9. 誕生日会への招待
カザリーナ先生が魔法教師として来てから、2年が経過した。
その間、俺は魔法の練習に明け暮れた。
魔法って楽しいな。
自分の想像したものが形になるんだ。
これほど楽しいことはない!
それに、カザリーナ先生は、随分と優しく接してくれた。
つい、甘えてしまう。
あの、包容力のある大きな胸に抱かれてるときは、気持ちよかったな。
にしし、役得、役得。
子供っていいな。
おっと、いかん、いかん。
カザリーナ先生をそういう目で見てはいけないんだ。
先生は偉大な存在だからな。
さらに、魔法の練習のおかげで、だいぶ痩せることができた。
今は、ぽっちゃり系男子だ。
お腹の肉がちょっと掴める。
この腹の感触は、前世でビール腹になったときと同じくらいだな。
だいぶ、良い感じになってきた。
学園入学まで、あと半年。
それだけあれば、もっとスリムな体型を目指せそうだ。
「ところで、カザリーナ先生。学園ってどんなところですか?」
先生は俺が行くサンザール学園の生徒だったらしい。
「楽しいところですよ。生徒のレベルも高く、とても良い環境です。特に魔法を学ぶ者からすると、あそこ以上に良い学園は知りません」
ほうほう、なるほど。
どうせなら、環境が整っているところの方が良いよな。
「貴族と平民の対立とかってなかったんですか?」
「もちろん、全くないというわけではありませんが。ただ、あそこは良くも悪くも実力主義です。身分が低くても実力さえあれば、問題ありません」
「そうなんですね」
もっと、身分にうるさいところかと思った。
父を見ているからか、この世界は身分による格差が激しいと感じていた。
だけど、案外そうでもないってことかな。
「学園ではたくさんのことを学び、そして良い友人にも恵まれました。オーウェン様もきっと良い友人たちに出会えますよ」
「はい! とっても楽しみです」
いま、俺には友人と呼べる存在がいない。
同年代と接することができるお茶会には呼ばれないからだ。
記憶を取り戻す前に、何度か呼ばれたことはある。
だけど、そこで良くない印象を与えてしまった。
「愚民ども! 俺と話せるだけでも光栄に思えよ!」
とか、言っちゃってた。
おいー! 何恥ずかしいこと言ってんだよ。
お前の後を引き継いだ俺の立場になってみろよ。
ていうか、お前こそ愚民だろーが!
そんなわけで、次第にお茶会に呼ばれる機会が減り、俺が記憶を取り戻してからは一切呼ばれていない。
オーウェンを呼びたいと思う人はいないのだろう。
こうして、ぼっちが出来上がった。
「オーウェン様。手紙が届いております」
先生と別れた後、側で控えていたセバスが声をかけてきた。
俺はセバスから手紙を受け取る。
ついでにセバスからペーパーナイフをもらい、中身を開けて読み始める。
ふむふむ。
なるほど。
誕生日会の招待状だ!
アルデラート公爵家の令嬢が10歳になるらしい。
「参加すべきですよね……?」
「はい。参加した方がよろしいかと存じます」
それは、そうだよな。
公爵家のお誘いを断ると角が立ちそうだ。
「わかりました。参加します」
あ、でも、お茶会って俺一人で行くのかな。
「かしこまりました。では、そのように返答しておきます」
「セバスさん。お茶会には父上と母上も一緒に来るのでしょうか」
「いえ、今回は二人とも欠席なさるとのことです」
おいおい、子供一人で行かせるのかよ。
あの二人のことだから、自分が行きたくないから行かないという感じだろう。
それに貴族社会で太っていることは、予想以上にマイナスの印象を与えるらしい。
貴族社会は魔法至上主義だ。
魔法が使える者の発言権が大きい。
逆に魔法が使えない者は、身分に関係なく下に見られる傾向がある。
で、両親は魔法がほとんど使えない。
そもそも、日常的に魔法を使っていれば、あそこまで太らないのだ。
太っているのは、魔法が使えないと言っているようなものであり、恥となる。
両親もそのことをわかっているのか、貴族の集まりには出たがらない。
引きこもりかよ。
正直、両親はいない方がありがたいけど。
せいぜい目立たないようにしよう。
「パーティーまでにしておかなければならないことはありますか?」
「坊ちゃまは伯爵家の嫡男です。礼儀マナーはもちろんのこと、ダンスもできた方がよろしいかと」
「ダンスですか? 僕、全然踊ったことないですよ」
「では、今日から一週間で基礎のところだけでも覚えて下さい」
「お、お手柔らかにお願いします」