7. 応接間にて
ここは……どこだ?
白い天井が目に映る。
ふかふかのベッドだ。
壁には相変わらず趣味の悪い絵画が飾ってある。
あ、そうだ。
俺は今、オーウェン・ペッパーだ。
魔法の練習していたら、ぶっ倒れたんだっけ?
「いてて……」
前世で経験した二日酔いみたいに頭がガンガンする。
「坊ちゃま。起きられたようですね」
ベッドの隣ではセバスが控えていた。
「……セバスさん。あれ? カザリーナ先生は?」
「彼女は今、当主様と対面されています」
「えっと、それはどうして?」
「行けばわかります」
それは、行けってことかな?
うーん。
俺が倒れたのが原因かな?
きっとそれなら、父は先生に対し、悪態をつくだろう。
モンスターペアレントのようにガミガミ言うつもりかもしれない。
しかし、父の場合、俺を想って言ってくれるのでは決してない。
攻撃する対象があるから、それを罵るだけ。
相手のマウントを取って自分が上だと知らしめたいのだ。
父が自己中心的な人物であると、俺はよく理解している。
「カザリーナ先生はどこですか?」
「応接間にいます」
セバスは直立不動で言った。
それを聞いた俺はすぐに動き出す。
少し頭が痛いが、それよりカザリーナ先生の方が重要だ。
父は平気で体罰をするような人間だ。
ストレスを晴らすために、使用人に暴力を振るっている。
それを見た俺も使用人は害しても良いと考えるようになった。
応接間の前にたどり着くと、中から声が聞こえてきた。
「高い金払ったのに、なんだお前は! まともに教育もできんのか!?」
「それは……」
「私の息子にケガさせといて! 反省が見られないようだな」
「も、申し訳ございません」
「ふんっ。謝れば許されると? これだから低俗な男爵家は! お前のような無能を育てた親の顔が知りたいわ」
「私の親を馬鹿にしないでください」
「うるさい! 口答えをするな! そうだ。私がお前を教育してやろう。こっちに来い!」
「や、やめてください!」
カザリーナ先生に暴力は許さんぞ!
俺はバンッと扉を開けた。
「父上……!」
応接間では、父が先生の腕を力強く掴んでいた。
「……どうした、オーウェンよ」
勢いよく開けたのはいいが、何も考えていなかった。
ただ、カザリーナ先生に危害を加えるのは止めたいと思っただけだ。
ここで素直に「先生を放してください」と言っても効果はないだろう。
それならば、あえて父と同じ土俵に立ってみせよう。
「彼女は僕が教育します。下等な男爵家の分際で、僕に傷を負わせ、さらには父上に歯向かったんだ。立場を弁えさせましょう」
俺は悪役っぽい笑みを浮かべた。
幸い、俺は悪役を演じられることには慣れている。
「お前が……か?」
「はい。もう二度と父上に逆らえないように、きっちりと教育してみせますよ」
「そうか! 手ぬるいことはするなよ」
「もちろんです」
「では、その小娘に、自分がいかに卑しい存在かを思い知らせてやれ」
「はい……。父上」
俺と父は、ニヤッと笑い合う。
デブとデブが見つめ合うのは、さぞかし気持ち悪い光景だろう。
父が部屋を出るのを見計らって、俺はカザリーナ先生の方を向く。
「な、何をしようと言うのですか……?」
怯えながらも毅然とした表情でカザリーナ先生は言った。
昔のオーウェンを召喚させたせいで、距離を取られている。
安心してくれ。
俺は俺だ。
そりゃあ、そうだろうけどさ。
「……カザリーナ先生」
「私をどうするつもりなの?」
「どうもしないですよ。それより、先生は大丈夫ですか?」
俺は優しい笑みを意識し、表情筋を動かす。
顔の肉がたくさんあり、上手く笑えたかわからない。
「私は……大丈夫です」
カザリーナ先生は少し考えるような顔をした後、
「助けていただいたのですね」
「助けたってほどでもないですよ」
父が言う教育もまともな教育だったかもしれないしな。
……いや、まともなわけがないか。
ぶひひひひ、とか言って悪いことをしてそう。
カザリーナ先生は、なぜか急に優しい表情になる。
「オーウェン様は強いですね」
んん……?
「僕は強くないですよ。今日だってすぐに倒れましたし」
「心の強さのことです。でも、オーウェン様はもっと、子供らしく無邪気になっていいと思います」
そう言われてもな。
前世では26歳まで生きたのだ。
今更、8歳の子供のようには振舞えない。
「子供らしく?」
「ええ。あなたは、あまりにも大人びています」
それはそうだろう。
人生経験が違うのだ。
同年代の子たちと比較すれば、大人びていて当然だ。
「ありがとうございます。でも、僕はこれが自然なんですよ」
「……そうですか。それは辛くないですか?」
「辛いも何も、これが自分ですから」
カザリーナ先生はそう言って、下を向き、しばらく考え込み始めた。
まつ毛長いなーっと思ってみていたら、パッと彼女は顔を上げる。
「―――決めました。私があなたを守ります」
「え、それはどういうことですか?」
「子供が子供らしくいられるように、そして魔法を正しく扱える人になれるように、オーウェン様は私が守ります」
「え、あ……はい?」
カザリーナ先生は何かを決意したような目をしていた。
どうして、こうなった?




