5. 魔法の練習①
今日から魔法の練習が始まる。
遠足に行く前の小学生のようなワクワク感のせいで、昨日は全然眠れなかったな。
目の下に隈ができている。
でも、大丈夫。
眠いけど、全然眠くない。
目はばっちり開いているぞ。
屋敷内に開けた土地があり、そこで待ち合わせをしている。
そうして、俺は期待を胸に、魔法教師と対面した。
「はじめまして。オーウェン・ペッパーです。よろしくお願いします」
俺はしっかりと頭を下げる。
今から、魔法を教えてもらうのだ。
最大限の誠意で接しようじゃないか。
「……想像していた子とだいぶ違います」
と、教師の女性が呟く。
まだ見た目は若く、20代前半だろう。
艶のある髪に優しい目つき。
おっとり系の美人だ。
「どんな想像ですか?」
オーウェンと言えば、くず野郎として有名だ。
おそらく、わがままな子供だと思ってきたのだろう。
だが、俺はオーウェンであって、オーウェンじゃない。
ニュータイプのオーウェンだ!
「あ、いえ。なんでもございません。私はカザリーナと申します。よろしくお願いします」
彼女は挨拶してから頭を下げる。
「さっそく、僕に魔法を教えてください!」
まだ下を向いている彼女に向かってそういった。
はやる気持ちを抑えきれない。
おら、ワクワクすっぜ。
だって、魔法が使えるんだ。
どんな魔法が使えるか楽しみで仕方ない。
「わかりました。そのために来たのですから。―――まず、魔法を使う前に、魔法について理解する必要があります」
「はい! カザリーナ先生!」
「先生……?」
「魔法を教えてくれる方なので、先生をつけるのは当然です!」
先生どころか賢者と呼んだっていい。
「そ、そうですか。……では、魔法について簡単に説明しましょう」
そう言って、カザリーナ先生は魔法について教えてくれた。
まず、魔法の発動には想像が不可欠らしい。
想像と言っても、漠然としたものではダメだ。
しっかりと事象を理解していなければ、魔法は使えない。
水を出すのに、水がどういうものか知らなかったら、水なんて出せないよってことらしい。
さらに、水と言っても、どのくらいの量で、どういう形をしているかまで明確な方がスムーズに魔法が発動できる。
次に、魔法を使うには魔力が必要になる。
ちなみに、魔力を持っているのは貴族か一部の平民のみらしい。
俺も魔力を有している。
5歳のときに魔力測定をしてもらったのだ。
もしも、魔力がなかった場合、俺は今頃勘当されていたかもしれない。
魔力が貴族を貴族たらしめる所以なのだ。
ちなみに、カザリーナ先生は俺よりも爵位が低く、男爵家のご令嬢だ。
少し脱線したが、魔力で想像したものを具現化させるのが魔法というわけだ。
さらに付け加えると、詠唱をすることで、魔法をより発動させやすくできる。
「では、魔力を動かすところからです。確認ですが、オーウェン様は魔力を感じ取れていますか?」
「……感じ取れません」
「それなら、魔力を感知するところからスタートですね。まずはゆっくり息を吸って、それをゆっくり吐き出してください。その間、他のことは何も考えず、ただ呼吸することに集中してください」
これは瞑想と似ているな。
前世でも瞑想していたから得意だ。
ボオオオオオ……ブウウウウウ……ボオオオオオ……ブウウウウウ……。
なんの音かって?
不思議に思うだろう?
俺だって不思議だ。
ただ呼吸しているだけなのに、なんでこんな音になるんだよ。
お前は豚か?
豚なのか?
豚でもそんな呼吸しねーよ!
普通にスーハー呼吸してるのに、変な音が出てくる。
「そもそも魔力って感覚としてどういうものですか?」
どうにも、自分の呼吸音がうるさくて集中できない俺は、カザリーナ先生に質問した。
「そうですね……。人によって感じ方は異なりますが、私の感覚では温かいものです」
「温かいもの……?」
「へその辺りにある温かみ。それが魔力です。魔力を感知するには大抵1週間くらいかかりますので、焦らずにじっくりと探してみてください」
1週間もかかるのか。
俺はそんなには待てないな。
今すぐ使いたいんだ。
できれば空を飛びたい。
まあ、でも千里の道も一歩からって言うしな。
地道にやっていこう。
温かいもの、温かいもの、と呟きながら、お腹をさすってみた。
お腹がポッコリしている。
いや、ポッコリどころじゃないな。
ボヨンボヨンだ。
摘めるどころか、掴み取れるからな。
脂肪はたくさんあるのに。
……待てよ。
俺には前世の記憶がある。
その前世の記憶と照らし合わせ、前世にはないものを探せばいいのだ。
再び、瞑想をしてみる。
相変わらず、呼吸音はうるさいが、気にしないようにしよう。
体内の奥深くまで意識を向ける。
今までなかったものか……。
温かいものってなんだ?
ん……?
んん……?
んんん……?
お腹に何かある。
感じる!
感じるぞ!
これは、もしや―――
「魔力見つけた!」
「えっ、そんな簡単にですか!?」
カザリーナ先生は驚いた目で俺を見る。
まあ、前世の記憶というチートを使ったようなものだしな。
最初からあるものに気づくのは難しいが、なかったものを探すのは簡単だ。
「この子……とんでもない逸材かもしれないわ」
カザリーナ先生が何か呟いたようだが、魔力に感動していた俺は、気づかなかった。




