
「ーー……わかった」
そう言いながらもオレは三好にアイコンタクト。
静かに後をついてくるよう合図をして杉浦の後を追った。
どうせ大勢の仲間が待ってるとかそんな感じなんだろ、バレバレなんだよ小五脳が。
◆◇◆◇
「福田、本当にありがとう!!!!」
「ーー……は?」
階段の踊り場付近。
突然杉浦がオレに深く頭を下げる。
「え……、ちょっと……どういうこと?」
オレは脳を混乱させながら少し離れたところでこの状況を覗いている三好に視線を向ける。
しかし三好も大きく目を見開いたまま首を左右にブンブン。 どうやら三好にもまったく分からないらしい。
これは本人に直接聞くしかないようだ。
「えっと……何か杉浦くんにしたかな」
すると杉浦はまっすぐオレを見つめて口を開く。
「一昨日の土曜、福田、ショッピングモールいなかったか?」
「え、なんで?」
「だよな!!」
杉浦がオレの両肩を掴んで前後に揺らす。
なんだ? これは何か新しいオレを陥れる作戦か!?
といっても周囲に協力者の気配とかないし……。
「そこで夕方くらいに、中学生に絡まれてた小学生いなかったか?」
「あぁ……うん。 いたけど……」
え、何? なんなの!?
「やっぱり福田、お前だったんだな! あそこにいた中の1人、俺の兄ちゃんだったんだ!」
「ーー……え」
えええええええええええ!?!?!?!?!?
◆◇◆◇
「ーー……で、杉浦が今までのことを福田に謝ってきたってこと?」
放課後・いつもの女子トイレ個室内。 SNSサイトで誰かがあげた動画を視聴した三好が画面からオレに視線を向ける。
ーー……まったく、なんでもかんでもネットにあげるなよな承認欲求の塊どもが。
「まぁそう言うことだ」
「でもまぁよかったじゃん。 これで杉浦たちが福田に何かけしかけることもなくなったんでしょ?」
「んーー、まぁそうなんだけどさぁ……」
普通、兄がそれで助かったとしてなんでそれをわざわざオレに言うか?
仮にも今まで虐めてきたやつだぞ? もしそうだと分かってもメンツとか考えて黙ってるだろ普通。
「え、なに福田。 黙り込んじゃって」
「あー、いや。 なんかモヤモヤするなーってさ」
まぁあいつ……杉浦もまだ小五だし、そこまでの脳がなかったって考える手もあるが……。
「ーー……てかさ三好、それは置いといてちょっと気になったことがあるんだけど」
「なに?」
「今日の多田どうしたんだ?」
「え?」
まさかのオレの話題振りに驚いた三好がオレを見上げる。
「ほら、なんかあいつ今日暗くなかったか?」
「え、よく分かったね福田」
三好がウンウンと頷きながら答える。
やっぱりか。
なんか今日はあいつ特有の明るさみたいなものがなかったと言うかなんというか。
「なんかあったのか?」
「あ、うん。 麻由香、この間塾の全国模試の結果が昨日届いたらしいんだけど、結果がいまいちだったらしいんだよね。 それでほら、麻由香のママって勉強にうるさいじゃん? めっちゃ怒られたらしいよ」
「うわあぁ……それはそれは」
「だから今日もまっすぐ塾早めに行って自習スペースで勉強しないとなんだってさ」
教育ママか……辛いな。
「え、多田ってそんなに頭悪かったっけ」
テスト返却時とか別に先生に注意くらってる様子とかなかったけどな。
「ううん、麻由香前の算数のテストだと確か91点とかじゃなかったかな」
三好が思い出しながら呟く。
「おいおい普通に凄いじゃねーか。 てかよく人の点数覚えてんな」
「うん、だって私の点数と数字逆だったもん」
「え」
ーー……ん、今のは聞き間違いか何かかな。
オレが目をパチクリさせながら三好を見ると、三好は「何かおかしいことでも言った?」的な感じの表情を浮かべながら首をかしげる。
「えっとその……19点ってこと?」
「そだよ」
おいおい少しは恥ずかしがれよ。
「それ見て家族とか……なんか言ってこなかったのか?」
オレが尋ねると、三好は思い出したかのように両手をパンと叩く。
「あ、そうだ思い出した! ねぇ聞いてよ福田!!」
「ーー……なに?」
「私のそのテストの結果みたお兄なんて言ったと思う!?」
「ーー……なんだろ」
「本当佳奈はバカだよなー、もっと勉強しないと嫁の貰い手がないぞって言ったんだよ!? 酷くない!?」
三好は固く握った拳を震わせながら……当時のことを思い出しながらイラつきだす。
あーー、いや、そのあれだよな。
なんで今まで三好兄が三好をバカにしてたのか分かった気がする……。
「それで……三好はお兄さんとまた喧嘩したの?」
「もちろんじゃん! あれからまた口聞いてないし!」
三好がフンッと鼻を鳴らしながら腕を組む。
「いやー、それはお兄さんが……」
「でもさ、別に19点でもお嫁さんにはなれるって思わない!?」
オレが三好兄の肩を持とうとしたところで三好が前のめりになりながらオレに顔を近づける。
「え?」
「そりゃあちょっとは点数悪いかもって思うけどさ、お嫁さんになれるかどうかは関係ないよね!?」
「あー、まぁそうだな。 それはお兄さんが悪いかもな」
ここは少々面倒だが三好の味方になってあげたほうがよさそうだ。
「でしょ!? 福田はどう思う!?」
「えーと、どう……とは?」
「福田は私をお嫁さんにしたいって思わない!?」
「え」
突然なに言い出すんだこいつはあああああ!!!
こういうことに耐性のないオレは一気に顔が赤く染まって行く。
しかし三好兄への怒りからだろうか、あいつ、自分がヤバいこと言ってることにまったく気づいていないな。
「で、どうなの福田! 私をお嫁さんにしたい!? したくない!?」
「あのー……まぁその……したいしたくないって聞かれるとまぁ……したいの部類には入るとは思いますが……」
くっ……口論とかそういうのだったら小学生相手だったら余裕だが、こういう色恋系は別だ。
生まれてこのかた約30年、女の子とそういった話をしてこなかったオレに対してその話題は特効武器!
普通に照れてインキャっぽい喋り方になっちまうぜ。
てか気づけば『結婚したい部類には入る……』なんて回答しちゃってるじゃないかオレえええええ!!!!
オレは恥ずかしさから三好から目を反らして心の中で悶絶する。
しかし一方の三好は……
「でしょ!? 私、自分でも別にそこまで悪くないって思ってるもん! だよね、点数悪くてもお嫁さんなれるもんね!」
なんだかかなりご機嫌な模様。
「あ……はい、なれると思います」
「よし、決めた!」
突然三好が1人で頷く。
「ちょうどお兄とも顔合わせたくなかったし、私今日は福田の家に泊まってお嫁さんしてあげる!!」
三好は目をキラキラと輝かせながら満面の笑みでオレを見る。
「ーー……は?」
「私でもちゃんとお嫁さんできること福田だけでも知ってて欲しいもん! 料理は……まぁ優香さんに教えてもらうし!」
「ーー……は?」
「そうと決まれば早速しゅっぱーつ!!」
「はああああああああ!?!?!?」
こうして急遽、週の初めだというのに三好がウチに来て1日お嫁さん?をすることになってしまったのだった。
そういや動揺しすぎてそこまで気にしてなかったのだが……三好と話してる途中、近くのトイレの扉がパタンッ……と静かに閉まった音がしたような。
ーー……気のせいだよな。
出て行くときそれとなく全てのドアを開けて確認してみたけど誰もいなかったし、逆に入って開ける時の音とかしなかったもんな。
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よし、次に挿絵入れたらなかなかに良さそうですね!
てことで次回136話、挿絵描きます!!