10 スパイ
十話 スパイ
「ちょっと待ってよ……なにこれ!!」
三好に連れられてきた黒髪オン眉ボブ……多田麻由香に昨日オレが録音した音声を聞かせた。
「昨日録音してたんだよね」
「それ早く消してよ!」
「無理。 これ今から先生のところ持ってくから」
「ーー……!!??」
やはりJS。 先生という言葉が刺さったのか多田の身体がビクンと反応する。
「あー、麻由香のママ結構厳しいんだよね」
三好がポツリと呟く。
なるほどな、こいつ……多田は親にバレたくないのか。
いい情報を教えてくれたな。
「まぁ先生に言ったらそのまま多田さんの親にも連絡行くよね」
「ちょっ……! 待ってよそれだけは!!!」
多田がオレの腕を力強く掴んでくる。
うんうんこの必死な感じ……いいねぇ。
「痛いから放してくれるかな」
そう声をかけるも多田はオレの言葉なんか無視。 「佳奈もなんかこいつに言ってよ!! 佳奈はいいの!? 先生にバラされても!!」と三好に助けを求めだした。
「ねぇ佳奈ってば……!!」
「んー、ていうかもう私は弱み握られちゃってるからなぁー」
三好が苦笑いをしながら頭を搔く。
「そんな……!」
「まぁそういうことだ。 あ、杉浦いたでしょ? あいつお前みたいにオレに暴力振るったから出席停止処分なったんだよ」
「ーー……!!??」
多田が三好に視線を移すと、三好は静かに頷く。
「でも、だったら佳奈と美波だって一緒に……!」
「オレは、『2人は隣で見てた。 暴力振るってきたのは多田さんだけ』って言うつもりなんだけど」
「ーー……!!」
多田のオレの腕を掴む力がより一層強くなる。
瞳には涙がうっすら溜まっており、今にも泣き出しそうだ。
ーー……言うなら今かな。
「まぁどうしてもって言うならオレも考えないことはない」
「……!? ほんと!?」
多田が前のめりになりながらオレに尋ねてくる。
「うん」
「それはウチ、どうやったら!?」
「オレのスパイになれ」
「ーー……スパイ?」
多田が頭上にはてなマークを浮かべる。
「そう。 オレをいじめようと考えてるやつがいたらその都度教えて欲しいんだ。 もちろん拒否権はないぞ?」
「ウチが……スパイ」
「うん、もし裏切ったりオレをはめようとした時にはすぐにこれを先生や……それが無理なら警察に持っていく。 だから変な考えはやめたほうがいい」
「わかった」
「よし。 それさえしてくれてたら三好同様、多田もクラスでの立ち位置とかあるから、普通にオレをいじめてくれて構わないぞ」
オレは多田の肩に手をポンと置く。
「ーー……え、そうなの?」
「あぁ、でもお前はストレスが溜まっているのか力が強い。 流石にオレも痛すぎるのは嫌だから、三好に力加減を教えてもらえ」
「わかった。 それで……美波には言わなくていいの?」
多田がオレと三好を交互に見る。
「小畑さんには何も言わなくていい。 ていうか言ったらそこで先生にバラす」
あの子はあのまま自由にいじめさせてあげたほうが伸びしろあるからな! 今後に期待だ。
こうしてオレは三好佳奈に続き、多田麻由香を手中に収めることに成功。
今の3人に蹴られたりしたら絶対に気持ち良いはずなので早速……
「じゃあとりあえず今日の放課後なんだけどさ、」
「「ーー……?」」
「小畑さん誘ってまたオレいじめてよ。 急に2人が何もしなくなったと思ったら逆に怪しむかもしれないし」
◆◇◆◇
その日の放課後。
それはそれは心踊る時間となったのは言うまでもない。
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