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3. 運動

 人はなぜ太るか?


 それは食事と運動のバランスが取れていないからだ。


 まあ、運動しても太る人はいるけどね。


 オーウェンに関して言えば、暴飲暴食を重ねた上、ろくに動きもしなかったのが原因である。


 そりゃあ、太るわ。


 見ろよ、俺のこの体。


 どこを触ってもぶにぶにだ。


 サラリーマン時代のお腹の脂肪も気になったが、これはそれよりも酷い。


 お腹はもちろんのこと、首元も肉が二重顎どころか三重顎を作っている。


 豚になる未来しかない。


 いや、すでに豚というべきか。


 子豚だ。


 これは運動して痩せるしかない。


 それに11歳から学園に入学とのことだ。


 入学式までに多少は見られても良い体にしておかなければいけない。


―――キャー、何あの豚。気持ち悪いんですけど。


 そう言われる未来が想像つくからだ。


 そこで、俺は屋敷内にある庭で準備体操をしている。


 ていうか、この屋敷広いな。


 まあ、貴族の、それも伯爵の屋敷だから当然か。


 少し体操をしただけで、すぐに汗が吹き出してきた。


 気温としてはそこまで暑いわけではないのに、汗が止まらない。


 額に伝わる汗を何度も手で拭う。


 そうして、一通り準備体操を終えた後、庭の中を走り出したわけだが、


 えっほい、え、っほい……ごほっ。ごほっ……ぶほっ、ぶほっほほほ。


 なんなんだ、こいつ。


 いや、俺のことなんだけど。


 ちょっと体を動かしただけで豚のような声が漏れた。


 そして、息が苦しい。


 さすがにこのレベルで体が重いとは想定していなかったな。


「ぜぇ……ぜぇ……」


 膝に手をつき、ちょっと休憩する。


「す……すみません。……セバスさん。タ、タオル……取ってもらって……いいですか?」


 汗でびしょびしょ濡れた体に不快感を覚える。


「かしこまりました」


 セバスは俺に仕えてくれている老年の執事だ。


 白い髪をオールバックにし、背筋をピンと伸ばしている。


 この人、できるな……!


 まあ、俺じゃなくても、彼が有能そうだと思うだろう。


 昔は父に仕えていたらしいが、


「うるさい! だまれ! お前の話など聞きたくないわ!」


 と言われてから、俺に仕えるようになった。


 ちなみに父はセバスを解雇できない。


 先代の領主―――つまり、俺のじいちゃんが


「セバスは何があっても解雇してはならん!」


 と言ったからだそうだ。


 何気に正式な書面まで用意されているらしい。


 昔、父がそのことを愚痴っていた。


 確かに、セバスは口うるさい。


 他の使用人が、オーウェンを恐れて言えないこともバンバン言ってくる。


 そのほとんどが的を射た忠言なのだが、オーウェンは聞く耳をもたなかった。


 セバスの今までの苦労を考えると、申し訳なくなる。


「いいダイエット方法を知りませんか?」


 俺は汗を拭き、呼吸を整えた後、セバスに尋ねた。


 ちなみに前世の記憶を取り戻す前は、もっと、尊大な話し方をしていた。


 今のと同じ内容でも「おい、セバス。良い運動の仕方を教えろ!」になるのだ。


 そんな素面で言えるわけがない。


 なので、今は普通に敬語を使って話している。


 口調を変えたことを誰かに指摘されると思ったが、何も言われない。


 下手に俺に関わると、ろくなことにならないと、使用人に避けられているのだろう。


「良いダイエットですか……?」


「体をあまり動かさずに瘦せられるものが良いのですが……」


 少し動いただけで息が切れるようでは、長続きしない気がする。


 もっと楽して、痩せたい。


 この発言を世の中のダイエットマンが聞けば、そんな甘いものはないと一蹴されるだろう。


 ていうか、甘いものが食べたい。


 ちょっとだけなら許されるよな?


 料理長に言って作ってもらおうかな。


 ダメだ。


 それをやったら終わる気がする。


「魔法の練習はいかがですか? 魔法はエネルギーを使う分、ダイエットには最適かと思われます」


 ま、ま、ま、魔法だと!?


 この世界に魔法があることは知っている。


 だが、オーウェンはそれを面倒だと言って、一切やってこなかった。


 なんてやつだ。


 もったいない!


 魔法は男のロマンだろう。


「魔法はどうやって使いますか?」


「私は魔法が扱えません。ですので、専門の教師をお呼びしましょうか?」


「はい! お願いします」


 これで、俺も魔法が使えるようになるのか。


 楽しみだ。


 ダイエットができて魔法の練習もできるなんて、一石二鳥だな。

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