115 勝敗の決まった戦い!
百十五話 勝敗の決まった戦い!
それはとある木曜日の放課後、オレは胸を高鳴らせながら家へと走る。
え、何故かって?
それは明日の金曜日が祝日で休みだからさ! 金・土・日の3連休が待っている! ワクワクするぜ!
もちろんその期間は結城も泊まりに来ることになっているので願わくば……願わくばこの3連休の間に結城の中でのオレの好感度を爆上げさせて、せめてもう1回だけでいい……『ダイキ』と名前で呼んでもらいたい!
「方法とかはわからないが……やってやるぜ!」
ーー……と、オレはそんなことを1人で呟きながら帰宅。
壁に掛けられている時計を見上げると、なるほど……結城は優香の買い物に合わせてスーパーで待ち合わせをしてから家に来るためまだ時間はある。
「ふむ、では久々に……」
大体の時間は分かるのでオレはアラームをセットした後に優香の部屋に侵入。
優香の香りをたっぷりと含んだベッドの中に顔を突っ込み、体の外……そして中からのリラクゼーションを開始する。
あああ……心なしかオレのベッドよりも柔らかくてふわふわだ。
それでいて鼻から中へと突き抜けていく甘い香りがオレの全身の疲れを癒していくぜ。
「うわあああ……最高なんじゃあ……」
オレが優香アロマを心の底から楽しんでいるとポケットから突然アラームとは別の音が。
「ーー……ん?」
確認してみると着信通知……優香からだ。
オレはすぐに画面をタップし優香からの電話に出る。
『あ、もしもしダイキー?』
「うん」
『あのさ、今日ちょっと遅くなるかもしれないけど桜子ちゃんとは合流してるから心配しないでね』
「わかった。 え、どこか行ってるの?」
『それは内緒ー。 晩御飯を作れる時間までには帰るから』
「わかった」
ふむ……女子会というやつだろうか。
優香と結城の2人での女子会……少し気にはなるがその分オレはこの優香アロマを予定より長く楽しめるわけだし良しとしよう!
「それでは再び癒しの空間へ……行ってきます!!」
オレはアラームの時間を変更し、再び夢の世界へと旅立った。
◆◇◆◇
ーー……はっ!!
ポケットから鳴るアラームの音で目を覚ます。
どうやらあまりにも癒されすぎていつの間にか眠ってしまっていたようだ。
ベッドから出て自分の腕を嗅ぐとほんのり優香の香りが染み付いている……ぐへへ。
ピンポーン
「ん?」
「ダイキー、起きてたら開けてほしいなー」
外から優香の声。
なんだなんだ? 開けられないということはつまり両手一杯に袋を持っているということ……今夜はご馳走かな?
オレはワクワクしながら玄関へ直行。
鍵を解除し扉を開けたんだけど……あれ、オレまだ寝ぼけてるのかな。
「え」
あまりにも予想していなかった光景にオレの脳が混乱……動きを止める。
「えっと……なんで?」
そこにはここにいるはずのない人の姿が。
信じられるわけがないだろう……だってオレの視界に入っているのは……
「やっほーダイきちーー!!」
「ひ、陽奈!?」
そう、オレの目の前にはまだあれから1か月位しか経っていないが……夏休み帰省した時ぶりの薮内陽奈の姿。
相変わらず日に焼けていい褐色具合だなこのやろう。
「え、なんで来てんの!?」
オレは目を泳がせながら陽奈に尋ねる。
「ふふーん! 陽奈の学校、月曜日が創立記念日で休みやけん4連休だから来ちゃった!!」
「ええええええええ!!??」
◆◇◆◇
「あー、それでお姉ちゃんと結城さんで陽奈を迎えに行ってたんだ」
「そうそう。 桜子ちゃんにまっすぐ家に行くか、一緒に陽奈ちゃん迎えに行ってダイキをビックリさせるかどっちにするって聞いたら一緒に来てくれたんだ」
優香が晩御飯の準備をしながら結城に視線を向ける。
「うん。 だって私も陽奈ちゃんに会いたかったし」
「やーん桜子大好きー! 陽奈も桜子に会いたかったーー!!」
陽奈が両手を大きく広げて結城に抱きつく。
「でも陽奈、なんで来ようと思ったんだ?」
「あのさ、夏休みにダイきちと肝試ししたやん?」
「うん」
「それでダイきちさ、陽奈のお姉ちゃんに会ったって言ってたやんね?」
「ーー……まぁうん」
「それ聞いたら近くにお姉ちゃんいる気がしてなんだか嬉しくなっちゃって……お姉ちゃんのやりたかったこと都会にいっぱいあるけんやりに来た!」
陽奈がリュックから小さなノートを取り出してオレたちに見せる。
「え、てかいいのか? お姉さんのこと皆に言って」
「うん。 別に隠してたわけでもないけん」
「そ、そうか……。 ならいいんだが」
オレは陽奈からノートを受け取り中身を見る。
そこには陽奈のお姉さん・愛莉さんの筆跡なのだろう……少し掠れた可愛い丸文字でやりたいことが箇条書きで記されていた。
ー病気が治ったらやりたいことー
・学校で友達と遊んで帰る
・今話題のお洒落なジュースを売ってるお店に行く
・ケーキバイキング行ってお腹いっぱい食べる
・恋
・好きな人と……
他にもたくさん書かれている。
「でね、とりあえず陽奈、都会でできることやりたいの!」
「てことはお洒落なジュースとかケーキバイキングとか?」
「うん!」
確かにこんなに量があるんだったら陽奈的にはこの4連休は大きいな。
ーー……てか食べる系かよ!
「ーー……ぐすっ」
「?」
隣ですすり声が聞こえたので視線を向けると優香が涙を滝のように流しながら泣いている。
「えええ、お姉ちゃん!?」
「陽奈ちゃんは……いい子だねぇ、きっとお姉さんも喜んでるよ」
「えへへ、優香ちゃんにそう言ってもらえると嬉しい」
陽奈が優香を見上げて微笑む。
「え……なんで?」
「だって優香ちゃんもお姉ちゃんやもん! お姉ちゃんの優香ちゃんがそう思ってくれたんやけん、陽奈のお姉ちゃんもきっとそう思ってくれてるし!」
「ひ……陽奈ちゃん!!!」
陽奈の言葉が優香の胸を貫く。
「陽奈ちゃん今日はいつもより腕によりをかけてご飯作るから……たくさん食べてね!」
優香が陽奈の手を握りながらまっすぐ見つめる。
「え、うん! ありがとう優香ちゃん!」
「あと今夜は私と一緒に寝よう!」
「あ……うん、優香ちゃん?」
「そうと決まったら早くご飯作らなきゃ! あ、陽奈ちゃんも桜子ちゃんもお風呂そろそろ沸くはずだから先に入ってていいからね!」
そう言い残すと優香は駆け足でキッチンへ。
腕で涙を拭いながら料理を開始する。
「あ……優香さん、私も手伝う」
結城がパタパタと音を立てながら優香のもとへ。
「ありがとう桜子ちゃん。 じゃあ一緒にすごいの作っちゃおうか!」
「うん!」
そこから優香と結城は楽しそうに話しながら料理。
いい眺めだ。
オレはその様子をただ呆然と見つめていたのだが……
「んー。 じゃあダイきち、陽奈はお言葉に甘えて先にお風呂入って来ようかな」
陽奈が着替えの入った紙袋を持ちながらゆっくりと立ち上がる。
「おう。 そこ出てすぐのとこあるから」
「えー、どうせなら一緒に入ろうよ」
「え」
「あ、もしかしてダイきち恥ずかしいん?」
陽奈が口に手を当てながらニヤニヤと笑う。
「は? いやお前だろ恥ずかしいのは。 誰だよ川でオレの濡れた下着姿を見て赤くなってたのは」
「むーっ! じゃあ陽奈と勝負しよ!? 先に照れた方が負けね!」
陽奈がドヤ顔でオレを指差す。
「ふふふ……いいだろう。 オレが負けたら明日お前の外出に付き合ってやろう」
「え! ほんま!?」
「あぁ。 ただオレが勝ったら、陽奈……オレの言うことを1つ絶対に聞いてもらうぞ」
オレは心の底から湧いてくる下心を隠さずにニヤリと笑う。
「いいよ! その勝負乗ったけん! じゃあ行こうよダイきち!」
陽奈はまるで自分が勝つのが当たり前というような風格で脱衣所に入っていく。
ククク……本当におめでたいやつだなぁ陽奈。
勝負はもう始まっているんだぜ。
オレは脱衣所に入る前に全ての服をパージ!
いつでも湯船にダイブできる状態で脱衣所へと突入した。
「え!? えええええ!?!?!? なんで!? どうしてダイきちもう……!」
オレの魅力的な肉体に釘付けナンダロウナー。
陽奈の視線はもちろん一点に固定され顔を真っ赤に染めあげる。
やはりこれをするには純粋な女子に限るぜ!
前みたいな誰に見られるかわからないノーパン生活なんて金輪際ごめんだ!
オレは堂々と胸を張り陽奈を指差す。
「はい、陽奈照れたー。 陽奈の負けー」
「はあああ!? ダイきち、それ超ズルくない!?」
「いやいやルールは先に照れた方の負けだから。 だからオレの勝ち」
「うわあああ!! ダイきちに負けるなんてええ!!!」
陽奈が悔しそうにしゃがみながらオレを見上げる。
それよりも陽奈、そんなにオレを見つめないでくれよ。
そんな熱い視線で見つめられたら……オレの気持ちが熱くなってしまうじゃないか。
「え……ダイきち……?」
この時何が起こったのか……それは神と陽奈のみぞ知る。
結局お風呂は陽奈1人で入ることとなり、オレは自室にこもって勝利の余韻に浸っていたのだった。
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褐色娘再び!笑