6. 魔法の練習②
「それで、この魔力をどうすればいいのですか?」
ひとしきり、魔力を堪能した俺はカザリーナ先生に聞く。
「そうですね……。次は体内で魔力を動かしてみましょう」
魔力よ、動け―! と念じてみる。
すると、ズズズッと動き始めた。
「あっ、動きました」
「え、早すぎませんか!?」
そうなのかな?
普通に動いたけど。
ただ、魔力を動かすのは思っていた以上に体力を使う。
ちょっと動かしただけで、汗が噴き出してきた。
デブだから、汗かきやすいんだ。
服がべったりと体にくっついている。
あー、気持ち悪い。
「では、実際に魔法を使ってみましょう。魔法を使うまでの準備期間として、10日くらいを見込んでいたのですが。オーウェン様には魔法の才能があるようですね」
美人に褒められると、照れるな。
でも、悪くない。
ていうか、普通に嬉しい。
「ありがとうございます」
「オーウェン様が感謝を……。もしや、噂の方が間違って……」
「先生……?」
「す、すみません。予想の斜め上というか……」
「何がですか?」
「いえ、何でもありません。話が脱線してしまいましたね」
カザリーナ先生は続けて言った。
「まずは簡単な火球を出してみますので。―――見ててくださいね」
彼女は右手を突き出して「いでよ、火球」と言った。
すると、彼女の右手から少し浮いたところに、直径30センチ程の火球が現れた。
「おおおお! すごい! 魔法だ!」
感動だ。
これに感動しない男児などいない。
そう断言できる!
マジックではなく、魔法なのだ。
前世でも魔法に憧れたが、そんなものはないと知り、絶望した。
中学2年生まで魔法があるって信じていたのに。
漫画の主人公たちが使えるのに、なぜ俺は使えないんだ、と涙したものだ。
だけど、その夢がようやく叶う。
「どうやって魔法を発動したんですか!?」
俺は体を前乗りにしながら尋ねた。
カザリーナ先生は少し引き気味で答えた。
「ま、まずは、魔法をどこから出したいかを考えます。一般的に、手から魔法を行使するため、利き手の方に魔力を集中させます」
利き手は右手だ。
「次に、手に溜まった魔力が火球になるのを想像しながら、詠唱してください。詠唱はどんなものでも構いませんが、現象と関連深い言葉の方が魔法が発動しやすいです」
「わかりました! さっそくやってみます!」
俺は言われた通り、右手に魔力を移動させる。
「ハア……ハア……」
これだけでしんどい。
魔力は重く、動かすのは結構大変だ
右手に魔力を持ってくるだけで、100メートルを全力疾走したような疲労感に襲われる。
「大丈夫ですか? そんなに無理しなくても……」
「い、いえ……。だ、大丈夫です……」
こんなところで止めるわけにはいかない。
どうしても魔法が使いたいんだ。
俺は右手に溜まった魔力が火球に変わっていく様子をイメージする。
大きさは……とりあえず、めっちゃ大きいやつだ。
「いでよ、火球!」
―――ドンッ
右手から直径2メートルを超える大きな火球が出現した。
「うおおおおおお! 魔法が使えたぞおおお!」
どうせならビッグなものが良いよね、と考えで魔法を使ったから、大きな火球が出現した。
火球は一瞬だけ出たが、すぐに消えた。
そして、喜びもつかの間、体が急に重くなる。
「まさか! この子、いきなり大火球を!?」
カザリーナ先生がなにやら叫んでいるが、頭がズキズキして耳に入ってこない。
俺は頭を抑えて、その場にうずくまる。
「オーウェン様……?」
カザリーナ先生は俺の様子がおかしいと感じたようで、近づいてくる。
「せ、先生。魔法が使えました……」
顔を上げてカザリーナ先生を見る。
彼女は心配したような表情をしていた。
ついさっき会ったばかりの俺に、そんな顔してくれるのか。
と、思った瞬間、俺は倒れた。