表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/174

8. 可哀そうな少年

 カザリーナは家庭教師としてペッパー家に行くことになった。


 ペッパー家は良くない噂ばかり聞く。


 彼らは選民意識が高く、貴族でなければ人ではないと豪語する人たちだ。


 貴族は少なからず、選民思想があるが、その典型とも言えるだろう。


 ただ、信頼も能力もない人間が権威を振りかざすのは、どうかと思っている。


 それに、ブラック・ペッパーは同じ貴族でも、自分たちよりも爵位が低いとみると、途端に見下すような人という噂だ。


 カザリーナは男爵家の令嬢であり、ペッパー家よりも身分が低い。


 少しでも問題を起こせば、面倒なことになるだろう。


 面倒を起こさずとも理不尽を要求される可能性すらある。


 正直言って、関わりたくない人たちだと考えていた。


 オーウェンも子供であるものの、性格に難があるらしい。


 わがままで、横暴。


 気に入らないことがあれば、すぐに癇癪を起す。


 子供の癇癪といって侮ってはいけない。


 殴る蹴るといった暴力に加え、どこから覚えてきたのか、子供とは思えない暴言の数々。


 それによって辞めていった使用人の話を聞いたことがある。


 そんなオーウェンのもとに、なぜ魔法教師として行くのか。


 それは、ひとえにお金だ。


 カザリーナの家は貴族とは言え、貧乏だ。


 下には5人の妹弟がおり、カザリーナが少しでも稼ぐ必要があった。


 両親にはたくさんお金を払ってもらい、魔法学園にも行かしてもらえた。


 その恩返しをしたい。


 だが、魔法学園では、優秀な成績を残すことができず、良い職につくことはできなかった。


 友人に王都での仕事を斡旋してもらえたのに、意地になって断ってしまった。


 あのときのことを少し後悔している。


 そういった事情でお金が必要だった。


 そんなときに、破格の報酬が貰える教師の話が来たのだ。


 彼女は迷わず、飛びついた。


 否、飛びついてしまった。


 そのあと、あのペッパー家の家庭教師だと知り、自分の浅はかさを呪うことになったのだ。


 こういうわけで、オーウェンの家庭教師になった。


 最初は、とんでもない子供が出てくるのだろうと考えて、憂鬱になっていた。


 だが、実際にオーウェンと会話したところ、彼はとても素直で良い子供だとわかった。


 噂の方が間違っていたのだろう。


 8歳児とは思えないほど大人びている。


 さらに、礼儀正しく、純粋に魔法を学びたいという姿勢も好感が持てた。


(とてもいい子なんだけど……)


 カザリーナは彼を不憫に思った。


 オーウェンはずっと自分を偽って生きてきたのだろうか。


 子供の身では親に逆らえない。


 だから、ブラック・ペッパーに合わせてきた節がある。


 おそらく、それがオーウェンの悪評に繋がっているのだ。


 彼の境遇はあまりにも不憫だ。


 オーウェンがカザリーナを助けたあとの、彼の引き攣った笑み。


 上手く笑えていなかった。


 きっと、誰にも愛されてこなかったのだ。


 だから、素直に笑うこともできない。


 そして、子供なのに大人びた性格。


 誰にも頼ることができなかった彼は、大人になるしかなかったのだろう。


 8歳であれば、無垢で無邪気な少年時代を過ごせるのに。


 カザリーナがその歳の頃は、もっと子供らしく遊んでいた。


 家族や使用人など、たくさんの愛情を受け、そして彼らに守られてきた。


 その経験が今の彼女を作っている。


(はたして、この子は誰が守るのだろうか?)


 オーウェンはすでに大人びている。


 少しの会話からでも、彼の知性を感じ取ることができた。


 オーウェンは誰かに守ってもらう程弱くはないのかもしれない。


 しかし、子供とは本来、愛され守られるべき存在なのだ。


 特に、魔法使いとして、これから歩んでいくのなら、愛され守ってくれる存在が必要だ。


 正しい心を持つ者が正しく魔法を使うことができる。


 才能あるオーウェンは、今後周りが驚くような活躍を見せてくれるに違いない。


 でも、その心が満たされていなければ、いつか彼は壊れてしまう。


 魔法教師として、彼を正しい方向に導いてあげたい。


 そのために、今はしっかりと守ってあげなければならない。


 彼女はそう思うのだった。


「子供が子供らしくいられるように、そして魔法を正しく扱える人になれるように、オーウェン様は私が守ります」


 カザリーナはそう宣言した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ