119 たった1つ
百十九話 たった1つ!
「じゃ、また連休とかあったらよろしくね!」
日曜の朝、駅の改札前で陽奈がオレたちににこやかな笑みを向ける。
そう、陽奈は今から帰るのだ。
「まさか今日なんてな。 てっきり明日までいるかと思ってた」
「だってダイきちたちみんな学校やん。 陽奈1人で帰るとか寂しいし」
「あ、そっか」
確かに1人で帰るのは寂しいな。
それに駅の中結構ゴチャゴチャしてて迷うかもしれないし。
「陽奈ちゃん、またね」
結城が目に涙を浮かべながら陽奈に抱きつく。
「ありがとー桜子! お正月とかにもしまた帰って来たりしたら絶対会いにきてね!」
「うんっ」
「優香ちゃんも色々とありがとう!」
陽奈が優香に視線を移す。
「うん、またおいでね。 今度はまた別の遊ぶところに連れてってあげるから」
こうして出発時刻まで別れを惜しんでいたオレたちだったがその時はすぐに訪れる。
「あ、そろそろ陽奈行かないと!」
アナウンスが流れ出したので陽奈が反応。
オレたちに手を振りながら改札へと向かいだしたのだが……
「ーー……そうだった忘れてた!」
そう言うと陽奈はピタリと足をとめて振り返りオレを見る。
「ん、なんだ?」
「陽奈、預かりものしてたんだった忘れてた! はいこれ!」
陽奈はリュックから1枚の封筒を取り出しオレに差し出す。
「ん、これは?」
「陽奈にもわかんない! みどりんがダイきちに渡しといてだって」
ーー……翠が?
「「みどりん?」」
優香と結城が同時に首をかしげる。
「あー、ほらあれだよ。 向こうで陽奈を家まで送った帰りに車に乗せてくれた女の人」
「え、でもなんでダイキにそんな?」
優香が不思議そうにその封筒を眺める。
「福田……くん、それ、ラブレター?」
ぶーーーーーっ!!!!
突然の結城の発言に思わず息を吹き出す。
「いやいやそんなわけないでしょ! えーとあれ、多分あれだ。 みどりんさん写真撮るのが趣味って言ってたから送ってくれたんじゃないのかな」
「へぇー。 よかったねダイキ」
「う、うん」
「んじゃ、今度こそ陽奈はこれで! バイバーイ!!」
こうして陽奈は嵐のようにウチに来て嵐のように去っていったのだった。
ーー……にしてもこの妹からの封筒……中身が気になるぞ。
◆◇◆◇
家に帰り部屋で封筒を開けてみるとそこには1枚の手紙と1枚の写真。
オレはとりあえず手紙の内容に目を通す。
ーーー
ダイきち君へ
陽奈ちゃんがダイきち君の家に行くという話を聞いたので急いで手紙を書いてます。
最近携帯が水没してしまいデータが全て消えてしまったので連絡が取れなくなってしまいましたごめんなさい。
なのでこの機会にメールでは書けなかったことを書こうと思います。
難しい前置きなどは苦手なので……
私の両親がお盆を楽しみにしてるよ。
詳しいことは聞かないけど頑張ってね『ダイきち君』
ーーー
「ーー……は?」
どういう意味だこれは。
翠のやつ訳の分からない手紙書きやがって……。
オレは首を傾げながら手紙を置いて中に入っていた写真を取り出し目を向けた。
「ーー……!!」
オレはその写真を見るなり全身の鳥肌が逆立っていくのがわかる。
そう……そこに映っていたのは年老いた両親の姿。 嬉しそうに笑いながら、仏壇に飾ってある手紙を指差している状態で撮られている。
いや、てかその手紙はなんだよと思いながらジッとその写真に写る手紙の内容を確認してみると……
「おいおいこれオレがお盆の時に送った手紙じゃねえか!!!」
それは紛れもなくオレが一緒に入れた手紙。
「え? てことは翠のやつもしかしてオレの正体……ええええ!?!?!?」
あまりの動揺に手が震える。
いやこれはそういうことなのだろう……。 そう考えれば翠からのこの謎の手紙の意味も理解できる。
この最後の一文……
【詳しいことは聞かないけど頑張ってね『ダイきち君』】
「まじか……まじか」
オレは頭の中が真っ白になりながらベッドの上に倒れこむ。
結城の匂いがするので本来なら興奮するはずなのだがそれどころではない。
「翠にはもうバレてる……これは翠を通じて何かしらアクションを起こした方がいいのか? それか前に優香と福田祖父母が話していた転校の話。 転校すればいつでも翠と会えるしそのうち親にも……いやしかし……」
出口の見えない暗闇の中でオレはどう行動するべきなのか必死で考える。
「ダイキー。 ご飯できたよー」
「!」
リビングの方から優香の声。
オレは力なく立ち上がりリビングへと向かった。
「あ、ダイキ起きてたんだ。 静かだったから寝ちゃってたと思ってたよ」
優香が料理の乗ったお皿をテーブルに運びながらオレに微笑みかける。
「あ、うん」
「あれ、元気ないけど本当に寝てた? あ、そうそう今桜子ちゃんに上のエマちゃんとエルシィちゃんを呼びに行ってもらってるんだ。 帰りにお肉が安かったからさ、いっぱい食べてね」
「ーー……」
オレはまっすぐ優香を見つめる。
「ん? ダイキ?」
オレの視線に気づいた優香がオレに近寄り顔を覗き込む。
「どうしたの? いつものダイキらしくないけど……風邪でもひいた?」
そう言いながら優香は手のひらをオレのおでこに当てる。
「んーー……熱はないみたいだけど……どうする? 食欲ないなら部屋で寝とく?」
ーー……あぁ、そうか。 そうだよな。
オレは大事なことを見落としていたぜ。
オレはこのダイキの身体に転移してすぐの頃の優香の言葉を思い出す。
『ダイキがいなくなったらお姉ちゃん悲しいから』
オレが転移して目覚めた時、優香は涙を流しながら喜んでいた。
そして今のオレは森本信也ではなく福田ダイキ……オレのすべきことは1つしかないじゃないか!!!
オレは目の前で心配そうな顔をして覗き込んでいる優香にロックオン。
「お姉ちゃああああああん!!!」
オレは優香に向かってダイブし、優香の身体に顔を擦り付けながら優香の存在を改めて実感する。
「えええええ!? ダ、ダイキ!? どうしたの体調悪かったんじゃなかったの!?」
「ううんお姉ちゃん見てたら元気になった!」
「そ、そうなの? じゃあもうそれやめよっか。 お姉ちゃんくすぐったいし、もうすぐ桜子ちゃんたち降りてくるから」
「じゃあ降りてくるギリギリまでやる」
「えええええええ!?!?!?」
そう……オレがすべき事はただ1つ! 優香を心配させないようにスキンシップを多く取ること!
そしたら優香も安心するしオレも合法的に触り放題だしでお互いメリットしかないじゃねーか!!
「ちょ、ちょっとダイキ、そこ擦っちゃだめっ……!」
「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん!」
スリスリスリスリスリスリ!!!!
「ちょっ……もう、ダイキーーー!!!」
それから結城がエマたちを連れて降りてくるしばらくの間、オレは優香に血の繋がりがなければ許されないようなスキンシップを繰り返していたのだった。
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はてさて次は誰に焦点を当てましょうかね……どちらもかなりセクハラが激しいことになりそうですが……
次回お楽しみください!笑